1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』（太田出版）など。

田幸 和歌子

<h3><span class="strongInContent">「UberEats世代」vs.「出前世代」…「出前」という仕組みがどうしても腑に落ちないZ世代</span></h3>
<p><span class="strongInContent">「大学生の我が娘、ご近所の蕎麦うどん屋などの「出前」という仕組みがどうしても腑に落ちないらしい。プラ容器でなく、熱々の重い丼で届けてくれ、しかも後で丼をとりに来てくれて2往復になるのに手数料無料の意味が全くわからない、と。Uberが当たり前の世代は、出前がありがたすぎて混乱するらしい」</span></p>
<p>5月8日にTwitterでそんなツイートがされると、じわじわといいねやリツイートがつき、2～3日後には1.5万いいねを超えるプチバズリ状態を見せていた。</p>
<p>手前味噌で恐縮だが、実はこれ、筆者自身のツイートである。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>基本的に普段は仕事の告知のみの無味無臭なつぶやきばかりで、フォロワー数も少なく、ツイートへのリアクションは毎度ほぼ無風。SNS不得手な辺境アカウントなのに、突然何があったのか。不思議に思い、リプライやリツイートを確認していくと、意外な事実が見えて来た。</p>
<figure id="attachment_311993" aria-describedby="caption-attachment-311993" style="width: 2220px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="98f5a5ce"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/faed7d34f7e2a1757fdd08e47c36cb90.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311993" class="wp-caption-text">コンクールも開催されていたという蕎麦屋の出前風景。写真は、1937年に東京で撮影されたもの（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">「送料無料」が理解できないZ世代</span></h3>
<p>「いいね」やリツイートをしたアカウントやリプ等を見る限り、この話題に関心を示したのは「UberEats世代」と「出前世代」の双方に幅広くまたがっていたよう。</p>
<p>アカウントのプロフで「大学生」「成人済み」などと記載があるものをはじめ、若い世代と思しき人たちからの反応で多かったのが、<span class="strongInContent">「え！　出前って、送料無料だったの？」「おじいちゃんちで出前頼んでもらったことあるけど、送料無料なんて全然知らなかった」「出前って送料無料だったのか…確かにわけわからん」「お得すぎて意味がわからない」</span>と、娘と同様、<span class="strongInContent">「送料無料」</span>であることが理解できないというもの。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>コロナ禍で急速に浸透したUberＥatsしか知らない若い世代は、「出前」という未知のシステムに驚き、混乱したり感動したりしている様子が多数見られた。</p>
<p>その一方で、中高年など、出前に馴染みのある世代からは、出前に対する若い世代の反応を新鮮に、あるいは衝撃的に受け止める声が続出。</p>
<ul>
<li><span class="strongInContent">「若い子は出前を知らないのか。昭和は遠くなりにけり」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「古き良き時代だったんだなあ」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「しばらく出前をとってない。懐かしいなあ」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「若い子には『蕎麦屋の出前』（※遅いと催促の電話をすると、『今、出ました』などと言うが、まだ調理すらしていないことも多い。適当な返事のたとえ）という言葉ももう通じないのか」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「返す食器を洗う洗わないで議論することはもうないんでしょうね」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「これまで全然気づかなかったけど、出前ってありがたいことだったんだな」</span><span class="strongInContent"> </span></li>
</ul>
<figure id="attachment_311994" aria-describedby="caption-attachment-311994" style="width: 4589px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c1f39bab"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/1d05658b5f32e0644101b39b63237379.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311994" class="wp-caption-text">昨年末の調査によると食事のデリバリーサービスを利用する人は4割で、月1回以上の利用者は約8%、デリバリーサービス利用者の2割強という結果に（マイボイスコム株式会社の『デリバリー』に関するインターネット調査より）</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="「手数料がもったいなくて頼めない」出前世代"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
<h3><span class="strongInContent">「手数料がもったいなくて頼めない」出前世代</span><span class="strongInContent"> </span></h3>
<p>一方、出前に馴染みのある世代からは、<span class="strongInContent">「逆にその世代の者はUberとかそもそもの価格設定も高い上に配達料払うなら自分で買いに行くか食べに行くか諦めるのよね」「逆に出前を知る世代だと、手数料とかとられるUberはもったいなくて頼めない」「出前が普通にあった世代だと『UberEatsは高い』イメージが抜けない」</span>という声も多数あがっていた。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>また、ツイートの盛り上がりの一端を担っていたのは、「手数料無料」がなぜ成立していたかについての様々な見解だ。どれも一理ある分析である。</p>
<ul>
<li><span class="strongInContent">「使い捨て容器と違って、丼は洗えばまた使えるから」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「コストという概念がない時代だから成立した商売。家族経営だと人件費が発生しませんし」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「昔は近所で出前を頼む家がたくさんあったから、薄利多売でも成り立っていたんでしょう」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「出前の注文がたくさんある頃は、配達ついでに容器回収もできたはずだから、たぶんそこまで手間ではなかったんじゃないかなあ」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「出前の場合、配達費も含めて値段設定しているはずだから」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「配達に比べて、店内で食べると、家賃の場所代やサービスする人の手間、人件費がかかるから」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「出前は配達エリアが限定されていて、遠くまでは届けてくれない。近所だから成立するシステム」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「昭和世代にとってはUberみたいなシステムのほうが違和感ある。出前最大のメリットは『確実にウチの店で注文してくれる』という点に他ならないのよ。顧客の囲い込み、の最たる商売」</span><span class="strongInContent"> </span></li>
</ul>
<figure id="attachment_311995" aria-describedby="caption-attachment-311995" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="779e2dde"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/82851e4a44b3b7542f24188a83da2d18.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311995" class="wp-caption-text">ホンダ・スーパーカブの登場（1958年）で、出前は自転車からバイクに。振動に対応するする荷台の「出前機」も開発された</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">「カブ」「おかもち」「店屋物」…今やノスタルジー感が漂う「出前」の世界</span></h3>
<p>さらに、「出前」という、ノスタルジーを感じさせるコンテンツ力の高さが、一人一人の思い出語りを引き出した面も大きい。</p>
<ul>
<li><span class="strongInContent">「出前というと、カブの後ろに付いている汁を溢れないようにする機械がすごいと思っていた」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「電話代として10円も返してくれる店もあったな」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「子どもの頃、おかもちに憧れたなあ」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「おかもち担いで自転車片手乗りしてるお兄さんがカッコよく見えました」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「ラーメンとか町中華、寿司もあったね」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「大学時代のアルバイト先で初めて出前をとってもらったとき、嬉しかった」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「こぼれないように丼にラップかけて持って来てくれるのが嬉しかった」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「お客様来訪時、手作りより出前がおもてなしだったな。ご相伴に預かるのが至福だった」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「楽をしたいときに『店屋物ですます』感覚だったな」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「会社勤めの時、残業になるとみんなで駅前の蕎麦屋から出前してもらってたなぁ」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「小学生の頃両親共働きで、夏休みなどの長期休暇は遊びにきてた幼馴染とふたりで、よくうどんの出前頼んでた」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「かき氷も出前してくれました」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「近所の喫茶店でモーニングも出前してくれた。プリンアラモードの出前もあった」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「畑まで届けてくれる出前もあった」</span><span class="strongInContent"> </span></li>
<li><div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div></li>
</ul>
<p>また、少子高齢化、核家族化、単身世帯をはじめとした「孤食」が進み、時代の変化に応じて、やむを得ないととらえる声も多数。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="減少している個人経営の飲食店の「出前」"></div>
<div class="expapp-yahoo-paragraph-break"></div>
<ul>
<li><span class="strongInContent">「出前はある程度まとまった注文でないとウケてくれないのが難点。『ラーメン1つ』とかは無理。Uberは店頭価格より上乗せされるけど、1品から注文できるのは優れている」</span></li>
<li><span class="strongInContent">「悲しいけど、器の引き取り手の手間は省けて良い」</span></li>
</ul>
<p>UberEats世代と出前世代のそれぞれに響くジェネレーションギャップネタであり、時代の変化を感じさせるビジネス要素アリ、ノスタルジックな思い出要素アリで、思いがけず盛り上がった「出前」に関するツイート。</p>
<h3><span class="strongInContent">大きく減少している個人経営の飲食店の「出前」</span></h3>
<p>ちなみに、マイボイスコム株式会社による「デリバリー」に関するインターネット調査（&#8217;22年10月1日～5日）によると、「食事のデリバリーサービス利用頻度」（UberEats、出前館などの総合フードデリバリーサービスや、各飲食店で実施するデリバリー・宅配サービス）で「利用しない」と答えたのは、&#8217;18年に50.4％だったところ、&#8217;20年には52.8％、&#8217;22年には60.0％と、デリバリーそのものの利用は、コロナ以降にまさかの減少傾向が見<wbr></wbr>られた。こうした動向は不況と無関係とは思えない。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>しかし、注文方法に関する調査項目を見ると、「各店舗のWebサイト・アプリなど」は&#8217;18年では29.9％、&#8217;20年は39.2％、&#8217;22年は42.8％と大きく増加。「デリバリーサービスのWebサイト・アプリ」も&#8217;18年では23.4％、&#8217;20年は28.4％、&#8217;22年37.2%と増加し、コロナ禍ですっかりネット注文が定着したのに対し、「店舗に電話」と答えたのは、&#8217;18年で60.2％、&#8217;20年で47.0％、&#8217;22年で35.3％と、大きく減少している。</p>
<figure id="attachment_311996" aria-describedby="caption-attachment-311996" style="width: 600px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="0e82edf6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/22d0b397de9aa45e5276e2b43cfde3ee.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-311996" class="wp-caption-text">わずか2年で約半数に減少した「店舗に電話」（マイボイスコム株式会社『デリバリー』に関するインターネット調査より／回答者数：9929名、調査方法：インターネット調査、調査時期：&#8217;22年10月1日～10月5日）</figcaption></figure>
<p>コロナ禍の外出自粛などの影響で、外食産業は大きな打撃を受け、中でも体力のない個人の飲食店は続々と休業・廃業していった。</p>
<div data-friday-ad-slot="AD_inArticle"></div>
<p>そんな中、大手チェーン店をはじめとした多くの飲食店と契約し、システムに組み込んでいった出前館や、コロナ禍以降に一気に拡大・浸透したUberEatsの影響を受けつつも、出前利用者が減る現状において、今もご近所付き合いの延長線上の顧客サービスとして続いている個人経営の飲食店の「出前」。</p>
<p>やっぱりどう考えても割に合わない、利用者側からすると非常にありがたい仕組みだと思えてならないのだ。</p>
<figure id="attachment_312031" aria-describedby="caption-attachment-312031" style="width: 2693px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5fc37a01"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/05/aflo_20605422.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-312031" class="wp-caption-text">こちらは、1982 年 5 月、東京の築地市場で撮影されたシーン。パンチパーマにも昭和感が漂う（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>


1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』（太田出版）、『KinKi Kids　おわりなき道』『Hey! Say! JUMP　9つのトビラが開くとき』（ともにアールズ出版）など。

田幸和歌子

「え！　出前って、送料無料だったの？」…コロナ禍で浸透したUberＥatsしか知らない若い世代は、「出前」という未知のシステムに驚き、混乱したり感動したりしているという。一方で、出前世代の反応は…。

「なんで無料なの？」若い世代は「出前」の意味がわからない… ツイートのバズりに見るデリバリー今昔

あなたへのオススメ

関連記事