元川 悦子

<p>8月中旬に欧州主要リーグの23－24シーズンが続々と開幕した。最も注目を集めているのが、イングランド・プレミアリーグだろう。</p>
<p>昨季強烈なインパクトを残した三笘薫（26・ブライトン）に長期負傷離脱から復帰した冨安健洋（24・アーセナル）がおり、今季からは日本代表キャプテン・遠藤航（30）がリバプールに加わったのだ。</p>
<figure id="attachment_328554" aria-describedby="caption-attachment-328554" style="width: 2297px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="56a5c5ab"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/08/5d9a77e11d65399c679b8632a0d1d94a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328554" class="wp-caption-text">8月19日のボーンマス戦で移籍後初出場を果たした遠藤航</figcaption></figure>
<p>30歳の遠藤航のステップアップは世界中のサッカーファンを驚かせた。8月12日のDFBポカール（ドイツカップ）1回戦・TSGバーリンゲン戦の時点で、彼はシュツットガルトでキャプテマークをつけて先発フル出場。ダメ押しとなる4点目を叩き出していた。1週間後の19日にはブンデスリーガ1部開幕・ボーフム戦を控えていたから、本人も普段通り準備をしていたに違いない。</p>
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<p>ところが、週明けになって状況が一変する。「遠藤リバプール移籍」の一報がもたらされたのは日本時間8月17日朝。年齢層の高い選手の市場価値が下がる「30歳定年制」が浸透している欧州において、30歳の日本人選手がブンデス1部の残留争い常連のシュツットガルトからリバプールにステップアップするというのはサプライズ以外の何物でもない。遠藤航自身も驚きを隠せなかったはずだ。</p>
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<p><span class="strongInContent">「（ユルゲン・）クロップ監督は航みたいなボールを奪えるタイプの選手が大好き」</span></p>
<p>と、ボルシア・ドルトムント時代の教え子・香川真司（34・C大阪）が強調していたが、名将は20－21・22－22シーズンに続けてドイツでデュエル王（1対1の競り合い勝利数トップ）に輝いた遠藤を高く評価していたのは事実だろう。もちろん’22年カタールワールドカップで日本がドイツを撃破した歴史的一戦でのパフォーマンスも目に焼き付けていたに違いない。</p>
<p>リバプールは昨季まで守備的中盤を担っていたヘンダーソン（33／アル・イテファク）とファビーニョ（29／アル・イテハド）が去り、カイセド（21・チェルシー）らの補強を試みたものの失敗。そこで遠藤にチャンスが白羽の矢が立ったのだ。「玉突き人事」だったとはいえ、名門中の名門に日本人ボランチがそうそう行けるわけではない。</p>
<p><span class="strongInContent">「夢のプレミアに行けるかどうかは運とかタイミングがある」</span></p>
<p>と遠藤自身が言っていたが、話はトントン拍子に進み、彼は千載一遇のビッグチャンスをゲット。18日の正式発表、19日のボーンマス戦デビューと瞬く間にトップ・オブ・トップへと駆け上がったのである。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「ワタルを見習え」となる理由"></div>
<p>新天地の初パフォーマンスを見ても、冷静沈着そのものだった。その落ち着きは長年のキャプテン経験と、「4人の子供を育てる父親」というもうひとつの顔からもたらされているのだろう。</p>
<p>&#8217;93年2月生まれの遠藤航は横浜市戸塚区出身。地元の町クラブから中体連を経て、湘南ベルマーレのユースに進み、17歳だった’10年にトップチームデビューを果たした。</p>
<p>当時、湘南の指揮官だった反町康治監督（59／現・日本サッカー協会技術委員長）は<span class="strongInContent">「航は人間的にしっかりしているし、先を見て行動できる大人びた選手」</span>と評していたが、とても高校生とは思えない風格を見せていた。</p>
<figure id="attachment_328556" aria-describedby="caption-attachment-328556" style="width: 5077px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ca952105"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/08/6d7fcad6e32499bb6dd0ca3e94fc2c45.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328556" class="wp-caption-text">日本代表でもキャプテンの重責を担う</figcaption></figure>
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<p>’12年、19歳でキャプテンマークを託された。当時のチームを率いていた曺貴裁監督（チョウ キジェ・54／現・京都サンガ）はこう述懐している。</p>
<p><span class="strongInContent">「航はPKを外して負けたり、退場して泣いたりと、重責を担いつつ心を痛めながら成長していった。自分の立場をきちんと理解できる彼なら、リーダーの役目を託していいと僕は思った。『先輩の顔色を見ないと（何も）できないよ』っていう人間じゃなかったですからね」</span></p>
<p>年長者が数多くいるプロチームで10代選手がキャプテンに任命されることは滅多にない。それだけの信頼を周囲から勝ち得ていたのである。</p>
<p>その後、彼は「どの環境へ赴いてもキャプテン」と言っても過言ではないキャリアを歩んできた。’16年リオデジャネイロ五輪ではもちろんのこと、’22年カタールW杯までの第1次・森保ジャパンでも吉田麻也（35・LAギャラクシー）不在時には彼が重責を果たしていたし、所属先でもそう。とりわけ、’19年夏に移籍したシュツットガルトで大役に任命されたことは非常に大きかった。</p>
<p><span class="strongInContent">「’19年にシュツットガルトに行って、まず意識したのは、どんな時でも自分のパフォーマンスを落とさないようにすること。そして、練習から常に100％でやる姿勢を見せることでした。そんな自分を見て、当時のマタラッツォ監督がチーム全員の前で『ワタルのことを見習え』と言ってくれたんです。ドイツ語で褒められたので、キョトンとしていたら、『練習も試合も結果に関わらず常に100％でやってくれるのは本当にありがたい』と英語で軽く訳してくれた。うれしかったですね」</span></p>
<p>遠藤は以前、こう語っていた。</p>
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<p>正式にキャプテンとなったのはその直後。監督はそれから何人か変わったが、彼はずっとチームの要に位置づけられていた。</p>
<p>だからと言って、遠藤航は進んで周りの面倒を見たり、相談に乗ったり、規律のない選手にガミガミ怒ったりと自ら深く関わっていくタイプではない。まず1人の人間としてリスペクトし、それぞれがどう行動するのかを見てから対応策を考える。</p>
<p>シュツットガルトでも、遅刻や寝坊が多すぎてトップチームからセカンドチームに行かされた若手選手がいたという。そこでも「遅刻はダメだろう」と注意したり「どうしてそんなことをするんだ」と問い正すことはせず、まずは様子を伺ったと彼は言う。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="4児の父としても「リーダーシップ」を発揮"></div>
<p><span class="strongInContent">「10代でシュツットガルトのトップチームに入れるなんて物凄いチャンスなのに、なぜ遅刻をするのか……。僕は不思議だったけど、わざわざこっちから聞いたりはしませんでした。何か必要だったら向こうから言ってくると思うので、そういう時に初めて対応します。僕はキャプテンだけど、その人の人生を背負っているわけではない。本人次第なんですよ」</span></p>
<p>年齢や経験に関係なく1人1人の自立心や自主性を大切にしていく。それが遠藤のモットーなのである。</p>
<figure id="attachment_328557" aria-describedby="caption-attachment-328557" style="width: 4800px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c5b68819"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/08/afc168a1829804c4ef6cf5c8421e6922.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328557" class="wp-caption-text">プレミアリーグでも持ち味のデュエルの強さを発揮できるか</figcaption></figure>
<p>それは家庭でも同じ。遠藤航は19歳で結婚し、すでに4人の子供がいる”ビッグファーザー”だが、子供たちに手をかけすぎることなく、1人の人間として接している。遠藤はこうも言った。</p>
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<p><span class="strongInContent">「特に小学生の長男なんかは子供として見るのもよくないし、考え方も意外としっかりしてきているので、大人として接することを意識しています。それが自然と下の子たちにも伝わると思う。僕の親父も『自分で決めろ』という人だった。結果的に親父の教育方針を引き継いでる気がします」</span></p>
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<p>このスタンスはまさに欧州的。日本人は子供が小さいうちは川の字に寝るのが常識だが、欧州では夫婦の時間も大事にするため、乳児の頃から別室に寝かせるのが一般的だという。自立や独立を促そうという価値観の環境では、遠藤航のようなリーダーが好まれる。おそらくリバプールでも周囲をしっかり見て、適度な距離感を保ちつつ、ベストな人間関係を構築していくはずだ。</p>
<p>サッカーは11人で戦う競技。ピッチ上でいいプレーをしようと思うなら、全員といい関係を築けなければ何も始まらない。そういう人間的な部分に非常に長けている遠藤航はここからチームの重要な存在になっていく可能性も少なくない。</p>
<p>これまで「日本人ボランチは欧州で大成しづらい」と言われてきたが、遠藤航にはそれを覆せるだけのポテンシャルがある。ここからの快進撃が楽しみで仕方がない。</p>


元川悦子

アフロ

イングランド・プレミアリーグの名門であるリヴァプールへと移籍を果たした遠藤航。生まれながらにしてのキャプテンとの呼び声も高い遠藤のリーダーシップは、いかにして培われたのか。

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