フリーアナウンサー・神田愛花「王道っていう道、どこに通ってますか？」

「王道」という言葉は、本来、″安易な方法″ ″近道″などの意味だったが、最近は”定番”という意味でも使われることがある。今回は後者のほうで使わせていただく。

どの業界にも王道がある。多くの人は王道を歩いている人物のことを、その業界の大まかなイメージ像として捉えている。政治家なら、首相や閣僚を始め党首討論などで名前をよく耳にする人をイメージするだろう。でも実際は、そんな王道を歩いている人なんてほんの一握りだ。

最近は「そうだったんですか!?」と驚かれることも多くなってきたが、私は一応、”皆さまのＮＨＫ”日本放送協会で、正規雇用のアナウンサーとして内定を頂戴し仕事をしてきた。アナウンサーといえば、なかでもＮＨＫといえば、カチッとスーツでニュース番組を切り盛りする姿を思い浮かべる方が多いはず。だが、果たしてそれが真の意味でＮＨＫアナの姿なのだろうか。私が在籍していた頃は、全国津々浦々にあるローカル局も含め、ＮＨＫアナは合計650人ほど居た。その中で、顔を思い出せる人間が果たして何人いるだろうか。王道を歩いている人は本当に一握り。しかし、だからこそ王道に憧れてしまうのだ。

これまでの人生、ずっと王道に憧れてきた。幼稚園の時、周りから「お嬢様だね！」と言われたくて、お嬢様の王道といえばココ！　という私立の小学校を受験し失敗。小学生の時、「都会の女だね！」と思われたくて、都会の王道といえば六本木！　にある中高一貫の私立女子校を受験し失敗。高校生の時、「理系を極める！」と決意して、理系の王道はココ！　という大学を受験し失敗。大学生の時、「女子アナになる！」と豪語して、女子アナの王道は華やかな民放キー局！　すべて受け失敗。ＮＨＫ在籍時、「ＮＨＫといったら紅白！」と息巻いて、総合司会の野望を持つも、紅白ラジオ実況と紅白ウラトークチャンネル止まりで失敗。フリーになりたての時、「報道番組のＭＣ！」と、王道のフリー転身をするかと思いきや、10年経ってもそんな話はまったく無く失敗。そしていま、辿り着いたのが……ここ。ＦＲＩＤＡＹさんの連載コラムだ。ハッキリと感じる。私には一生王道は歩けないのだ。

フリーアナの連載コラムといえば、ファッションやメイクなど同性が憧れの眼差しで購読するような雑誌に載っているものだ。誰とは言わないが、アナウンサーの王道を歩んで来た方はやはり、王道の雑誌で連載している。でも私に依頼を下さった貴重な雑誌は、ＦＲＩＤＡＹ。私らしい。なんとも私らしかった。

40歳を過ぎて気づいたこと

正直なところ、年明けからフジテレビさんのお昼の帯番組『ぽかぽか』のメインMCを担当させていただけることになり、ずっと憧れていた王道をついに歩ける!?　と思っていた。でもそれも違った。担当者からは「アナウンサーの役割は一切求めておりませんので（笑）」と言われているからだ。

王道ってどこを探したら見つけられる道なんだろう。王道って何をしたら私にも歩く許可が降りるのだろう……。もうわからない。

ただ、いまとても毎日が楽しい。等身大以上に自分を大きく見せなければならない場面が、一秒も無い。生きていて楽なのだ。この気持ち良さは、ずっと王道に憧れ、「理想の自分になる！」と踏ん張ってきた一人の人間が、「もう無理」と心底諦めがついたからこそ見え始めた、屈折の向こう側に広がる晴れ晴れとした空のような感じだ。そしてそんな私でも支えてくれる家族、友達、仕事関係者の存在があるからだと、40歳を過ぎてようやく気がついた。時間はかかったが、いまとなっては王道を歩めなかった人生にとても感謝している。

王道を歩きたくても一度も歩けずに生きてきた私と、王道を歩む女子アナの”敵”であるＦＲＩＤＡＹ。私にとってはまたひとつ気張らなくていい表現の場が増えた。ファッションやメイクに縛られなくていい。なんならそれらを批判したっていい。連載初チャレンジとなる私にとって、こんなにありがたい誌面は他にない。それに見合う連載を毎週お届けできるよう、頑張って参ります。

1980年、神奈川県生まれ。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』（フジテレビ系）にメインMCとしてレギュラー出演中

『FRIDAY』2023年２月17日号より