酔っぱらって高座に上がり、途中で爆睡!? 古今亭志ん生と『酒』 | FRIDAYデジタル

酔っぱらって高座に上がり、途中で爆睡!? 古今亭志ん生と『酒』

大河ドラマ『いだてん』では語られない、落語の神様の仰天“酒豪”伝説の数々

  • Facebook シェアボタン
  • X(旧Twitter) シェアボタン
  • LINE シェアボタン
  • はてなブックマーク シェアボタン

現在放送中のNHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』で、ビートたけし演じる落語家・古今亭志ん生。彼を語るうえで、芸の評価以上についてくるのが、彼の破天荒なエピソードの数々。その中で、いかにも志ん生らしい話として語られるのが『酒』にまつわる逸話だ。 

弟子や家族の証言によると、酒好きではあったが、宴席や人と飲むことを苦手にしていてすぐに帰ってしまっていたとか。

高座に上がらなくなってからも、毎日酒を飲んでいた志ん生
高座に上がらなくなってからも、毎日酒を飲んでいた志ん生

伝説の逸話「高座で寝た」

志ん生の逸話で真っ先に挙げられるのが、酔っ払って高座に上がり、途中で寝てしまったというもの。前座が志ん生を起こそうとすると、客席から「いいから寝かせてやれ」「志ん生が寝てる姿なんてめったに見られるもんじゃない」などの声が上がったという、いかにも志ん生らしいエピソードとして語られるが、反面「志ん生らしさを例えた創作話」と見られる向きもある。

ただ、三代目三遊亭円歌が新富演芸場で目撃したという証言(「志ん生、語る。」岡本和明/アスペクト)や、今は無くなってしまった寄席・人形町末広で大喜利の最中に寝たという話(「志ん生一代(下)」結城昌治/中公文庫)、志ん生の長女、美津子さんの「高座で寝ちゃったことがあるの。新宿末広亭でのことだわね」という証言(「おしまいの噺」美濃部美津子/アスペクト文庫)も。

これだけの目撃談があるので、創作と断定するのは惜しい気がする。志ん生なら寝てしまっても不思議ではないし、むしろ寝たことが本当であってほしいというファン心理を鑑みて、ここでは本当に寝たことにしたい。

関東大震災発生時、「家族を置いて酒屋へ駆け込んだ」

関東大震災発生時、家で妻と一緒にいた志ん生。家にある鏡台が倒れてくるほど大きな揺れを体験した瞬間、「東京中の酒が、みんな地面に吸い込まれちまう」という考えが頭をよぎり、妻の財布に入っていた金を握りしめて酒屋へ直行した。酒屋の店主に「酒を売ってくれ」と言うが、店主もそれどころではなく、「好きなだけ飲んでくれ」と言い残して避難してしまった。根っからの酒好きと、地震への恐怖からか店にある酒をがぶがぶ飲んでしまう。やがて地震の揺れなのか酔っているからなのかわからなくなるまでフララフになって、ようやく帰宅。そこで奥さんに「私の身にもなってみてよ、私は身重なんだよ」と言われ、初めて妻の妊娠を知ったという。

戦時中「あっちへ行けば酒があるから」満州慰問へ

太平洋戦争も激しくなり、本土空襲が続く最中、満州へ兵士たちの慰問に行く話が舞い込む。子供がいても一人で逃げ出すほど空襲におびえていた志ん生は「空襲もない、あっちへ行けば酒がある」からと慰問を買って出た。当初ひと月ほどの予定だったが、それが伸び、さらに現地で敗戦を迎え、帰国が困難になってしまう。ようやく帰国できたのは旅立ってから2年後だった。日本に到着し、家族へ送ろうとした電報が「サケタノム(酒、頼む)」だったが、これは職員に「酒とはけしからん」と止められたとか。

高座に上がらなくなってからも、毎日酒を飲んでいた志ん生。晩年は体を心配した家族がこっそり水で薄めた酒を飲ませていた。ある日、長女がなにかを感じ取って、薄めない酒を飲ませたところ、大いに満足し、翌日に亡くなったという。十代で酒を覚え、最後まで酒を愛した人生だった。

16回の改名、なめくじ長屋…。古今亭志ん生の豪快過ぎる貧乏人生

 

参考文献:「びんぼう自慢」(古今亭志ん生/ちくま文庫)、「志ん生、語る。」(岡本和明/アスぺクト)、「寄席紳士録」(安藤鶴夫/角川書店)、「寄席育ち」(三遊亭圓生/青蛙房)、「おしまいの噺」(美濃部美津子/アスペクト文庫)、「志ん生一代(下)」(結城昌治/中公文庫)、「落語無頼語録」(大西信行/角川文庫)、「永久保存版 古今亭志ん生 落語の神様/河出書房新社)

  • 取材・文高橋ダイスケ

FRIDAYの最新情報をGET!

Photo Selection

あなたへのおすすめ記事を写真から

関連記事