1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』（太田出版）など。

田幸 和歌子

<h3><span class="strongInContent">２分40秒の縦型ショートフィルム『レンタル部下』</span></h3>
<p>世界三大映画祭の一つ・カンヌ国際映画祭において、映画『PERFECT　DAYS』で公共トイレの清掃員役を演じた役所広司が男優賞を獲得したこと、是枝裕和監督の映画『怪物』で、坂元裕二が脚本賞を受賞したことが話題を集めている。</p>
<p>そしてもう一つ、実は&#8217;22年に初開催されたTikTokとカンヌ国際映画祭によるコラボレーション企画「#TikTokShortFilmコンペティション」において、２年連続で日本人がグランプリを受賞していることをご存知だろうか。</p>
<p>大ヒット映画『カメラを止めるな！』(&#8217;17年)の上田慎一郎監督がTikTok用に作った２分40秒の縦型ショートフィルム『レンタル部下』。世界80の国と地域の７万本の中からのグランプリだ。</p>
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<p>これは、現代社会の人と人の関わり方に向き合った作品で、たった２分40秒の中に起承転結のドラマがあり、現代人の悲哀が滲む社会的作品となっていることから、TikTokの動画がTwitterにアップされると、「これ、有料じゃないんだ？」「無料でこんなクオリティの作品見られるのってすごい」などとたちまち話題になったものでもある。</p>
<figure id="attachment_316172" aria-describedby="caption-attachment-316172" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6b708ddf"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/2441c53473b57152da53771c478f8d15.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316172" class="wp-caption-text">大ヒット映画『カメラを止めるな！』(&#8217;17年)の上田慎一郎監督のショートフィルム『レンタル部下』が、カンヌ国際映画祭「#TikTokShortFilmコンペティション」でグランプリを受賞した（PHOTO：各務あゆみ）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">いったいなぜこの作品を？</span></h3>
<p>いったいなぜこの作品を？　着想から、TikTok向きの映像の作り方まで、上田慎一郎監督にインタビューした。</p>
<p><span class="strongInContent">「TikTokを始めたのは、実は成り行きなんですよ。TikTokから『#TikTokShortFilmチャレンジ』という、ショートフィルムを盛り上げていく施策のアンバサダーを依頼され、どうせなら自分も１本撮ってみようと思い、やってみたら、それがすごく面白く、何本か撮ってみた中の１つが『レンタル部下』でした」</span></p>
<p>「正直、TikTok自体あまり見たことがなかった」という上田監督だが、いろいろ調べてみたら、作り方の文法が普通の映画などとは全然異なることがわかったという。</p>
<figure id="attachment_316174" aria-describedby="caption-attachment-316174" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2f62ace0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/91230097ccac8fc9c25cfaf5efc94fbc.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316174" class="wp-caption-text">「正直、TikTok自体あまり見たことがなかった」という上田監督</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「自分に向いているなと思いました。『カメラを止めるな！』の前に20分くらいの短編をたくさん作ってきたから、短くまとまった物語を作るのはもともと得意な方で、長くても３分程度の短い尺の中で物語を作ることが自分には合うと思ったんです」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<p>『レンタル部下』はキャスト４名、スタッフ２名、スマホ１台で、撮影時間１日、着想から作るまでも１ヵ月間だったという。</p>
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<blockquote class="tiktok-embed" cite="https://www.tiktok.com/@picorelab/video/7213665055328472338" data-video-id="7213665055328472338" data-embed-from="oembed" style="max-width: 605px;min-width: 325px;">
<section> <a target="_blank" title="@picorelab" href="https://www.tiktok.com/@picorelab?refer=embed">@picorelab</a> 
<p>「レンタル部下」<a title="ショートフィルム" target="_blank" href="https://www.tiktok.com/tag/%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%AB%E3%83%A0?refer=embed">#ショートフィルム</a> <a title="ショートドラマ" target="_blank" href="https://www.tiktok.com/tag/%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%9E?refer=embed">#ショートドラマ</a> <a title="tiktokshortfilm" target="_blank" href="https://www.tiktok.com/tag/tiktokshortfilm?refer=embed">#TikTokShortFilm</a></p>
<p> <a target="_blank" title="♬ オリジナル楽曲 - 上田慎一郎 - 上田慎一郎" href="https://www.tiktok.com/music/%E3%82%AA%E3%83%AA%E3%82%B8%E3%83%8A%E3%83%AB%E6%A5%BD%E6%9B%B2-%E4%B8%8A%E7%94%B0%E6%85%8E%E4%B8%80%E9%83%8E-7213665152197004034?refer=embed">♬ オリジナル楽曲 &#8211; 上田慎一郎 &#8211; 上田慎一郎</a> </p></section>
</blockquote>
<p> <script async src="https://www.tiktok.com/embed.js"></script></p>
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<div data-friday-nextpage-lead="TikTok「作り方の文法の違い」とは"></div>
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<p>着想のきっかけは、実際にあった、とあるネット記事。部下のいない中年男性の会社員が、人をレンタルする代行業を使って部下をレンタルし、カラオケに一緒に行ってリア充写真を撮り、SNSにアップして承認要求を満たすという内容だったそうだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「闇が深いなと思ったんですよ。それで、お金を払って一時的な承認要求を満たす人々を描いてみようと思いました。こうした悲哀は、全世界的に通じるものがあるんじゃないかなと思っていたから。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">一昔前まではお金を持っていることで承認欲求が満たされたけど、今はSNS全盛の時代で、フォロワーの数やいいねの数が、最も承認欲求を満たすものになっているというのは、全世界的な傾向じゃないですか。だから、深いところで共感してもらえたんじゃないかなと思います」</span></p>
<p>面白かったのは、「SFみたい」という反応が多数あったこと。</p>
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<p><span class="strongInContent">「『どこかの国に人をレンタルするサービスがあるとは聞いたことがあったけど、本当にあったんだね』みたいに言われました。結婚式に友人役をレンタルして呼ぶとかもびっくりしていましたね。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">特に欧米はお金を払って人とコミュニケーションするという考え方自体があまりないんだと思うんですよ。キャバクラやホストクラブみたいなものもあまりないと聞きますし。コミュニケーションなら自分でとればいいじゃんってことなんですかね？」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_316176" aria-describedby="caption-attachment-316176" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f8d6ee49"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/f2038143258c70b4ea3155aa999e71bd.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316176" class="wp-caption-text">海外の人たちからは、「SFみたい」という反応も…</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">TikTok「作り方の文法の違い」</span></h3>
<p>ところで、上田監督の言う「作り方の文法の違い」とは具体的にどんなものなのか。</p>
<p><span class="strongInContent">「まずテンポと画面サイズが全然違うこと。横画面と縦画面は決定的に違いますよね。基本的にTikTokのショートフィルムの場合、例えば会話しているシーンなら、２人を切り返すなど、人間を映しまくる感じなんですよ。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">人間は縦型だから、縦型は収まりがいいんです。実際にやってみてわかりましたが、横型の場合、人間が入るとスペースができるから、そのスペースを埋めるために、美術や背景が外せなくなるので、ロケ地探しとかが大変なんですよ。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">例えば『カフェ』設定なら、横型の場合は実際にカフェを見つけないといけないですが、縦型だったらオフィスでも自室でも撮り方によって、コーヒーカップとソーサーなど置けば、カフェみたいに撮れてしまう。TikTokの場合は、縦型で人間が映っていれば成立するところがあるので、予算をかけなくてもいいメリットはありますね」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<p>逆に言うと、縦型の場合、ロングショットは向いていないということ。それこそが縦型の強みであり、同時に難しさだという。</p>
<p><span class="strongInContent">「引き画になると、集中力が切れるんですよね。没入感が止まるんですよ。すると、一瞬で人差し指でスワイプされてしまうので、いかに滞在させ続けるか、どれだけ飽きさせないかが大事で、最後まで見てもらうことに命をかけます。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">『レンタル部下』がまさにそうで、テンポは通常の映画の２倍ぐらいで作っています。シナリオ書式があるんですけど、標準的なシナリオのページ換算では１ページ１分として計算するところ、TikTokの場合は２～３ページで１分ぐらい。２～３倍の速さで展開する感じですね」</span></p>
<p>さらに勝負となるのは、「最初の２秒」だそう。</p>
<figure id="attachment_316178" aria-describedby="caption-attachment-316178" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="653272e1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/f96dfb1ed6019b3453f81759a4f1fafd.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316178" class="wp-caption-text">TikTokの場合、勝負となるのは「最初の２秒」</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="今後やってみたいモノ、気になっている媒体…"></div>
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<p><span class="strongInContent">「僕はそこまでは徹底できていませんが、『レンタル部下』で言うと、上司が部下に説教するシーンで始まり、開始３～４秒でタイマーの画を入れているのがポイント。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">ただ上司が部下を説教しているシーンが15秒20秒続くとしたら、そこで離脱される可能性が高いですが、３～４秒のところで『あと30秒』というナレーションとともにタイマーを入れているので、あと30秒で何が起きるんだろうと引っ張っているんです。そういう工夫がすごく重要になってきます」</span></p>
<p>『レンタル部下』は２分40秒の中で、二転三転し、思いがけない方向に向かっていく。これは実は１アイディアからのスタートで、書いているうちに変わってきたのだとか。</p>
<p><span class="strongInContent">「最初は上司が部下を叱責し、それがレンタル部下でしたで終わりの予定でした。でも、書いていたら、その先を書きたくなった。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<p><span class="strongInContent">『レンタルフレンズだった』というくだりも、全然想定していなくて、女性二人の会話シーンも最初は友達設定で書いていて、『これもレンタルフレンズだったら面白いな』と思いついて、初めてそこで変更したんですね」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_316180" aria-describedby="caption-attachment-316180" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a92b9199"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/06/c662c885f55690cac1c9771113bb70ff.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-316180" class="wp-caption-text">これまで新しい技術や媒体に挑戦してきた上田監督が、今後やってみたいモノ、気になっている媒体は…</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">今後やってみたいモノ、気になっている媒体…</span></h3>
<p>ちなみに、本作への反応で不思議だったのは、「１本の映画を観たみたいだった」というコメントが多数あったことだという。</p>
<p><span class="strongInContent">「&#8217;20年に短編映画『カメラを止めるな！リモート大作戦』をYouTubeであげたときも言われたことですが、人が『映画を１本観た』と感じる感覚は、メディアやフォーマットによるものではなく、内容なんだと思うんですよね。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">ある程度の起承転結があり、登場人物の成長や変化を描いていること。世情や時代の空気を吸った“今”の作品であったことも大きかったんじゃないかなと。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">日本のTikTokにもショートフィルムアカウントは増えてきました。今は若者の恋愛ものやホラーが多い印象ですね。今後は社会的な要素が入っていたり、中年層等も噛みごたえを感じる作品が増えてくるんじゃないかなと思います」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>ところで、上田監督にとってのカンヌ映画祭は、実は今回が初めてではない。&#8217;18年にはVR映画『ブルーサーマルVR』で参加しているのだ。</p>
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<p>では、これまで新しい技術や媒体に挑戦してきた上田監督が、今後やってみたいモノ、気になっている媒体は？ と聞くと、楽しそうにこう語ってくれた。</p>
<p><span class="strongInContent">「やってみたいのはXR（クロスリアリティ）。VRの場合、ゴーグルをつけると全てがバーチャル空間になるのに対し、XRは現実世界と仮想世界を融合し、現実にはないモノを知覚できる技術なので、今ここにあるフィジカルな空間にデジタルを足す感じなんですよ。例えば、渋谷の街にゴーグルをかけて行ったら、渋谷の109が未来っぽく変わっているというようなイメージ。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">次に来るのはXRじゃないかと思いますし、スマホの次はスマートグラスに、その次はコンタクトになるんじゃないかと思います」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<div class="expapp-no-provided-scope expapp-no-provided-scope-start"></div>
<p><a href="https://www.tiktok.com/@picorelab" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><span class="strongInContent">■上田慎一郎監督の公式TikTok「picorelab」</span>はコチラ</a></p>
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1973年生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーランスのライターに。週刊誌・月刊誌等で俳優などのインタビューを手掛けるほか、ドラマに関するコラムを様々な媒体で執筆中。主な著書に、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』（太田出版）、『KinKi Kids　おわりなき道』『Hey! Say! JUMP　9つのトビラが開くとき』（ともにアールズ出版）など。

田幸和歌子

各務あゆみ

『カメラを止めるな！』の上田慎一郎監督がTikTok用に作った２分40秒の縦型ショートフィルム『レンタル部下』が、カンヌ国際映画祭でグランプリ受賞！いったいなぜこの作品を？

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