〈博多刺殺事件〉逮捕で活躍…元千葉県警刑事課長が語る「見当たり捜査員」のスキルと実像 | FRIDAYデジタル

〈博多刺殺事件〉逮捕で活躍…元千葉県警刑事課長が語る「見当たり捜査員」のスキルと実像

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ドラマなどフィクションの世界の話じゃなかった…

JR博多駅前の路上で元交際相手の女性を殺害したとして飲食店従業員・寺内進容疑者(31)が逮捕されたのは、1月18日のこと。伊達メガネで変装していた容疑者を見抜いたのは、「見当たり捜査員」だったと報じられている。

「見当たり捜査」とは、被疑者の顔写真や外見的特徴を記憶し、繁華街や駅など人混みの中から見つけ出す捜査方法のこと。この事件の報道を受け、SNSでは「見当たり捜査、すごすぎる」「人の顔を全然覚えられない自分には絶対に無理!」といった声が続出していた。

また、羽田圭介の小説を原作に据えた玉木宏主演のWOWOWドラマ『盗まれた顔~ミアタリ捜査班~』(2019年)を思い出す人も多数いたように、ドラマなどフィクションの世界の話といった印象を抱く人も多い。

しかし、実は見当たり捜査は大阪府が1978年に全国で最初に始めたとされているように、その歴史は意外に長い。大阪府警察のHPには「刑事部見当り捜査班長からのメッセージ」(原文ママ)として、平成29年に全国で初めて任命された「女性の見当り捜査班長」が印象に残った事件や、休日の過ごし方、警察官を目指す人への思いなどを綴った記事もある。

伊達メガネで変装…寺内進容疑者を発見したのは刑事総務課の「見当たり捜査員」であることが、福岡県警の会見で発表された(本人のSNSより)
伊達メガネで変装…寺内進容疑者を発見したのは刑事総務課の「見当たり捜査員」であることが、福岡県警の会見で発表された(本人のSNSより)

目立たない、地味…「見当たり捜査員」の実像

一般の人には到底できそうにない「見当たり捜査員」だが、一体どのように選ばれるのか。特殊な能力採用なのか。千葉県警で35年間勤務し、刑事部捜査第一課特殊犯罪捜査班長や所轄刑事第一課長も務めた田野重徳さんに聞いた。

「都道府県警察本部の刑事部の中に『刑事総務課』というところがあり、その中に見当たり捜査班が入っています。千葉県警では15年ぐらい前には存在していて、当初は4人ぐらいの班でした。特殊な能力採用などというものではなく、適正があると思われた人材が抜擢される形です」(田野さん、以下同)

見当り捜査員に抜擢されるのは、どんな人たちなのか。

「千葉県警時代に見当たり捜査員をしていた人たちを思い出すと、大きな特徴は、パッと見で捜査員に見えないような人ということですね。 

捜査の都合上、できるだけ街中に溶け込むような人が良い。だから、みんな目立たない、地味な感じの人でした。例えば、やたらとガタイが良いとか極端に太っているとか、何か突出した外見的特徴がない人の方が適していると思います。 

視力などはメガネやコンタクトでいくらでも矯正できますから、特に重要ではないですが、何百人という指名手配犯の顔写真を覚えて雑踏の中で探すわけなので、当然記憶力が良いことは重要ですよね。 

あとは捜査経験がそれなりにあること、街中で長時間飽きずに見当たりができる根気があること、品行方正であることなども大切だと思います」 

拡大鏡で「指名手配の人間の顔写真」を見て… 

また、警察署によって、時代によっても違いはあるだろうが、田野さんの現役時代の千葉県警では特に訓練はなかったという。ただし、顔写真の覚え方にはコツがあるらしい。

「何百人もの指名手配の人間の顔写真を見て、その特徴を頭に叩き込むわけですが、普通に写真を見るのではなく、拡大鏡でホクロなど何らかの特徴がないか、細部まで見るようです。 

特に重点的に見るのは、目元。特に今の時代のようにコロナ禍で誰でもマスクをしていても、あるいは帽子をかぶっていても、目は出ていますし、目の特徴というのは多少イジったところで変わらないですからね。 

実際に今回の博多駅前の殺人事件のように、事件があってその周辺に行けと言われるケースもあれば、全国の指名手配犯の顔の特徴を常に頭に入れておいて、未解決の事件の容疑者をつかまえるなんてこともあります」 

「拡大鏡でホクロなど何らかの特徴がないか、細部まで見るようです」「特に重点的に見るのは、目元」と田野さん(本人のSNSより。写真は一部加工しています)
「拡大鏡でホクロなど何らかの特徴がないか、細部まで見るようです」「特に重点的に見るのは、目元」と田野さん(本人のSNSより。写真は一部加工しています)

AIなどの最新技術+古典的でアナログな「見当たり捜査」 

見当たり捜査員は、大阪で最初に作られて以降、全国的に広がっていったという。ただし、「人員に余裕がある県警でないと、配置できない」「普段は殺人や強盗などの一般捜査にあたっている人員が事件が起きたときに見当たり捜査を兼務で任命されることもあれば、見当たり捜査の専任班を置いているところもあると思う」という。

ちなみに、見当たり捜査員はすでに歴史ある「古典的手法」で、今はやりやすくなっている面もあるとか。

「今は防犯カメラやAIによる顔認証などで、追跡がかなりしやすい状況になってきています。かと言って、AIによって見つけることはできても、捕まえることはできないので、見当たり捜査員が不要になるというものでもないですね。 

例えば、昔は何月何日何時頃に事件が発生したとなると、まず聞き込みをして、そこから被疑者が浮上し、その後指名手配になって、千葉あたりにいるという情報を得ると、千葉県全域を調べなきゃいけなかったわけです。 

でも、今は防犯カメラで被疑者がすぐに特定され、例えば顔認証で千葉県茂原市の大芝あたりで被疑者が確認されたとなると、その区域に絞って、被疑者の見当たり捜査をやればいい。 

クレジットカードの使用履歴や携帯電話の操作履歴でも、足がつくから、見当たり捜査をずいぶん絞り込んで行える。見当たり捜査そのものがやりやすくなっている前提条件が揃いました。おそらく博多の事件も、事件発生と同時に見当たり捜査の範囲がかなり絞り込まれていて、どこで寝泊まりしているか掴んでいたのかもしれないですよ」

防犯カメラやAIの顔認証などの新しい技術と、古典的でアナログな人力による「見当たり捜査」を組み合わせることで、捜査がしやすくなり、事件の早期解決が見込めるようになってきたという。最後に田野さんは、こんな期待を語った。

「指名手配など悪いヤツらを早く捕まえられるということは、つまり二次犯罪も防止できるということ。二次犯罪が起きなければ警察はずいぶん楽になりますし、市民の皆さんの安全面も大きく向上するはずです。新しい技術を活用した見当たり捜査は、今後ますます需要が高まるのではないでしょうか」 

田野重徳 行政書士田野重徳法務事務所の代表。元千葉県警察捜査幹部。千葉県警察本部捜査第一課に長く所属し、国民を震撼させる凶悪事件、医療過誤事件などの捜査に従事した刑事事件のプロフェッショナル。千葉西警察署刑事第一課長を最後に退職した後、現在は法務事務所の代表を務め、犯罪評論家・コメンテーターとしても活躍中。

  • 取材・文田幸和歌子

    1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKi Kids おわりなき道』『Hey! Say! JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)など。

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