他の人の前で排泄を強要され…高知刑務所で起きていた「受刑者いじめ」の壮絶な実態 | FRIDAYデジタル

他の人の前で排泄を強要され…高知刑務所で起きていた「受刑者いじめ」の壮絶な実態

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン
昨年、受刑者に対する暴行事件が発覚した名古屋刑務所(撮影:共同通信社)
昨年、受刑者に対する暴行事件が発覚した名古屋刑務所(撮影:共同通信社)

昨年12月、名古屋刑務所で刑務官による受刑者への暴行事件が発覚し、社会問題となった。そのかげで、高知刑務所でも「受刑者いじめ」が起きていたことがわかった。前編「名古屋刑務所だけではなかった…『高知刑務所』で起きていた『受刑者いじめ』を告発!」に続いて、石川清志さん(仮名)が受けた壮絶な仕打ちを、石川さんの手紙、それを受け取った養父の証言を元にお送りする。

刑務官は、清志さんの刑務作業中にも難癖をつけてきた。

「清志がつけていたマスクを見て、刑務官は『ずれている』と指摘したそうなんです。清志は『わかりました。すみません』と謝ったが、少し経つと『お前、またずれているだろう』と注意された。清志は『これ、ほんま、わざとじゃないんです』と説明したようですが、それが〝抗弁〟と捉えられてしまった」(石川さんの養父)

マスクがずれていただけで石川さんは2週間の閉居罰を受け、工場も再び変更になった。ここで、石川さんは「5工場」と呼ばれる新しい工場行きを命じられたが、かたくなに拒んだという。

「刑務所内には『鳩が飛んでくる』という隠語があって、受刑者らの間で情報交換が行われているようです。そうしたなかで清志は、5工場で働く受刑者のなかに顔見知りがいることを知った。清志は、その受刑者との接触をなんとしても避けたかったんです」(同前)

顔見知りの受刑者というのは、石川さんの実母の元交際相手で、暴力団関係者だという。石川さんは刑務所に入る前、実母と一緒に暮らしていて、実母がこの男からの暴力に悩んでいることも知っていた。あるとき、実母のもとを訪ねてきたこの男と石川さんは、激しい殴り合いになったという。

石川さんは、刑務所内でのトラブルを避けたい一心で、刑務官に過去の事情を伝えたが聞き入れられなかった。前編でも引用した養父あての手紙には、5工場行きを拒否したときの心情もつづられている。

〈本当逃げるんとかぢゃない事だけわ本当わかっとってな(中略)こういうかたちでしか自分の身を守る方法がなかった…何で俺がこんなみっともない情けない事をせないかんのなって本当思う〉

葛藤の末の決断だったにもかかわらず、刑務官から投げかけられたのは次のような言葉だった。

〈そしたら(中略)目をうたがうような事言い出して…(トラブルが刑事事件に発展して)増刑になったらなったでしゃあないわってそん時わ又喧嘩して戻って来たらええんぢょってイヤガらせしてくる奴とか喧嘩売ってくる奴も手だしてくる奴もいるやろうけど石川がガマンしたらええんぢょって言いだして〉

刑務官が、受刑者同士のトラブルやけんかを容認するかのような発言があったのである。実際、石川さんの3度目の懲罰が明けたことし1月、刑務官は、石川さんにあらためて5工場での作業を命じた。

「なんべんでも同じところに行かせてやる」

石川さんは、刑務官のそうした言葉も耳にしたという。

昨年6月の刑法改正では、懲役と禁錮という2つの刑罰が廃止され、拘禁刑に一元化されることになった(施行は25年の見通し)。その狙いは、受刑者に刑務作業に従事させる一方で、再犯防止教育や矯正指導にいっそうの力点をおくところにある。しかし、石川さんの手紙は、少なくとも現在の高知刑務所が、そうした理念からほど遠いところにあることを明らかにする。

〈俺が舎房でトイレ…ウンコしてたらその時少し腹痛く少し長くウンコしてたらその親父(刑務官を示す石川さんと養父の間の符丁)同房R子の連れ(同房の別の受刑者)に石川トイレで何しているんやってちょっと見て来いや言いだしてそのR子の連れに俺のウンコしてる所見に行かせて人のケツだしてウンコしてる所見に行かさすんやで??ありえんやろ…懲役(の受刑者)に(別の)懲役(の受刑者)のクソしてる所見に行かせるとか〉

石川さんの養父はこれまで、月に2回許された面会の機会には必ず息子のもとを訪れてきた。最後に会ったのは1月10日。石川さんは、5工場で作業することを再び拒否したことから、4回目の閉居罰を受けたという。

「清志は芯の強い人間なので、最後に会ったときも弱音を吐くことはありませんでした。私は、受刑者が刑務所などに申し出をする願箋(がんせん)という制度を使って、5工場で働きたくない理由を書面で訴えるよう伝えたんです。願箋は、高知刑務所長や法務省に宛てて書いたようですが、昨年末にそのまま突き返されたということでした」

石川さん父子の訴えに基づいて、高知刑務所を管轄する高松矯正管区に事実関係を質したところ、「個人情報の観点から回答を差し控えさせていただきます」と答えた。

NPO監獄人権センターで事務局長を務める大野鉄平弁護士は「排泄の様子を他人にのぞかせる行為は悪質。受刑者であっても、当然プライバシー権の侵害はあってはならない」と指摘したうえで、次のように話す。

「刑務所内では各受刑者が遵守すべき事項が設けられていますが、具体的にどのような言動に対して、どのような懲罰が科されるか、必ずしも明確ではなく、恣意的な側面があります。しかし、単に注意を受けた刑務官に事情を説明したり、着用したマスクがずれたりといったことだけで閉居罰に処されるのはあまりに重い。苦情の申し出については、刑事被収容者処遇法に、法務大臣は誠実に処理しなければならないとあり、返戻という対応はあってはならない。

刑務所内の処遇問題に光をあてるには、一人ひとりの受刑者からの不服申し立てを受けとめ、必要ならば刑務所などに勧告を出せる『国内人権機関』と呼ばれる第三者機関の設置が求められます」

最後に示すのは、1月5日に書かれた石川さんの手紙である。

〈(刑務官は)俺ら受刑者の事や社会のクズゴミクズぐらいにしか思っていないんやろうけど…俺らなりに皆一生けんめいこの所内生活で日々かっとうしながら己の犯してしまった罪と向き合い必死に更生しようと頑張ってるのにもう少し人間として見てほしい確かに俺らわ娑婆で罪を犯してしまいここに来ている。でも今必死にもがき苦しみ罪をつぐなっていってるんやから〉

刑務官たちは、この言葉をどう聞くだろうか。

取材・文:宮下直之(ノンフィクションライター)
naoyukimiyashita@pm.me

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事