<figure id="attachment_272324" aria-describedby="caption-attachment-272324" style="width: 8416px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="42e95a43"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/aflo_177747723.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-272324" class="wp-caption-text">収入格差の大きいフードデリバリー（画像：ロイター／アフロ。写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>日本の生活困窮者の支援現場では、フードデリバリーの配達員をやっている、あるいはやった経験があるという人が少なくない。</p>
<p>配達員は立派な職業の１つではあるが、即日で収入を得られる、人と関係性を持たずに済むといった特徴が、生活困窮者に選ばれる要素となっており、結果として支援につながる人の率が高くなるのだ。</p>
<p>【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/272216">前編：フードデリバリー「体調崩し家を失った」悲惨な告白</a>】につづいて、フードデリバリーの闇に光を当てたい。</p>
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<p>〇31歳女性</p>
<p>平本智里（仮名）はレストランとスナックを掛け持ちして、シングルマザーとして未就学児の娘を育てていた。だが、新型コロナの感染拡大によって仕事を失ってしまう。</p>
<p>そんな智里が選んだのが、当時テレビでよく取り上げられていたフードデリバリーの配達員の仕事だった。調べてみると、都心であれば高収入も夢ではないという。</p>
<h2>「生活費を入れなさい」</h2>
<p>彼女は埼玉県の郊外に暮らしていたため、子供を実家に預け、自分は都内に暮らす女友達とルームシェアをすることにした。女友達も同じくコロナ禍で生活苦に陥っていたので家賃の負担を減らしたいと考えていたのだ。</p>
<p>東京に出てきたばかりの頃、智里は月に40万円ほど稼いで貯金をしてから次の仕事を見つけたいと考えていた。だが、実際に初めてみると、月収が20万円に届くことはなく、体力的にも大変だった。</p>
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<p>また、実家の親からは、絶えずこう言われつづけた。</p>
<p><span class="strongInContent">「あんたの都合で子供を預かるんだから、ちゃんと生活費をうちに入れなさい」</span></p>
<p>両親も生活が苦しく、孫を育てる余裕がなかったのだ。</p>
<p>智里は収入を増やすため、それまで距離を置いていた繁華街で配達員をやることにした。だが、仕事はたくさんあるものの競争率も高く、酔っ払いに絡まれるとか、タクシーや警備員にどやしつけられるといった精神的な負担も大きかった。止めていた自転車をパンクさせられたこともあった。</p>
<p>そんなある日、アパートをシェアしていた友人から、生活に疲れたので田舎に帰ろうと思うと告げられた。彼女もまたコロナ禍での暮らしに消耗していたのである。</p>
<p>智里は配達員の仕事をはじめるに当たって装備品の購入や引っ越しなど初期投資をしていた。その分を回収することもできないまま、仕事を投げ出すわけにはいかない。どうすればいいのか。</p>
<p>悩んでいる最中に、事故が起こる。雨の日、仕事を終えて帰る途中に横転。足の骨を折ってしまったのだ。疲れ切っていたこともあったのだろう。後日、会社に問い合わせたものの、終業後の事故だったため、補償の対象外だと言われた。</p>
<p>智里は智里は埼玉に帰ることを決めたが、実家からは孫に加えて無職の娘を受け入れる余裕はないと突き放された。智里はやむなく自治体に相談。母子生活支援施設に入って生活保護を受けてから、暮らしを立て直すことになった。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="日雇い労働を掛け持ちする理由"></div>
<figure id="attachment_272323" aria-describedby="caption-attachment-272323" style="width: 3914px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="be8fcf5b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/aflo_167893621.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-272323" class="wp-caption-text">収入格差の大きいフードデリバリー（画像：ロイター／アフロ。写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>このように見ていくと、生活に困った人が配達員の仕事に飛びついて、すぐに高収入を得ることが難しいことがわかるだろう。事故に遭わなくとも、自転車の盗難や故障、装備品の不足や劣化、携帯電話の紛失などが起きる可能性もある。</p>
<p>知識を持った人が万全な準備をした上で専業としてやるならともかく、生活苦から予備知識もないまま飛びついても、高い収入を得るどころか、ギリギリの生活さえ崩壊してしまうリスクがあるのだ。</p>
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<p>一般社団法人「つくろい東京ファンド」は、22年の６月から配達員に特化した支援を行っている。新規事業部長を務める佐々木大志郎はこう語る。</p>
<p><span class="strongInContent">「うちに相談に来る人たちの多くは、専業で配達員をやっているというより、いくつかの日雇い労働を掛け持ちしていることがほとんどです。複数ある日雇い労働の１つが配達員の仕事という位置づけですね。</span></p>
<p><span class="strongInContent">なぜいくつもの仕事を掛け持ちするかと言えば、専業でやっていくことが難しいからです。それは配送員以外の日雇い労働も同じで、１つ１つの仕事の収入がどれも低いので、いくら働いてもなかなか生活苦からなかなか抜け出せないのです」</span></p>
<h2>一日の稼ぎは5000円</h2>
<p>現在、ネットカフェやカプセルホテルで暮らしているホームレス同然の20～40代の男性は、デジタル日雇いといって、スマホで日雇い労働を探して収入を得ていることが多い。そうした仕事の１つに配達員の仕事があるわけだが、着の身着のままでできるわけではない。</p>
<p>まず彼らは自転車を所有していることが少ないので、レンタル自転車を借りることになる。レンタル費用は１日あたり1000円以上。これにスマホを取り付ける道具、充電器、雨具、それにカイロ、帽子、ドリンク代などがかかる。</p>
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<p>このため、日に7000円稼げたとしても、実質5000円くらいにしかならない。これでは、ネットカフェやカプセルホテルでの生活から抜け出せないばかりか、貯金ができないので体調を崩せばすぐにホームレスということが起こる。</p>
<p>佐々木はつづける。</p>
<p><span class="strongInContent">「今はデジタル日雇いや配達員など、いろんなことが半端にできる時代です。本人も就労しているという意識があるので支援につながろうとしないのですが、実態としては収入的にはものすごく苦しい。言わば、半端に仕事が出てしまうから、貧困から抜け出せないという蛇の生殺しのような状態がつづいてしまうのです」</span></p>
<p>完全に失業していれば福祉を利用できるし、十分な収入がある仕事に就ければ生活は安定する。問題は、その間、佐々木の言葉で言えば「半端にできる仕事」をしている層が、生活困窮から脱することができずに苦しんでいるということだ。いわば、合間の貧困ともいうべき状況が生まれているのである。</p>
<p>さらに言えば、この「半端にできる仕事」はかなり複雑かつ多岐にわたるものになっている。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="クリーンな仕事からグレーの仕事まで"></div>
<figure id="attachment_272322" aria-describedby="caption-attachment-272322" style="width: 4920px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="61574644"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/10/aflo_181136533.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-272322" class="wp-caption-text">収入格差の大きいフードデリバリー（画像：ロイター／アフロ。写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>昔も、労働内容に見合わない条件の日雇い労働は数多く存在したが、労働者は特定の仕事をする傾向にあった。建設業なら建設業、パチンコの打ち子なら打ち子、客引きなら客引きという具合にだ。なのでまっとうな仕事をしている人とグレーの仕事をしている人がわかれていた。</p>
<p>今はそうした風潮が変わってきている。多種多様な仕事を並行してやるだけでなく、クリーンな仕事からグレーの仕事までをいっしょくたにやる傾向にあるのだ。</p>
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<p>わかりやすく言えば、月曜日は引っ越し、火曜日はパチンコの打ち子、水曜日は配達員、木曜日は転売の並び屋、それにお金に困った時は、携帯電話や通帳を売って臨時収入を得る。つまり、ホワイトの仕事も、グレーの仕事も、半端にできる仕事ということで同一視されがちなのだ。</p>
<p>事実、今回私が取材したフードデリバリーの配達員の中にも、違法な出張ホストと掛け持ちしているとか、盗品をネットで転売して小銭を稼いでいるといった人物がいた。彼らにしてみれば、配達員の仕事も、それら裏の仕事も同じ仕事という意識なのだろう。</p>
<p>似たようなことは、佐々木も感じているという。彼は次のように述べた。</p>
<p><span class="strongInContent">「いろんなことが『生きるためのテクニック』として並列になっている気がします。日雇いも、犯罪も、時には公的支援まで、彼らにとっては困難な今を乗り越えるための手段にすぎなくなっているのです。そのテクニックがあれば何とか生きていくことができる。</span></p>
<p><span class="strongInContent">不安を覚えるのは、日本ではそういう暮らしが成り立つ環境が整っていることです。今はネットカフェでも居心地が良く、シャワーや飲食がついていたりするので、本人がその気なら生活が成立してしまう。貧困の中で生きるというライフスタイルが完成してしまっているのです」</span></p>
<h2>ネットカフェでの生活が確立した背景</h2>
<p>一時代前は、仕事を失えば一気にホームレスまで落ちた。だが、いくつもの半端な仕事を掛け持ちすることによって、ネットカフェやカプセルホテルで生きていくライフスタイルができ上っているのだ。</p>
<p>フードデリバリーの仕事が、生活困窮者にとって「半端にできる仕事」の１つになっているのならば、それはそれで問題だろう。佐々木がいるつくろい東京ファンドでは、そうした人たちを支援するために、自ら配達員に連絡をとって支援をしたり、レンタル料の負担を減らすために自転車の貸し出しを行ったりと、様々な支援を行っている。</p>
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<p>佐々木は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「本人に支援してほしいという意思がなければ、こちらからできることは限られています。それでも、何かが起きて突然食べていけなくなる、ネットカフェに住めなくなるということは起こりえる。そういう時に、きちんと支援したいし、そのためにも配達員に特化した支援は必要なのだと思っています」</span></p>
<p>くり返すが、すべてのフードデリバリーの配達員が、生活苦に直面しているわけではない。だが、貧困支援の現場に光を当てた時、今回見てきたような問題があるのなら、状況を見極めて支援の手を差し伸べる必要はある。</p>
<p>これからの数年間で、フードデリバリー業界ではさらなる激変が起こるだろう。弱い立場の人たちが、今以上の苦境に陥らないためにも、こうした現実に目を向けておくことが重要ではないだろうか。</p>
<p>【募集】</p>
<p>シリーズ「ヤング・ホームレス」では、定住先のない１０～４０代の人を探しています。車上生活者、ネットカフェ難民、出稼ぎ風俗嬢、寮で暮らしの日雇い労働者、ホテル生活者、店舗生活者、支援施設での生活者など、現在でも過去でも、住居を失った経験のある人の実体験、あるいはその支援をされている方々の声を募集しています。匿名などの条件にも応じますので、著者までご連絡下さい。</p>
<p>石井光太（作家）</p>
<p>ツイッター　@kotaism</p>
<p>メール　postmaster@kotaism.com</p>


77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

ロイター／アフロ　REX／アフロ

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