「ネコは液体」と言われるが…では「トラ」や「ライオン」も「液体」なのか? | FRIDAYデジタル

「ネコは液体」と言われるが…では「トラ」や「ライオン」も「液体」なのか?

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同じ「ネコ科」でも違う!?

「ネコは液体である」というCMが話題だ。

2017年、パリ第7大学のマーク・アントワン・ファルダン氏は、「一定の体積と形を保つものが固体。体積は変わらないものの形は容器に合わせて変化するのが液体。よってネコは液体である」と説明し、イグノーベル賞を受賞した。確かにネコは四角い牛乳パックの中にも、丸い容器の中にも、体をすっぽり納めることができる。

容器に合わせて、ネコの体は変幻自在。これは森の中で生き抜くために手に入れた、野生の証明。ずっと家の中でだけ飼い続けていると、ネコ特有の機能も失われてしまうかも…
容器に合わせて、ネコの体は変幻自在。これは森の中で生き抜くために手に入れた、野生の証明。ずっと家の中でだけ飼い続けていると、ネコ特有の機能も失われてしまうかも…

では、同じネコ科のチーターやライオンはどうなんだろう。

「チーターやピューマも同じです。彼らも丸い容器があれば、それに体を合わせられると思います。チーターは走るときには背中を曲げたり伸ばしたりしますので柔軟性があると言えるでしょう。ただ、体格が大きいので猫ほど柔軟に体の形を変化させることは難しいかもしれません。 

トラは体が大きいから丸い容器に入れるかは疑問ですが、柔軟性はあると思います」 

こう言うのは獣医師の平松育子さん。

丸くなったり、四角くなったりするだけじゃない。ネコは体をよじることもできる。

「うちのネコは上半身と下半身の向きを180度変えて寝ていることもあります。体がねじれているんです。それでも全然苦しそうじゃない」 

確かに液体のようだ。

ネコとイヌの祖先は一緒!?

ネコ科の動物が、このように柔らかい体を持つようになったのは環境に適応したためだと平松さんは言う。

「ネコとイヌの祖先はミアキスという動物で、約6500万~4500万年前から生息していたと言われています。もともと森の中で暮らしていたのですが、生存競争が激しくなって、住処を変えるために一部のミアキスは森から出て行きました。そしてイヌへと進化していったのです。 

一方ネコ科の動物は森の中に潜んで、獲物が通れば隠れていた場所から飛び出して捕まえるという暮らしをしていました。高い木の上に登ったり、そこから飛び降りたりする生活をしていたので、体が柔軟でなければ生き残れなかったのです」 

「猫島」としても有名な宮崎県・青島(PHOTO:アフロ)
「猫島」としても有名な宮崎県・青島(PHOTO:アフロ)

丸くなったり、四角くなったりするだけじゃない。

ネコの体が柔らかいのは、体の構造に理由がある。 

「猫の体が柔らかい理由の一つに骨の数が多いことがあげられます。人間の骨の数は約200個ですが、猫は約240個です。体が小さいのに骨の数が多いということは曲がる部分が多いということです。さらに、背骨をつないでいる椎間板物質が柔らかいので、縦にも横にも曲げられます。 

骨と筋肉は靱帯でつながっていますが、猫は靱帯が柔らかいので、犬に比べると柔軟に体を伸ばすことが可能です。また、ネコは胸骨と腕の骨をつなげている鎖骨が非常に小さく、痕跡程度しかありません。だから、前後にも伸びるけど、左右にもよく伸び、肩幅を狭くすることもできます」 

ネコを持ち上げるとビヨ~ンと伸びて、ふだんの2倍くらいの長さになることがある。これは靱帯が柔らかいためだとか。

ネコが狭くて暗いところに隠れたがったり、気ままに単独行動をとるのも、敵から見つからないようにしていた野生の本能。

イヌが人間とともに暮らすようになったのは1万5000年ほど前。対してネコが人に飼われるようになったのは4000~5000万年前。イヌと違い、人間と暮らした歴史が浅いネコは、まだ野生を失ってはいないのだ。

「ライオン」は限りなくイヌに近い!?(PHOTO:アフロ)
「ライオン」は限りなくイヌに近い!?(PHOTO:アフロ)

限りなくイヌに近い「ライオン」。なぜそうなったのかは謎…

では、ライオンはどうか。

「ライオンはわからないんです。ほかのネコ科の動物は単独行動で狩りをしますが、ライオンは集団で狩りをしますし、木に登るところはあまり見かけません。 

ライオンがなぜ集団生活をするのかについては未だに研究がされているようです。縄張りを守るため、繁殖率を上げるためなど様々な考えがあります。残念ながら単独と集団での獲物の捕獲率は変わりません。 

単独行動では縄張りを守ることが困難だということに加え、瞬発力はあるが持続力に欠けるライオンは効率よく獲物を捕らえるために集団で狩りをするようになったのかと思います」 

草原へ生活の場を移したイヌは、身を守れるように筋肉質の体と、速く走れる脚力が発達したと言われている。しかし、ライオンの体から柔軟性がなぜ失われたのかは謎だという。そういえば、ネコ科の動物の中では珍しくライオンは草原で暮らしている。

「ネコ科の中でもライオンだけは特殊なんです。狩りの仕方も、群れで暮らすのも、ネコ科というより、イヌに近い。なぜそうなったのかはまだ研究されています」 

理想的な生活場所を探すために草原に出たために、イヌのような暮らしになり、ネコ科特有の柔軟性も失ってしまったのか。

環境が体を変えるとしたら、人に飼われるようになったネコも変わっていってしまうのか。

「不必要な機能は退化していきますから、100年先200年先には変わっていくかもしれません。実際、当院に来るネコの中にはジャンプ力がないネコちゃんもいます」

野生時代の機能を残すために、平松さんがとくに飼い主にすすめたいのはキャットタワーなど上下運動できる場所を確保すること。

「高いところから見下ろすのはネコの本能なので、それを失わないような環境が大事だと思います」

ジャンプしたり、飛び降りたりできるのは柔軟性があってのこと。ネコにはいつまでも液体のような、ゴムのような存在でいてほしいものだ。

平松育子 山口大学農学部獣医学科を卒業後、山口県内の複数の動物病院に勤務。2006年、「ふくふく動物病院開業。「猫ねこ部」のHPで猫の健康知識、育て方やお手入れ方法など、猫を飼う・猫と触れ合ううえでの基本的な情報をお届けする「猫を知る・育む」記事の監修を担当。

  • 取材・文中川いづみ

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