藤岡 佳世

<h3>音声情報のみの“聞く読書”オーディオブックは、我々の脳に何をもたらすか？</h3>
小説、ビジネス書、学習本など様々なジャンルのコンテンツをプロのナレーター等が朗読してくれて、隙間時間に効率よく本の内容や知識が得られると利用者の数が伸びているオーディオブック。読書をする時間がとれない、本を読むのが苦手という人でも、ラジオ感覚で読書が楽しめると評判がいい。
利用者の多くが、読書効率がアップし、読書量が増えたというが、音声情報のみの“聞く読書”オーディオブックは脳にどのような影響をもたらすのか。株式会社「脳の学校」代表、脳科学者・加藤俊徳医師に話を聞いた。
<figure id="attachment_304455" aria-describedby="caption-attachment-304455" style="width: 2400px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="70b6cc06"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/17d46eb76b763eb78bd8e9d9c380315f.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304455" class="wp-caption-text">脳番地トレーニング、脳科学音読法を提唱する加藤俊徳先生。また、ウォーキングで多大な影響を受ける場所は「脳」である、と運動脳を活性化するウォーキングを推奨。自身も脳のために長年ウォーキングを続けている</figcaption></figure>
――加藤先生は、ラジオ聴取と脳の成長の関係をMRI画像診断で解析した世界初の実証実験をされ、ご自身の著書をオーディオブック版でも数冊出されていますが、ラジオと同じような効果はオーディオブックにも期待できますか？
「ラジオとオーディオブックでは、厳密に言うと、脳科学的にはちょっと違う要素もあるかもしれませんね。実験では、ラジオは言語系を使うので聴覚系脳番地がいちばん刺激されるのかなと思っていましたが、実際には右脳の記憶系脳番地だったり、理解系脳番地のほうがより活動していたんです」（加藤氏、以下同） 
先の実験では、ラジオを聞き続けることによって、記憶系脳番地が最大で2.4倍、聴覚系・理解系脳番地が最大で2倍成長したことが明らかになり、「ラジオを聞く」という行為が脳の成長に有益な働きをもたらしていることが実証された。 
「ラジオの場合は、パーソナリティーの声を聞くことで、実際に会っていなくても会ったような錯覚というか、感覚になるんですね。自分が理解したいものにすごく反応したのかなとも思います。人の話を聞くとき、積極的に理解しようとすると、非言語を司る右脳の働きを使って、空間から聞こえてくる音への理解もすごく高まるんだなと思いました」
右脳の記憶系脳番地はイメージ記憶に関わるところ。イメージ記憶は“見ること”と関係する働きだが、直接的な視覚の入力がなくても、脳の中にイメージとして視覚情報が作られ刺激が与えられる。実験では、ラジオを聞き続けることによって、言葉を想像力で補完する脳の働きが強化され、右脳の記憶系脳番地が特に活性化したと考えられるという。
「ですから、ラジオの聞き方の要素を入れて聞けば、同じような効果はあるのかなと思うんですが。オーディオブックって芸能人とかいろいろな人をナレーターに使ってはいるんですけど、ラジオのようなパーソナリティーのキャラを立てた上でというのとは違いますよね。 
代読してるということなので、脳科学的な見地からいうとズレがある。そこはちょっとラジオで聞くものとギャップがあるかなと思います」
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――朗読者と本のマッチングは重要なポイントですが、朗読者のキャラクター立てはなかなか難しいかもしれませんね。
「なんだか、今話していたら、僕は音読苦手だけど、それでも僕の本は僕が朗読したほうがいいような気になってきましたね。著者が朗読しているとなったら、慣れない語りでも聞いてみたい気がするよね。 
朗読はやはり、朗読者の読み方や声の印象に左右されるわけです。僕が読むのと誰か有名人が読むのとでは全然印象が違う。例えば僕の本を西島秀俊さんとか、綾瀬はるかさんが読んでくれるなら、もちろん『どうぞ、どうぞ』なんだけど、だいぶニュアンスは変わるでしょう。 
好きな俳優さんや好きな声の場合、僕が読むのとは別の意味で脳が刺激されて、活性化するということもあるだろうけど。 
オーディオブックの著者編、西島秀俊編、綾瀬はるか編って。そういったオーディオブックが出たら、めっちゃ面白いのかなって思いますね。これ、いいアイディアだな。今話しててひらめいちゃったわけだけど、今後、著者が自分で朗読するというのも進むんじゃないだろうか。 
著者が朗読すると、主張が入るので、右脳がもっと刺激されると思うんですよ。例えば脳の強化法のことを説明する際に、僕が脳番地のことを思い浮かべながら『脳の強化法があるよ』って言うのと、他の人が文字を追って脳の強化法のことを読み上げるのでは、その含みのイメージが全く違うので」
――それは小説でも同じことがいえますか？
「確かに著者が小説を朗読したら聞きたくなりますよね。でも、小説になるとまた登場人物があったりするんでちょっと違うかとは思います。専門家として著者が話をするのだとしたら、オーディオブックとして意味があるように思いますね」
<figure id="attachment_304456" aria-describedby="caption-attachment-304456" style="width: 1322px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="603a58b3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/c5c9fd9954505e60967d94c946fce193.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304456" class="wp-caption-text">脳番地とは、加藤医師が提唱する脳の分類法。左脳・右脳を合わせて約120区画に分かれている脳を、聴覚系・記憶系・思考系・視覚系・理解系・伝達系・感情系・運動系の8系統のエリアに大別する</figcaption></figure>
<h3>視覚系が強いか、聴覚系が強いか。人によって、どちらがより優位に働くかが決まっている</h3>
「僕自身は聴覚系の脳番地が弱いと思っているんですね。35年間、脳画像を見て診断しているので、圧倒的に視覚系が発達しています。 
たとえば、視覚系が得意な人がテレビを見たら、どうしても視覚認知が高くなります。逆に、聴覚系が強い人はテレビを見ているときにテロップを追いかけなくても話し言葉がすんなり耳に入ってきて理解もしやすい傾向があるんです。 
音楽が得意でクラシックをいつも聞いている人がラジオやオーディオブックを聞くのと、絵描きさんや、毎日グラフィックをやっている人が聞くのとでは違いがあるということです。 
視覚系の特性が強いか、聴覚系の特性が強いかによって、だいぶ聞き方が違ってくるんだと思います。そういう意味で、脳科学的な見地からのメリットといえば、弱い脳を強化したり、強い脳をさらに強化するということがオーディオブックやラジオにはあります」 
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<h3>女性は聴覚系が強い人が多く、男性は視覚系が強い人が多い</h3>
もともとの、幼い頃の脳の発達の仕組みから、女性は聴覚系が強い人が多く、全体のおよそ8割、男性は視覚系が強い人が多く、全体のおよそ6割を占めると言われている。
「聴覚系が強い人は、言葉の情報が入りやすいのが特徴ですから、オーディオブックを聞いたときに、女性のほうが言葉の記憶を高めやすい、男性のほうが情景を浮かべやすいという傾向があると思います。なので、使い方を考えれば、男性のほうがオーディオブックを聞いてボケ防止になるとか、言語記憶の強化になるということはあると思いますね。 
いずれにしても、視覚派、聴覚派のどちらも、聴覚を働かせる習慣を持つことは、脳全体を活性化させる上でとても重要です」
<h3>“ながらオーディオブック”の中でも、ウォーキングはとくにエピソード記憶を刺激する</h3>
――先生は普段からウォーキングをすすめられていますが、オーディオブックを聞きながらのウォーキングはプラスの効果がありますか？
「僕は最高に良いと思っています。歩く、移動することはエピソード記憶を刺激するんです。人間の脳、海馬は、特にエピソードに反応します。エピソード記憶を刺激しながらオーディオブックを聞くことによって、オーディオブックを聞いたという出来事、内容が定着しやすくなります。 
つまり、いつも同じ部屋の空間の中でオーディオブックを聞くというシチュエーションより、あのときあれ勉強したよね、という出来事を作り出す状況が強くなるということです。 
認知症、アルツハイマーになったら、エピソード記憶が入らなくなるんです。歩きながらオーディオブックを聞くというのは、すごくエピソード記憶を刺激することになると思います」 
<figure id="attachment_304457" aria-describedby="caption-attachment-304457" style="width: 3500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7173fa05"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/04/aflo_61210959.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-304457" class="wp-caption-text">外を歩くということは道にいろんな物があり、移動することで多様な情報が入ってくる。感情が刺激されるので、エピソード記憶が反応しやすく、耳から入った情報が定着しやすいという相乗効果がある</figcaption></figure>
――寝る前に“聞く読書”をすると脳に良い効果ってありますか？
「あると思いますね。僕は『頭がよくなる！寝るまえ一分おんどく366日』（西東社）という本を出していますが、やっぱり寝る前に音読して、そのあと寝ると記憶に定着しやすいですね。寝ている間に記憶として定着するんです。 
音読というのは自分で声を出して読むもので、オーディオブックは音声を聞くということですけれど。聞いたことを自分で喋ろうと思いながら聞くと、伝達系脳番地も刺激されやすいんですね。人間って、喋るために聞くので。それを覚えて、自分で言おうとして聞くと定着しやすいと思います」
その方法ならば、語学の教材や学習本などにうってつけだ。たとえば、寝る前に英単語や英会話等を聞きながら、自分でも発音したりすると、記憶に定着しやすいという。睡眠の妨げにならない程度に、頑張りすぎないのがコツだそう。
――先生はオーディオブックはおすすめされますか？
「使い方を選べば有用性は高いと思います。僕自身は紙媒体派なので、聞くほうは気分転換感覚ですね。やはり、視覚だけ使っていると脳番地にシフトしにくいので、音声メディアも入れるほうがいいですから。ラジオ感覚で使いこなせたらいいのかなと思っています。 
本当は両方あるといいですね。活字派の人は文字で読んだあとにオーディオで聞くとより理解が深まると思いますし、オーディオ派の人はオーディオで聞いた後に本を読むと速読術がアップするといった効果があると思います」
オーディオブックは無料お試し期間が設けられている場合も多い。朗読するナレーターの好みや聞き取りやすさ、サービス内容やアプリの使いやすさが自分にあっているかどうか、是非試してみることをおすすめしたい。
加藤俊徳（かとう・としのり）　脳内科医・医学博士、加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。脳番地トレーニングの提唱者。2006年、株式会社「脳の学校」を創業。加藤式MRI脳画像診断を用いて小児から超高齢者まで1万人以上を診断・治療、発達障害などの脳の特徴を診断。加藤プラチナクリニックでは脳の健康状態、個性や適職などを診断し、薬だけに頼らない脳の治療を行う。著書に、『アタマがみるみるシャープになる！！脳の強化書』※（あさ出版）、『1万人の脳を見た名医が教える　すごい左利き』※（ダイヤモンド社）、『一生頭がよくなり続ける　すごい脳の使い方』※（サンマーク出版）、『最強のウォーキング脳』（時事通信社）ほか多数（※はオーディオブックも発売中）。
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藤岡佳世

プロのナレーター等が朗読してくれて、隙間時間に効率よく本の内容や知識が得られると利用者の数が伸びているオーディオブック。音声情報のみの“聞く読書”オーディオブックは脳にどのような影響をもたらすのか。

“ラジオを聞くと頭が良くなる！？”の効果は「オーディオブック」にも当てはまるのか？

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