「マイナンバーカード自主返納」が加速…「一部の人間が騒いでいるだけ」の問題でいいのか? | FRIDAYデジタル

「マイナンバーカード自主返納」が加速…「一部の人間が騒いでいるだけ」の問題でいいのか?

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「返納」することにどれだけの意義がある? 注意点は?

今年5月以降、マイナンバーカードを巡り、証明書を誤交付するトラブルや、マイナンバーカードと健康保険証が一体化した「マイナ保険証」で別人の医療情報が登録されるトラブルが続出。

マイナカードを使用するには毎回読み取り機を利用し、4桁のパスワードを入れること、さらに4桁のパスワードが3回の間違いでロックされ、ロック解除は居住の市区町村の窓口に行き、顔写真付き公的証明書が必要となることにも批判の声が相次いでいる。

実際、マイナ保険証を使用した際に「無効」と表示され、患者が10割負担を請求される事例も続出するなど、あまりのトラブルの多さから、厚労省は「従来の保険証も一緒に持参を」と呼びかけている有様だ。

かと思えば、7月4日、松本剛明総務相は閣議後の記者会見で、暗証番号の設定が不要なマイナンバーカードを交付できるよう検討しているなどというトンデモ発言までし始めた。

こうしたマイナカードのトラブルの多さに不安を感じる人は多く、マイナカードを返納する動きも広がり、Twitterには「マイナカード返納運動」がトレンド入りする事態も起こっている。

トラブルが相次ぐマイナンバーカードに関して、“名称変更”に言及した河野大臣。SNSでは「そこじゃない」というつっこみも…(PHOTO:アフロ)
トラブルが相次ぐマイナンバーカードに関して、“名称変更”に言及した河野大臣。SNSでは「そこじゃない」というつっこみも…(PHOTO:アフロ)

マイナンバーカードは「本人確認書類」なのに…

しかし、返納することにどれだけの意義があるのか。また、返納時の注意点なども含め、世界経済フォーラム(WEF)メンバーやSDGsを教育や経営に応用するための「サステナビリティ学」の提唱者の一人として、SDGs/ESGデータサイエンスの新技術を研究・開発する天才集団を率いるサステナビリティ学者の笹埜健斗氏に聞いた。

ChatGPT(GPT-4+プラグイン)による返納手順の説明と、笹埜氏による補足説明
ChatGPT(GPT-4+プラグイン)による返納手順の説明と、笹埜氏による補足説明

「ただし、もともとマイナンバーカードは本人確認書類の代わりになる予定だったのに、マイナンバーカードでは足りないのが現状で、プラスとして運転免許証や健康保険証を持って行かないと返納できないことが一つの注意点です。 

それに、そもそも作るときの申請方法は郵送でもインターネットでも良いのに、返すときには自治体の窓口に行くしかないというのは、各自治体に大きな負担が押し付けられる仕組みになってしまっています。 

デジタル化を進めるうえでの大前提ですが、その負担やコストが一部の人々に押し付けられてしまってはなりません。近年のやDX(デジタル・トランスフォーメーション)には、SDX(サステナブル・デジタル・トランスフォーメーション)の発想が足りません」

税金など、徴収するほうは全力で速やかに行うのに、支給や支援には非常に面倒くさい申請が必要であることと、根本にある発想は少し似ている気がする。

「マイナカード」を返納しても、「マイナンバー」自体は消えない

ただし、マイナカードの返納自体は案外簡単でも、マイナンバー(国民総背番号)自体が消えるわけではない。この点にも注意が必要だ。

「マイナンバーカード導入には利点もあります。とはいえ、そのために適切なガバナンス体制になっているのか疑問です。つまり、『誰がマイナポータルやマイナンバーカードの管理に関わるのか?』というポイントを見直す必要があるのではないでしょうか。

マイナンバーカード導入の最も大きな目的の一つは、もちろん『税金』です。しかし、国税庁、都税事務所、税務署などが管轄するのではなく、あくまでもマイナンバーカードを管理しているのは総務省で、住基ネットの延長上にあります。 

だから、マイナンバーカードの返納場所も自治体の住民課などで、自治体が本当に限られたリソースの中で何とかやりくりして作業をしないといけない結果、ヒューマンエラーが起きるわけです。 

また、マイナンバーカードを返納すれば、『自分のマイナンバーカードに他人のマイナンバーが勝手に紐付けられるトラブル』は減らせますが、『他人のマイナンバーカードに自分のマイナンバーが勝手に紐付けられるトラブル』までは防げません。この点も認識する必要があります。 

ただし、Twitterのハッシュタグなどで展開されている『マイナカード返納運動』は、政府に対して、選挙以外の方法で民意を伝えるという意味では、一定の効果があると思いますし、これまで以上に政府は真摯に受け止めざるを得なくなるでしょう。 

返納するも、持ち続けるも、更新しないも、選択肢はいろいろです。当然個人の自由であることは前提として、もし返納するなら、単なる怒りのはけ口になってはもったいない。返納を決意した方は、ぜひとも、どういった問題が実際に起こっているのか、どんな危険性があるのかといった情報や想いをプラスしていただき、情報共有をしていただきたいです」 

厚労省は、当面の対応として初診時などは「従来の保険証も一緒に持参を」と呼びかけている…(PHOTO:アフロ)
厚労省は、当面の対応として初診時などは「従来の保険証も一緒に持参を」と呼びかけている…(PHOTO:アフロ)

なぜ!?「紙の保険証より不便になった…」 

そもそも今回大きな問題となっているのは、マイナカードと健康保険証がセットになっている点。

「紙の健康保険証でずっと来たし、お薬手帳も持っていて、現状困っていることのないご高齢の方などにはメリットが感じられないですよね。 

しかも、次のようなことも意外と知られていません。 

  • ・紙の保険証は1ヵ月に1回窓口に出せば良かったけど、マイナ保険証は受診の度に出さなきゃいけない。
  • ・マイナ保険証の顔認識が、高齢者や車いすの人などに対応が困難であること
  • ・高齢者の場合は質問内容が増え、タッチしなければいけない項目も増えること 

例えば、誰かが倒れて、早く助けないといけないようなときに、そんな悠長な操作をしていたら、救える命も救えなくなるかもしれない。他人の情報が間違って表示されるトラブルがありましたが、持病や処方薬の種類・量を間違えて出される可能性があります」 

さらに、徳島・半田病院がランサムウェアの攻撃を受けた(’21年10月)ように、今は地方病院にさえハッカーが攻撃を仕掛けてくる時代だ。

「自治体任せの運用で、ここまですでに数々のヒューマンエラーが起きているのに、ここから先は悪意を持った人もどんどんやって来ます。待ったなしの状況なんです。 

業務の棚卸しをして、真に持続可能なシステム運営体制に切り替えなければ、ますます命にかかわる状況になりかねないと思います」 

専門家が、悪質性を感じる「マイナポータル利用規約」とは… 

ところで、マイナカードを見ていると、いろんなポイントが気になってくる。その一つが、右上についたPRキャラクター「マイナちゃん」。これもロイヤリティフリーではないだけに、使用料がどこかの会社に入るのだろう。

「おっしゃる通り。『ポイントが欲しいな』じゃなくて『マイナちゃんが可愛いな』って登録する人はたぶん一人もいなかったんじゃないでしょうか。とすれば、民間企業がそんなところにお金をかけていたら、株主などのステークホルダーから大目玉を食らいかねない案件です」 

さらに笹埜氏は、「利用規約」にも悪質性を感じると指摘する。 

「当初、『マイナポータル利用規約』の旧第23条(免責事項)で、『デジタル庁は、本システムの利用及び利用できないことによりシステム利用者又は他の第三者が被った損害について一切の責任を負わないものとします』としていたんですね。もちろん相当に批判が集中しました」

「悪質」というよりは、単に一般企業の利用規約の杜撰なコピペに見えなくもないが……。 

「いえ、僕が悪質性を感じたのは、一般企業のサービスの提供では、こんな書き方をしないからです。 

例えば、本来の利用方法でない場合(なりすましの場合など)、一切の責任を負わないというならわかりますが、“普通に使っている人たちに対して、何か起こっても知らないよ”という表現は、これも民間企業だとまかり通らない、むしろ悪徳業者の利用規約レベルです。 

しかも、マイナンバーカード申込時に丁寧に確認する機会がなく、『マイナポータル』のホームページの利用規約を検索した人にしかわからない内容という仕組みで、“申し込んだ時点で、すでにこの規約には同意したことになる”という扱いです」 

しかも、相当な批判を受けて、人知れず改正され、改正後第24条(免責事項)で「マイナポータルの利用に当たり、利用者本人または第三者が被った被害について、デジタル庁の故意又は重過失によるものである場合を除き、デジタル庁は責任を負わないものとします」となり、さらに最新版では同じ内容で現行第26条(免責事項)として、どんどん変更されている。

申し込んだ後に、重要な内容が何度も人知れず改正され続ける利用規約とはいったい……?

利用規約は「マイナンバーカード申込時に丁寧に確認する機会がなく、『マイナポータル』のホームページの利用規約を検索した人にしかわからない内容という仕組みで、“申し込んだ時点で、すでにこの規約には同意したことになる”という扱いです」と笹埜氏
利用規約は「マイナンバーカード申込時に丁寧に確認する機会がなく、『マイナポータル』のホームページの利用規約を検索した人にしかわからない内容という仕組みで、“申し込んだ時点で、すでにこの規約には同意したことになる”という扱いです」と笹埜氏

マイナンバー制度先進国の「利用規約」は…

「それに対し、例えば電子国家・エストニアなどでは、『X-ROAD』という仕組みがあり、個別のデータベース間の連携やセキュリティ管理をしていて、医療情報などにも利活用されています。 

国民が納得する形で首相・大臣はじめ、本気で国民のためを考えて政策として進められており、何でもできるので、国民はほぼ毎日X-ROADを利用しているんですよ。 

お客さんファースト、国民ファーストでサービスを構築しているこうしたデジタルIDと、ただ上からモノを言い、運営は自治体に任せるというマイナポータルとでは、発想自体が全く違います」 

「変な癒着をしてしまったり、遠回りをしてしまったりすると、『どんどん人を増やすしかない』ということになって、ヒューマンエラーの確率もうなぎ上りです」
「変な癒着をしてしまったり、遠回りをしてしまったりすると、『どんどん人を増やすしかない』ということになって、ヒューマンエラーの確率もうなぎ上りです」

「一部の人間が騒いでいるだけ」の問題ではない!

トラブル続きなのに「新マイナカード」も’26年度中に導入されるという。そこにも大量の税金が投入されるのを黙って見ているしかないのか……。笹埜氏はこんな提言をする。

「セキュリティを考えるのであれば、より厳格な金融などのシステムにのせる、もっと突っ込んで言えば、『指紋や顔などの整体認証もでき、SIMカードに本人確認キーなどの情報を書き込めるスマホとの一体化』と『それを補完するための紙の保険証』のハイブリッドシステムが、最も持続可能な運用システムだと思います。

ハイブリッドにする理由は、日本は災害大国ですから、通常時の管理はスマホを活用し、あとはWの選択肢として、災害など緊急時に個人情報を照合できる紙の保険証も併用するためです。 

他方、変な癒着をしてしまったり、遠回りをしてしまったりすると、『どんどん人を増やすしかない』ということになって、ヒューマンエラーの確率もうなぎ上りです。 

マイナ保険証に一本化して紙の保険証を廃止するような強引な方法で、国民の信頼を得られると本当に思っているのか。 

これからの時代、ステークホルダーを無視して、癒着などにより、一部の利益のため、システム開発を非効率にする運用をしていたら、通常の民間企業でさえクビになりかねないほど酷いことです。 

単純に『株式会社日本国』と考えたとき、その原資は国民の血税です。国民から『信託』されたその使い道の結果として、返納運動が起きているという事実をきちんと受け止めることが重要です。でも、もし『一部の人間が騒いでいるだけ』と問題を矮小化するのであれば、今回明るみに出始めた問題は、ますます大きくそして深刻になっていくでしょう」

笹埜 健斗(ささの・けんと)サステナビリティ学者・SDGsコミュニケーター・実業家。SDGs(持続可能な開発目標)を経営や教育に応用するためのサステナビリティ学の提唱者の一人。高校時代に生死の境を彷徨い、哲学に目覚める。国際哲学オリンピック出場、京都大学法学部、東京大学大学院学際情報学府を経て、一般社団法人サステナビリティ総合研究所(サステナビリティ総研)所長、株式会社Scrumy代表取締役。現在、持続可能な社会の実現に向けた調査研究やSDGs経営・SDGs教育プログラムのための技術開発に取り組んでいる。

  • 取材・文田幸和歌子

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