田幸 和歌子

<h3>タモリの「新しい戦前」発言</h3>
タモリの「新しい戦前」発言を機に、近年指摘される「今と第二次世界大戦前の日本はそっくり」「今と戦前の空気は似ている」といった声がますます盛り上がるようになった。
しかし、根拠がわからない、単なる印象論ではないのかと思う人も当然いるだろう。
そんな中、戦争に関する資料を収集し、Twitterで危機感を訴えているのが、長野県在住の「信州戦争資料センター（まだ施設は無い…）」さん（以下Sさん／50代）だ。
「私の世代だと戦争体験者に会い、話を聞く機会がまだそれなりにありましたが、今は戦争を知る人が少なくなっていることが戦争資料収集を始めた理由です。 
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きっかけは、&#8217;07年9月25日に長野県の木曽福島町で行われていた古物市で、木銃を200円で手に入れたこと。木曽郡木曽町立福島小学校（当時の福島尋常小学校）の高学年の児童が戦争末期に軍事教練をする際に使ったと見られるもので、子どもの体格に合わせて大人用の木銃を短く切って作られているんですね。 
それを当時、小学生だった息子に担がせてみたら、ちょうどぴったりで、もう二度と子どもたちにこんなことをさせる時代にしちゃいかんと思ったのが、スタートでした」
「モノを集めるだけなら、仕事の合間にもできると思った」というが、16年にわたって収集した資料は5000件以上。ネットオークションや古書店、新聞に掲載された「戦時中の物が見つかったが、譲ります」といった記事などで探すほか、Twitterを見た人から資料が寄付されるケースもあるそうだ。
<figure id="attachment_324751" aria-describedby="caption-attachment-324751" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="38b01fa7"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/d5d1aff36e6b6ff2138d9f85c552bd98.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-324751" class="wp-caption-text">昭和12年（1937年）1月26日に発行された『欧米列強アジヤ侵略図』。日本は列強の脅威にさらされる被害者的な立ち位置を示す地図になっています」とSさん（PHOTO：信州戦争資料センター提供）</figcaption></figure>
<h3>危険を煽ったり、日本は偉いんだと自尊心を高めたり…</h3>
では、16年間の戦争資料の収集から見える「今」の危機感とは。
「例えば、昭和12年（1937年）1月26日に民間で発行された『欧米列強アジヤ侵略図』という資料があります。 
これは、欧米列強がこんなふうに攻め込んできていますよという危機感を出すものですね。また、国際連盟脱退後にどんなことが起きるか、国民がどんな準備をしなきゃいけないかを書いた本も、満州事変から日中戦争前のころまで、いろんな人たちが出しています。 
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ところで、先の『欧米列強アジヤ侵略図』で注目すべき点は、主題から外れるということで、日本の侵略は不問であること。 
一方、各国が中国を狙っているように表記されていますが、中国の主権を守る九ヵ国条約があり、それを無視して満州国を作ったのは日本ですが、そこには触れず、日本は列強の脅威にさらされる被害者的な立ち位置を示す地図になっています」 
Sさんが現代との酷似ぶりを感じるのは「満州事変がキーポイント」という。
「昭和８年（1933年）10月発行の雑誌『日の出』（新潮社）の付録『世界に輝く日本の偉さはこゝだ』では『世界に輝く科学日本』『時計のように正確な鉄道』などと自慢している中で、満州国についても『金のない国だなんて悲観するな。金や石炭が満州からどんどん出て、今に世界一の金持国となるから』などと書いてあるんですね。 
満州は建て前上では独立国だったはずなのに、です。そうして、外に敵を作り、批判を逸らしつつ、危険を煽ったり、その一方で日本はすごいんだ、日本は偉いんだと自尊心を高めたりという風潮は、今の世相ともピタリと重なりますよね」 
<figure id="attachment_324752" aria-describedby="caption-attachment-324752" style="width: 2340px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="50a5b0e2"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/a7eef84f789db0b34fdd1d2455bc9bdc.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-324752" class="wp-caption-text">昭和８年（1933年）10月発行の雑誌『日の出』（新潮社）の付録『世界に輝く日本の偉さはこゝだ』</figcaption></figure>
<figure id="attachment_324753" aria-describedby="caption-attachment-324753" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="cdd88a37"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/25ddae738d118f8bf3a0400913b842e5.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-324753" class="wp-caption-text">目次には日本人の自尊心をくすぐるタイトルが並ぶ</figcaption></figure>
<figure id="attachment_324754" aria-describedby="caption-attachment-324754" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="36ff8425"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/c556aed83fde760d8a3917a30b5b53f7.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-324754" class="wp-caption-text">「金のない国だなんて悲観するな。金や石炭が満州からどんどん出て、今に世界一の金持国となるから」と</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="「個人情報」の収集"></div>
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<h3>「個人情報」の収集の仕方</h3>
さらに、もう一つ挙げるのが、数々のトラブルと強引な進め方により、批判が殺到している「マイナンバーカード」と酷似した「個人情報」の収集の仕方だという。
「日中戦争下の昭和14年（1939年）１月に作られたのが、医療や建設など特定の労働者を把握する目的の『職業能力申告手帳』でした。 
これは戦争に備えて、どんな人材がどこにいるかわかっていないと、うまく活用できないから、登録させようというもの。それをもとに、必要な人材を必要な時に連れて行ける『国民徴用令』も同年７月に施行しています。昭和16年（1941年）３月には登録範囲を拡大して『国民労務手帳』となっています。 
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また、現在の母子健康手帳につながる『妊産婦手帳』が作られたのも太平洋戦争中の昭和17年（1942年）のことで、健康な子供を産み〝お国のために″育てる配給割り当ての確保が目的でした。さらに、当時の日本で国民的問題となっていた結核を把握、予防するため、昭和15年（1940年）に発行していた『体力手帳』と『妊産婦手帳』を紐づけ、生まれた子どもにすぐ『体力手帳』を交付するようになります。成長した子どもは、『国民労務手帳』につながっていったでしょう。 
結局、あれもこれも紐づけることで、健康な子供を産み育て、徴兵や徴用に適する国民を1人でも多く育て、把握しておこうということですね。 
こうした個人情報の収集努力と紐づけは、今のマイナンバーカードで無理やり健康保険証と統合することに似ていて、機能を付け足す強引な進め方を見ると、何がどう利用されていくのか不安があります」 
<figure id="attachment_324755" aria-describedby="caption-attachment-324755" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="650cee87"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/c41b341e863695db84b4e777fc1bfdc2.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-324755" class="wp-caption-text">今回の展示では、軍資金確保のための国債やポスター、軍事資源確保のための金属回収や、徴兵、徴用などに関連する資料を展示。また、ビルマ戦線でインパール作戦からその後の敗走をたどった人の描いた画文集『牧内兵長回想録』もあわせて販売予定（写真は、去年の会場風景）</figcaption></figure>
<h3>危機感の演出＝Jアラート</h3>
そしてもう一つが、「危機感の演出＝Jアラート」だという。
「例えば日本初の防空演習は昭和３年（1928年）に大阪で行われました。長野でも昭和７年（1932年）5月に行われており、長野市の地図の中でどこに陣地を作り、どう飛行機に飛んできてもらって、模擬爆弾を投下させるのかと言ったことを記した内部資料があります。 
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この地図を見ると、防護支部、防護司令部、避難所、重機関銃、高射砲、本部、消防隊本部などがあり、長野県庁があった辺りは赤の斜線で『重要な防護地域』とされています。 
また、昭和８年（1933年）の関東防空演習の際には、関東全体の防空監視にたくさんの人をはりつけ、夜は敵機にみつからないよう電灯を消す『灯火管制』を大々的に行うなど、一般市民参加を意識していました。国際連盟を脱退して危機感が高まる中、軍が主導して引き締めるよう、前面に出てきた感じです」
<div data-friday-nextpage-lead="「教育」「学問」への介入"></div>
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<h3>「教育」「学問」への介入</h3>
さらに、&#8217;04年に国立大学が独立行政法人化され、学問の自由が規制されるようになったこと、文部科学省が国立大学文系不要論を唱えたり、国立大学の授業の出欠確認でマイナカードの利用実績に応じて交付金を配分するといった案を盛り込んだりしたことなどから、「教育」「学問」への介入が近年はますます批判を浴びている。
それに通じるものが戦前戦中の校則に見られるそうだ。
「昭和18年（1943年）に発行された国民学校での子どものくらしの資料では、『学校へ来る前』の項目で30個ほどきまりがあります。 
なるべく早起きをし、時間を定めておきましょう、寝具は毎朝片付け、ときどき日光に当てる。毎朝顔洗い、口をすすぎ、歯を磨く。神様にお参りする。父母長兄におはようございますと挨拶する。一定場所を定めてもらって掃除をする。近所の人に会った時はおはようございますと挨拶する云々です。 
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さらに、『学校にて』では、校門に入ったら一度並んで班長の号令で拝礼することから始まり、授業中は姿勢を正しくする、教科書は常に押しいただく気持ちで取り扱うなどです」 
こうしたこまごまとしたルールに息苦しさや恐怖を感じる人がいる一方、今も「良いもの」「安心」と感じる人もいるだろう。なぜなら、自分で考え、行動することが苦手で、「ルール」や「マニュアル」がないと安心できない人も一定層いるからだ。
「戦中・戦後のルールを守りましょうという教育が根っこにはあるのだと思います。 
ルールを守ることが最も大事だと教えられた人からすれば、権力に対して物申す人は悪い人、先生に口ごたえするのは悪いことみたいな感じになってきますから。 
権力者にとっては、そうしたルール待ち、指示待ちの従順な人間は管理しやすいでしょうが、結局それは個人の思考力の低下だけでなく、国としての活力の低下を招いてしまっている気がします」
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SさんはTwitterでの戦争資料の披露・共有に加え、展覧会も1年に1度行っている。７回目となる今年は８月８日～13日まで長野県長野市の「ギャラリー82」（公益財団法人八十二文化財団との主催）で開催する予定だ。
<figure id="attachment_324756" aria-describedby="caption-attachment-324756" style="width: 2680px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9e9e6d9f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/07/57be30500691f631a6360d18acc078ee.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-324756" class="wp-caption-text">『戦争だ！ カネを出せ！ モノ出せ！ ヒト出せ！ 展』８月８日～13日まで長野県長野市「ギャラリー82」（信州戦争資料センター／公益財団法人八十二文化財団主催）で開催予定</figcaption></figure>
「戦争は、どこかで誰かがやっているのではなく、前線も後方も何にもない。戦争になったら、みんな一緒なんだということを伝えたい。そのうえで将来の道を皆に考え、選択していってほしいというのが、一貫して抱き続けてきた思いです」
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<a href="https://twitter.com/himakane1" target="_blank" rel="noopener noreferrer">■『信州戦争資料センター(まだ施設は無い…)』のTwitter（X）はコチラ</a>
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田幸和歌子

信州戦争資料センター

近年指摘される「今と第二次世界大戦前の日本はそっくり」といった声が盛り上がるようになった。そんな中、戦争に関する資料を収集し、SNSで危機感を訴えているのが長野県在住の「信州戦争資料センター」さんだ。

「新しい戦前」…80年前と酷似？戦争資料から浮かび上がる「今の日本のヤバさ」

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