株式会社マリブジャパン代表取締役、事業構想大学院大学客員教授、金融アナリスト。1969年、岐阜県生まれ。1993年慶應義塾大学経済学部卒、2000年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。三菱銀行、シティグループ証券などを経て、2013年に同社を設立。世界60か国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画「スターウォーズ」の著名コレクターでもある。著書に『銀行ゼロ時代』（朝日新聞出版）、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』（講談社+α新書）、『地銀消滅』（平凡社）など。

高橋 克英

<h3><span class="strongInContent">&#8220;SNS&#8221;を介しての信用不安⇒インターネットを通じた「預金の取り付け騒ぎ」…</span></h3>
<p>今年3月8日、米国西海岸のシリコンバレーバンク（SVB）において、債券売却に伴う損失が発表されると、SNSなどを通じて信用不安が高まり、翌日9日だけで約5兆円（420億ドル）の預金が流出し、わずか2日後の10日には経営破綻した。また、3月12日には、ニューヨークのシグネチャーバンクが経営破綻した。</p>
<p>更に、サンフランシスコのファースト・リパブリック・バンク（FRC）の預金が3ヵ月間で約9.6兆円（719億ドル）も減少したことから、株価も急落し、5月1日に経営破綻した。FRCの総資産は約31兆円（2291億ドル）で全米14位、米国史上2番目の規模の銀行破綻となった。我が国のトップ地銀であるふくおかFGの総資産が約28.8兆円（’22年末）であることからも、その衝撃の大きさが分かる。</p>
<ul>
<li><span class="strongInContent">3月10日＿シリコンバレーバンク（全米16位）</span></li>
<li><span class="strongInContent">3月12日＿シグネチャーバンク（全米29位）</span></li>
<li><span class="strongInContent">5月1日＿ファースト・リパブリック・バンク（全米14位）</span></li>
</ul>
<p>わずか2ヵ月足らずで、合わせて3つの銀行が破綻する異例の事態だ。</p>
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<p>いずれのケースも、&#8221;SNS&#8221;を介して信用不安が高まり、オンライン上を含む取り付け騒ぎもあり、短期間で預金が流出し、経営破綻に至っている。こうしたSNSやインターネットを通じた預金の取り付け騒ぎは、「デジタル・バンク・ラン」とも呼ばれている。</p>
<figure id="attachment_309755" aria-describedby="caption-attachment-309755" style="width: 5405px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2755e997"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/aflo_217316667.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-309755" class="wp-caption-text">経営破綻したファースト・リパブリック・バンク（PHOTO:アフロ）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">日本でも「預金流出」はたびたび起きている</span></h3>
<p>米国でも日本でも銀行では、例えば、10兆円の預金に対して、銀行は、引出しに備えて常時10兆円の現金を金庫に用意している訳ではない。預金を原資に、企業への貸出などに使われており、預金が短期間に大量に引き出されることを想定していない。このため、ネットなどで短期間に大量の預金が流出すれば、資金繰りが困難となり、経営破綻に追い込まれてしまうのだ。</p>
<p>「日本と米国の銀行では事情が違う」「日本の金融システムは盤石」との声も多いものの、実は、預金流出や取り付け騒ぎ自体は、日本においてもたびたび起きているのをご存じだろうか。</p>
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<h3><span class="strongInContent">愛知と佐賀の「デマ騒動」</span></h3>
<p>今から丁度50年前の’73年、愛知の豊川信用金庫では、女子高生の「信金なんて危ない」との冗談が口コミで街に広まり、預金の取り付け騒ぎが起こった。20年前の’03年には、佐賀銀行において、デマメールをきっかけに、取り付け騒ぎが起きている。</p>
<p>上記の愛知と佐賀の件は、あくまでも根拠のないデマが原因である。しかし、バブルが崩壊し不良債権が大問題となっていた’95年には、その後経営破綻したコスモ信用組合や木津信用組合で取り付け騒ぎが起きている。当時のNHKニュースや新聞報道などでも大きく報道されており、記憶にある読者の方も多いかもしれない。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="戦後最大の「取り付け騒ぎ」"></div>
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<h3><span class="strongInContent">戦後最大の「取り付け騒ぎ」勃発</span></h3>
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<p>そして’97年11月26日には、戦後最大の取り付け騒ぎが全国各地で起きた。</p>
<p>この年の11月は、3日に三洋証券、17日には北海道拓殖銀行、24日には山一證券と毎週のように大手の金融機関が相次いで破綻するという騒然とした雰囲気のなか、26日、徳陽シティ銀行の経営破綻をきっかけに、預金者の不安が極限に達し、とうとう全国各地で取り付け騒ぎが起きることになる。</p>
<p>以前から経営不安説がくすぶっていた、安田信託銀行、三井信託銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行といった大手行から、足利銀行や紀陽銀行といった大手地銀まで、札幌、宇都宮、東京、名古屋、大阪、福岡など日本全国のあまたある銀行の店舗の前には、開店前から、預金の解約を求める人々の長い行列ができた。</p>
<figure id="attachment_309756" aria-describedby="caption-attachment-309756" style="width: 2050px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2bac4241"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/aflo_60759646.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-309756" class="wp-caption-text">1997年11月25日、山一証券が財政難のため事業閉鎖を発表。翌日、東京支店の外には顧客の長い行列ができた</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">東京・名古屋・大阪・福岡でも行列</span></h3>
<p>’97年当時、東京・兜町にて証券会社に勤務していた筆者にとっても鮮明に覚えている出来事だ。日本はどうなってしまうのか、強い不安を覚えたのを記憶している。</p>
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<p>なお、金融当局からの通達や銀行内のマニュアルに従い、行列が行列を呼びパニックになることを避けるため、外に並んでいた預金者を開店前の店内に入れて、応接室や会議室などで待機してもらうなどして、極力、行列や混雑を目立たなくすべく動いたという。</p>
<p>「安田信託銀行のある支店では、整理券の番号を九十九番で止め、九十九人目以降は、何番目でも『九十九番』が渡された。預金者の動揺を防ぐ措置だった。」（『金融迷走の10年』日本経済新聞社編）という。</p>
<p>幸いなことに、ほとんど全てのメディアが取り付け報道を「自粛」したため、取り付け騒ぎはそれ以上広がらなかった。</p>
<p>電話や口コミを除けば、新聞とTVやラジオのニュースが情報伝達の主流の時代だ。当時はインターネットの利用者も限られ、LINEやTwitterといったSNSもなかった。初代iPhoneの発売も’07年6月と10年も先のことだ。<span class="strongInContent"> </span></p>
<h3><span class="strongInContent">「SNSの威力」を侮るなかれ</span></h3>
<p>しかし、令和の時代、’97年当時と大きく違うのが、インターネットやSNSの普及だ。SNSであっという間にメッセージや動画が拡散し、ワンクリックで大量の資金を移動できるネットバンキングの普及は、冒頭の米国SVBの破綻に象徴されるように、金融機関や金融当局側に、預金流出を防ぐための時間の猶予を与えないことになる。</p>
<p>SVBの時のように、預金者のアクセス集中でシステムダウンが起きれば、火に油を注ぐことになる。今や取り付けは銀行窓口ではなく、24時間365日いつでもネット上で起きるのだ。</p>
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<p>4月6日の衆議院財政金融委員会にて、鈴木俊一財務大臣も「SNSの利用などにより信用不安が非常に速いスピードで進んだ」「時間と場所を問わないインターネットバンキングにより、預金流出が一気に加速した」と答弁している。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「ターゲットとなる銀行」とは…"></div>
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<h3><span class="strongInContent">万が一の場合も「ペイオフ制度」などが整備されている</span></h3>
<p>もっとも、こうした事態に備え、我が国の場合、ペイオフにより万が一、銀行が破綻した場合も預金は1000万円まで保護される。また、欧米の制度同様、預金の全額保護や、公的資金の注入、一時国有化など例外的な特例措置も整備されている。</p>
<p>欧米の金融不安に関しても、植田和男日銀新総裁が「日本の金融機関は充実した資本、十分な流動性を備えており、現時点でこの問題が我が国経済に大きな影響を与えるとはみていない」というように、日本の金融システムは健全であり、邦銀には損失に耐えうる十分な資本があるという。</p>
<p>それは確かにそうだが、欧米にはない日本固有の事情もある。①人口減少や過疎化による国内市場の縮小、②異業種の進出やデジタル化による銀行離れ、といったより根本的な問題のことだ。特に多くの地銀は、単独での生き残りは事実上困難であり、店舗や人員のリストラや、規模の経済を得るための合従連衡による「一県一行」体制も着々と進んでいる。</p>
<p>我が国において、直ちにどこかの銀行に、預金流出や取り付け騒ぎが起きるとは考えられないが、SNSやインターネットバンキングを通じて突如、始まるのが令和版の「取り付け騒ぎ」でもある。</p>
<figure id="attachment_309757" aria-describedby="caption-attachment-309757" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9b77cb4f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/aflo_211560221.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-309757" class="wp-caption-text">「日本の金融機関は充実した資本、十分な流動性を備えており、現時点でこの問題が我が国経済に大きな影響を与えるとはみていない」という植田和男日銀新総裁</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">「ターゲットとなる銀行」とは</span></h3>
<p>こうしたなか、日本にもターゲットになりかねない銀行はあるのだろうか。</p>
<p>ネット経由の預金比率が高かったり、スタートアップ企業への傾斜が高い、地元の個人・中小企業取引が少ない、また、資産規模が小さい、大口預金が多い、赤字や減収減益である、不祥事やシステム障害が多い、債券含み損が多い、自己資本が脆弱だ、合従連衡や業務提携に消極的といった銀行は、ターゲットになりやすい。</p>
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<p>直近の事例では、スルガ銀行のシェアハウス不祥事、みずほ銀行のシステムトラブルをきっかけに、一時期、預金が流出している。</p>
<p>特に、ネット経由の預金は要注意だ。営業地域に関係なく全国から顧客を集めることが出来る反面、金利重視のため、元々逃げ足も速い。ひとたび、SNS上で経営不安説が流れれば、ポッチとクリックするだけで、預金の解約や移動が可能なのだ。</p>
<p>地銀や信金では、BCP（業務継続計画）の一環として、取り付け騒ぎを想定し、定期的に模擬訓練を実施しているところもある。</p>
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<p>SNSによる預金流出から、日本発の金融危機へと進む最悪の事態も想定して、金融当局も各金融機関も、備え始めている。</p>


株式会社マリブジャパン代表取締役、金融アナリスト。事業構想大学院大学　客員教授。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンクなどを経て、'13年に金融コンサルティング会社マリブジャパンを設立。世界60ヵ国以上を訪問。バハマ、モルディブ、パラオ、マリブ、ロスカボス、ドバイ、ハワイ、ニセコ、京都、沖縄など国内外リゾート地にも詳しい。映画『スター・ウォーズ』の著名コレクターでもある。'93年慶應義塾大学経済学部卒、'00年青山学院大学大学院 国際政治経済学研究科経済学修士。著書に『銀行ゼロ時代』（朝日新聞出版）、『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』（講談社）、『地銀消滅』（平凡社）など多数。

高橋克英（たかはし・かつひで）

アフロ

相次ぐ米国銀行の破綻。わずか2ヵ月足らずで、合わせて3つの銀行が破綻する異例の事態だ。いずれのケースも、SNSを介して信用不安が高まり、短期間で預金が流出し経営破綻に至っている。日本は大丈夫なのか？

SNSの普及でリスクはさらに増大…日本でも意外に起きている「銀行取り付け騒ぎ」の歴史

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