'76年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で'02年と'07年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

東龍

<h3><span class="strongInContent">寿司ブームで、世界中で引く手あまたの「寿司職人」</span></h3>
<p>寿司が世界的にブームとなっているのは周知のところだ。美食の国フランスをはじめとして、アメリカやイタリア、さらに中国、台湾、韓国などのアジアでも、寿司はヘルシーかつクールということで、人気になっている。</p>
<p>寿司職人は引く手あまたで、年収は日本であれば400万円台であるところが、海外であれば軽く1000万円を超える。そのため、寿司店の若手に話を聞くと、機会を掴んで海外で握りたいという職人は少なくない。</p>
<figure id="attachment_319501" aria-describedby="caption-attachment-319501" style="width: 1200px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="de6dac99"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/3646d88b8a1b3daa4e8cfbf09540a41f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-319501" class="wp-caption-text">独創性溢れるメニュー…</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">寿司を“Kawaii化”！？</span></h3>
<p>海外では多様な寿司店がオープンしているが、ここでまた注目すべき店が、&#8217;23年6月28日ニューヨークにオープンした。それは、ニューヨークの「SUSHIDELIC（スシデリック）」だ。世界中のセレブリティが訪れる原宿「KAWAII MONSTER CAFE」をプロデュースした増田セバスチャン氏が手掛けた回転寿司店。増田氏は世界に“Kawaii文化”を発信し続けるクリエーターで、今度はアメリカでも既にライフスタイルに溶け込んでいる寿司を「Immersive Kawaii Experience」というテーマのもと“Kawaii化”した。</p>
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<p>店内はまるで異世界のようなサイケデリックでアイコニックな空間。スタッフはカラフルなオーダーメイドのコスチュームを身にまとう。天井に展示された3匹の猫アートやまぶしいくらいピンクのレーンも回転寿司らしくない。</p>
<figure id="attachment_319504" aria-describedby="caption-attachment-319504" style="width: 1200px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5bc82dd1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/51494b66b20eaec11fe501f5bdf797f4-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-319504" class="wp-caption-text">カラフルなオーダーメイドの衣装を身に纏ったキャストたち…プレスリリースには、「単なるレストランでの食事を越えた『没入型のカワイイ食体験（Immersive Kawaii Experiences）』を提供します」との説明が…</figcaption></figure>
<p>日本では異質に映るが、海外の寿司が特異に感じられるのは、今に始まったことではないだろう。アメリカでは&#8217;60年代にカリフォルニアロールが誕生し、&#8217;70年代に日本へと逆輸入された。カリフォルニアロールとは、外側から順番にシャリ、海苔、ネタの順番で巻いた裏巻きだ。アボカドやカニカマ、マヨネーズなどが巻かれ、白胡麻がトッピングされている。他にも、揚げ物やレタスを用いたスパイダーロール、ツナを用いたハワイロール、フルーツやナッツと合わせたデザート寿司もある。</p>
<p>美食のフランスやイタリアでも寿司は人気で、サーモン、マグロ、海老などのネタが基本で巻き寿司が中心。フロマージュ＝チーズが使われているあたりは、ヨーロッパらしいといえる。こういった海外の寿司は、日本でも知られているが、日本で流行しているとは言い難い。</p>
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<p>外務省と農林水産省によれば、&#8217;21年の海外における日本食レストランは、&#8217;19年の約15.6万店から微増の約15.9万店と伸長しており、寿司店も同様だ。カジュアルな寿司店だけではなく、日本と同じようにおまかせスタイルの高級鮨店（魚だけであり正統派なので、「寿司」ではなく「鮨」）も人気。10万円以上という値段であったり、ミシュランガイドで三つ星を獲得したりする鮨店も登場している。</p>
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<h3><span class="strongInContent">「寿司」の定義とは…</span></h3>
<p>海外における寿司はなかなか複雑な状況だが、料理ジャンルという枠を超えて、“寿司”がプラットフォーム化していると考えればよい。たとえば日本ではピッツァが広く受け入れられており、フォーマット化している。ピッツァとは、小麦粉、水、塩、イーストの生地（ドウ）を薄く円形に伸ばし、その上に様々な具材を載せ、オーブンなどで焼く料理。この本質を崩さずに、日本では醤油や味噌で味付けしたり、明太子や椎茸を載せたり、桜海老や海苔をトッピングしたりと、ピッツァというフォーマットに則って発展させている。</p>
<figure id="attachment_319503" aria-describedby="caption-attachment-319503" style="width: 1200px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="522f17f0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/29aa750d1aa4d768eb84a3e42c7257ee.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-319503" class="wp-caption-text">回転寿司レーンは、ピンク色の特注品！</figcaption></figure>
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<p>寿司のプラットフォーム化を語るにおいて、重要となるのが次に述べる2点。</p>
<p>寿司は、赤酢を用いた赤シャリ、もしくは、白酢（米酢）を用いた白シャリと、魚介類を中心としたネタを組み合わせた料理だ。ネタとなるのは、狭義の寿司＝鮨では魚介類や卵だけであるが、広義の寿司では肉や野菜も対象。寿司の形態としては、握り寿司、軍艦巻き、巻き寿司、手巻き寿司、押し寿司、棒寿司、ちらし寿司などがある。ここから拡大して、海外ではシャリと何かを組み合わせたものが寿司として扱われているのだ。</p>
<p>次に言及するべきは提供方法。寿司の基本は職人が客の目の前で立って握る立ち寿司。客が座っているか、立っているかは関係ない。対極的なのが回転寿司だ。回転寿司は、元禄産業の創設者である白石義明氏が、ビール工場の製造に使われているベルトコンベアにヒントを得て開発し、&#8217;58年4月に東大阪市でオープンした「廻る元禄寿司」が、その嚆矢。立ち寿司に比べると、回転寿司はバリエーションが豊かだ。レーンに何かを流すというスタイルなので、海外ではベルトコンベアを上下2列並べて、片方が冷たいレーン、もう片方が温かいレーンという工夫を施している店舗もある。</p>
<p>寿司は「シャリと何かのネタを合わせた食べ物をメインとし、目の前でつくるか、レーンに流す」というプラットフォームとして、世界で愛されているといえよう。</p>
<p>日本では、寿司職人が一人前になるまでの道のりは長い。客の前で握れるようになるまでには多くの時間を要し、皿洗いに始まり、食材に触れられるようになるのさえ数年かかる。「飯炊き3年、握り8年」「シャリ炊き3年、合わせ5年、握り一生」と形容されるように、一人前になるには10年近くを覚悟するものだ。</p>
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<p>最近では2ヵ月で寿司職人を育てる寿司アカデミーが脚光を浴びたり、海外の店舗でミシュランガイドの星を獲得する「鮨 銀座 おのでら」が廻転鮨や立ち食い鮨をオープンしたりと、昔に比べると新しい波が訪れている。しかし、日本の寿司業界は、伝統や歴史があり、誇りやこだわりが強いだけに、よくも悪くも、なかなかこの寿司というプラットフォームを最大限に活用できていないかもしれない。</p>
<p>海外では、日本の伝統的な寿司を志向した高級店がクオリティや値段を上げていく一方で、日本では生まれない店がオープンしていくので注目だ。</p>
<figure id="attachment_319505" aria-describedby="caption-attachment-319505" style="width: 1200px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="798a9b62"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/bae7faf07af20508226837ac8f327d4a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-319505" class="wp-caption-text">クリエイティブディレクションを務めた増田セバスチャン氏。&#8217;70年生まれ。ニューヨーク在住。&#8217;19年 Newsweek Japan 世界が尊敬する日本人100人にも選出された</figcaption></figure>
<figure id="attachment_319506" aria-describedby="caption-attachment-319506" style="width: 1200px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="854dc140"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/7057d6e98f30de60b0beed621db1225a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-319506" class="wp-caption-text">SUSHIDELIC（スシデリック）』177 Lafayette St, New York, NY 10013</figcaption></figure>


1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

店内は異世界のようなサイケデリックな空間、ピンクのレーンも回転寿司…。海外では多様な寿司店がオープンしているが、ここでまた注目すべき店が、ニューヨークにオープンした。日本発祥の寿司はどこに行くにか…。

日本の寿司はどこに行く…NYソーホーに誕生した“Kawaii Sushi”驚きの中身

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