フリーアナウンサー神田愛花　72歳の母と見たNY・タイムズスクエアのカウントダウンイベント

1分前から大歓声のカウントダウンが始まり、ミラーボールのように輝く電飾の球体が高い所からゆっくりと落ち始める。「３！　２！　１！」で100万人以上と言われる大観衆の興奮は絶頂に達し、「Ｈａｐｐｙ Ｎｅｗ Ｙｅａｒ!!!」という叫び声と共にその興奮が大きく弾けた。球体付近から花火が噴き出し、大量の紙吹雪が何処からともなく降り注ぐ。そして、フランク・シナトラの『Ｎｅｗ Ｙｏｒｋ、Ｎｅｗ Ｙｏｒｋ』が爆音で流れ、クライマックスを迎えた。

’22年12月31日から’23年１月１日に変わる瞬間。ニューヨークのタイムズスクエアのカウントダウンイベントを、ホテルの部屋の窓越しに見守っていた。

ずっと夢だった。自分の目で見ることが、ずっと夢だった。タイムズスクエアでのイベントを見ることができる周辺のホテルは１年前に埋まってしまうし、地上での参加者は皆、大人用オムツを着用していると聞く。というのも、人によっては20時間近くお手洗いに行けない状態になるからだ。午前４時頃からゲートに人々が並び始める。通勤時間には列が数kmに達し、午後になってゲートが開くとようやく各々目指す場所へ移動していた。

だが、再入場は禁止。一度ゲートを通過すると、食料を買うこともお手洗いに行くことも許されない。さらにＮＹの冬は極寒、しかも今回は雨。ポンチョを着用している人も、きっと下着までズブ濡れだ。

そんなこんなでこのイベント、どれだけ憧れていても参加する勇気が湧いてこなかった。「さすがＮＹ！　さすがタイムズスクエア!!　私の気持ちのほうが圧倒的に弱く完敗だ！　だから大好きなんだＮＹ！　でもいつか必ず挑戦するから待ってて！」と、虎視眈々とその時を狙っていたら、年末年始にお休みが取れ、ついにその時が訪れたのだった！

どうしても母に世界一のカウントダウンを見せたい。現在72歳。寒空の中、オムツを着用させて過ごさせるわけにはいかない。ならばイベントが見えるホテルの部屋を取るしかないが、もう埋まっているっぽい。時差と言葉の壁を乗り越え、持ち前の根性で何とか部屋を確保したのだが、宿泊費は通常の８倍。オーマイガッ！　アントニオ猪木さんのモノマネや蜂の巣駆除のロケなど身体を張って稼いだお金、数ヵ月分を泣く泣く支払い、冒頭のシーンにこぎつけたのでした。

カウントダウン中の60秒間は、スマホで動画を録ったり双眼鏡を覗いたり。焦るし、集中できない。ＹｏｕＴｕｂｅで何度も見てきた光景が信じられず、感動もなかった。ふと、隣に建つ低めのビルの屋上に、何十人もの人がビルの外側に向かって横一列に並んで立っていることに気がついた。皆手に何か持っている。すると一斉に何かを投げ始めた。何回も何回も全力で投げている。えっ？　か、紙吹雪だ！　時代の最先端、タイムズスクエアの世界一のイベントの見事な紙吹雪。それは人海戦術の賜物だった。

感動の中で見つけたもの

感動の余韻と共に人が捌(は)けると、タイムズスクエアは大量のゴミで埋め尽くされていた。紙吹雪にパーティ用の帽子やメガネ、ポンチョや傘にペットボトル。足の踏み場がないほどゴミが重なり合っていたが、車底がバキューム口になっているゴミ収集車がみるみるうちに吸い上げていく様子を見て、眠りに就いた。

翌朝ホテルの外に出ると、地面には集めきれなかった無数の紙吹雪が張り付いていた。あのゴミ収集車、諦めて帰ったっぽい。ふと風が吹くと一枚の紙吹雪が目の前を舞い降りてきて、見上げると、ビルとビルの間の青空を覆うように色とりどりの紙吹雪が爛々と舞っている。

出所は人海戦術が行われていたあの低いビルの屋上だった。なんでかな？　沢山こぼした上に掃除しないで帰ったっぽい。本番さながらに舞う紙吹雪の中から掴み取った黄色い一枚。そこには英文が書いてあった。翻訳アプリで読み取ると、「私が情熱を注いでいるキャリアにおける専門的成長と経済的豊かさ」よくわからない。つーか、紙吹雪にこんなおみくじ的な物が交ざっていたなんて！　なんとなく「お仕事を頑張ってお金を貯めて、今度は地上で参加しな！」と言われているような気がした。よし決めた。あまり歳を取らないうちに、オムツをつけて挑戦するぞ！

1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』（フジテレビ系）にメインMCとしてレギュラー出演中

『FRIDAY』2023年２月24日号より