『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介。人生の酸いも甘いも噛み分けてきた男が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大ファンが、週ごとに内容を振り返る。今回は大人気放送中の『まんぷく』第15~16週から。
<figure style="width: 2546px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="04d29961"><img src="https://res.cloudinary.com/gsjebzejhjubm/image/private/s--oV7g9EnB--/t_article_image/v1540431303/Screenshot_2018-10-25_%E9%80%A3%E7%B6%9A%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%92%E3%82%99%E5%B0%8F%E8%AA%AC_%E3%81%BE%E3%82%93%E3%81%B5%E3%82%9A%E3%81%8F_NHK%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3.jpg" alt=""></a><figcaption class="wp-caption-text">NHK連続テレビ小説「まんぷく」公式サイトより</figcaption></figure>
<h2>万能調理器に魅入られた萬平</h2>
いつもながら窮地に追い込まれた萬平（長谷川博己）が、さらりと逆転劇を見せるのは、彼を支える福子（安藤サクラ）が家族や仲間たちとスクラムを組み、一発逆転の大博打を打たず、希望の火を消さないよう、慎重かつ大胆に人と対峙するからだ。
細やかに張り巡らされた伏線、不安と希望のシーソーゲームを経て、視聴者にガッツポーズを握らせるのではなく、安堵のため息を吐かせる。これぞ脚本家・福田靖劇場！　しかし福田は、またしても凍てつくような北風を福子と萬平に浴びせるのである。
14週。萬平が池田信用組合の理事長になって8年。萬平らの尽力により池田の産業は発展してきたが、にわかに吹きはじめた不況の風に、信組の母店、梅田銀行の喜多村（矢柴俊博）が油断をしないようと萬平と真一（大谷亮平）に忠告する。
今一度、気を引き締める萬平たちに、福子を通して、友人の敏子（松井玲奈）が、知り合いの小さな町工場を助けてほしいと持ちかけた。
“世の中にない道具を作ろうとしている”。福子の言葉に萬平の気持ちが揺れた。
後日、家族経営する織田島製作所を訪れた萬平は、開発段階である万能調理器の設計図を見て感銘を受け100万円の融資を即決する。
太っ腹ではない、痩せた腹を括ったのだ。信じたものに突き進む純真に、ブレーキをかける余地はない。それが萬平の魅力であり危うさだ。この何気ないシーンに萬平の少年心が溢れる。
寝室で布団を並べる萬平がぽつり言った。
<blockquote>「時々、ふっと思うんだ。自分はこんなことをしていていいんだろうかって」 
「人のお役になってるやありませんか」福子が労う。 
「子どもたちは、僕が信用組合の偉い人だと思ってる。塩やダネイホンを作っていた父親は知らない。大変だったけど、楽しかったな……」 
「萬平さん、後悔してるんですか」 
「もう寝よう」</blockquote>
金でも名誉でも安定でもない。やり甲斐とは、生き甲斐とは……。男なら、いや働く者すべてが直面する課題に萬平が遠い目をする。
萬平は毎日、定時で仕事を切り上げ、織田島製作所の仕事を手伝うようになる。ある日、様子を見に行った福子が見たのは、目を輝かせて設計図を広げる萬平の姿だった。あんなに生き生きとした萬平を見るのは何年振りだろう。福子は複雑な気持ちになった。
来る日も来る日も万能調理器のことで頭がいっぱいの萬平のもとに、織田島製作所を含む新規事業の融資に関して金が出せないと梅田銀行から通達される。
逆風が吹いても萬平はひるまず、万能調理器完成に労を捧げる。完成まであと一歩のところで資金が底をつき、追加融資を受けるために萬平は、家と土地を担保に入れたいと福子と鈴（松坂慶子）に相談する。
<blockquote>「織田島製作所を手伝うようになって気がついたんだ。やっぱり本当にやりたかったのはこういうことだって。僕はずっと自分を抑えつけてきたんだ」 
「わかりました。8年前、本当の萬平さんに戻ってくださいと言ったのは私ですから」</blockquote>
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<figure id="attachment_28764" aria-describedby="caption-attachment-28764" style="width: 1500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="62d18c73"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2019/01/599bfa869c7aba6e2b9f770d70d20ba3.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-28764" class="wp-caption-text">萬平役の長谷川博己と福子役の安藤サクラ</figcaption></figure>
<h2>初めて見せた福子の弱々しい涙</h2>
15週。萬平の自宅と土地を担保に入れることに顔を顰める喜多村を、萬平が織田島製作所に連れて行くと、喜多村は万能調理器の性能に太鼓判を押し、ふたりは意気投合する。
風向きが一気に変わり、萬平と喜多村が同じ未来図を描きながら屋台で酒を酌み交わす。実に愉快で美味そうな酒だが、朝ドラで映し出される飲み屋のシーンほどサラリーマンにとって辛いものはない。
<blockquote>「お母さん、なんで笑ってるの？　なんかええことあったん？」 
「そやかて、お父さんの夢が叶うんやもの」</blockquote>
福子の笑顔は、子どもたちを、家族を、福子自身を強くする。
梅田銀行からさらに300万円の資金援助を受けた織田島製作所は、万能調理器の完成へと加速する。しかし完成目前で思わぬ逆風が吹いた。喜多村が池田信用組合の担当を外れ、新たに担当に就いた矢野（矢島健一）から融資援助の打ち切りを通達されたのだ。それだけではなく、今までに貸した金の回収を申し立てられることに。厳しい現状を打ち明ける萬平に、福子が返した。
<blockquote>「この前、お母さんが言うてました。占い師によれば萬平さんは大器晩成やって言われたって。ということは信用組合の理事長になっても成功していないということです。まだまだです、萬平さん。どんなことが起こったかて最後はうまくいくんです。萬平さんは大器晩成。私は信じてますから」</blockquote>
福子の愛情が、徳俵に足がかかった萬平を踏んばらせる。しかし、突如、池田信用組合では取りつけ騒ぎが起こり、萬平の家と土地は差し押さえられてしまう。それでも明るく取り繕う福子の心を、敏子がそっとノックする。
<blockquote>「ずっと気になってたの。今の福ちゃんが平気でいられるはずがないって。女学校の頃から辛いことがあっても全然顔に出さんと。いつやったか福ちゃんがひとりで泣いてるのを見て、私らびっくりして、初めて福ちゃんが悩んでいること知って……」 
「ほんまは怖いの。どこまで萬平さんを支えていけるか、子どもたちを守っていけるか、不安でたまらないの」</blockquote>
敏子の胸で初めて見せる福子の弱気な涙。
<blockquote>「萬平さんには言わんといてね。誰にも……」
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<h2>再出発、それでも未来は明るい</h2>
後日、萬平は梅田銀行の頭取と役員、矢野らを前に、池田には頑張っている将来性のある会社がいくつもあることを熱弁すると、すかさず矢野が聞きただした。
<blockquote>「それは組合員からの融資金を取り立てできないということですか？」 
「そうです。今回の責任はすべて私にあります、私は理事長を退任いたします。代わりに御行のどなたかを新理事長として派遣していただきたい」</blockquote>
それは今後、梅田銀行に池田信用組合の経営をまかせるという提案だった。
<blockquote>「どうか池田信用組合を御行のお力添えで残していただきたい」</blockquote>
萬平はやる男だ。ピンチになればなるほど心で動く。純真なゆえに巻いた種を、純真一路でけじめをつける。萬平の男気により織田島製作所は引き続き支援を受けることになり、真一は池田信用組合に残ることになった。新理事長の挨拶の後、萬平が心境を語った。
<blockquote>「私はイチから、いやゼロから出直すことになりますが、47歳での再出発は厳しいと仰る方もいるかもしれない。でも私はそうは思っていません。むしろこれからもうひと花咲かせてやろうと張り切っております」</blockquote>
リヤカーを引き、古びた借家に引っ越す萬平家族。その顔には一点の曇りもない。ぶるぶるする、ザワザワする、ワクワクしてしかたない。このリヤカーで視聴者もろとも希望の明日へと運んでくれ。さぁ、いよいよラーメンだ！
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<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/27033">＜「まんぷく編⑥」</a>　<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/30916">「まんぷく編⑧」＞</a>
朝ドラに恋して「なつぞら編」　第1回は<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/39021">コチラ</a>から
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1962年、岐阜県関市生まれ。国士舘大学体育学部卒。広告制作、イベントプロデュース、フリーマガジン発行などをしながら、2015年に、第1作目となる『居酒屋ふじ』を書き上げた。同作は2017年7月テレビドラマ化。２作目の『国士舘物語』、3作目の『フリーランスぶるーす』も好評発売中

栗山圭介

『居酒屋ふじ』『国士舘物語』の著者として知られる作家・栗山圭介。人生の酸いも甘いも噛み分けてきた男が、長年こよなく愛するのが「朝ドラ」だ。毎朝必ず、BSプレミアム・総合テレビを2連続で視聴するほどの大

『まんぷく』ものづくりに純真すぎる萬平、その裏で見せた福子の涙

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