<figure id="attachment_270026" aria-describedby="caption-attachment-270026" style="width: 2390px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1103bcd8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/087efd9ec14187ee9cfc97f0329f8c76.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270026" class="wp-caption-text">もはや六代目山口組との差は歴然としているが、神戸山口組の井上組長は断固として引退はしないとしている</figcaption></figure>
<p>兵庫や大阪など９府県の公安委員会は今月初め六代目山口組（司忍組長）と神戸山口組（井上邦雄組長）に対し、｢特定抗争指定暴力団」の指定をさらに３ヵ月延長した。この措置で六代目山口組は相変わらず神戸市灘区の山口組本部や本家を使用できない。</p>
<p>実はこの「特定抗争指定」を当局に続けさせることこそ、敗色濃い神戸山口組にとっては命綱なのだ。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>元神戸山口組の幹部が解説する。</p>
<p><span class="strongInContent">「途中すったもんだしたけど、どちらも神戸山口組から分かれた岡山の池田組、絆會と、神戸の３者がこの９月、緩やかな同盟を結んだ。これの下準備をした神戸山口組の入江禎副組長（宅見組組長）は最後に横やりを入れる井上邦雄組長に癇癪（かんしゃく）を起こし、神戸を脱退、宅見組一本で行くことにしたけど、ここで神戸山口組を見限ると、六代目山口組を喜ばすだけと思い直し、結局は神戸山口組を同盟に入れることにして４者同盟にした。</span></p>
<p><span class="strongInContent"><br>
入江さんとすれば、神戸を見放せば神戸山口組が今以上に孤立し、敗北が早まる。となれば特定抗争指定は解除され、六代目山口組が再び灘区の山口組本部や本家を使える。そうしたら分裂前と同じで、元の木阿弥ではないか。我々は何のために決起したんだ。無駄死にを自分で決めたくないというわけで、神戸を自分らの同盟に入れたんです。今後も何らかの形で支えていくようだ」</span></p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>神戸山口組は今や元の仲間にも哀れまれるほど落ち目の三度笠である。’15年の発足時、組員は３０５０人を数えた。直参（直系組長）数は13人。’17年に直参が24人に増えたが、今また直参は13人と凹（へこ）み、組員数は500人と減少した。スタート時と比べて６分の１である。</p>
<h2>すべて井上組長の方便</h2>
<p>神戸山口組は何をまずったのか。トップに立てたらいけない人間を組長に据えたからだと、神戸山口組とつながりがある大阪の事業家が言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「神戸山口組は当初、親子盃なしの連合体で行こうとなっていた。が、発足した次の日、神戸市北区鈴蘭台の井上組長本宅に直系組長たちを集め、盃を挙行した。直系組長側に”ヤクザは盃がないと落ち着かん”という声もあったのは事実だけど、盃のわずか半年後、井上組長との盃は失敗だったという声が出始めた。要するにそれまで猫をかぶっていた井上組長による悪政が始まったんです」</span></p>
<p>井上組長は六代目山口組の若頭補佐だった’13年10月、それまでの山口組・入江禎総本部長が舎弟頭に追いやられたときと同時だが、司忍―若頭・高山清司ラインから、若頭補佐を返上して舎弟に直らないか、山健組の幹部の中から誰でもいい、人選はまかせるから４人ほど直参に上げるように要請された。当時でも山健組は約２０００人の組員数を誇り、山口組で最大最多の派閥だった。</p>
<p>こうした要請で、井上組長は自分の出世は若頭補佐で終わったと悟った。この後は山健組を分断されて少数派閥に落とされ、子分という手足をもがれて引退させられるだけと考えた。</p>
<p>井上組長にとって、神戸山口組の旗揚げは六代目山口組で将来をつぶされるはずの自分のための打開策だった。六代目山口組を改革したいとか、若い者のこれからを考えてなどはすべて方便、単に自分が親分になって下から好きなだけカネを吸い取り、栄耀（えいよう）栄華を楽しみたいだけの話だった。</p>
<p>だから組長になってほどなく「悪政」を始めた。神戸山口組の月会費は、役付が30万円、中堅が20万円、若中が10万円と、六代目山口組に比べ10分の１ぐらいに押さえた。しかし自分が率いる山健組では別に「登録料」の名で山健組本部に属する直系組長たちから、その者が抱える若い衆や舎弟１人につき毎月１万円を納めさせた。つまり抱える組員が10人なら月10万円、50人なら月50万円を別立てで納めさせたのだ。</p>
<p>これにより井上組長は毎月１０００万～２０００万円のカネを自由に費消できた。井上組長にとって山健組は利権だった。だからこそ神戸山口組の組長に納まりながら、山健組組長の座を手放そうとはしなかった。こうして山健組だけから別立てのカネを取り立てていたせいか、井上組長は山健組と他の神戸山口組系の組とのトラブルには、決まって山健組側に肩入れして裁定した。味方身びいき、エコひいきだった。弘道会びいきの六代目山口組と同じこと、六代目を批判することができなくなった。</p>
<p>しかも井上組長はこのころから猜疑心が強まり、下の者の理のある話にもいっさい耳を傾けなくなった。</p>
<p>今は絆會を率いている織田絆誠会長は当時、神戸山口組の若頭代行兼、山健組の副組長だった。織田は発足から間もなく全国の神戸山口組組織を督励して回った。若手を集めて隊列を組み、あえて六代目山口組系組織を訪ねさせることもした。六代目側にデモをかけたともいえるが、これにより神戸山口組の誇りと勢威を見せつけた。</p>
<p>結果として六代目山口組より増勢を強め、直参13人を24人に増やすことに成功したのは織田の功績だった。</p>
<p>織田こそ神戸山口組を引っ張る新星だったが、その織田は’17年４月、井上組長に愛想尽かしをして、別に任侠団体山口組（現、絆會）を結成した。井上組長は「股肱（ここう）の臣」を繋ぎとめられない度量の狭さを持つ。飛び出た第１号が織田だった。織田が神戸山口組を去ることで井上組長が率いる神戸山口組は｢山口組改革｣という大義を失った。その大義のホルダーは以後、絆會に移行したのだ。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="離反はさらに続く…"></div>
<h2>入江副組長も愛想が尽きた</h2>
<p>井上組長の願いは六代目山口組の司忍組長と同様、贅沢三昧できる地位であり、カネだった。今後若い者が幸せに暮らすためには組をどう改革すべきか、などという視点や目標は皆無だったから、当然、幹部や組員に向かって将来構想を掲げることはできない。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>彼が争うのは自分の損か得だった。井上組長が山健組の横取りを恐れて退けた織田が去った後、山健組の五代目を託した中田浩司が勾留中ながら’20年７月、山健組のおよそ半数を引き連れて神戸山口組を出、六代目山口組に鞍替えした。子分としてはこれ以上にない裏切りだが、これも単に利権の塊として山健組を見てきた井上組長譲りの指向の応用だったかもしれない。</p>
<p>神戸山口組の舎弟頭についていた池田組（岡山市）池田孝志組長も’20年７月に神戸を出た。池田組長の考えは織田会長に近く、両者は脱退後も連携を密にし、運命共同体的なつながりがある。</p>
<p>神戸山口組の若頭だった侠友会・寺岡修会長も’22年８月、神戸山口組を離脱した。寺岡会長は発足以来、井上組長や総本部長・正木年男（’20年８月引退）に近い関係で、正論派の池田や入江とは疎遠だった。しかし、そういう寺岡会長も井上組長の引退を唱えて対外折衝し、最後は自ら脱退することになった。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>こうした神戸山口組の幹部たちはいずれも井上組長の「股肱の臣」というべきだが、井上は自分の考えに近い寺岡や正木、中田にさえ最後は手のひらを返された。いかに人徳がなく、人に飽きられるタイプか、歴然としている。</p>
<p>おまけに知恵者として六代目山口組でも総本部長として重用されてきた神戸山口組の入江禎副組長さえ、この９月、神戸山口組を出る、今後は一本で行くと離脱されてしまった。</p>
<p>いきさつを略記しておくと、５年前、井上配下の組員が絆會・織田のボディガードを射殺した。前記のように絆會は池田組とタッグを組んでいるから、池田組が神戸山口組と同盟を結ぶなら、絆會もそれに間接参加することになる。</p>
<p>９月12日、神戸山口組の幹部が神戸市長田区のボディガード殺害現場で手を合わせ、絆會に供養を出した。</p>
<p>井上組長は直後、わしはそんなこと聞いていない、勝手なことをしやがってと幹部を激しく叱責、それを知った入江副組長が「３者同盟を盛り立てようとしたことやろ」と幹部を庇ったところ、「若い者は命をかけて相手のタマを取りに行ってるんや。幹部が敵の墓前に手を合わせたら、どんな気持ちになるか、わかっとるんか」とわめき散らしたという。</p>
<p>入江はこの言葉で井上にほとほと愛想が尽き、一度は神戸山口組を排除して、同盟は池田組、絆會、宅見組だけの３者で結ぼうと考えたようだ。</p>
<p>味方にさえ愛想尽かしをされる神戸山口組・井上邦雄組長に明日がないのは当然かもしれない。</p>
<figure id="attachment_270024" aria-describedby="caption-attachment-270024" style="width: 3753px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="556b3bd4"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/1cf2eef71870c44f9ea39349aa9638b3.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270024" class="wp-caption-text">今年９月、神戸山口組・入江禎副組長（右）が働きかけ池田組（池田孝志組長、中央）との同盟が成立。しかし、直後に入江副組長は神戸山口組から脱退した</figcaption></figure>
<figure id="attachment_270028" aria-describedby="caption-attachment-270028" style="width: 3487px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="61c2b172"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/63043f3c7951c1f231a8ce95d0f3a48d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270028" class="wp-caption-text">絆會の織田絆誠会長。’17年に神戸山口組から独立、「井上組長は六代目以上にカネの亡者」と痛烈に批判した</figcaption></figure>
<figure id="attachment_270025" aria-describedby="caption-attachment-270025" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="381592ab"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/e4580497bdc85777bbcb03fa00879e55.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270025" class="wp-caption-text">’20年７月、山健組が兵庫県内の喫茶店で会合を開き、半数以上の組長が神戸山口組から離脱する流れになった</figcaption></figure>
<figure id="attachment_270027" aria-describedby="caption-attachment-270027" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="87d95cde"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/d65f71beadad6225499bb8d681357a41.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270027" class="wp-caption-text">今年６月、神戸市内にある井上組長の自宅に10発以上の銃弾が撃ち込まれた。門扉には生々しい銃痕が残る</figcaption></figure>
<figure id="attachment_270023" aria-describedby="caption-attachment-270023" style="width: 2428px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="face3726"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/03eed31a489a8d727cf5754a9f605572.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270023" class="wp-caption-text">井上組長宅への銃撃の翌日には、神戸市内にある絆會・織田会長の自宅に軽乗用車が突っ込む事件も発生した</figcaption></figure>
<figure id="attachment_270029" aria-describedby="caption-attachment-270029" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="92de8de1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/26dc31e6371d50317f1cd433c885b0ec.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270029" class="wp-caption-text">今年６月、新横浜駅に現れた六代目山口組の司忍組長。神戸山口組とは対照的に六代目山口組の構成員は増えている</figcaption></figure>
<figure id="attachment_270030" aria-describedby="caption-attachment-270030" style="width: 1948px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e7c20585"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/48397af9469f8ca45bbd8d56ab0dba58.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-270030" class="wp-caption-text">六代目山口組の高山清司若頭が’19年10月に出所して以降、神戸山口組に対する切り崩しは一気に進んだ</figcaption></figure>
<p>『FRIDAY』2022年10月28日・11月4日号より</p>


溝口 敦  ノンフィクション作家

朝井 豊　濱﨑慎治　結束武郎　朝日新聞社（井上組長自宅）　共同通信社（織田会長自宅）

六代目山口組との抗争が続く、神戸山口組の衰えが顕著になってきた。重要人物の離脱が相次ぎ、組合員は結成時と比べて６分の１にまで減少。原因は井上組長の自己利益のみを追及した悪政にあるというが――。

設立時の勢いはどこへ…「神戸山口組」は何を失敗したのか

あなたへのオススメ