<h3>一番の問題は、“はりぼて状態”で全体像が把握できない制度になっていること</h3>
2月28日、「＃勝手に通すなインボイス制度」がTwitterのトレンド入りを果たした。今年10月に始まる消費税の「インボイス制度（適格請求書等保存方式）」については、建設、物流、弁護士、文化芸術分野など、さまざまな業界から多数の反対の声が挙がっているにもかかわらず、この日、衆議院ではインボイス制度の改正法案が可決されている。
「個人事業主がもともと払うべき税を払っていなかっただけのこと」「個人事業主が今まで免税されていたほうがズルい」「会社員には関係のない話」などといった声もSNSにはあるが、実は会社員を含めてすべての人にインボイス制度は関係ある話だということをご存じだろうか。
市民有志でつくる「インボイス制度を考えるフリーランスの会」（STOP!インボイス）呼びかけ人でライターの小泉なつみさんに、インボイス制度の問題点や現状などを聞いた。
<figure id="attachment_299271" aria-describedby="caption-attachment-299271" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d8e9227a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/aflo_211969866.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-299271" class="wp-caption-text">2月28日の衆院予算委員会で、インボイス制度について「不安の声があることは承知をしている」としつつも、予定通り10月から実施する考えを表明した岸田首相（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<h3>「インボイス制度をきちんと理解した上で賛成している議員には一度も会ったことがありません」</h3>
「インボイス制度自体は軽減税率とセットで2016年に可決されているのですが、開始日（令和5年10月1日）が近づくにつれ、いろんな業界団体が問題を指摘し、反対の声をあげるようになりました。 
その声に押された政府は昨年12月に『激変緩和措置』を発表します。これが盛り込まれた法案が昨日、衆議院を通過し、３月にも参議院で可決・成立されようとしているもので、簡単に言うと、免税事業者から課税事業者に転換する人は期間限定で納税額をまけてあげるからお得なうちに乗り換えてね、という制度です。 
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もともとインボイス制度には『経過措置』も盛り込まれているのですが、要は免税事業者も免税事業者を使う側も急に100パーセントの負担を押し付けるのではなく、段階的に移行しようという狙いです」
そう聞くと、むしろ親切な措置にも思えるが……。 
「でも、そもそもインボイス制度自体がすごく難しいのに、そこへいろんな緩和策や特例が出てきて、制度がはりぼて状態になっています。税の実務家である税理士ですら『理解も運用も難しい』と指摘するほど、税の基本である『公平・中立・簡素』から程遠いものになっているのが現状です。 
実際、この一年の間にメンバー皆で与野党含め100人の議員に会ってきましたが、インボイス制度をきちんと理解した上で賛成している議員には一度も会ったことがありません。与党議員すら、例えばアニメ業界がなぜインボイス導入で傾いてしまうのか現場の仕組みを説明すると、『問題のある制度だよね』という反応をします。 
それでも、『もう通ってしまったものだから仕方ない』と口を揃えて言う。制度を進めるための複雑な緩和措置なら法改正できるのに、止める・延長するだけのシンプルな法改正がなぜできないのか。不思議でしかたないです」 
<h3>そもそも「インボイス」って！？ </h3>
複雑で難しすぎる「インボイス」。「適格請求書」と聞いても、何のことやらさっぱりわからない、あるいは全く興味がわかないと言う人は多いだろう。
以下、面倒臭い方はいったん読み飛ばしていただいてかまわないが、教科書的説明をしよう。
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・インボイス（適格請求書）とは、個々の商取引において、正確な適用税率や税額などを明記した書類」のことで、標準税率10％と軽減税率8％（飲食料品および週2回以上発行される新聞の定期購読）が混在する現行消費税税制に対応した仕組みのこと。 
・売り手は買い手に求められたらインボイスを交付しなければならない義務を負う。ただし、交付資格が与えられるのは、インボイス発行事業者に登録した「課税事業者」のみ。年商1千万円以下の「免税事業者」は、自ら免税の立場を放棄して「課税事業者」にならないとインボイス発行の資格が得られない。 
<div data-friday-nextpage-lead="インボイスの損失穴埋めで電気料金値上げ!?"></div>
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<h3>消費税は「消費者から預かる義務もなければ、 その価格を転嫁する義務もない」！？</h3>
「個人事業主はもともと払わなきゃいけない消費税が免税になっていたのがズルい」「会社員が損している」という声もある。しかし、その問題の根底には「消費税」が正しく理解されていないことがあると言う。
「『消費税法』の中には、実は『消費者』という言葉がないんです。 勘違いしがちなのが、例えばコーヒー1杯税込550円だとして、消費税分にあたる50円を消費者が払い、お店は消費者から預かった50円をそのまま国に納めるシステムだと思っていること。 
私もずっとそう思っていましたが、消費税法では、納税者が事業者であることだけが決まっていて、担税者、つまり誰が消費税を負担するのかは明記されていません。さらに、消費者から消費税を預かる義務もなければ、 お店が消費税分を価格に転嫁する義務もないという、ものすごくあやふやな税金なんです。 
そのため、お店は消費税分として50円を上乗せして550円の税込価格にしてもいいし、競合店が多くて550円では集客がむずかしいと思えば、税込500円でコーヒーを提供してもいい。とにかく、事業者が決めた価格のうちの10/110(または8/108)を消費税分とし、消費税の計算をした上でお店が国に納めることだけが決まっているんです。 
インボイスの反対活動をしていると、『預り金をネコババするな』といった声がよく聞かれますが、そもそも消費税は、入湯税のようにお客さんから“預かった”税金を右から左にそのまま国に納める性質の税制ではないのです」 
<figure id="attachment_299272" aria-describedby="caption-attachment-299272" style="width: 1380px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d7405ebb"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/main.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-299272" class="wp-caption-text">中小企業に業務効率化のクラウドサービスを提供する会社が、昨年末に行った調査によると、インボイス制度&#8221;発行側&#8221;、&#8221;受領側&#8221;ともに必要な対応の詳細を知っていると回答した企業は43.7%だった（株式会社ラクスのプレスリリースより）</figcaption></figure>
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<h3>今年2月になって、インボイス制度の導入根拠が根底から崩れる事態に… </h3>
温泉や風呂屋の「入湯税」は、預かったものをそのまま国に納めるので事業者は得も損もしない。一方、消費税は売上と人件費にかかる税金のため、赤字でも納税が発生する過酷な税制であり、ゆえに滞納率がもっとも高い税金でもある。しかし、現状はその仕組みが理解されていないのだと言う。 
そんな中、2023年2月10日の衆議院内閣委員会で「消費税は預り金ではないため、益税は存在しない」ことを政府も認め、導入根拠が根底から崩れる事態となった。 
<h3>電気料金の値上げは、インボイス制度導入での損失の穴埋めだった！？</h3>
それでもなお、「個人事業主とかの話は関係ないし」と思う人もいるだろう。しかし、意外と知られていないのが、全ての人に関係する「電気代の値上げ」だ。
ただでさえ電気代の値上げに日本中が悲鳴をあげている中、大手電力10社のうち5社は4月からの電気料金値上げを国に申請している。その上さらに上がるということ？
「そうですね。資源エネルギー庁はインボイス制度の導入で、大手電力会社などに発生する損失を、電気料金の値上げで穴埋めすることにしていて、その額はインボイス制度の経過措置がなくなる7年後以降、年間580億円にのぼることが2月21日の衆議院財務金融委員会で明らかになりました」
寝耳に水と言う人は多いだろう。なぜインボイス制度の導入が「電気料金の値上げ」につながるのか。
「たとえば、東京都では昨年末、新築物件に太陽光パネルをつけることを義務付ける条例が可決しましたが、住宅メーカーの営業の人が『太陽光パネルをつけて売電すればその分、ローンの支払いが軽くなる』とセールストークにしている話も聞いたことがあります。 
そんな風にして現在、電力会社が再生エネルギー電力を固定価格で高く買い取ってくれる制度（FIT）を利用している一般家庭も、再エネ電力を電力会社に売る“事業主”になるわけですが、一般家庭がインボイスを発行することは考えにくい。 
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すると、一般家庭からインボイスがもらえない電力会社はその分の仕入税額控除ができず、消費税の負担が莫大なものになってしまう。 
こうしてインボイス導入によって生じる電力会社の納税負担を、私たちの電気代を上げることで補填する、というのが今回の問題です。どの業界も、インボイス制度による消費税の押し付け合いや納税負担で苦しんでいるのに、なぜ電力会社だけが助けてもらえるのか。
こんなことがまかり通るなら、唯一の立法趣旨である『適正な課税』も吹っ飛ぶのではないでしょうか」 
<div data-friday-nextpage-lead="『通っちゃっているから仕方ない』でいい？"></div>
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また、会社員にとっても、インボイス制度が成立すると、インボイス登録事業者を使わないと会社が損をすることになってしまうため、上司や経理担当社から怒られるかもしれない。例えばこんな状況が想定される。
・打ち合わせの喫茶店にて/「領収書ではなくインボイスを」→「すみません、うちはインボイス出せないんです」→社用で使った喫茶店がまさか自腹に、あるいは「今後はインボイスを出してくれる店を使え」と会社に怒られる→いつも大手チェーンを利用するように。気づいたら馴染みの喫茶店は潰れていた……
・仕事の取引にて/上司「これからは免税事業者のフリーランスは使わないように」→部下「毎月お願いしてるフリーランスの人は腕がいいし説明しなくても全部やってもらえるから楽なのに…」→インボイスを発行できるフリーランスを探す手間や作業の説明といった、本来やらなくてもよかった作業が増えてしまう。 
<h3>『色々問題があるけど、もう通っちゃっているから仕方ないよね』でいいのか？</h3>
また、小規模事業者について「インボイスくらいで廃業に追い込まれるなら、その仕事がそもそも向いていないんじゃないか」という指摘もあるが……。
「課税事業者とは年商1000万円以上の人を指しますが、フリーランスの9割くらいが免税事業者だと言われています。 
『だったら1000万円以上売り上げるように頑張れよ』と言う人もいますが、誰もが売り上げ第一で働いているわけではなく、子育てしやすいとか、病気や介護で会社勤めが難しいといったライフスタイルや個々の価値観に合わせた働き方をしているわけで、まったく的外れの指摘だと思います。
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そもそも、30年間賃金の上がらない状況＋コロナ禍の今、インボイスをきっかけに自分より優位的立場にある取引先の企業に対してギャラアップ交渉をしろ、という方がむずかしいのでは」
「電力会社の補填のために電気代をさらに値上げされるのは意味が解らないし、許せない！」「好きな飲食店が潰れたら困る」「好きな漫画家さんやアニメーターさんが廃業したら困る」と思う人は、どのように声をあげたら？　小泉さんはこんな方法を提案する。
「SNSや署名サイトで声をあげるのも良いですし、好きなテレビ・ラジオ番組、Web媒体や発信力のある著名人にメールなどを送って、『インボイスを取り上げて！』とお願いするのも良いでしょう。勉強会を企画するのであれば、我々もできる限りお手伝いします。
デモとか、スタンディングをやってみるのも良いですね。 
現在、200近い地方議会から国に対してインボイス制度の中止や延期を求める意見書が提出されています。『STOP！インボイス』ではこうした動きを後押しするために『お手紙大作戦』と銘打って、各地方議会にインボイス制度の延期・見直しを求める陳情書を送る計画を進めています。すでに2月には第一弾として47都道府県と20の政令指定都市に送付しました。皆さんもお住まいの地域の地方議会に陳情書を送ったり、知り合いの地方議員に請願書を提出してもらうように働きかけたりするのもいいと思います。 
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また、4月には統一地方選挙がありますので、地元の市議会議員にインボイスのことをどう考えているか、どの程度理解しているか聞いてみるのはぜひやってほしいです。そして、候補者の回答を元にしながら、投票行動につなげてください。 
『インボイスは国政のことだから関係ない』というスタンスの市議会議員も多いと思いますが、インボイスが地方経済に大きくかかわることを理解していないような議員では困りますよね。 
政治家の数より市民の数の方が多いですから、一人ひとりがまずは声をあげていきましょう」
<figure id="attachment_299729" aria-describedby="caption-attachment-299729" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c31c53ff"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/8f7ce8e728eed3a0a109079ea83ac53e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-299729" class="wp-caption-text">市民有志団体「インボイス制度を考えるフリーランスの会」（STOP!インボイス）は２月13日に18万筆超のインボイス反対署名を財務省に提出。この署名数はオンライン署名サイト「Change.org」日本語版が開始されて以来、トップ10に入る数の多さだという</figcaption></figure>

1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』（太田出版）、『KinKi Kids　おわりなき道』『Hey! Say! JUMP　9つのトビラが開くとき』（ともにアールズ出版）など。

田幸和歌子

今年10月に始まる消費税の「インボイス制度」については、さまざまな業界から多数の反対の声が挙がっているにもかかわらず、２月28日、衆議院ではインボイス制度の改正法案が可決された。

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