冬は海外富裕層、夏は日本人…「ニセコ」が抱える切なすぎる現実 | FRIDAYデジタル

冬は海外富裕層、夏は日本人…「ニセコ」が抱える切なすぎる現実

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来るウインターシーズン、1泊10万円台の部屋がすでに完売!?

極上のパウダースノーを誇る北海道のスキーリゾート、ニセコの冬季の宿泊予約が好調だ。岸田文雄首相が10月11日から水際対策を大幅に緩和することを表明したのは9月22日だが、それ以前からニセコの予約状況は回復の兆しを見せ始めていたらしい。

オンライン旅行会社エクスペディア広報担当の田井麻南美さんは、同社がウインターシーズンとする2023年1月から3月までの予約状況についてこう話す。

「ニセコエリアの冬のホテル予約が増え始めたのは8月の初め頃からです。冬までには、海外からの個人旅行客の受け入れが解禁されるだろうと見越してのことだと思います」(田井さん 以下同)

サラサラの雪質に魅せられたオーストラリア人が世界に紹介したことから、外国人に人気のスキーリゾートとなったニセコ。2000年代以降、外資による外国人のためのコンドミニアムや高級ホテルのオープンが相次ぎ、今ではすっかり海外の富裕層向けリゾート地と化している。

すでに満室のホテルも続出しているニセコ地区。写真は、コロナ禍が始まる前の風景(写真:共同通信)
すでに満室のホテルも続出しているニセコ地区。写真は、コロナ禍が始まる前の風景(写真:共同通信)

ニセコエリアの中心となるのは倶知安町とニセコ町だが、コロナ前の2018年度には両町合わせた外国人宿泊客延べ数が68万2163人と過去最高を記録。国別の宿泊客延べ数を見るとオーストラリアが最も多く、以下、香港、中国、シンガポール、台湾とアジア勢が続く。

田井さんによると、来年1~3月の宿泊予約は外国人が9割以上を占め、日本人は1割以下。国別ではアメリカ、オーストラリア、香港、台湾、シンガポールの順に多いという。中国が上位5ヵ国に入っていないのは、ゼロコロナ政策が続いているからだろう。

気になるニセコの宿泊料金だが、エクスペディアが契約するホテルの1泊あたりの平均価格は約6万円(10月20日現在)。ただしダイナミックプライシング(変動料金制)により、宿泊料金は今後上がっていくことが予想される。

エクスペディアおすすめのホテルについても聞いてみた。

「ヒルトンニセコビレッジと東山ニセコビレッジ・リッツ・カールトン・リザーブは目の前に羊蹄山を望むことができる大きな窓を備えた部屋があり、自然の美しさを感じることができます。スキー場とホテルが直結している点も魅力です」

ヒルトンの宿泊料金を2023年1月21日から1泊の日程でエクスペディアのサイトで調べてみると、「デラックスルーム 羊蹄山ビュー ツイン」が2食付きで約9万5500円。リッツ・カールトンは「ツインベッドルーム 羊蹄山ビュー」1月21~24日(3泊から予約可能)朝食ビュッフェ付きで1泊当たり約19万5000円だ(共に10月17日検索時の金額)。

「当サイトではすでに、日によって完売となっているお部屋もあります。今シーズン、人気のホテルは満室になる日もありそうです」

物価は上がるが賃金は変わらず、実質所得が減っている日本の庶民にとって、冬季のニセコのラグジュアリーホテルは予約ができないからではなく、価格の面で縁遠い存在と言えるかもしれない。

この冬の予約状況をみると日本人は7%。ちなみに、一番高い宿泊施設は、一棟貸しタイプで1泊 約300000円(2023年1月21日~1泊2名宿泊時〈税+サービス料込み〉10月14日の検索時の金額。検索のタイミング次第で金額が変動。エクスペディア調べ)

外資系高級ホテルの進出がニセコのブランド力を高めた要因

そのニセコについて、金融コンサルタントの高橋克英さんは著書『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』でこう書いている。

――国内外の富裕層顧客がスキーヤー・スノーボーダーとして集まり、楽しむことで、良質なホテルコンドミニアムなどが供給され、ブランド化が進み、(中略)投資が投資を呼ぶ好循環が続いている――

西武ホールディングスが米国大手金融機関のシティグループに売却したニセコ東山プリンスホテルが、ヒルトンニセコビレッジとしてオープンしたのは2008年のことだが、高橋さんは当時、シティグループに勤務していた。高橋さんに話を聞いた。

「ヒルトン買収後、シティグループの東京拠点の社員が積極的にニセコに行くようになり、特に外国籍の社員からニセコの雪質や景色、食事を賞賛する声が上がっていました。彼らの口コミによって、東京だけでなくニューヨークやシドニー、香港、シンガポールの社員にニセコの評判が広がっていったのを覚えています。 

2020年にはパークハイアットとリッツ・カールトンがニセコにオープンしましたが、外資系高級ホテルの進出がニセコのブランド力を高めた要因の一つであることは間違いないでしょう」(高橋さん、以下同)

2023年には最高級ホテルの「アマンニセコ」も開業する。ニセコのブランド力が一層アップしそうだ。

「海外のスキーリゾートにある高級ホテルやレストランは冬のみの営業に集中し、グリーンシーズンはほとんどがクローズします。ニセコの場合も海外の富裕層をメインにしているのであれば、スキーシーズンだけの営業で1年分稼ぐリゾートとしてやっていけるはずです。 

ラフティングもキャンプも楽しめる、ファミリーや地元客も来る、いわゆる幕の内弁当型リゾートを目指す必要はありません。誰でも行けてあれもこれも楽しめるニセコになると、富裕層向けリゾートとしてのブランド価値が落ちる。富裕層はニセコに代わるリゾートを見つけて離れていってしまいます」 

【ヒルトンニセコビレッジ】客室からスキーブーツを履いたまま隣接したゲレンデにスキーイン・スキーアウト可能、ゴンドラ乗り場もホテルの目の前。春と秋の早朝には客室から雲海も!(写真提供:エクスペディア)
【ヒルトンニセコビレッジ】客室からスキーブーツを履いたまま隣接したゲレンデにスキーイン・スキーアウト可能。ゴンドラ乗り場はホテルの目の前。春と秋の早朝には客室から雲海も!(写真提供:エクスペディア)※そのほかの写真はコチラをクリック
【東山ニセコビレッジ、リッツ・カールトン・リザーブ】2020年12月にオープンした、世界に5軒しかないリッツ・カールトンの最上級ホテルブランド。露天風呂温泉、スパ、ジムなど施設も充実!
【東山ニセコビレッジ・リッツ・カールトン・リザーブ】2020年12月にオープンした、世界に5軒しかないリッツ・カールトンの最上級ホテルブランド。露天風呂温泉、スパ、ジムなど施設も充実!(写真提供:エクスペディア)※そのほかの写真はコチラをクリック

リゾートエリアの開発に伴うインフラ整備にかかる莫大なコスト

外国人富裕層のためのスキーリゾートとなり、外国資本による投資と開発が続くニセコの現実を、地元の人たちはどう受け止めているのだろう。倶知安町の事業主で町議会議員も務める田中義人さんに聞いた。

「ニセコには4つのスキーリゾートがあり、倶知安町のリゾートエリアは今後5年で宿泊施設のベッドの総数が3万5000以上になる予定です。倶知安町は人口1万5000人の町ですが、冬の3ヵ月間は約5万人の人が住む状態になります。 

グリーンシーズンは国内客が来るので観光入り込み客数自体は少なくないんですが、宿泊客数や消費金額は低い。町にとっては、夏をどうするかが課題になっています(田中さん 以下同)

倶知安町は2019年11月から、宿泊税を全国で唯一の定率制で導入している。グリーンシーズンの宿泊客が少なくても、冬期の宿泊税収によって裕福な自治体でいられそうだが。

「宿泊税はまるまる町の収入になりますが、地価の高騰に伴い固定資産税が上がって町税が増えたことで、地方交付税が減額されるんです。結局、町の収入自体は変わりません。それどころか、リゾートエリアの開発に必要な道路や水道などのインフラは自治体が整備しなければならないため、莫大なお金が出ていくんです。 

インバウンド需要やリゾート地区の開発によって町が潤っていると考える地元住民はいません。特にニセコエリアでは、物価上昇やインフラ整備の費用などで住民の負担が増えているのが実情です」

田中さんは、ニセコがどうなることが望ましいと考えているのだろう。

「このエリアに来る人と地元住民が、ウィンウィンの関係になれるような街にしていく必要があります。そのためには、インバウンドも国内の旅行者もお客様としてきちんと迎え入れ、落としていってくれたお金を町全体で享受できる制度をつくることが大事です」

さまざまな思いや考えが交差するニセコだが、旅行で訪れる立場としては、願わくは冬の宿泊料金がもう少し利用しやすい価格であってほしい。

「数は少ないけれども日本人が経営している宿もまだ残っていますので、スキーシーズンでも手頃な料金で泊まることはできます。夏であれば、外国資本のホテルも冬の3分の2以下くらいの価格になるんじゃないでしょうか」

日本人がニセコを訪れるなら夏が正解かもしれない。

「空気も食べ物もおいしいですし、自然を生かしたアクティビティも充実しています。夏のニセコ、最高ですよ」 

自然を満喫できるアクティビティ充実のグリーンシーズン
自然を満喫できるアクティビティ充実のグリーンシーズン

高橋克英(たかはし・かつひで)株式会社マリブジャパン代表取締役、金融コンサルタント。1969年、岐阜県生まれ。1993年慶應義塾大学経済学部卒、2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。三菱銀行、シティグループ証券などを経て、2013年に同社を設立。著書に『銀行ゼロ時代』(朝日新聞出版)、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(講談社+α新書)など。

田中義人(たなか・よしひと)株式会社ニセコリゾートサービス代表取締役、倶知安町議会議員。1972年、北海道生まれ。倶知安高校卒後、フリースタイルスキー(モーグル)選手として活動し、ヨーロッパカップや全日本大会などに出場。引退後、自動車販売会社や外資系金融会社などを経て2007年に同社を設立。2011年から町議を務める。

エクスペディアのHPはコチラ

  • 取材・文斉藤さゆり

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