<h3><span class="strongInContent">なぜ吹き替え版の上映が増えているのか</span></h3>
<p>昨秋から上映中のインド映画『RRR』の吹き替え版が７月28日から公開され、話題になっている。</p>
<p>ところで、最近の洋画を見ると、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や『リトル・マーメイド』『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』など、字幕よりも吹き替え版の上映館のほうが多い作品が目立つ。</p>
<figure id="attachment_326764" aria-describedby="caption-attachment-326764" style="width: 2833px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ffc19fbc"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/5d336774b784806ab8e375195fb3985f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-326764" class="wp-caption-text">インド映画史上最高の製作費7200万ドル（約97億円）をかけたラージャマウリ監督作品『RRR』。劇中のダンスバトル曲「ナートゥ・ナートゥ」は第95回アカデミー賞（2023）歌曲賞を受賞（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<p>なぜ吹き替え版の上映が増えているのか。海外ドラマ評論家・映画ライターの池田敏さんに聞いた。</p>
<p><span class="strongInContent">「吹き替え版の隆盛は、1990年代後半からシネコンが増えた影響が大きいと思います。1990年代後半以前の映画業界なら字幕版（だけ）が上映されるのがデフォルトでした。なぜなら、当時の映画界はまだ “洋高邦低”（洋画の人気は邦画より上）でしたから。作品によっては吹き替え版もニーズがあると意識が変わったのだと思います。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<p><span class="strongInContent">シネコンビジネスは、コンセッションでのドリンクなどの物販が重要で、家族で入場してほしいのが本音でしょう。すると、小さな子どもも分かりやすい吹き替え版が重宝されるようになったのではないでしょうか」</span></p>
<p>個人的には、恥ずかしながら吹き替え版は子ども向きという思い込みがあった。そのため、『雄獅少年/ライオン少年』を観る際、字幕版の上映館がほとんどなく、どうしたものかと思っていたとき、「映像の情報量が多いから吹き替えで観るほうが映像を純粋に楽しめる」という口コミを見て、なるほどと膝を打ったこともある。</p>
<p><span class="strongInContent">「確かに作品によっては吹き替え版のほうが、上映回数が多い作品も増えていると思います。また、DVDやブルーレイが普及したことも大きいのでは。ソフトによっては複数のバージョンを楽しめるという新たなお楽しみができ、何より消費者にとって選択肢が増えたことは大きいと思います」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<h3><span class="strongInContent">日本TV界の番組不足を補った「海外ドラマの日本語吹き替え版」</span></h3>
<p>ただし、日本人は古くからTVで“日本語吹き替え版”を楽しんでいた歴史が影響していると池田さんは指摘する。</p>
<p><span class="strongInContent">「昭和30年代の日本のTV界は、番組の制作能力が低い上、映画をTVで放送させない日本映画界の『五社協定』もあり、番組不足でした。そこで海外ドラマの日本語吹き替え版の制作が盛んになったんです。この時期を『第１次声優ブーム』と呼ぶこともあります。外国人が日本語で話す新鮮さも、盛んになった理由かと思いますし、当時のTV受像機が小さく、字幕版が向いていなかったことも考えられます」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>海外ドラマの放送が1970年代に激減した後も、地上波のゴ－ルデンタイムではいわゆる「洋画劇場」枠で映画は多数放送され、それなりに視聴率も稼いでいた。しかし、1990年代に入ってBS放送が普及し始めると、地上波の「洋画劇場」は弱体化し、映画も海外ドラマもBS放送がメインとなる新時代に突入したという。</p>
<p><span class="strongInContent">「一方、1970年代後半からのアニメブームを受け、スター声優が何人も生まれ（第２次声優ブーム）、1990年代後半からアニメが再注目され、声優が歌手業・ゲームへの出演などに活動範囲を広げると、第３次声優ブームが起きたといわれています。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<p><span class="strongInContent">幼い頃からこうしたアニメや吹き替えに親しんだ層が10代になった2000年代後半頃から、子どもがなりたい職業のランキングに声優が入るなど、第４次声優ブームが発生し、現在の声優人気はブームを超えた日本ならではの現象として定着しました。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">海外でも人気が高い日本のアニメについては、それに伴い、海外でも声優や主題歌などを歌うアーティストの人気が上がっています」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="「吹き替え」で観るメリット"></div>
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<h3><span class="strongInContent">「吹き替え」で観るメリット</span></h3>
<p>では、近年公開の作品で、「吹き替え」で観るメリットとは。</p>
<p><span class="strongInContent">「あまり日本で知られていない本国の俳優さんが出演したオリジナル版の場合、日本で人気の声優さんが吹き替えを演じるというのは、大きな付加価値があると思います。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">３D</span><span class="strongInContent">や４DXは“没入感”が大切なので、画面に浮かんで表示される字幕よりも吹き替えのほうがベターかもしれません。アニメの吹き替えに関して、最もコアなファンについては、『字幕全否定論』もあります。画面＝映像を楽しみたいから字幕が映像を汚すという主張です。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">一方、海外の吹き替え版は少数の声優がたくさんの役を兼任することが多く、多数の声優が参加する日本の吹き替えやアニメは豪華と言えます」</span></p>
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<p>一方で、昔はジャッキー・チェンの映画など「吹き替えのほうが面白い」と言われた作品もあった。</p>
<p><span class="strongInContent">「TVでおなじみの声優さんが声をアテるケースでしょうか。局によって『この俳優はこの声優』というフィックスの人が決まっていたのも日本の吹き替え文化を面白くしていました。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">しかし、1990年代、ビデオリリース用に作られた吹き替え版を放送するケースが増え（TV局にとってはコストカットのメリットがあります）、21世紀に入ると、洋画が劇場公開された時点で吹き替え版も同時に作られることが増えており、その場合、翻訳をオリジナル版とあまり変えるなというお達しが本国からあるようで、出来とは別のレベルでいう『面白い吹き替え』『ヘンな吹き替え』は減っているのが現状ではないでしょうか。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">ジャッキー・チェンの石丸博也さんや、『ミスター・ブー』の広川太一郎さんなど、香港映画の吹き替えが面白かったのは、香港の作り手たちを無視できたからという面もあるようです。個人的にそうした『面白い吹き替え』『ヘンな吹き替え』はあっていいと思いますが、下手をしたら炎上につながるリスクもある。本国からお墨付きをもらえるくらい本気を出さないといけないと思います」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_326765" aria-describedby="caption-attachment-326765" style="width: 800px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="5b4e5da8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/1edf6dbe89ec5769f10327a43295aa21.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-326765" class="wp-caption-text">映画を見るとき「いつも字幕」は38.9％（「映画は字幕派？吹き替え派？」に関するアンケート〈調査対象：全国の10代～70代以上の男女1000人／’21年〉／エラベル（ELABEL）のインターネット調査より）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">吹き替えのガッカリ作品とは…</span></h3>
<p>逆に、吹き替えのガッカリ作品を池田さんに挙げてもらった。</p>
<p><span class="strongInContent">「声優にもよりますが、有名人の場合は不祥事を起こすとキャストが代わることもあるので、有名人の起用は要注意です。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">ドラマ『スーパーナチュラル』シーズン１・２も印象的でした。シーズン１・２で主人公のウィンチェスター兄弟を、成宮寛貴さんとお笑いコンビ・次長課長の井上聡さんが吹き替えましたが、後にいずれも売れっ子の東地宏樹さんと内田夕夜さんがシーズン１・２を丸ごと吹き替えし直し、シーズン３以降も吹き替えています。そうなると、そもそもなぜ有名人たちに吹き替えさせたのか、と。実際、成宮寛貴さんに至っては俳優業から引退してしまいましたし」</span></p>
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<p>また、一般のドラマでは演技ができると思われていた人でも吹き替えはイマイチなことも。</p>
<p><span class="strongInContent">「例えば宮迫博之さん。『アベンジャーズ』シリーズでホークアイ役でしたが、芸能界のメインストリームから消えてしまい、東地宏樹さんに代わったら、やっぱり東地さんのほうが良かった。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">『ザ・シンプソンズMOVIE』は、所ジョージさん、和田アキ子さん、田村淳さんなどがキャスティングされ、TV吹き替え版のファンが大激怒したこともあります。とはいえ、『パシフィック・リム』のケンドーコバヤシさん、『パディントン』の松坂桃李さんなど、有名芸能人の中には巧い人も少なくないので、全否定は良くないと思いますが」</span></p>
<p>ただし、知名度のある芸能人の起用で宣伝につなげるパターンは今後廃れていくだろうと補足する。</p>
<p><span class="strongInContent">「何せアニメなど声優の顔触れが発表された時点で、ネットで炎上することもありますから。宣伝効果があったとしても、吹き替え版の出来が悪ければ興行にとってマイナスになるリスクが大きい。ジブリの最新作『君たちはどう生きるか』が話題ですが、この声優陣だと炎上した可能性があったので告知しなかったのではないかと思います」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="吹き替えで観るほうが向いている作品は…"></div>
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<h3><span class="strongInContent">字幕で観るほうが向いている作品、吹き替えで観るほうが向いている作品</span></h3>
<p>では、字幕で観るほうが向いている作品と、吹き替えで観るほうが向いている作品の違いとは？</p>
<p><span class="strongInContent">「最近のハリウッド映画はテンポが速い作品が増えていて、多過ぎる情報量に接するにあたって、良い吹き替え版ならそちらを歓迎したいです。最近だと、台詞の情報量が映像のそれに負けないタイプのハリウッド大作。例えば、スーパーヒーロー物の『スパイダーマン：アクロス・ザ・スパイダーバース』『ザ・フラッシュ』が代表的では。そこに吹き替え版ならではの工夫があるキャスティングがあればベターです。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<p><span class="strongInContent">特に『ザ・フラッシュ』でぐっときたのは、1989年版『バットマン』でバットマン役を演じたマイケル・キートンがまたバットマンを演じたこと。吹き替えた山寺宏一さんもキートンが演じるバットマンを吹き替えたことがあったので、これは絶妙なキャスティングでした。とはいえ、やはり下手な吹き替え版に遭遇する事故を避けたいなら、まずは字幕版を通じて作品に接するのが良いです。良い吹き替え版と字幕版の両方が併存するのがベストですね。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">一方、吹き替えで一番難しいのはミュージカル。英語の歌を無理矢理日本語にしたものを聴いて白けることが個人的にあります。それでも、なかには『アナと雪の女王』のような成功例もありますからね。テレビでも放送された『ボヘミアン・ラプソディ』のように『歌だけ英語（原語）』も良いと思います」</span></p>
<p>字幕版と吹き替え版の両方があるのが当たり前になったのは、実はまだ歴史が浅くて、ここ20～25年程度だそう。池田さんは吹き替え映画の隆盛についてこう語った。</p>
<p><span class="strongInContent">「字幕版と吹き替え版、両方あるのを当たり前と考える世代が現れたからこそ、ここ数年の吹き替え版の興隆があるし、魅力的な声優が増えることによって『外画』ファンそのものが増える可能性がある、新時代に突入しつつあるのではないでしょうか」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_326766" aria-describedby="caption-attachment-326766" style="width: 1605px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="076341e5"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/08/29aa750d1aa4d768eb84a3e42c7257ee.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-326766" class="wp-caption-text">通常は字幕派の人たちも映画『アナと雪の女王』では８割が吹き替え版を選択（CCCMKホールディングス株式会社の’14年の調査より・サンプル数：1601名）</figcaption></figure>
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<p><span class="strongInContent">池田　敏（イケダ　サトシ）　</span>海外ドラマ評論家。1967年生まれ。早稲田大学在学中から執筆活動を開始し、『SCREEN』や『映画秘宝』など多数の映画誌・TV誌に寄稿。著書は『「今」こそ見るべき海外ドラマ』（星海社新書）ほか。WOWOWのアカデミー賞中継のアドバイザーを約20年務めるなどテレビ番組の監修、ラジオ出演をすることも。</p>
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<p><a href="https://twitter.com/bin_ikeda" target="_blank" rel="noopener noreferrer">■池田　敏さんのTwitter（X）はコチラ</a></p>
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田幸和歌子

なぜ吹き替え版の上映が増えているのか 昨秋から上映中のインド映画『RRR』の吹き替え版が７月28日から公開され、話題になっている。 ところで、最近の洋画を見ると、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービ

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