'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井 光太

「鍋で殴られ風呂場に監禁」…ＤＶ夫からの逃避行「母子生活支援施設に送られた21歳女性」壮絶体験

母親の顔面を乱打の衝撃…父親の過剰暴力に苦悩する少女「名門校に通うも自殺未遂やパパ活」壮絶な軌跡

ノンフィクション作家・石井光太が社会・事件に迫る！衝撃ルポ

<figure id="attachment_296686" aria-describedby="caption-attachment-296686" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d0df6d90"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/IMG_3875.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-296686" class="wp-caption-text">夫の暴力から逃げ場を失い繁華街で売春に走る女性も多い（写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
日本で増加の一途をたどるＤＶ相談件数。
配偶者からの暴力によって、被害者とその子供が住居を失うという事例が後を絶たない。【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/296681">前編：「鍋でボコボコに殴られる」…ＤＶ夫からの逃避行</a>】につづいて、そんな親子が直面する状況と、支援現場の取り組みについて見ていきたい。
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〇三田姫香（28、仮名）
長野県の父子家庭で、三田姫香は一人娘として育った。母親が早くに離婚したのだ。父親は三交代の工場勤務だった上に、酒が好きで常に飲み歩いていたため、姫香はほとんど家族の時間を過ごしたことがなかった。
公立高校を卒業後、姫香は地元の和食屋でアルバイトをした。趣味はアイドルの追っかけで、バイトで稼いだお金はほぼそれに費やした。
結婚は22歳の時だった。和食店と掛け持ちで週末だけスナックでバイトをしていた時に出会った客から口説かれ、妊娠を機に結婚を決めたのだ。
<h2>妻がうつ病を発症も夫は浮気</h2>
夫は実家に暮らしていたため、妊娠中の姫香を連れて埼玉県の工場で働くことにした。非正規雇用だったが、寮を用意してもらえたため、自立できると考えたのだ。
翌年に、姫香は第一子を出産。その後すぐに第二子を身ごもり、年子を出産することになった。
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結婚に、引っ越しに、二度の出産。こうした目まぐるしい生活環境の変化は、姫香に大きな負担となって圧し掛かったようだ。第二子を産んでから１年半後、彼女はうつ病を発症した。
時を同じくして、夫はマッチングアプリで知り合った女性と浮気をはじめた。彼はその女性にのめり込み、週の大半は外泊をした。たまに家に帰ってきては、姫香と子供たちを邪険に扱った。
姫香は語る。
「旦那は、愛人の女と再婚したがっていました。その女は看護師で、親も結構裕福だったらしく、金目当てだったんだと思います。それで私がうつ病になった頃から、『別れよう』『子供を連れて長野に帰ってくれ』と言うようになったんです。
けど、私は病気で働けないし、長野の父とも仲が良くなかった。それで今は無理みたいなことを言っていたら、だんだんと不機嫌になって私や子供に暴力を振るうようになったのです」
<div data-friday-nextpage-lead="いきなり殴られ顔に熱いコーヒーを……"></div>
<figure id="attachment_296729" aria-describedby="caption-attachment-296729" style="width: 3883px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6eac5d60"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/IMG_3887-2.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-296729" class="wp-caption-text">夫の暴力から逃げ場を失い繁華街で売春に走る女性も多い（写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
以前から夫は酒癖が悪く、姫香に手を上げることがあったそうだ。夫婦仲が悪くなってからはそれに拍車がかかり、布団で寝ていたらいきなり顔面を殴られたり、熱いコーヒーをかけられたりすることもあった。
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姫香は見知らぬ土地で心を病んでいたこともあり、相談相手がいなかった。彼女は鬱々とした気持ちのまま、こんなことならもう死んだ方がマシだと考え、２度にわたって薬の大量服薬をし、ついには２人の子を巻き込んで心中する計画を立てた。
我に返ったのは、心中を実行する寸前だった。彼女はこのままでは本当に子供を殺してしまうと恐ろしくなり、軽自動車に数日分の洋服と子供を乗せて寮を出た。
最初の一泊はビジネスホテルで過ごしたが、翌日からはお金を心配して車中泊することにした。所持金がほとんどないため、すぐにでも仕事を見つけなければならないのだが、住居がない上に２人の子供を連れている状態では絶望的だった。
<h2>追いつめられ１回１万5000円で個人売春</h2>
追いつめられた彼女が選んだのは、個人売春をすることだった。ネットで客を見つけてはホテルに入って体を売る。１回１万5000円ほどだったそうだ。
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彼女は言う。
「車で寝泊まりしていたので、２日に１人お客さんを取ればなんとか食べていけました。私がホテルへ行っている間、子供は託児所に預けていました。無認可のところだと思いますが、１時間ごとの料金で預かってくれていたのです。私はホテルでシャワーを浴びられたのですが、子供たちはそうじゃなかったので、公園のトイレで体をふいてあげるか、たまにお風呂屋さんに連れて行くかしていました」
そんな生活を、彼女は半年近くしていたそうだ。
だが、ある日、託児所に子供を預けに行ったところ、役所の人が数人、姫香を待っていた。託児所の職員が、姫香の行動や子供たちの言動をいぶかしんで連絡したらしかった。
その場で、姫香は子供ともども保護されることになった。そして母子生活支援施設に送られたのである。
<div data-friday-nextpage-lead="大半の母親は無一文で支援施設へ"></div>
<figure id="attachment_296690" aria-describedby="caption-attachment-296690" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2e7f237a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/02/IMG_3879.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-296690" class="wp-caption-text">夫の暴力から逃げ場を失い繁華街で売春に走る女性も多い（写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
このように見ていくと、夫のＤＶの被害に遭った女性たちが住居を失うプロセスがわかるだろう。
【前編】でも見たように、母子生活支援施設では、このようにＤＶによって行き場をなくした母子を保護し、自立へとつなげている。
大半の母子生活支援施設は、２階～４階建てのマンションのような作りだ。１階には職員がいる事務所や学童などがあり、上の階が保護された母子世帯の居住スペースになっている。居住スペースは１ＤＫ～３ＤＫの部屋が複数あり、世帯ごとにそこで生活する。
ここで暮らす母親の大半はほぼ無一文で来ていたり、障害や精神疾患があったりする。そのため、まずは生活保護を受けて生活を落ち着かせ、その後自立への道を探っていくことになる。
母子支援員の上田孝子は言う。
「母子生活支援施設は、ＤＶ被害を受けた母子を多く受け入れているところと、そうでないところにわかれます。ＤＶ被害を受けた母子の場合は、夫に追われていることが珍しくありません。そのため、そういう母子を受け入れるには、彼らを安全にかくまえる設備が必要なのです」
塚田織恵の例がまさにそうだが、ＤＶをする夫の中には、血眼になって妻子を見つけ、危害を加えようとする者もいる。実際に過去にも、それによって多くの事件が起きてきた。
ＤＶ被害の母子を受け入れる施設の安全対策は厳重だ。夫に探し出されないように住所を非公表にしているだけでなく、入り口が隠されていたり、地図から消されたりしていることがある。また、万が一所在が知られてしまった時のために、たくさんの監視カメラが取りつけられ、ドアも内側からでなければ決して開かないようなシステムになっている。そこまでしなければ、母子の安全を保障できないのだ。
上田はつづける。
「ＤＶで逃げているお母さんについては、私たちや弁護士が間に入って離婚の手続きをして、その後も住所がバレないようにします。ただ、ＤＶを受けたお母さんや子供はトラウマがひどいケースも少なくありません。そのせいで心を病んでしまっていたり、子供の心の成長に問題が出てしまったりしています。なので、入所している数年の間に、できるだけそれらを改善させて自立へつなげるようにしているのです」
職員は、生活面や経済面より先に、まず母親と子供の心のケアを優先する。
<h2>「似た世界にいる夫からＤＶという悪循環」</h2>
三田姫香の例でいえば、重度のうつ病にかかっているだけでなく、そこから無理をして車上生活をしながら売春をしてきた。この時点で彼女の心には様々な問題が生じている。
それをきちんとケアしなければ、自立したところでまた病気が再発したり、そこから別の問題が発生したりして、住居を失わないとも限らない。それゆえ、職員は母子を必要な福祉につなげ、最大限のケアをした上で、その後もセーフティーネットにつなげられる体制を整えなければならないのだ。
上田は言う。
「とはいっても、現実はなかなか大変です。結構クセの強いお母さん方もいて、これまでも施設で知り合った他のお母さんを風俗にリクルートしたり、違法薬物の売人を紹介したりした人もいました。
みんながみんなではありませんが、もともと風俗の世界にいたり、ヤンキーみたいな子が10代で妊娠したりして、似たような世界にいる夫からＤＶを受けるという悪循環があるので、どうしてもそういうお母さん方が一定数いるのです。
なので、施設ではお母さん同士の横のつながりまでは規制していませんが、悪い影響が広がらないようには注意しています」
母親たちの中には、ＤＶを受ける以前から、何かしらの問題を抱えている人も少なくない。【前編】の塚田織恵がいい例だ。だからこそ、そういうところもまとめて支援する必要があるのだ。
こういうことを書くと、一部の男性から「なぜ女性には母子生活支援施設があって、男性にはないのか」という意見が出ることがある。母子の場合は助けてもらえるのに、父子の場合はそうではない、と。
たしかにそういう一面はあるかもしれない。だが、母子生活支援施設を取材していて痛感するのは、男性の方が配偶者や恋人を捨てるか、逃げるかして、女性と子供だけが路頭に迷うケースが非常に多いということだ。簡単に言えば、男性は逃げられても、女性はそれが難しいのだ。
ゆえに、社会としてはそうした母子の支援を優先する必要がある。母子生活支援施設は、そういう志で住居を失った母と子の支援に取り組んでいるのである。
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石井光太（作家）
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77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

配偶者によるＤＶ相談件数は年間８万件を大きく上回る。被害の大半は女性。暴力から逃れるため住む家を失いカネを稼ぐために売春に走ることも。ノンフィクション作家・石井光太氏が迫る困窮女性の生々しい実態。

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