アラームをつけて同時刻に一斉に投稿…TikTokで大反響!「チグハグ」はいかにしてバズったのか
「TikTok流行語大賞2022」大賞受賞! MVは1000万回再生突破
「まずは、個人のSNSのフォロワー数を増やす作戦から始め、18時~21時くらいまで投稿時間を変えながら反応の統計をとり、19時の投稿が1番伸びることがわかったので、メンバーの携帯のアラームを19時にセットし、一斉にTikTokに投稿することにしました。
さらに、バズった後が大事で、人が集まって来たときにどれだけちゃんとしたパフォーマンスを見せられるかによって、ポータルのように抜けて行ってしまうか、すくいあげられるかが変わってくるから、と。SNSも実力もどちらも大事、ライブにだけ力を入れていれば良いわけでも年数やっていれば良いわけでもない、どこかに偏るのはダメだとデビューの1年くらい前から言い続けてきました」
とTikTokでバズらせる仕掛けを話してくれたのは、8月31日につばさレコーズに男子部門「つばさ男子プロダクション」(CUBERS、THE SUPER FRUIT、世が世なら!!!、つば男KIDS)を立ち上げた堀切裕真氏。
「チッチッチ」という印象的なイントロと、「あのね、あのね」「でもね、でもね」などのリフレインが耳に残るキャッチーな楽曲にのせ、カラフルなセーラー服姿の7人の男の子たちがニコニコで歌い踊る動画を御存知だろうか。
これは、8月31日にCDデビューした“男性版清純派グループ”「THE SUPER FRUIT」(通称「スパフル」)のデビュー曲「チグハグ」。
SNSから人気がじわじわ広がり、ミュージックビデオは1000万回再生突破、TikTokの週間ランキングでは6週連続首位の快挙を記録。さらに、一般人が短いフレーズで「すべらない話」的なプチ失敗談をつぶやいた後に、「チッチッチ」にあわせて踊る動画を投稿する“遊び”がTikTok上で大流行するという、異例の事態になった。

さらに、「ファンと一緒に作る」仕掛けも。
「リリースイベントに“初めてライブに来るお友達”を連れて来ると、CD+特典券1枚が無料でもらえるキャンペーンを実施し、ポイント加算制にして、目標を達成すると個別落書き会に参加できる企画を行いました。
また、自分の推しだけを追いかける動画『推しカメラ』が、リリース前にバズって。TikTokの公式配信開始直前にメンバーにミーティングを行い、最初にまず1000投稿を目指そうと話して、各メンバーがインスタライブを行い、ファンの方々に検索の仕方と投稿の仕方などをレクチャーしました。
リリース前のバズリが奇跡で、人力で頑張る1週間があって、そこから徐々に有名なインフルエンサーの方も投稿してくれ始め、さらに失敗談や面白エピソードなどを短く話してから曲が流れるというフォーマットを誰かが作って、TikTokでどんどん拡散されたんです」
それまでの集客は100人程度だったが、リリースイベントの集客目標を「300人」に設定。しかし、現実には1300人が集まる快挙を成し遂げた。
一人のチーフマネージャーのアイディアと構想・メンバー個個人の地道な努力から生まれたヒット
大掛かりなマーケティングや巨額を投じた大手事務所のプロモーションにより生まれたアイドルや曲ではなく、たった一人のチーフマネージャーのアイディアと構想・メンバー個個人の地道な努力から生まれたヒットというところが、何より面白い。
「もともとつばさレコーズでボーイズグループ・CUBERSを作ったとき、メジャーデビューくらいの時に1組だけで勝負して行ける世界に壁を感じることが多かったんです。女性アイドルと違い、男性アイドルグループには昔から団体戦的な流儀があって。
それに、初期から応援してくださるファンの皆さんにとっては、2組同時にニコイチでデビューする“胸熱”感みたいなものはあるので、『THE SUPER FRUIT(以下、スパフル)』と『世が世なら!!!(以下、世が世)』の2組を同時デビューとし、大所帯にして新男子部門を作りました。」
堀切氏は、スタートの経緯についてそう説明する。

K-POP寄りの楽曲やダンス、ビジュアルが主流になっている中で…
男性アイドルグループは今、K-POP寄りの楽曲やダンス、ビジュアルが主流になっている中、一度聴いたら忘れられないキャッチーな楽曲と、目を引くカラフル衣装のスパフルのアイドル像は、極めて異質だ。
「世の中トレンド的に3~4年くらい前からみんなK-POP寄りになっている状況は把握していますが、僕は90年代とか2000 年代のジャニーズソングがすごく好きで、幼少期から聞いてたんです。
初めて買ったCDもKinKi Kidsだったんですね。SMAP、V6、TOKIO、嵐めっちゃ音楽聴いてました。ライブには行けずだったのですが。なので僕からしたらもっと正々堂々とジャパニーズアイドルというか国産アイドルグループをやりたい気持ちが強かったんです。
それはCUBERSの音楽でもずっとそうゆう想いでやり続けてます。外からの文化を日本人でやるより、一番わかりやすいことを日本でやればいいんじゃないかと思うんですよね。日本人は英語の曲ではなく日本語の曲が似合うので。
そこで、へんてこりんなタイトルなのに良い曲だったら面白いだろうと、『チグハグ』をTHE SUPER FRUIT(スパフル)のデビュー曲にしたんです」
「THE SUPER FRUIT」というグループ名は、「メインディッシュや水のように必要不可欠なものではなくても、フルーツのように「あると嬉しい」特別な存在になれるようにという願いと、「新鮮さをいつまでも届けたい」という意味から。
小田惟真、田倉暉久、星野晴海、堀内結流、松本勇輝、鈴木志音、阿部隼大の7人。2003年~2007年生まれというメンバー構成は「5年後」を想定しているという。
「バズるとかではなく、人気も実力も含めて、グループを“ちゃんと売る”には、5年はかかるというのが僕の持論で。
それで、上の年齢層からも下の年齢層からもキャーキャー言われる年齢って22歳、23歳と考えたんですよね。17~18歳のメンバーを中心に、5年後を見据えてグループを作りました。1番売りたい時期に、学校があって稼働できないということがないように、という点も考慮して」
メンバーには中性的な雰囲気の子が多いことも特徴だ。
「全員がそうゆうわけではないんですが、たとえばメンバーの3~4人が横一列になって楽屋からライブ会場に歩くまで、腕組んでくっついて歩いていたりするんですよ。
それを後ろから見て、そういった雰囲気が許される、自然とできる7人って素敵じゃんって思ったんです。そうした彼らのイメージから、セーラーの衣装や、『男性版清純派グループ』というキャッチに繋がったり『チグハグ』の楽曲が生まれていったところもあります」
『チグハグ』は、出会い頭に中毒性あるキャッチーなリズムにつかまれ、ネタ曲かと思って聴いてみると、非常に完成度の高い曲で、さらによく聴くと、「みんなと違う それは愛しいこと」「ちぐはぐちぐはぐハグして そしたら解り合えるのさ」「男らしく 女らしく そんな偏見いらないのに」といった歌詞の良さが沁みる、何層もの味わいになっている。

自然と”やっぱりハロプロすご”みたいなのが浮き出てきたみたいな感じで…
「1小節も最後の1音まで妥協しない音楽」を目指したそうだが、作詞作曲を手掛けたのは「サトダユーリ」氏。男性アイドルシーンに後発で参戦するため、「何か突き抜けないといけない」という思いから、こだわったのは「楽曲の良さ」。さらに女性アイドルシーンのマップに置き換え、分析した結果、見えてきたのは、「ハロー!プロジェクト」(通称「ハロプロ」)だったと言う。
「ハロプロさんはやっていることがブレていなくて、女性アイドル戦国時代的な時期もありましたが、そこから他が淘汰されていく中、『やっぱりハロプロっていいよね』みたいな感じに今、戻っているというか確実にポジショニングを確保してるんですよね。アップフロントさんは意図してないことかと思いますが、自然と”やっぱりハロプロすご”みたいなのが浮き出てきたみたいな感じです。
その理由が何かと考えると、ハロプロの曲へのこだわりがあると思うんです。ファンの方たちが『 私、ハロオタだから』と言えること自体が、オタク偏差値の高さをあらわすステータスになっているというか。
うちは後ろ盾もない事務所なので、逆にこだわりを持ってやり続けることで、結果的に男性アイドル界のハロプロさん的なポジションにつばさ男子プロダクション(つば男)がなれたらいいなと、今は思ってます」
ハロプロの場合、児玉雨子など、モーニング娘。やアンジェルム、Juice₌Juiceなど複数のグループに歌詞を提供している作詞家がいたり、振付師もある程度決まっていたりと、“事務所のカラー”があるという。
「それを参考に、大きな広くコンペをやるのではなく、信頼ある作家さん10人ぐらいにつばさ男子プロダクション設立の一から話をして、曲を書き下ろしていただけないかとお願いしました。
そうした中で、信頼できる作家事務所の方が『うちに良い新人がいる』と挙げてくれた方の1人が、サトダユーリさんなんです。チグハグ以外にも曲めっちゃいいんです」
実際の曲作りは、曲のコンセプトやメンバーの雰囲気を伝えるところからスタート。
「リファレンスやコンセプトだけ伝えただけの第1稿から曲が良くて、次に歌詞の話をしたのですが、現代の”多様性を認めあう素晴らしさ”的な歌詞になっていき、最終的には ラリーを7~8往復。メロディーは5~6往復しています」
また、タイトルは当初ローマ字で「Chigu!Hug!」とか案としてはあったが、「読めないし、カタカナとかの方がへんてこりんだけど、インパクトがあると、カタカナに。振付は堀切氏が全幅の信頼を置くCRE8BOY氏に「キャッチーで踊りたくなって、かつ難しい感じ」と依頼。
最後に、堀切氏はこう語ってくれた。
「例えば僕が大手事務所さんでグループを作ってアリーナツアーを回るのと、うちのような事務所に男子アイドル部門をゼロから作り、自分で耕し、メンバーたちとファンの皆さんとみんなで頑張ってアリーナツアーを回るのとでは全然意味が違う。
うちの会社からアリーナツアーをまわれるグループができたら、夢があると思うんです。それがやりがいだし成し遂げたいことです」

取材・文:田幸和歌子
1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKi Kids おわりなき道』『Hey! Say! JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。