客に現金を渡す時も…歌舞伎町から「客引き」がいなくならない事情
現役慶應大生ライターが描くぴえんなリアル 令和4年、歌舞伎町はいま……第37回
歌舞伎町を訪れたことがある人ならば、一度は「客引き」に声をかけられたことがあるのではないだろうか。
「客引きは違法です。ボッタクリにあいます。ついていかないで!」
街中に設置されたスピーカーからはそういったアナウンスが響き渡っているが、彼らはそこかしこにおり、堂々と声をかけてくる。
警察も盛んにパトロールをしているのに、なぜ、客引きがいなくならないのか。それは、彼らに一定の”需要”があるからである。
「歌舞伎町は確かにボッタクリの店が多い。でも逆に、それが客引きが必要な理由でもあるんです。客からしたらどの店が安全かわからないので、客引きと交渉する。それで騙されることもあるんですが、客引きを見極めてきちんと交渉すれば安く飲めたりするんですよ」(歌舞伎町の飲食店経営者)
歌舞伎町の手前には飲食店の客引きが多く、奥へ進むと風俗・キャバクラの客引きが増えてくる。TOHOシネマズのビルの横には、その道何十年のベテラン客引きのおばあさんがいたりする。
そうした客引きの中でも、歌舞伎町ならではの特殊な存在なのがホストクラブの「フリーの客引き」である。彼らのことを歌舞伎町では「外販」と呼ぶ。ホストクラブのキャストが自ら女性を客引きすることがない歌舞伎町では、外販が女性をホストクラブに連れてくるのだ。
「外販歴半年くらいです。友達に誘われて、バイトでやってます」
そう語るマサキ(仮名)は、都内の大学に通う22歳だ。
「大学の男友達でも、ホストとかスカウトとか外販とか、そういう夜のバイトをしてる奴はちらほらいます。外販は誰かと人間関係を作る必要がほとんどないので、精神的には楽ですね。一人のお客さんをホストクラブに紹介するだけで、だいたい5000円もらえる。毎回僕を使ってくれる人を作れれば、安定して収入を得られます」
外販は他の客引きと違い、「客に現金をわたす」こともある。
「お客さんが払う金額の半額までわたしていいというルールがあるんです。初回が3000円だったら1500円。それ以上の紹介料をホストクラブ側からもらえるから成立するんですけど。僕ら外販を上手く利用しながら、ホストクラブで安く遊ぶ女の子は多いですね。指名をせずに初回だけで遊ぶ子を『初回荒らし』って言うんですが、僕らはそういう子がたくさん使ってくれると儲かるけど、ホストクラブは赤字。だから明らかな初回荒らしは店側に入れないでくれ、って釘を刺されることもあります」
さらに、ホストクラブ側からこんな要求をされることも。
「電話で『今から1名行けますか?』と店に聞いたときに、身分証の確認だけじゃなく、見た目を聞かれるときもあります。お金使いそうかとか。めちゃくちゃ態度がデカい子を案内したら、もっといい女の子入れろよって電話で怒られたこともある(笑)」
違法ではあるが、需要がある限り歌舞伎町の路上から客引きは消えないだろう。客引きこそが、歌舞伎町の風景を形作っているとも言えるかもしれない。特殊な裏風俗へ案内してくれる幻の客引きがいる……などの都市伝説もある。ボッタクリ店には注意をしながら、様々な業種の客引きに注目して歌舞伎町を歩いてみてはいかがだろうか。
佐々木チワワ
’00年、東京生まれ。小学校から高校まで都内の一貫校に通った後、慶應義塾大に進学。15歳から歌舞伎町に通っており、幅広い人脈を持つ。大学では歌舞伎町を含む繁華街の社会学を研究している。
『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認 』(扶桑社新書)が好評発売中
- 取材・文:佐々木チワワ
ライター
’00年、東京生まれ。小学校から高校まで都内の一貫校に通った後、慶應義塾大に進学。15歳から歌舞伎町に通っており、大学ではフィールドワークと自身のアクションリサーチを基に”歌舞伎町の社会学”を研究。主な著書に「歌舞伎町モラトリアム」(KADOKAWA/'22年)、「『ぴえん』という病 SNS世代の消費と承認」 (扶桑社新書/’21年)がある。また、ドラマ「新宿野戦病院」(フジテレビ系)など歌舞伎町をテーマとした作品の監修・撮影協力も行っている。 『FRIDAY』本誌の連載が書籍化、「ホスト!立ちんぼ!トー横! オーバードーズな人たち ~慶應女子大生が歌舞伎町で暮らした700日間~」(講談社/'24年)が好評発売中。