<figure id="attachment_274325" aria-describedby="caption-attachment-274325" style="width: 5381px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="035868b4"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/F_SHarada01_DSC_0163.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-274325" class="wp-caption-text">原田氏は7月にテレ東を退社。教育系スタートアップ企業『atama plus』に入社した</figcaption></figure>
在京キー局のアナウンサー職採用試験の倍率は1000倍ともいわれる狭き門だ。ところがここ最近、熾烈な競争を勝ち抜いたテレビ局所属のアナウンサー、いわゆる局アナが30代の若さで退職するケースが増えている。しかも、フリーアナウンサーとして活動するのではなく、全く異なる職種への転身が少なくないのだ。
7月にテレビ東京を退社したアナウンサー原田修佑氏（29）も、そのひとり。現在、教育系のスタートアップ企業、『atama plus』のブランドマーケティング&amp;PRエリアに所属し、メディア向けの情報発信やマーケティング業務を行っている。
「以前から、僕には『子どもの将来を照らす仕事がしたい』という夢がありました。実は子どものころ、学校が合わずにつらい思いをした時期があって……。その経験から、いつかは教育系の仕事をしたいと考えていたんです」
教師になったり、教育系の企業へ就職したりするなど、夢への最短距離を歩まずに超難関のアナウンサーを目指した背景にも、当時の思い出が関係しているという。
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「つらい思いをしていたころ、僕はテレビに笑顔や元気をもらっていました。テレビ以外の仕事に就くにしても、何かエンターテインメント的な形の仕事で子どもを笑顔にしたい……という気持ちでした。当時の僕は、集団に馴染めず、人前に立ってしゃべるとか、目立つことが苦手でした。アナウンサーを目指したのは、『そのコンプレックスを克服した世界には、どんな景色が広がっているのだろう』という、言い方は悪いですけど“興味本位”な動機もありました」
事実、コンプレックスを克服してアナウンサーとなった原田氏の目の前に現れた景色は「素晴らしかった」と話す。職場や仲間にも恵まれ、やりがいや使命感を持てる仕事だ。アナウンサーの経験を通じてコミュニケーション能力も磨かれ、気持ちも前向きになったという。では、なぜ局アナという素晴らしい「立場」を手放したのか？
「『いつかは子ども向けの仕事をしたい』という漠然とした気持ちが、局アナになってからもずっとありました。実際に動き出すキッカケとなったのは、コロナ禍で始めた、小さいお子さんのかわいらしい動画に実況をつける『実況ベイビー』です。個人的な活動でしたが、子どもに関わる取り組みをしてみて改めて、『子どもを笑顔にできるプロダクトを作りたい』という気持ちが大きくなりました」
局アナになってからも「いつかは子ども向けの仕事を」と考え続けていたのは意外だが、転職の経緯にはさらに驚かされた。
<div data-friday-nextpage-lead="本当は転職ではなく起業するつもりだった"></div>
<figure id="attachment_274334" aria-describedby="caption-attachment-274334" style="width: 2218px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f6ebba02"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/F_SHarada02_DSC_0006.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-274334" class="wp-caption-text">学校が合わず、つらい思いをした経験から「子どもの将来を照らす仕事がしたい」という目標が生まれた</figcaption></figure>
2021年のはじめごろから、教育業界への転身を考えていたという原田氏。当初のプランは「転職」ではなく「起業」だった。その背景には『ＷＢＳ（ワールドビジネスサテライト）』のフィールドキャスターとして、夢に真っすぐ挑む多くの経営者たちを取材してきた影響もあったという。
「アナウンサーになり、さまざまな経験をしたことから『基礎学習だけじゃない、子どもが学べる場』を作りたいと思っていました。そのための起業を考えたのですが、具体的にどうすればいいかわからない。そこでまず、教育系の企業で社長をしている方々にDMを送って、教えを請いました」
教育業界のトップたちにアプローチし、相談に乗ってもらった。そのなかの1人が現在勤めている『atama plus』代表の稲田大輔氏だった。AIを用いた学習システムが多くの学習塾や予備校に採用され、EdTech業界で注目を集める社長のひとりだ。
「稲田社長に相談をしているうち、『自分が目指す方向性と共通するところが多い』と感じました。優秀で高い志を持ったメンバーとミッションを一緒に達成していきたい――という気持ちが強くなりました。起業の相談をしていたはずが、気づけば『僕をatama plusに入れてください！』と言っていた（笑）。その後、改めて面接を受けて、正式に採用していただきました」
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大手とはいえ、テレビ局から教育系企業への転職となれば、家族に難色を示されそうだが、原田氏の妻は反対しなかったという。
「いつか教育系の仕事に就きたいという夢は、以前から妻に話していましたから。ただ、私たちの子どもはまだ小さいので、起業するのはさすがに不安だったようです。結果的に企業に所属することになって、むしろ安心していました（笑）」
<figure id="attachment_274340" aria-describedby="caption-attachment-274340" style="width: 5115px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f6fd8a88"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/F_SHarada03_DSC_0130.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-274340" class="wp-caption-text">巨大な看板のある『atama plus』のエントランスにて</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="「実況ベイビー」がバズりすぎて慌てた"></div>
先にも述べた通り、原田氏が転職するキッカケのひとつとなったのが「実況ベイビー」だ。小さい子どもの様子を、プロのアナウンサーが実況をする動画が話題となり、大きな反響を呼んだ。
<figure id="attachment_274342" aria-describedby="caption-attachment-274342" style="width: 3388px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0b387dee"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/F_SHarada04_DSC_0005.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-274342" class="wp-caption-text">服装はカジュアルになっても、数か月前までスポーツ実況や報道番組を担当していた、誠実かつ爽やかな笑顔は健在</figcaption></figure>
「子どもが主役だから」との思いと、個人活動への理解を示してくれたテレ東への配慮から名前は伏せていたが、聴く人が聴けば誰がやっているかすぐにわかってしまった。
「『実況ベイビー』を取り上げたニュースがYahoo！トピックスに転載されて、『社会的なニュースになるような活動ができた！』と喜んでいました。でもその直後、他局からの取材が殺到。情報番組で15分くらいの特集が組まれたケースもあって……ぜんぶで7番組くらいですかね。匿名での出演とはいえ、あそこまで大きく取り上げられるとは僕自身想定外で、さすがに『個人の活動で、これは目立ちすぎだ』と慌てました（苦笑）」
バズったのはいいが、反響が大きすぎて「実況ベイビー」はペースダウンせざるを得なくなった。しかし、実況をつけた保護者から「子どもに、いい思い出が作れた」とお礼の言葉をもらうなど、局アナという職業では得られなかったダイレクトな反応を受け取れたのは「本当に嬉しかった」と言う。
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「コメント欄で直接、動画を観た人たちの感想がいただけて、これまで培ってきた実況というスキルが人のためになっていると実感できたのも、やりがいになりました。そういう経験を分かち合いたいと思いましたし、一人でできることには限界もあるので、アナウンサー仲間に参加を呼びかけ、11月からはチームで活動しています」
他局のアナやフリーアナが加わり、現在、「実況ベイビー」は原田氏を含めて5名体制で運営されている。実況をつけるには構成を考えるほか、アカウントの管理やプライバシーを配慮した各種の確認など手間がかかる部分もある。それらは知見のある原田氏が代表として担い、当面は週5本ほどのペースで投稿する予定だという。
なかなか更新されない時期もあったが、子どもの愛らしさとプロの実況が絶妙にマッチした動画は、観始めると止まらない魅力がある。投稿が増えることで、再び大きな人気が集まりそうだ。
<figure id="attachment_274351" aria-describedby="caption-attachment-274351" style="width: 4722px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a5328d09"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/F_SHarada05_DSC_0064.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-274351" class="wp-caption-text">「名前も顔も伏せていたけど、誰が実況しているかは、声ですぐバレちゃいましたね（笑）」と、大きな話題となった「実況ベイビー」開始当初の騒動を振り返る</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="慣れないデスクワークに苦戦することも"></div>
一般的な転職であっても、異業種へ飛び込むのは大変だ。ましてや、アナウンサーはかなり特殊な専門職である。
転職直後、原田氏はTwitterで「今まで衣装で仕事してたところから突然服装自由の会社になって、センスないから何着ればいいか分からないし、暑いけどまだ半ズボン履く勇気が出ない」「慣れないデスクワーク続きで頭と首と肩と腰と膝が痛い」「しゅ、、祝日って休めるのか！！！！」「転職してわずか3週間、カタカナ用語を背伸びして使って、結果使い方間違って恥かいてる」など、新たな環境での戸惑いや新鮮な驚きを綴（つづ）っていた。
<figure id="attachment_274352" aria-describedby="caption-attachment-274352" style="width: 2950px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="856e2b69"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/F_SHarada06_DSC_0990.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-274352" class="wp-caption-text">アナウンサーの仕事はずっと衣装だったため「会社へ行くのに何を着たら正解なのか、最初は全然わからなかったです（笑）」と転職当初の戸惑いも、今はもう笑い話になっている</figcaption></figure>
「こんなにパソコンと向き合ったことはなかったですね。アナウンサーは様々な現場へ取材に行ったり、動きながらレポートしたりすることもあるので、ある意味、肉体労働なんです。デスクワークをしている今の方が身体のあちこちが痛くなります。横文字を間違えて使って、恥をかいたりもします（笑）。まだまだ慣れないことの方が多いですね。でも、スタートアップ企業ならではの情報共有の速さが新鮮です。会社全体で担当以外の業務も情報共有できて、『会社が一丸となって、チームでミッションの実現に向かっている』と実感できる。この雰囲気は自分に合っています」
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新たな環境で、楽しく働いている原田氏。以前とは全く異なる職種だが、意外にもアナウンサー時代の経験が活きているという。
「皆、僕の特殊な経験を楽しんで、前向きに捉えてくれています。先日もマーケティング業務の一環で動画制作があったのですが、台本作りや外部への発注、出演、編集作業など、テレビ局のアナウンサーとして働いていた経験を活かすことができた。PRの面でも、局アナ時代の視点が役立っています。自分自身が育休を取得してメディアに取材された経験があり、『男性の育休取得は、ニュースになるトレンドのひとつ』と思っていたのですが、調べてみると『atama plus』は男性の育休取得率が約9割もあった。これは珍しいと思ってメディア向けにプレスリリースを出すと、早速ご取材いただけた。こうしたことの積み重ねが自信になりますね」
転職から3ヵ月が過ぎた現在、アナウンサーと今の仕事を比較し、どう感じているのだろうか？
「番組作りも共演者やスタッフとのチームプレイですが、アナウンサーはアンカーであり、最後は個人プレイの領域です。その分、周りが支えてくれる部分が大きいけれど、フロントに1人で立たないといけない孤独な面もありました。今はいい意味で横並び。一緒に働く仲間がいる。まだまだできることは限られますし、サポートしてもらうことが多いですが、一緒に進んでいる感じがあります」
業務の質や働き方が変わっただけでなく、仕事と向き合う際のメンタルの変化も大きいという。
「スポーツ実況や生放送など、アナウンサーは瞬間的な集中が必要ですし、刺激的で緊張することも多い。今は穏やかに仕事ができる。安定した気持ちで働けています。ただ、ずっとアナウンサーの仕事をしてきたので、たまに緊張感や刺激が欲しくなることもあります。ありがたいことに、今でも声をかけてくださる方たちがいて、ゲームやバスケットボールBリーグの実況、ナレーションなど、月に2本くらいフリーアナウンサーの副業もしていますよ」
<figure id="attachment_274353" aria-describedby="caption-attachment-274353" style="width: 2363px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1dd408d3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2022/11/F_SHarada07_DSC_0075.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-274353" class="wp-caption-text">教育系の企業だけあって多くの参考書が並ぶ。棚の一角には会社のロゴをモチーフにしたオブジェも</figcaption></figure>
本業はあくまで教育だが、「実況ベイビー」など、アナウンサーとして培った“伝える力”を活かすことも考えている。
「テレビ東京で育んでいただいたスキルは、衰えさせてはいけないと思っていますし、多くの現場で学ばせてもらった経験をこれからも大切にしていきたいです」
筆者が取材依頼をし、やり取りを始めたのは原田氏がPRの仕事に就いて2ヵ月ほどのころだった。多くのPR担当と接してきた筆者から見ても、返信の速さやメールの文面はすでに“デキるPR担当者”を感じさせる内容だった。
取材終わりにそう伝えると、「本当ですか？　ちゃんとできていたなら、嬉しいなあ」と照れながら、原田氏は白い歯を見せた。大胆な転身だったが、異なる環境にしなやかに順応できている姿を見て、超難関のアナウンサー試験を勝ち抜いた実力はどこへ行っても花を咲かせるのだと思った。

鍬田美穂

局アナから教育業界へ異例の転身をはたした原田さん。子どものころからの目標ではあったものの、大きな決断だ。その背中を押したのは「実況ベイビー」の大バズりだった

7月に退社し…元テレ東アナウンサーが「教育業界」へ転身したワケ

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