<figure id="attachment_303733" aria-describedby="caption-attachment-303733" style="width: 2342px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="201307c0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/KIN_0250.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303733" class="wp-caption-text">「こんなポーズ、生まれてこのかたしたことないよ」とボヤキながらも、「ちょい悪オヤジ風に！」などのムチャ振りに応じてくれる神対応な伊藤P</figcaption></figure>
「そうだ！　記事タイトルは『もしかして心配してます？　僕が辞めるんじゃないかって』にしたらどうです？」
そう言って嬉しそうに笑うのは、『モヤモヤさまぁ～ず2』（以下、『モヤさま』）に出演し、「伊藤P」の愛称で親しまれるテレビ東京の伊藤隆行氏（50）。4月1日付けで制作局長に昇進したテレ東のカリスマだ。
伊藤Pを取材したのは人事発表前。当時はエグゼクティブプロデューサーの職にあったが、「みんな心配なのか『伊藤さん、辞めないですよね？』って、最近すごく言われるんですよ（笑）」という。
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「エグゼクティブプロデューサーも開局以来初の肩書で、『何ですか、これは？』と、偉い人に『辞められたら困る的なやつですか？』と聞いたら、『そういうところもある』って正直に言われました（笑）。“現場で執行せよ”って肩書なので、これからも現場寄りでがんばっていきますよ」
伊藤氏といえば『モヤさま』『緊急SOS！池の水ぜんぶ抜く大作戦』（以下、『池の水』）ほか、多くの人気番組を手掛けてきた。’11年に上梓した『伊藤Ｐのモヤモヤ仕事術』（集英社新書）で企画の考え方や仕事のスタンスを著した伊藤氏は、テレ東は発想や感覚が他局と異なることに触れ、「テレ東の文法をとても大事にしています」と記している。時を経て「テレ東の文法」は変化しているかと問えば、「変わらないですね。むしろ、より強まっているかもしれないです。企画を立て、番組を作る手法で言うと、『ないもの探し』の基本は変わりません」と言う。
「テレビに限らずYouTubeやTikTokなど、コンテンツは見られなければ意味がありません。見てもらうには、思わず二度見するとか、ハッとさせられるとか、企画やタイトル、配信ならサムネイル、雑誌なら表紙に、魅力が“にじみ出る”じゃなくて、すぐわかる形で“ポン！”と出てないといけないんです」
エッジの効いた企画が多いテレビ東京。どこから企画が生まれるのか聞くと、意外にも「日常にある」という。
「普通なら流してしまうことに引っ掛かりを覚え、心の揺らぎを留めておくと、それが企画に繋がります。『それ、自分も気になっていた！』と共感を呼ぶ。100人に一人、1000人に一人でも強い共感を得られるなら、ヒットの兆しがある」
代表作のひとつ、『池の水』も些細な疑問から生まれた。
「ニュースで『警察は、池の水位を下げて捜索しています』とナレーションがあって、『水位を下げるって、なんだ？』と。翌日、打ち合わせ中に偶然、構成作家が『掻い掘り』（池や沼の水を汲み出し、泥などをさらうこと）を調べ始め、水を抜いたらいろいろ出てくるねって、企画が広がりました」
こうして生み出される渾身の番組は、他局に真似られることが多い。「民放各局では『テレ東でいい感じの企画をパクれ』と、明確な指示が出ている」という噂をよく聞くほどだ。
「昔から同業者に『テレ東はパクってよし』とか、『テレ東って、テレビ局だったっけ？』とイジられます。日テレさんはパクり方が上手くて、数が多い。テレ朝さんは嫌な感じにパクる。TBSさんはパクり方が露骨で、『もっと上手くやってくれないと！』と文句を言ったことがありますよ（笑）。局として抗議する話も出ますが、そこで争うよりも、テレ東はパクられ、イジられるのも本望。企画を奪われても、本当のオリジナリティは、最後に残ると思っていますから」
<div data-friday-nextpage-lead="後輩たちに「テレビを一回忘れていい」と言う理由"></div>
大ヒットした『池の水』だが、当初は社内で大反対に遭い、会議で編成局長と大声の応酬になるほど揉めた。
「決着しないまま会議の１週間後、編成局長と食事に行きました。そこで、『あれから考えたんだけど、テレビが誰かのためにやるっていうのはどう？』と言ってくれて。タイトル案が『水抜いちゃいました』だったのを頭に『緊急SOS』をつけ、最後は『大作戦』にする――『池の水』の番組名は、そこで決まりました。大反対でもリアクションがあった。揉めたけど、ちゃんと考えてくれた。そこからハレーションが起き、企画が磨かれる。ロケの神様が降りてくるみたいな、上手くいく番組って何かしら人の反応があるんですよね」
<figure id="attachment_303734" aria-describedby="caption-attachment-303734" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="614f4bdb"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/image_16895489-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303734" class="wp-caption-text">カメラマンと談笑。「編集中に『すげえ！　カットかかったのに、撮っててくれたんだ』って、嬉しくなることもありますね。撮ってなかったら、使えませんから」（提供：テレビ東京）</figcaption></figure>
ハレーションが起きたのは、新番組だけではない。『モヤさま』の2010年4月ゴールデン進出も、当時の編成部長が「うちの奥さんがね、あれはゴールデンでいけるって言うんだよ」と話したのが出発点。深夜番組特有のユルさが人気だっただけに、多くのスタッフが反対した。
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「街をブラブラする『モヤさま』には、旅番組のテレ東の遺伝子がある。だから、やってみたいと思いました。それに『うちの奥さんがね』と言える関係値があったから、そういう話も出てきたわけです」
それから伊藤氏は「初対面をなくしておこう」と社内の人々と積極的に交流し、部下にもそうするよう勧めているという。
「テレビ局はコンテンツメーカーになるべきだと思っています。配信だけでなく、物販などの商品開発もコンテンツです。そう考えたらイベントや営業など、社内だけでも組む相手がめちゃくちゃ増えました。今は10人中７人がテレビをつけていた時代じゃない。どこでタッチポイントを作るかも重要です。前からあるイベントや雑誌との番組連動のほか、多様化で音声コンテンツをSpotifyと組んでやってみましょうよとか、打てる場所が非常に増えています。大食いとか、蔵の中身を鑑定するとか、元々すごく狭い局地戦をやっていい会社なのだから、こういう時代に“番組にする”ことだけ考える必要はないですよね。後輩たちには自由にタッチポイントを考えてもらうため、『テレビを一回忘れていい』と言っています」
サラッと話すが、制作にいるテレビマンが「テレビを忘れていい」は、そうそう言える言葉ではない。しかし、今の時代を的確に捉えた考え方であり、コンテンツメーカーの立ち位置から、自然に出てきた答えだった。その柔軟さが、伊藤氏に多くの相談やアイデアが集まるゆえんだ。
高速道路関係のスポンサーを担当していたBSの外勤営業が「低予算に悩んでいる」と聞いた伊藤氏。制作部に声をかけて90分の企画を募集したところ、１週間で30本も集まったという。普通は広告代理店に依頼するケースだが、コンテンツメーカーならできること。「結局、『高速出口、ぜんぶ降りる。』って、僕の企画が通っちゃったんだけど（笑）」とイタズラっぽく笑うが、多くの企画が寄せられたことに手応えを覚えた様子。
「若い営業の子たちは、やる気はあるけどソリューションがわからず、悩んでいることもあります。その課題をコンテンツで解決し、ソリューションを提供するのがコンテンツメーカーの仕事。1スタッフが抱えているものを拾い、そこでやった配信やイベントから、番組に繋がることも出てきました。テレビは一人では作れないし、課題や不満、クレームからヒットが生まれることもありますから」
<div data-friday-nextpage-lead="テレ東でも通らなかった企画"></div>
テレビ業界を俯瞰し、「僕らテレビ局の人にとって今一番必要なのは、『テレビってなんなのか』ってことへの答えを、ちゃんと自分のたちの中で持っておかないといけない」と語る伊藤氏。
「テレビでお笑いなら『くだらなくていい』というのも、ひとつの答え。例えば『ゴッドタン』は、とてつもなくくだらない（笑）。でも『くだらないな』っていう感覚を知っている日本人が育っていると思えば、文化的には感性に貢献しているということだし、もっとくだらなくていい。極論すればお笑い番組で、15分のコントをやるべきだし、30分のコントを観て、『すごい』と思えるお笑いファンがいた方がいいと思います。まあ『テレビ局の文化度への貢献』とか、そんな堅いことを考えて企画しているわけじゃないですけどね（笑）」
<figure id="attachment_303736" aria-describedby="caption-attachment-303736" style="width: 5568px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="666de6c1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/G.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303736" class="wp-caption-text">「テレ東ファン支局」開局イベントで太田勇プロデューサーと。司会は中原みなみアナウンサー（提供：テレビ東京）</figcaption></figure>
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多様性が叫ばれ、コンテンツが細分化されている時代にあって、テレビというある意味で大きすぎるメディアの難しさもある。ボーイズラブをテーマにした同名コミックス原作のドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』（以下、『チェリまほ』）が異例のヒットを遂げ、赤楚衛二や町田啓太の大ブレイク生んだテレビ東京だが、かつて通らなかった企画が存在した。
「不確実性と多様性と言われますけど、確実にテレビのコンテンツは多様性を欠いていると思います。ドラマ『チェリまほ』がヒットして映画化もされましたが、10年前のテレビでは常識的にあり得なかったと思うんですよね。今『君のひげに恋してる』って恋愛リアリティショーの企画を出しているのですが、15年ほど前にその企画を出した人が今も社内にいるんですよ。
『絶対にこういう世界があるし、これは面白い』と真顔で言っていましたけど、『そんな企画、一生通らない』と言われていました。それが社会の理解が進んで、常識が変わった。常識を壊すというのは、社会が変わっていくきっかけの矢面に立つ人がいて、そのフロントラインにテレビが立てば、社会の理解が進んでいく。もっと言えば、その切っ先にテレビ東京が立ちたいし、そういった常識を変えていくような主張ができる局でありたいですよね」
<div data-friday-nextpage-lead="「ほぼ放送事故」映像を集めた特番"></div>
テレビ東京のドラマ『バイプレヤーズ』では、「テレ東だろ」という自虐ネタなセリフが話題を呼んだが、多くの視聴者に愛されている背景には「予算がない」「人が足りない」といったことをオープンに語る自虐がある。
「開局50周年の記念特番で、『モヤモヤ映像大放出！』という番組をやったんですけど、テレビ東京50年の番組アーカイブから『ほぼ放送事故です』って映像を集めた自虐番組。放送した時、当時の編成局長がものすごい剣幕で『バカにしているのかテレ東を！　お前に何がわかるっていうんだ！？』って、こっぴどく叱られました。めちゃくちゃ怒られたんだけど、視聴率が良くて次の日には、同じ人にめちゃくちゃ褒められたっていう（笑）。
<figure id="attachment_303737" aria-describedby="caption-attachment-303737" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9445a6c6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/03/KIN_0083.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-303737" class="wp-caption-text">スケジュールは手帳で管理する。「アナログ派です。書いておかないと、わかんなくなっちゃう（笑）」</figcaption></figure>
もちろんリスペクトを持って、局をイジる自虐です。生放送中に起きたあり得ないミスとか、予算や人が足りないからカメラ1台で、受けのカメラ――もう1台カメラがあったら事故映像にはならないようなものとかね。必死にやった結果、いろんなことが起きちゃってる（笑）。『テレ東は愛されてる』って言われるけど、そんな風には感じていないし、意識すべきじゃない。愛されているなんて、感じちゃダメじゃないですかね。ただ必死にやっているだけ。大コケするのもあるけど、全力でやる――その全力が、面白いんじゃないかと思いますよ」
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そんな自虐を生む雰囲気に、自由な社風を感じる向きも多いが、「僕はこんな感じですけど、めちゃくちゃキッチリしている会社ですからね。ミスとかには、すごく厳しいです。かなり神経質なところもある会社ですよ。何でも自由にやれるかと思ったら、全然そんなことない」と伊藤氏は真面目な表情を見せたが、すぐに笑いながら言葉を継いだ。
「そこを“いかに掻いくぐって、裏木戸開けておくか？”とか、“気づいたら、もうやってる”感じとか……ね（笑）」
現場で闘い、現場で考えているからこその「裏技」「反則技」を、楽しげに語っていた伊藤氏。しかし、3月15日にテレビ東京は4月1日付人事で、伊藤氏の制作局長昇進を発表した。“現場で執行せよ”な、エグゼクティブプロデューサーと違い、制作局のトップともなると、統括としての業務が中心となる。現場から離れるなんて、想像できないのでは？　と問うと、「制作局こそ現場です！」と即答。
「現場に寄り添い続ける局長を目指します！　我慢できずに作っちゃったりして（笑）」
カリスマが新たな“裏木戸を開け”、“気づいたら、もう”“作っちゃった”番組が、放送される日を密かに期待したい。

鍬田美穂

鬼怒川毅

『モヤさま』で「伊藤P」の愛称で親しまれるカリスマプロデューサーが語る「テレビ論」。制作表直後の質問に示した見解とともにノーカットでお届けする

【完全版】テレ東”伊藤Ｐ”独占インタビュー「心配してます？僕が辞めるんじゃないかって」

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