秦野 大知

8月11～12日に「木下トロフィー争奪大会」（京都府宇治市・木下アカデミー京都アイスアリーナ）、11～14日に「げんさんサマーカップ」（大津市・木下カンセーアイスアリーナ）が開催された。
フィギュアスケート〝夏の陣〟とも言えるこの2大会は、各選手がオフからの成果やプログラムの課題を洗い出す新シーズンの前哨戦だ。
<figure id="attachment_328486" aria-describedby="caption-attachment-328486" style="width: 1024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="17895909"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/08/a2a2bed1385ba85154947fcc5134816b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328486" class="wp-caption-text">2年ぶりにサマーカップに戻ってきた坂本花織</figcaption></figure>
「世界選手権と全日本選手権で3連覇を目標にしたい」
そう語るのは日本女子のエース、坂本花織（23）だ。’24年世界選手権（モントリオール）で3連覇を果たせば、ペギー・フレミング（米国）以来、56年ぶりの快挙となる。昨季は北京冬季五輪で銅メダル、世界選手権で初優勝を飾った後のシーズンとあって、モチベーションの低下に苦しんだ。昨年は調整が遅れ、例年出場してきた「げんさんサマーカップ」を回避した。それだけに今年、なじみの舞台に戻ってきたことに気力の充実ぶりが窺える。
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ショートプログラム（SP）は産婦人科医が主人公の医療ドラマ『コウノドリ』、フリーは女性ボーカルに乗せてミステリアスな大人を演じる『Wild Is The Wind/Feeling Good』。それぞれの演目に決めた経緯と思いを坂本はこう説明する。
「今年の1月に姪っ子、3月に甥っ子が生まれた。（2人の）お姉ちゃんから 今日の姪っ子、甥っ子みたいな感じで送られてくる動画や写真がすごく力になり、この力を演技に変えたいと思って、初めて自分でやりたい曲を決めた。フリーは色っぽく。この年齢（23歳）になったからこそできる曲だと思っているし、振り付けだと思っている」
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8月4日まで『THE ICE』の盛岡公演に出演しており、「ショートもフリーも夏休みの宿題みたいで、直前に追い込み！　みたいな感じだった」と滑り込み不足は想定内。SPでは世界一と評されるダブルアクセル（2回転半ジャンプ）で珍しくジャンプの軸が乱れると、フリーはステップの途中で氷の溝にはまって尻もちをつき、3連続ジャンプの最後で転倒するなど、ミスが散見された。
それでも坂本には、
「今、自分に何が足りないのかを把握することができた。試合でしか味わえない緊張感をシーズン序盤に経験しておくことはすごく大事。身体の動きは例年のシーズン序盤に比べたらマシで、迷いもあまりない。練習を積めばいけるかなっていうところまでは気持ちが上がっている」
と表情明るく振り返る余裕があった。
大会2日後に予定されていた盛岡合宿を見据え、「いっぱいシゴかれようかなと思ってます」と豪快に笑い、会場を後にする姿には大物ぶりが漂っていた。
<div data-friday-nextpage-lead="久しぶりの実戦復帰も…"></div>
左足首の故障で昨季国際大会出場のなかった鍵山優真（20）は「木下トロフィー争奪大会」で昨年12月の全日本選手権以来、229日ぶりの実戦復帰を果たした。
「予定している試合に出られているっていうことはすごく嬉しい」と喜びを噛み締めながらも、完全復活の道のりの険しさも突きつけられた。
<figure id="attachment_328487" aria-describedby="caption-attachment-328487" style="width: 815px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a16b592c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/08/3535547553e563b9061401112b172e1c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328487" class="wp-caption-text">復帰後初戦の難しさを痛感した鍵山優真</figcaption></figure>
SP直前の6分間練習で鍵山は明らかに浮足立っていた。公式練習では演技に組み込むサルコーだけでなく、トーループ、フリップの4回転ジャンプを降りるなど、切れのある動きを見せていたが、
「不安はそこまでなかったが、6分間練習でのトリプルアクセル（3回転半ジャンプ）の失敗で、いままでのペースをちょっと忘れてしまった部分があって、そこから気持ちが焦ってしまった」
と振り返る。
『Believer』冒頭の4回転サルコーは助走で予定したコースからずれたまま跳躍に入り、空中で回転軸をうまく取れないまま転倒。トリプルアクセルでもミスがあり、「褒められるところは一つもない。苦手意識も若干残りつつあるので、早く克服しないといけないっていう気持ち」と吐露した。
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翌日のフリーで4回転サルコーを見事に修正してみせたものの、4回転トーループ、3回転ルッツなどで大きなミスを重ね、終盤のスピンで左ふくらはぎをつった。練習では経験したことがあっても、本番ではこれまで見られなかったアクシデントに見舞われたことはブランクがあることの証左だろう。合計得点では自己ベストを約100点も下回った。
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「調子自体は全然悪くないので、やっぱり経験不足。（実戦から）空いた1年間で、大きく感覚が鈍ってしまっている」（鍵山）
一方で、氷上練習から遠ざかり、ジャンプを跳べない期間に鍛えてきた上半身は一回り大きくなった。その上半身と連動させたスケーティングを生かした表現面は昨季までと見違えるほどの出来栄えだ。うまくかみ合えば、一気に最高峰の舞台に返り咲くポテンシャルを秘めている。鍵山はこうも言った。
「たくさんの課題が見つかり、全日本に向けてどう積み上げていくか、計画を改めて立て直すことができるいい機会だった。あとは試合勘を取り戻すだけ。しっかりと感覚を掴むことができたら、練習通りできると思う」
9月には約1年半ぶりの国際大会となるロンバルディア杯（イタリア）がある。ステップを着実に踏んでいく。
<div data-friday-nextpage-lead="夏のMVPは三浦佳生か"></div>
夏の陣で最も濃密な3日間を過ごしたのが、昨季四大陸選手権と世界ジュニア選手権を制した18歳の三浦佳生だろう。
2大会で2連勝。とくにSPは91点台をそろえた。新演目の『This Place Was A Shelter』はブノワ・リショー氏の振り付け。豪快なジャンプを持ち味としていた坂本花織に世界女王へと繋がる表現力を授けた名コレオグラファーの下で、三浦はスケーターとして一皮むけようと試行錯誤している最中だ。
<figure id="attachment_328488" aria-describedby="caption-attachment-328488" style="width: 836px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="ad7f6bb9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2024/08/13511d48e515d29798299f49c3c72414.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-328488" class="wp-caption-text">新境地を見せた三浦佳生</figcaption></figure>
「自分のスケーティングっていうのは、ガツガツ滑る感じのプログラムが多かった。それを覆すようなゆったり、ねばーっと滑って、時々アクションが入るような、コンテンポラリー要素のあるプログラム」
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三浦の弁である。緩急を必要とする難解な演目だが、全日本選手権初制覇を目指して課題である表現力を磨き、演技点の底上げに着手した格好だ。
人気アニメ『進撃の巨人』のテーマ曲を使ったフリーは、羽生結弦氏らトップスケーターを数多く手がけてきたシェイリーン・ボーン氏の意欲作。「木下トロフィー争奪大会」では、サルコーとトーループの2種類で計3度の4回転ジャンプを成功させた。この時期に自己ベストにあと9点と迫る180.91点をマークできた背景に、全日本で6位に終わって世界選手権代表を逃した昨季からの飛躍を誓う並々ならぬ思いが感じられた。結果を残しても決して慢心しない精神面にも成長が見られる。
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「大きなミスではないけど、加点されないジャンプが何個かあった。きちんと見直していけば、もっと点数は伸びてくると思う。目の前にある課題にしっかり取り組んで、さらなる点数アップを目指して頑張りたい」
3種類目の4回転にループを組み込むことも目指す若武者が、今季のフィギュア界の台風の目になりそうだ。

秦野大知

共同通信社

8月11、12日に木下トロフィー争奪大会、11～14日にげんさんサマーカップが開催された。フィギュア夏の陣ともいえる大会では、世界を見据える3選手が躍動した。

坂本花織の充実、鍵山優真の堂々復帰、さらに新星も登場！「フィギュア夏の陣」で見えた成果と課題

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