鈴木 旭

昨年元日に放送された『ぐるぐるナインティナイン』（日本テレビ系）の「おもしろ荘」で優勝を果たし、『ツギクル芸人グランプリ2021』決勝でも存在感を示した「ダイヤモンド」の野澤輸出と小野竜輔。一方『M-1グランプリ』では、2018年から4年連続で準々決勝止まり。あと一歩のところでチャンスを逃してきた。 
「例年よりは自信があります」と息巻く彼らは、漫才の「型」ではなく「中の発想」で今年のM-1に臨むという。昨年の大会で感じたこと、独特な漫才スタイルと吉本芸人であることの課題、M-1予選で意識するライバル、同期のコンビ「いぬ」の飛躍に対する思いなど、今感じている率直な心境を語ってもらった。 
<figure id="attachment_273510" aria-describedby="caption-attachment-273510" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c32037df"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/1_DSC01948.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-273510" class="wp-caption-text">ダイヤモンドの野澤輸出（写真左）と小野竜輔（撮影：スギゾー）</figcaption></figure>
<h3>「マヂカルラブリー」さんの優勝で、めちゃくちゃ流れが変わった</h3>
――昨年のM-1グランプリは、「錦鯉」が大会史上最年長で優勝しました。見ていて感じるところはありましたか？
小野：「錦鯉」さんの優勝も感動的でしたけど、「真空ジェシカ」とか「ランジャタイ」さん、「モグライダー」さんが決勝にいったことのほうが感じるものがありましたね。僕らは他事務所の人とライブで一緒になったりすることも多かったので。 
2020年の「マヂカルラブリー」さんの優勝で、めちゃくちゃ流れが変わった気がします。そんな中で割と近いところがいき始めて、「そろそろヤバいぞ」「もういかないと」っていう。 
野澤：逆に言えば、「自分らもいけるんだろうな」とも思いました。近い後輩とかもいて、悔しいのもあったけど可能性も感じたというか。ただ、「オズワルド」は3年も決勝にいってますし、年々そういう気持ちも失せてきつつあるんですけど（苦笑）。
――昨年、その「オズワルド」は準優勝でしたよね。大会が終わってから、何かお話をされたことはありますか？
小野：「惜しかったね」「やっちゃいましたね」みたいな話はしました。1本目終わった時点で、「あれ、優勝するな」みたいな雰囲気があったじゃないですか。近しい後輩が優勝するかもっていうのが初めてだったので、「あれあれあれ」って（苦笑）。 
僕らがコンビ組んだ後、「オズワルド」ともけっこう一緒にライブやってたから余計に「ちょっと待って」って。もちろん面白いのはわかってましたけど、改めてすごいなと思いました。 
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<h3>今年は「外の発想」より「中の発想」で勝負してます</h3>
――お2人は2018年から昨年まで4年連続で準々決勝進出。この結果についてはどう受け止めていますか？
小野：その流れで今年も準々決勝止まりだとキツいなって。「そろそろ『ダイヤモンド』準決勝いっていいんじゃないか」って、周りからの期待値がだいぶ高くなってると思うんですよ。それを逃した時に「ダメだったな」っていう人の枠に入っちゃいそうなので、マジで今年やなと思ってます。 
野澤：まぁ鮮度はありますもんね。芸人って乗ってる時とかチャンスがあったら、「あそこで獲っとかないと」ってことがたぶんあると思う。それを超えて獲る人もいますけどね（苦笑）、逃して1回潜ってずーっとやり続けて優勝する人とか。 
ただ、そんな感じでラストイヤーまでっていうのはちょっとしんどいなっていう。まぁ人が決めることだから、絶対的な正解はないと思うんですけど。
――準々決勝の壁を突破するのには何が必要だと思いますか？
小野：そこは突破したことがないので、マジでわかんないです（笑）。でも、今年はこれまでやってきてないことはやったつもりではありますね。2人で衣装を揃えたりとか、漫才のパッケージ的にもちょっと変えたりだとか。 
あと今年は、「何回戦でこのネタやろう」みたいな話し合いが早かった。この2、3年ぐらい「準々決勝のネタないな」っていつも言ってたんですけど、割と早く準備してる気がします。  
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野澤：いつも強いネタが1年に1本しかできないんですよね（苦笑）。 
小野：新しいスタイルの漫才を年1本仕上げて、それを毎年3回戦で出すんですよ。それで「準々決勝で何やったらいいんだろう」っていつも困ってた。それが早く決まったので例年よりは自信があります。それと今年は漫才の側（型）を変えるのはやめて、「外の発想」より「中の発想」で勝負してます。そこも変わったと思います。
――ちょっと意外でした。自分たちの「面白い」をひたすら突き進む感じだと思っていたので。
野澤：「これは面白いでしょ」みたいなものをずっとM-1の予選でやってきて、もうけっこうやったなって感じがあるんですよ。それで結果が出なかったから、やり方も変わったというか。 
小野：もう負けるほうが嫌なんですよ。なんか気付きましたね、自分たちが面白いと思うネタを決勝でやっちゃえばいいんだって。そのためには、まず予選で勝たないといけないですから。 
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<h3>「おもしろ荘」優勝後、呼んでもらってる以上はウケないと、って</h3>
――小野さんが「スタバと一緒じゃない？」を繰り返したり、終始無言だったりと、お2人の漫才は本当に独特だなと思います。改めて“自分たちらしいネタ”とは、どんなものだと思いますか？
小野：逆にできないネタはありますね。とくにシンプル漫才コントは本当に向いてない。1年おきぐらいにやってて、それこそ今年の単独ライブでも作りましたけど、僕らには合ってないというか。 
単純にもともとのテンポ感とかもぜんぜん違いますし、だったらまだしゃべくりでやったほうがいいなと思いますね。見たことがない型とかだったら、まだ正解がないから「やったことが正解」になるわけじゃないですか。そういう漫才のほうが合ってる気がします。 
野澤：僕がだいぶ不器用だから、できることも限られるんですよね。あと「見たことあるようなものはやりたくない」っていうのもあります。「ちょっとでもオリジナリティーを出したい」と思ってやってる部分もあるので。 
ただ、もうガチガチにこだわってるわけでもなくて。単純に「ウケたらいいな」っていうのもありますし。別にしっくりきてなくても、むっちゃウケるんだったらそれでいい（笑）。逆にそれだけウケるんだったら、しっくりくると思いますし。 
――とはいえ、世界観が確立されていることで、大衆向けというよりもコアな層に刺さるような漫才だと感じます。そのあたりは、どうバランスをとっているんですか？
小野：だいぶ悩みましたね、そこは。それこそ「おもしろ荘」で優勝して、いっぱいライブに出させてもらえるようになって考え方が変わったと思います。ネタに関しては尖れば尖るほどいいと思ってたんですけど、呼んでもらってる以上はウケないとって。 
バイトしながらお笑いやるならそれでいいと思うんですけど、お笑いで食べていくんだったらちゃんとウケるネタをやらないと。だから、今までのネタだったとしても、「ウケるようにするには、どう見せたらいいんだろう」って考えるようになりました。 
野澤：僕も同じですね。たぶん吉本じゃなかったら、そのまま変なことをずっとやって単独ライブに力を注いでた気がします。でも、吉本だからいろんな劇場に出て、いろんな人を笑わせなきゃいけない。 
そうなると、自分らのファンだけに向けてやるんじゃない芸風になっていくのは仕方ないだろうっていう。だから、今ってむしろ変なネタはやってないんですよね。ウケないですから。 
小野：でも、今までの僕らのイメージがあるから、たまに他事務所の方と変な括りで呼ばれることもあるんですよ。その時に、最近作ったネタだとやりようがなくて。だから、1回そういう変なネタだけを作るライブをやってもいいのかなと思ってます。需要は絶対にあると思うので、分けて考えればいいのかなって。 
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<h3>ライバルは「キュウ」、同世代で準決勝いってない芸人</h3>
――以前、独特なスタイルの漫才コンビ・「キュウ」に取材したところ、「（M-1は）単純にすごい面白いコンビであれば必ず巡ってくる順番がある」「変に焦ってフォームを崩したりしないようにしようとは思ってます」とおっしゃっていました。
小野：「キュウ」はそこがいいトコやと思うんですよ。本当にブレないというか。でも、それは「キュウ」がタイタンにいるのが大きいと思いますね。 
野澤：毎月50ステージとかある吉本で、あのスタイルをやるのは無理だなって思います。僕らで言えば、「手漫才」（野澤があらゆる物を「手」で表現しながら話し続け、小野はリアクションのみで一言も発することのないネタ）を50ステージやってるようなものなので。「キュウ」のスタンスはタイタンだから成立してるし、僕らは吉本の芸風になっていくしっていう。根っこは一緒なのかもしれないですけど。 
小野：基本的な考え方は似てると思うんですよ。「キュウ」ともよく一緒にライブやってますし、もちろん面白いと思いますし。ただ、生まれは一緒やけど、育ちが違うなと思いますね。
――間もなくM-1の3回戦を迎えます（取材は10月26日）。今大会でライバル的な存在はいますか？
小野：まさに「キュウ」とかじゃないですか。同世代だと、大阪なら黒帯とか。 
野澤：同世代で準決勝いってない人らは意識しますね。「カナメストーン」、「ママタルト」、「シシガシラ」さんとか。その中で、どこよりも先に準決勝、決勝にいけたらいいなとは思ってます。 
小野：あと、「ひつじねいり」とかね。そのへんは、本当にみんな同じぐらいなんです。誰がいってもおかしくないと思うんですけど、これ以上いかれると本当に悔し過ぎるので、もう今年いかないと（苦笑）。1回決勝にいった「真空ジェシカ」とかは、たぶん僕らをライバルだと思ってないと思いますよ。向こうは向こうで、1個上のステージで戦ってますから。 
野澤：だから、今は僕らと同じところにいる芸人がライバルですね。ライバルってそういうものだと思うので。 
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<h3>目標は今までと一緒ですよ、「決勝にいく」ってだけ</h3>
――今年のキングオブコントで、ゆかりの深い「いぬ」が決勝進出を果たしました。同期が結果を残して、感化された部分はありますか？
野澤：それはありましたね、だいぶ。NSCから一緒で、この15年ぐらい一番仲良かったかもしれない。だから、「いぬ」が決勝にいくってなった時に、NSC時代に苦楽を共にしたのを思い出してグッときました。本当に良かったなと思ったし、「俺らもいかないとな」って気持ちも湧きましたね。 
小野：嬉しかったですね。芸人はみんな2人のこと大好きなんですけど、たぶん気持ちとしては「準決勝おめでとう」だったんですよ。それをぶち抜いて決勝までいった。本当に無風の状態でいったから、「言い訳できないな」と思ったのと同時に「じゃあ俺らもいけるな」って可能性も感じました。 
――今のモチベーションにつながっていると。最後にM-1準決勝、決勝への意気込みを聞かせてください。
小野：去年の準々決勝で僕、「いった！」と思って飲みにいったんですよ。出番が終わった後、M-1 の密着カメラがきて「どうでした？」って聞かれた時に、「大丈夫だと思います」ってホクホクで答えちゃったくらい、めちゃくちゃウケたので。 
その2日後ぐらいに「トム・ブラウン」の布川（ひろき）さんから「なんか受かった感じ出してましたよね、あの時」とかってめっちゃイジられて（笑）。でも、それぐらい手応えはあったんです。だから、あとはもうミスなくやるだけですね。 
野澤：準決勝にいけなくはないんだろうなと思います。いろんな何かがちょっと変わったら、去年もいけてただろうし。目標は今までと一緒ですよ、「決勝にいく」ってだけです。決勝にいってネタを間違えなければ優勝もできるだろうし。ただ、まぁそこは運もありますからね。 
小野：順番がね、決勝は「笑神籤（えみくじ）」で決まるから。僕らも「いぬ」みたいに禁じ手のキスをして、最下位になって2人で脱ぎます。もちろん暗転もして（笑）。決勝の舞台で、ダメだとされている全部をやってやりますよ。

フリーランスの編集／ライター。元バンドマン、放送作家くずれ。エンタメ全般が好き。特にお笑い芸人をリスペクトしている。2021年4月に『志村けん論』（朝日新聞出版）を出版。個人サイト「不滅のライティング・ブルース」更新中。http://s-akira.jp/

鈴木旭

スギゾー

「M-1グランプリ」では、2018年から4年連続で準々決勝止まり。あと一歩のところでチャンスを逃してきたダイヤモンド。「例年よりは自信があります」と息巻く彼らの今感じている率直な心境を語ってもらった。

おもしろ荘優勝・ダイヤモンドの覚悟「もう言い訳はできない」

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