<figure id="attachment_302762" aria-describedby="caption-attachment-302762" style="width: 4624px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a4ca65a3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/20230319_192708.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-302762" class="wp-caption-text">夜の街を徘徊するようになった少女（画像はイメージで加工しています）</figcaption></figure>
<p>新潟県で生まれ、毒親の典型である母親に支配された青田絵美香（仮名）。【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/302753">前編：毒親少女が「性行為とドラッグに溺れた」顛末</a>】から引き続いて、その人生を見てみたい。</p>
<p>高校を中退した絵美香は、母親の支配から逃れるため、夜の街に沈んだ。地元の暴力団組員たちと付き合い、大麻などの違法ドラッグに手を染め、売春、密売、斡旋などをくり返して生きていく。</p>
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<p>母親は自分の分身のように思っていた絵美香を、これまで通りの方法では支配できないと察し、別の方法で近づこうとした。頻繁に手紙を書いて送り、絵美香に同情の言葉をかけたり、心配したり、近状を知らせたりしてきたのだ。</p>
<p>絵美香は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「母は物理的に私を支配できないと知ると、今度は『遠くから娘を思いやり、見守る母』を演じるようになりました。私の絵美香ちゃんだから、母親である私が一番つらい気持ちをわかっている。だから、お母さんはいつまでも見守っているよという言葉を絶え間なくかけてくるようになったんです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">いろんなお守りが送られてくることもありました。きっと母はそうすることで精神的に私を支配しようとしたのでしょう。母はどこまでいっても私とのつながりを断ち切って生きていくことはできません。だから、非行に走った娘と、それを理解している母親という図式で私とつながっていると思い込もうとしたのだと思います」</span></p>
<h2>嫌っていた母親に支配されつづけ……</h2>
<p>普通に考えれば、非行に走った女性なら、そんな母親に嫌悪を抱き、手紙を破り捨て、連絡を絶つだろう。</p>
<p>しかし、絵美香が取った行動は真逆だった。あれだけ母親を嫌っていたのに、男の家を転々とする度に新しい住所を教え、送られてくる手紙に目を通して大切に保管し、お守りを身につけていたのである。物理的に距離をとっても、精神的には支配されつづけたままだったのだろう。</p>
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<p>絵美香は18歳になって間もなく、生まれ故郷の新潟を離れ、兵庫県へ引っ越した。当時流行っていたチャットで一回り年上の男と知り合い、体の関係と引き換えに、同居させてもらうことにしたのである。</p>
<p>この頃、絵美香の性的な逸脱行為は目に余るものになっていた。以前から、チャットなどで出会う男の家を回って性行為と引き換えに泊めてもらっていたが、その間も別の男と出会うそばから肉体関係になっていた。</p>
<p>絵美香はその理由をこう分析する。</p>
<p><span class="strongInContent">「私は物心ついてからずっと母の一部でした。母にすべてを支配され、分身のように生きてきた。だから、自分が何なのか、どこにいるのかがわからない感覚があったんです。でも、セックスしている時だけは別でした。セックスって私と相手とでやるわけで、そこに母は介入しませんよね。だから、セックスしている時だけは、自分が本当の自分でいられるような感覚があったんです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">これは大麻なんかをやっている時もそうでした。幻覚なのかもしれませんが、それをやっている時だけは、母から離れて、自分が自分でいられるって感覚があった。それでずっとやりつづけていたんです。ただ、私は今まで一度も男の人に愛情を抱いたことがないんです。恋愛がなんなのかもわからないんです。親から正しい形で愛というものを教わってこなかったので、それが何なのか思い描けないんです」</span></p>
<p>絵美香にとって異性とのセックスは、精神的な意味で母親の呪縛から一時的に逃れる手段だった。大麻の使用も同じだ。つまり、絵美香にとって異性も大麻もそのための道具にすぎなかったのである。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="知り合った男たちと次々に男女関係になり…"></div>
<figure id="attachment_302761" aria-describedby="caption-attachment-302761" style="width: 3883px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="69108343"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/IMG_3887-2-1.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-302761" class="wp-caption-text">異様な愛情をみせる母親と暴力を振るう父親に苦しめられた少女（画像はイメージで加工しています）</figcaption></figure>
<p>その後、絵美香は水商売や売春をしながら、不特定多数の男とかかわりを持ち、住居を転々とする。岡山、広島、福岡……。夜の仕事やチャットで出会った男たちと会っては肉体関係になり、一緒に暮らした。</p>
<p>こうした生活の中で、男とトラブルになって家を放り出されて車上生活をしたり、施設へ逃げ込んだりしたこともあった。ＤＶで顔面の骨が折れたこともあった。</p>
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<p>驚くのはそんな生活をしながらも、引っ越すたびに実家に連絡先を送り、母親からの手紙を受け取り、大切に読んでいたことだ。</p>
<p>手紙には相変わらず「私の絵美香ちゃん」と書かれ、行く先々でつらい思いをしているであろう娘に寄り添い、温かく見守ろうとする言葉が綴られていた。</p>
<h2>手紙だけでなくお守りも</h2>
<p>私もその手紙の一部を読ませてもらったが、異常だと思うのは母親が頻繁にお守りを送りたがることだ。特徴のある字体で便箋にびっしりと思いを語った後、石やガラスなどよくわからないものをお守りとして送りつけるのである。</p>
<p>おそらく母親はそのお守りを自分の分身として託していたのだろう。娘がそれを持っていれば、自分が傍にいるのと同じことだ、と。そして絵美香の方も、母親を嫌いながらも、そのお守りを保管していたのである。</p>
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<p>絵美香は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「各地を転々としていた時は、殺人犯と付き合っていたことも、大麻で逮捕されたこともありました。誰が見てもボロボロの生活で、生活保護を受給したこともあります。</span></p>
<p><span class="strongInContent">そんな暮らしをしているのに、なぜか年に最低１回は実家に帰っていたんです。親が嫌で逃げ出したはずなのに、親元に帰らずにいられない。当時は当たり前だと思ってそうしていましたが、今考えてみると、手紙によって未だに母親の支配下にあったんでしょうね」</span></p>
<p>そんな人生が変わったのは、’16年に当時付き合っていた男性との間に娘ができたことだった。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="子供ができて激変した生活"></div>
<figure id="attachment_302763" aria-describedby="caption-attachment-302763" style="width: 4240px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e81fbf16"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/DSC03017-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-302763" class="wp-caption-text">暴力団とも関係を持つようになった（画像はイメージで加工しています）</figcaption></figure>
<p>愛することを知らない絵美香は男性との生活に意味を見出せず、出産後すぐに別れることになった。だが、まっとうな仕事についていない状態で、１人で赤ん坊を育てながら生きていくのは困難だ。彼女は悩んだ末に、地元の新潟に戻り、母子生活支援施設に入所した。</p>
<p>母子生活支援施設とは、事情があって子育てが難しい母親と子供を一時的に受け入れ、自立のための道筋を作る施設だ。わざわざ地元の施設に入ったのもまた、母親の精神的な支配ゆえだろう。</p>
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<p>母親は施設にいる絵美香のもとに次々と贈り物を届けてきた。そしてこう言ってきた。</p>
<p>――お母さんは私の絵美香のことを見守っているからね。だから、いつでも帰ってきてね。</p>
<p>まだ絵美香を手元に置こうとしていたのだろう。</p>
<h2>「母親と自分」から「自分と娘」へ</h2>
<p>絵美香は施設で落ち着いて娘を育てる中で、少しずつ自分が未だに母親に支配されていることに気づきはじめた。娘という存在ができたことで、それまでは「母親と自分」しかなかったものが、「自分と娘」という関係性が生まれ、距離を置いて考えることができたこともあっただろう。かつて異性や大麻だったものが、娘に取って代わられたのだ。</p>
<p>絵美香はだんだんと、このまま実家の傍にいてはいけないと危機感を抱くようになった。物理的にも、精神的にも、距離を置かなければ、一生母親との関係性から逃げ出すことはできない。そして、彼女は新潟を離れて大阪へ移り住むことにしたのである。</p>
<p>現在、絵美香は派遣社員の仕事をしながら、母子２人での生活をしている。彼女は次のように言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「今は娘を育てながら、自分が母と同じにならないように気を付けています。私も黒か白かで考えて、人をコントロールするようなところがある。だから、娘にだけは自分がされたのと同じことをしたくないって思っています」</span></p>
<p>今回の記事は、絵美香の方から連絡を受けて取材をしたものだ。彼女にしてみれば、今までのことを赤裸々に話すことで、自分なりの清算をしたかったのだろう。</p>
<p>大阪に暮らす彼女の手元には、まだかつて母親から送られてきた手紙が残されている。それを手放すことができた時、本当の意味で彼女は母親の呪縛から逃れられるのかもしれない。</p>
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<p>【募集】</p>
<p>シリーズ「ヤング・ホームレス」では、定住先のない10～40代の人を探しています。車上生活者、ネットカフェ難民、出稼ぎ風俗嬢、寮暮らしの日雇い労働者、ホテル生活者、店舗生活者、各種支援施設での生活者など、現在でも過去でも、住居を失った経験のある人の実体験、あるいはその支援をされている方々の声を募集しています。匿名などの条件にも応じますので、著者までご連絡下さい。</p>
<p>石井光太（作家）</p>
<p>ツイッター　@kotaism</p>
<p>メール　postmaster@kotaism.com</p>
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’77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井光太

異様な愛情をみせる母親と暴力をふるう父親に苦しめられた少女の実話。彼女は家庭と距離をおき夜の街で非行を繰り返すようになる。その悲しい顛末とは……。ノンフィクション作家・石井光太氏がつづる渾身のルポ！

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