'77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。

石井 光太

「こんな成績を取るなんてクズ以下」…中学受験でうつ病に「子供を心身で追いつめる加熱親」の戦慄言動

20歳の男子が「母乳を飲みたい」…行き場を失った若者を再起させる「埋め合わせ＆価値観上書き」体験

ノンフィクション作家・石井光太が社会・事件に迫る！衝撃ルポ

<figure id="attachment_310337" aria-describedby="caption-attachment-310337" style="width: 1999px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5b9fec61"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/pl-2013101193667.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310337" class="wp-caption-text">親からの虐待により犯罪行為も当たり前だと考える少女も多い（写真はイメージです）</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「最近は、家を失っても、お金の問題でネットカフェ難民にすらなれない若い人が増えています。特に10代の子はそうです。代わりによく見られるのが、オンラインゲームやSNSでつながった人の家に転がり込むケースですね。そこで性的被害などトラブルにあって居場所をなくして、うちにたどり着く人もいます」</span></p>
<p>そう語るのは、熊本県で10代～20代前半の若者たちを支援するNPO法人「トナリビト」の山下祈恵代表だ。</p>
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<p>少し前まで、住居をなくした若者たちの拠り所はネットカフェだった。だが、ネットカフェの身分証のチェックなどが厳しくなり、かつ日雇いや売春をしても十分な収入を得られなくなったことで、そこすら利用できない人たちが増加している。</p>
<p>そんな若者たちのよすがとなっているのが、ネット上の「友人」だ。今の若者は、ゲームやSNSで交わる匿名の相手を持っており、顔や本名を知らなくても「友人」だと考えている。そして困った時、彼らに助けを求めてアパートに転がり込み、居候させてもらうのだが、そこには数多くのリスクが潜んでいる――。</p>
<p>住居のない若者たちを追うシリーズ「ヤング・ホームレス」。今回は、そんな若者たちのリアルについて見ていきたい。</p>
<h2>家に帰れずオフィスで寝泊まりする若手社員</h2>
<figure id="attachment_310342" aria-describedby="caption-attachment-310342" style="width: 3883px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="87ce3994"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/IMG_3887-2-1.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310342" class="wp-caption-text">行き場を失い繁華街で売春行為にはしる少女も（写真はイメージで一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>熊本市内に、トナリビトが運営する相談窓口・居場所スペース「おとなりさん」がある。正スタッフの他、ボランティアの相談員、弁護士などが、事情を抱えた若者たちを受け入れ、支援をしている。</p>
<p>ここは月に80～100件ほどの利用があるが、若者から寄せられる相談は深刻なものばかりだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「転がり込んだ先の家を追い出されて寝る場所がない」「親から暴力を振るわれて、もう一緒に暮らせない」「同棲中の彼氏からDVを受けているけど、お金がないので逃げ出せない」「仕事を辞めたせいで会社の寮に暮らせなくなった」……。</span></p>
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<p>中には一般企業から問い合わせがあり、うちのオフィスにDVで家に帰ることのできない若い社員が寝泊まりしていて困っている、と相談されたこともある。</p>
<p>山下は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「うちに来るのは、家庭内で虐待を受けている若者から、そこをいったん逃げ出して知人の家を転々としたり、売春をしたりしている若者まで様々です。</span></p>
<p><span class="strongInContent">こうした子たちに多く見られるのは、虐待や貧困などの傷つき体験と、被害者意識による少し歪んだものの考え方です。親ガチャという言葉が流行っていますが、自分は被害者だから努力してもダメなんだとか、何をやってもいいんだみたいな後ろ向きの思考になっていることが目立ちます」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="15歳の少女が体験した「地獄の日々」"></div>
<figure id="attachment_310356" aria-describedby="caption-attachment-310356" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4ba65265"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/IMG_3870.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310356" class="wp-caption-text">新宿・歌舞伎町などの繁華街には行き場を失った多くの若者が集う（写真は一部加工しています）</figcaption></figure>
<p>山下が接したハルカという15歳の女性がいる。彼女は親からネグレクト（育児放棄）を受けて育っていた。食事をもらえずにお腹が空いたと訴えると、親からは「あの店から盗んでこい」と言われた。それで彼女は小さな頃から万引きをしてはお腹を満たすということをしてきた。</p>
<p>山下がハルカを知ったのは、彼女が高校１年の時だった。親が失踪したことで高校を中退し、山下のもとにやってきたのだ。この時、ハルカは、ネグレクトの影響から、何日も入浴しないことはざらで、バイト代はもらったらすぐに使い果たし、お腹が空いたら万引きした商品を口に入れるという荒んだ生活をしていた。</p>
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<p>ハルカは山下にこう語った。</p>
<p><span class="strongInContent">「うち小さい時からさ、親がさ、『盗ってこい』って言うからさ、行くじゃん？　だってみんなしてた。親も、おじいさんもおばあさんも。でも誰も何も言わんかったし、そうしないとご飯ないじゃん？　でもご飯食べないと死ぬじゃん。お腹空いて、目の前に食べ物あったらさ、それ盗っちゃダメ、とか考えないじゃん」</span></p>
<p>ハルカは自分が毒親の被害者だということに無自覚だった。だからこそ、万引き行為をずっと当たり前のことだと思って成長してきた。逆に言えば、それまでの間にその考えを是正する機会が与えられてこなかったのだ（詳しくは共著『非行少年の加害に向き合おう！』現代人文社を参照）。</p>
<h2>「社会がルールを破っているのに」</h2>
<figure id="attachment_310359" aria-describedby="caption-attachment-310359" style="width: 3888px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2da71f5f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/IMG_3879.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310359" class="wp-caption-text">家出した若者には様々な誘惑の手が（写真はイメージで加工しています）</figcaption></figure>
<p>不幸な境遇にある若者たちのこうした論理は、本連載でも度々紹介してきた。「貧しいからしょうがなかった」と言って特殊詐欺を肯定する少年、「親から性的虐待を受けてたから、もう自分なんてどうでもいいと思っている」と言って売春を肯定する少女などだ。こういう論理を振りかざすことで、彼らは社会からますます疎外されていく。</p>
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<p>山下は言う。</p>
<p><span class="strongInContent">「あの子たちの理屈が正しいとは思いません。被害者だからといって悪いことをしていいということにはならない。でも、考えなければならないのは、彼らにルールを守れという社会の側が、あの子たちを傷つけてきたということです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">たとえば、彼らの中には学校の先生から暴力を受けたり、児童養護施設で暴力を受けたりした経験のある子がいます。彼らはこう言います。『社会がルールを破っているのに、なんで俺にルールを守れと言うんだ。そんなのおかしいじゃないか』</span></p>
<p><span class="strongInContent">このように言われると、私は答えに詰まります。そうだよね、社会のほうが間違っているよね、と思ってしまう。悲しいですが、彼らに歪んだ論理を植え付けたのは社会の大人たちなのです。彼らが間違った考えを捨てられないのは社会の側に責任の一端があるのです」</span></p>
<p>私も取材中に何度も同じ経験をした。以前、中学生の少女を束ねて売春の斡旋をしていた19歳の女性と話したことがあった。彼女はこんなことを言っていた。</p>
<p><span class="strongInContent">「うちがウリ（売春）をやってた時、教師や役人や市議とかが客にたくさんいた。みんな公務員っしょ。あいつらがうちを買っているのに、国がうちに売春や斡旋は違法だからやめろって言うのっておかしくない？」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="幼い頃からすっぽり抜けている経験"></div>
<figure id="attachment_310361" aria-describedby="caption-attachment-310361" style="width: 5760px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="559df6ce"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/aflo_23388308.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310361" class="wp-caption-text">家庭問題を抱える若者のサポートが急務だ（写真はイメージです）</figcaption></figure>
<p>彼女の言うように、社会の側がルールを破っていながら、弱い立場の人に対してそれを押し付けている現実があるのだ。</p>
<p>山下は話す。</p>
<p><span class="strongInContent">「あの子たちに歪んだ価値観をすり込んだのは、大人であり、社会なのです。だからこそ、あの子たちをきちんと受け入れ、価値観の上書きと埋め合わせ体験をさせることが重要です。『うちみたいなクソは、男にセックスしてもらえるだけでも感謝』とか『親に死ねって言われたから自分を傷つけていい』みたいな価値観を別のものへと上書きすることが不可欠なのです。</span></p>
<p><span class="strongInContent">もちろん、簡単なことじゃありません。それには彼らが幼い頃に経験させてもらえなかった『愛される』という体験をいろんな形でさせなければならないからです」</span></p>
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<p>彼らは幼い頃に親から愛され、大切にされた経験がすっぽりと抜け落ちている。だからこそ、そこの部分を埋め合わせ、歪んだ価値観を上書きすることが必要なのだ。</p>
<p>しかし、それは簡単なことではない。一旦手を差し伸べると、20歳前後の若者の中には「母乳を飲みたいです」など、乳幼児の段階にまでさかのぼって愛情を求める者までいるためだ。</p>
<p>そんな若者たちのやり直しについて、【後編：行き場を失った若者を再起させる「埋め合わせ」体験】で詳しく見ていきたい。</p>
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<p>【<a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/310362">後編：行き場を失った若者を再起させる「埋め合わせ」体験</a>】</p>
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石井光太

ＤＶやいじめ、ネグレクトなどで家にいられなくなった若者たち。おカネの問題でネットカフェさえ逃げ込めない人もいる。ノンフィクション作家の石井光太氏が彼らののっぴきならない実情を生々しくリポートする。

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