スタドリまで…歌舞伎町のラーメン屋にシャンパンがある意外なワケ
現役慶應大生ライターが描くぴえんなリアル 令和4年、歌舞伎町はいま……第36回
歌舞伎町の飲み物といえば? そう聞かれたら、この街の人はたいてい「シャンパン!」と答えるだろう。それくらい、歌舞伎町住人は何かというとシャンパンをおろしがちである。ホストのマサヤ(仮名、25)が言う。

「歌舞伎町の人間って、『応援しています!』って気持ちは言葉じゃなくて行動で示せっていう教育が刷り込まれてるんですよ。祝い事にはシャンパン、ってのが鉄則。お店のオープン記念とか、オーナーの誕生日とか、そういうときには必ずおろします。シャンパンは、ヴーヴ・クリコなどの″高級″なもので2万〜3万円くらい。コロナで大変なときは、普段世話になっている飲食店を回って、お互い頑張ろうぜって気持ちを込めてシャンパンを開けていました」
ホストクラブやキャバクラのキャストの御用達となっている飲食店は、こうした持ちつ持たれつの関係が深い。なかには、店の「オリジナルシャンパン」(通称オリシャン)を作製し、常連におろしてもらって売り上げをたてる飲食店まであるという。
だが、このくらいはまだ序の口。さらに驚くべきことに、歌舞伎町にはシャンパンが置いてあるラーメン屋まである。
「私、ラーメン屋でホストクラブしてもらっていました」
そう語るのは、未成年のときから歌舞伎町に出入りしているホス狂のアンナ(仮名、24)である。
「ホストクラブの代表をやりながら、ラーメン屋を経営しているホストがいたんです。その人と知り合ったときはまだ未成年だったので、ホストクラブには入店できなかった。でも、ラーメン屋なら行けるっていうことで、ラーメンを食べながらいろいろ話を聞いてもらっていたんです。そしたら、『俺がやってることほぼホストやんか! お前ここでシャンパンおろせ!』って言われて(笑)。ラーメン屋で何回かシャンパンを入れていました。接客への対価って感じでしたね。20歳になって、ホストクラブでお酒が飲めるようになってからは店で使ってましたけど」
歌舞伎町には、元ホストや現役ホストが副業で始めたラーメン屋が複数存在する。そういった店は、彼らの同僚ホストが勤務終わりや客とのアフターで利用するケースが多いため、ほぼ例外なくシャンパンが置かれている。
ときには、ラーメン屋を経営するオーナー自らが接客することもある。そうなると、シャンパンを注文させて売り上げを出したくなるのが、ホストの性(さが)というものなのかもしれない。
一方で、まったくそうしたルーツがないにもかかわらず、シャンパンを置いているラーメン屋もある。
都内を中心に複数店舗を展開するラーメンチェーン店「K」。その歌舞伎町店では、「シャンパン」が1万円、「スタッフドリンク」が500円で販売されている。どちらも、券売機で購入するシステムである。
なお、高田馬場店などほかの店舗にはシャンパンの″食券″は存在せず、歌舞伎町の「地域文化」を取り込んでいると言えるだろう。
筆者の知人が、この「K」でノリでシャンパンをおろした結果、「店員も驚いていた」という。ちなみに、スタッフドリンクは結構な頻度で注文されるそうだ。
「応援」でお金を使うカルチャーによって、歌舞伎町の飲食店は盛り上がっているのである。
佐々木チワワ
’00年、東京生まれ。小学校から高校まで都内の一貫校に通った後、慶應義塾大に進学。15歳から歌舞伎町に通っており、幅広い人脈を持つ。大学では歌舞伎町を含む繁華街の社会学を研究している。
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取材・文:佐々木チワワ