トレンディドラマの最終回を（今さら）分析する連載です。でも、今回取り上げるTBS『十年愛』は、正直トレンディドラマと呼べるかどうかは微妙です。後で触れるように、一種トレンディドラマへの反動で作られたふしがあるので。
1992年10月～12月の放送。フジテレビでは『二十歳の約束』（牧瀬里穂、稲垣吾郎）や『誰かが彼女を愛してる』（中山美穂、的場浩司）が同じクールで流れていました。
<figure id="attachment_295983" aria-describedby="caption-attachment-295983" style="width: 2500px" class="wp-caption aligncenter"><a href="#" data-ident_hash="172e5fb8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/10000000000000090529_20230216181159065609_P1203078705761-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-295983" class="wp-caption-text">PHOTO：産経ビジュアル</figcaption></figure>
この『十年愛』、私はリアルタイムで見ていなかったのですが、再放送でハマったのです。なので、今回あらためて最終回を見て、なぜのめり込んだのかを検証したいと思ったのです。
キャスティングは、田中美佐子と浜田雅功、大江千里、木村一八、鈴木杏樹（ドラマデビュー）など。攻めたキャスティングといえましょう。全体的に関西臭強し。
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ドラマの内容について、TBSチャンネルの公式サイトより引用。
――外資系企業に勤めるOLの青空（田中美佐子）は、友人の恋人・雅一（大江千里）が好きで告白したいが友人を裏切る事ができず、彼によく似た愛人で代償しようとしていた。そんな時、ひょんなことから嵐（浜田雅功）と出会った青空は彼の自分に素直な生き方に共感し、自分の生き方をもう一度見つめ直していく。
ポイントは、この続きに書かれている「男女の10年間の愛と友情を綴った感動の恋愛ドラマ」という点。1話1年、全体で10年分（厳密には82年から92年の11年分）を描くという構成。なので情報量が多く、とにかく内容がせわしない。
ちなみに私は今回「Paravi」で視聴しました。<a href="https://www.paravi.jp/title/10987" target="_blank" rel="noopener noreferrer">このページを見ていただければ</a>、全11回それぞれで、どれだけ多くの事件が起きたかが分かります。このあたり、前年に「ジェットコースタードラマ」として話題となったフジテレビ『もう誰も愛さない』（吉田栄作、田中美奈子）の影響もあったのでしょう。
元気で明るく、そしてどこか呑気だったトレンディドラマからの脱皮。バブル経済も弾け始めた1992年、圧倒的な情報量で視聴者を惹き付けるという考え方で作られたように思います。
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<h2>浜田雅功、田中美佐子より印象的な大江千里</h2>
キャスティングで最大のポイントは、何といってもダウンタウン・浜田雅功の起用。91年にTBSで放送された『パパとなっちゃん』（田村正和、小泉今日子）と『ADブギ』（加勢大周、的場浩司）で俳優として頭角を現し、この『十年愛』で主役級に抜擢。
今見て驚くのは、一瞬たりとも標準語なし、超リアル関西弁のセリフ回しです。自然な演技力もなかなかのもので、浜田雅功の高い「芸能IQ」を感じさせます。
田中美佐子とのコンビネーションも絶好調。『男女7人夏物語』の回で取り上げた明石家さんま＆大竹しのぶのレベルには正直至りませんが、後の浜田雅功が、これもTBS『もしも願いが叶うなら』（94年）において披露する、中山美穂との漫才のようなやり取りは、さんま＆しのぶにも負けなかったと記憶します。
ドラマの中における明石家さんまと浜田雅功に違いがあるとすれば、さんまの放つ華のある芸能界的オーラと、浜田雅功が放つ、関西の街角にいそうな普通のヤンキー（不良）的オーラとの差です。
浜田雅功の立ち居振る舞いは、はりぼてのトレンディドラマ界に、関西の街角のリアリティを注入しました。これが当時、普通の関西出身者の私を惹き付けたのだと思います。
脚本は遊川和彦。『ADブギ』『もしも願いが叶うなら』も手掛け、つまりは浜田雅功との噛み合わせのいい人でした。後の2011年、NTV『家政婦のミタ』（松嶋菜々子）を大ヒットさせる遊川が「俳優のハマダ」を育てていく。
という『十年愛』だったのですが、しかし、このドラマについて語り継がれてきたのは、浜田雅功でも田中美佐子でもなく、実は大江千里でした。
彼の演じる「田村雅一」（読み：たむらまさかず）が、第6回の終盤、異常に高速回転するメリーゴーランドから弾き飛ばされて亡くなるシーンと、第7回の冒頭、顔中に包帯、かつ呼吸器を付けているのに、なぜか、しっかりメガネをかけている（！）姿――の方が強烈で、結果、肝心のストーリーを忘れたという人も多いのでは（私もその1人です）。
<div data-friday-nextpage-lead="とんでもない最終回だった"></div>
<h2>浜田雅功が芸能界に君臨し続けた影に相方の存在</h2>
そんな『十年愛』の最終回は、果たしてどんな内容だったのか。
（この段落、ネタバレあり）最終回は1992年の設定。田中美佐子と浜田雅功は、結婚しないまま、ペンションで仲良く働いている。斉藤慶子は復縁し、鈴木杏樹は木村一八と別れる決意をする。展開は後半で急変、田中は雪の中で遭難し、ペンションは大火事。ラストシーン、全焼したペンションを見ながら、田中と浜田は未婚のまま、新しい生活に踏み出す決意をする。
内容はともかく、やはりこのドラマは浜田雅功に尽きます。まだ29歳という彼のフレッシュな魅力が、画面全体に満ち溢れている。
さて、『十年愛』から30年と少しが経った今年、雑誌『SWITCH』（2023年2月号）にダウンタウンのインタビューが掲載されました。そこで、当時なぜドラマ界に進出したかが語られています。
＜――ドラマとかは全然やりたいとは思ってなかったけど、違う現場の空気をちょっと吸いに行きたいというのがあって。単純にこっちの世界は相方がいろいろやってるから、違う世界に行った時にどんな空気感なんやろというのを見たかっただけで。＞
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「こっちの世界」とは文脈的に「お笑い界」ということでしょう。この発言、よく読むと、「相方」＝松本人志に対する強い意識、ライバル心のようなものが垣間見えます。
NTV『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで！』（89年～）とフジテレビ『ダウンタウンのごっつええ感じ』（91年～）は、もう始まっている。お笑いの世界で、その天才性を遺憾なく発揮する相方。意識しない方がおかしいでしょう。
結果、俺はドラマだ、歌だ、司会だ……。相方の異常な「お笑いIQ」に対して、異常な「芸能IQ」を駆使して張り合った――これこそ、浜田雅功が芸能界に君臨し続けた大きな理由だと思うのです。
最近の2人の関係には、当時のヒリヒリするような緊張感を超えたリラックス感を感じます。昨年4月、NGK（なんばグランド花月）の「伝説の一日」で披露された、円熟味のある「伝説の漫才」にも大笑いしました。
先の『SWITCH』で浜田雅功は、相方についてこう語ります。
＜――お笑いとしては、それはもう百点ですね。あの才能と発想力と。そういう意味では文句つけようないわ。あれに文句つけたらあかん。＞
『十年愛』の最終回のエンディングで、田中美佐子は浜田雅功に問いかけます――「十年後、私たちどうなっていると思う？」
正解は驚くべきものでした――「浜田雅功は、十年どころか約30年後にも芸能界に君臨し続けて、そして今年、尊敬する相方と一緒に還暦になりよるねん」。

音楽評論家。1966年大阪府東大阪市生まれ。bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『80年代音楽解体新書』（彩流社）、『チェッカーズの音楽とその時代』（ブックマン社）、『イントロの法則80's』（文藝春秋）、『サザンオールスターズ1978-1985』（新潮新書）、『恋するラジオ』（ブックマン社）など。東洋経済オンライン、東京スポーツ、週刊ベースボールなどで連載中。新著に『EPICソニーとその時代』（集英社新書）、『桑田佳祐論』（新潮新書）

スージー鈴木

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30年前のドラマ「十年愛」の名演からわかる、浜田雅功が芸能界に君臨し続けた理由

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