「世界一細い医療用の針を開発したので投資して欲しいと頼まれ、渡した１億円以上が今も戻ってきません」
そう話すのは大阪在住の実業家Ｕ氏だ。
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近年、詐欺事件が急増。とくに振り込め詐欺に代表される「特殊詐欺」が目立っている。警察庁の発表によると、特殊詐欺の実質的な被害総額は’22年だけで実に約361億円にものぼる。
<figure id="attachment_310718" aria-describedby="caption-attachment-310718" style="width: 2870px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="836daa21"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/78c77abd7058b7153ae028cc406419c2.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310718" class="wp-caption-text">「フィリピン全土に郵便局網をつくる」という言葉を信じ、2000万円以上を渡したという被害男性</figcaption></figure>
<figure id="attachment_310717" aria-describedby="caption-attachment-310717" style="width: 1965px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5d42db8d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/05457a947ead1c856044e96f3c453e0f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310717" class="wp-caption-text">「フィリピン郵政投資」にカネを出した被害男性（右側）と、出資を募った人物とのメッセージのやりとり</figcaption></figure>
だが、こうした事件は、何も特殊詐欺だけに限らない。「ナゼ騙されるの？」と、首をかしげたくなるような、変わった手口の詐欺も多いのだ。例えば、フィリピン全土に郵便局網をつくる国家プロジェクトに投資しないかと持ち掛けられ、2000万円以上を騙し取られた男性が今年１月、本誌で告発。言葉巧みに相手を欺く様子を報じている。そうした世にも珍妙な詐欺事件の数々を追った――。
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<h2>「世界一細い針」詐欺</h2>
大阪の歓楽街、北新地にあるＡＮＡクラウンプラザホテル。１階奥のカフェで待っていた冒頭のＵ氏の前に、スーツ姿の男が現れたのは’16年春のこと。やり手のビジネスマンに見えるこの男は40代のＫ。東京・渋谷の道玄坂にオフィスを構える自称・投資会社の経営者だ。
「例のサンプル、お持ちしました」
Ｋは鞄の中からプラスチック製の箱を取り出し、丁寧にテーブルの上に置いた。ゆっくり箱を開けると、スポンジの上に金属製の細い棒が一本載っていた。
「ほほう、これですか……」
「はい。オムロン製の針よりも細いです。今後、実用化されれば、予防接種や人工透析など世界の多くの医療現場で使われます。針の国際特許は当社が持っているので、世界の市場を独占できるはずです」
箱の中の針をじっと見つめるＵ氏に、Ｋは続けてこう言った。
「ただ、中国にある工場で針を量産するためには、あと３億円が必要なんです」
ＫはＵ氏に、投資すれば会社の利益から毎月20％の配当を出すと付け加えた。
さらにＫは、ある官僚の息子を会社の顧問に据えていることや、大物自民党議員や巨人軍の有名選手と親交があると、ツーショット写真を見せてＵ氏を信用させた。Ｕ氏は、１億円以上を投資。だが、後日、知人からの一報に耳を疑った。
「Ｋが飛びました！」
慌てたＵ氏はＫに電話するが繋がらない。オフィスも既にもぬけの殻だった。
「被害届を出そうにも、領収書も契約書も交わしていません。騙された証拠が何もないから、泣き寝入りするしかない」
そう肩を落とした。
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<h2>怪しい「アフリカ砂金投資」</h2>
「砂金の採掘事業に投資しませんか」
こんな話を持ち掛けられたのは、京都の会社経営者Ｔ氏だ。ここに、複数枚の写真がある。
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「砂金の採掘をしている現場写真や、金塊の山、作業員のスナップ写真など、これらは砂金を採掘している証拠だということで見せられました」（Ｔ氏）
今から７年ほど前――。京都市内の某所に、投資家が10人ほど集まっていた。
「案件（投資話）を持ってくる人をゲストとして招き、定期的に説明を聞く会です」（Ｔ氏）
そこにゲストとして参加したのがＨという40代の男だった。
「Ｈは埼玉県で税理士をしていると聞いていました。Ｈは最初、コンゴ共和国から別の国を経由して日本に金塊を密輸する話を持ってきた。消費税のない国から金塊を密輸し日本で売れば、消費税分が利益になるという手口で、当時、裏社会では盛んに行われていました」（同前）
金塊の密輸なら確実に利益が出る。そう力説したＨは、英文で書かれた書類を示しながら、こう話した。
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「これが金200㎏を買った証明書です」
投資家の一人がＨの話に乗ったこともあり、Ｔ氏も試しに2000万円を用意した。すると今度はＨが、こんな話を始めた。
「知り合いがアフリカで砂金を採掘する会社を持っています。砂金を採るためには許可が必要だが、既に許可は下りており、この会社に投資すれば、13％から18％の利回りで配当できます。金塊の話とは別に、こちらの事業にも投資しませんか」
胡散臭いと思ったものの、会合に来ていたメンバーの中に、砂金採掘事業に投資し、配当を得たと話す人物がいた。
「半信半疑でしたが私も約2000万円を出してみると、最初の月に350万の配当を現金で持ってきたんです。その配当をまたつぎ込み、合計4000万円くらい投資。しかし数ヵ月で配当は止まった。おかしいと思ったときには、もう誰もＨと連絡がつかなくなっていました。結局、泣き寝入りです。Ｈは出資者に『預り証』まで発行して信用させていました」
そのＨが一度だけＴ氏の関係者の前に姿を見せたことがあった。’16年３月、大阪市中央区南船場の路上で30代の男性が、現金5600万円が入った鞄を強奪された事件。タタキと呼ばれるこの強盗事件の関係者ということでＨは後に裁判で証人として出廷している。だが、Ｔ氏がＨと接触することはできず、居場所も不明だ。当然、今も金は返ってこないとＴ氏は嘆いた。
<figure id="attachment_310719" aria-describedby="caption-attachment-310719" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0a7eb99a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/f6fdb0e1ac9adafd570646dddbd92f1f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310719" class="wp-caption-text">「アフリカ砂金投資」で使われた金塊の写真。他にも採掘場の写真など、被害者に多くの写真が提示された</figcaption></figure>
<figure id="attachment_310720" aria-describedby="caption-attachment-310720" style="width: 1863px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b3eda8f0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/59d9b1e6bd0e14d48184a571725795dd.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310720" class="wp-caption-text">「アフリカ砂金投資」で使われた書類。「コンゴで買いつけた証拠」と称して、多くの書類を用意していた</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="2400億円の定期預金？"></div>
<h2>2400億円の定期預金？</h2>
数年前から、メガバンクを巻き込んだ、きな臭い話が飛び交っており、関係者の間では、その話をこう呼んでいる。
「三菱に2400億円を預けた詐欺」
一体どういうことなのか。
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「千葉県に90代の資産家Ｎという人物がいる。Ｎは旧三菱銀行に2400億円を預けていたが、近年、銀行が『そんな金は預かっていない』と言って、揉めているというのです」（経済誌記者）
ここに「保護預り証」と「定期預金証書」のコピーがある。旧三菱銀行がＮに宛てた証書だといい、’78年から’86年まで頭取だった山田春(はじめ)氏の名が書かれている。
「これらの証書が、荒唐無稽なストーリーの小道具として使われています。Ｎの代理人と称する人物によれば、Ｎは田中角栄の現役時代に、政治家の裏金を管理していた七人衆の一人だと説明し、裏金の一部を自身の口座で預かっていたと主張。これらの証書を利用するなどしてカネ集めをしているようです」（同前）
この話は、経済事件を取材する記者の間で広まっていたという。
<figure id="attachment_310715" aria-describedby="caption-attachment-310715" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a6b369f2"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/df850e3162c60d6827db9a711537d44b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310715" class="wp-caption-text">「三菱に2400億円を預けた詐欺」で使用された定期預金証書のコピー。かつて三菱銀行の頭取を務めた山田春氏の名前が載っている</figcaption></figure>
<h2>王族詐欺の不気味な共犯者</h2>
「私は王族の末裔」
そう自称する日本人の男が福井県警に逮捕されたのは’19年のこと。
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「男は英国政府の承認の下で、ブライトン王国を建国すると吹聴。約１億円の保証金及び政府機能登記費用6000万円が必要だと騙った有名な詐欺事件です。17年間で32億円以上の金を集めていました」（経済ジャーナリスト）
筆者の手元に、ある警察関係者から入手した資料がある。約10年前、警察当局に持ち込まれた内部書類だという。
「当時、内閣情報調査室の職員だった人物が、首謀者らと共謀し『日本は近く財政破綻するため、ブライトン王国に金を預けた方がいい』などと出資を募っているとの情報が寄せられた。これはその調査資料の一部で、当時、詐欺に加担した疑いのある内調職員について、慎重に内偵をすすめていました」（警察関係者）
一昨年、名古屋高裁で自称・王族の末裔に対する控訴審判決があり、懲役４年６ヵ月の一審判決が言い渡された。
<h2>Ｍ資金に騙された会長</h2>
ＧＨＱ（連合国軍最高司令官総司令部）の秘密資金にまつわる「Ｍ資金詐欺」。この詐欺で史上最高額となる31億円を騙し取られた被害者は、「牛角」など外食チェーンを営む「コロワイド」の蔵人金男(くろうどかねお)会長だった。
「『マック・アオイ』なる偽名を使った日本人の男が、自分は英国の諜報機関ＭＩ６の元スナイパーだと騙った突拍子もない設定だったのですが、会長はすっかり騙されてしまった。この会長が凄いのは、今もＭ資金は存在すると信じ込んでおり、『帝国ホテルと米国大使館は地下道で繋がっているんだ』などと奇妙な話を報道陣に堂々とするのです」（前出・ジャーナリスト）
今年３月、詐欺罪に問われた男に懲役８年の判決が言い渡された。
こうした珍妙な詐欺話は、今もどこかで繰り広げられているのかもしれない。
<figure id="attachment_310716" aria-describedby="caption-attachment-310716" style="width: 1922px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2d0af467"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/e145ccfffd6dc729a22aa3f279f6a438.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-310716" class="wp-caption-text">’21年11月、「マック・アオイ」の裁判に訪れたコロワイドの蔵人金男会長（右）と、同社の野尻公平社長（左）</figcaption></figure>
『FRIDAY』2023年5月26日号より

甚野博則

酒井晋介（コロワイド）

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