ゴルフ好き社員は優遇…ビッグモーター “元クビ切り担当者″が懺悔「自主退職に追い込む」戦慄の手口

直近3年半でなんと推定1万5000人が退職
理不尽な理由で解雇の標的となった従業員を
″自主退職″に追い込む非道な手口をすべて明かす！

「これまで自動車関連を含め、複数の会社に勤めてきましたが、ビッグモーターはおかしなことが多々ありました。企業のコンプライアンスなど存在せず、国のルールより会社のルールを大事にしていた。とくに人事に関しては最後まで慣れなかったですね。あの頃は毎日が苦しくて、苦しくて……今も当時を思い出すとつらかった日々がよみがえります」

そう告白するのはビッグモーター在籍時、″クビ切り担当″として何人もの従業員を自主退職に追い込んだＡさんだ。

８月11日、水戸地裁は不当解雇を訴えていた同社の車両整備士の30代男性の主張を認め、ビッグモーター側に450万円の賠償を命じた。

FRIDAYが入手した同社元従業員の上司とビッグモーター本部とのLINEのやりとりには、本部が上司に人員削減を求める一方で、「自主退職として処理出来るように」と指示する文言があった。会社が解雇対象とした従業員を「自主退職」という形で追放する。それがＡさんに課せられたミッションだった。

「最初に『〇〇さんを明日から店に来させないでください』『責任者であるあなたが話をして自主退職という形で辞めてもらってください』と本部から言われた時は、どうやって説得すればいいのか、まったくわからなかった。仕事上で大きなミスをして会社に多額の損失を与えたとか、何かの罪を犯したとか、そういう理由ではないのですから……」

途方にくれたＡさんは人事担当部署に相談したが、同部署からの返答は耳を疑うものだったという。

「『私と（退職を促している）従業員とのやりとりに問題があるから人事では対応できない』とまるで他人事。取り合ってもらえませんでした。問題があるから相談しているわけで、解決のためのアドバイスをしてくれるのかと思いきや……。

『自主退職とは話し合いのうえ、しっかりと事情を説明し、納得して退職してもらうことであり、雑に扱えば″解雇″となってしまう』と言う。あくまで、『自主退職ありき』の対応を求められました。その役を担わされた私の悩みは、聞いてもらえませんでした」

クビになる理由のない人員を会社都合で「自主退職」に追い込むこと自体に無理があるわけで、本気で抵抗された場合はどうしていたのか。

「自主退職させるのが難しい従業員には本部が『配置換え』を指示しました。別の店舗に移るわけですが、新天地は引っ越さない限りは、到底通える距離ではない遠方でした。単身者ならまだしも、小さなお子さんなどご家族がいる従業員は、自宅からは通えない異動先を指示され、泣く泣く自主退職という形をとって辞めていきました」（Ａさん）

Ａさんは「後悔しかない」という。

「私が初めて現場責任者になった時、先輩スタッフから言われた言葉を今でも覚えています。『俺等には嫁や子供がいて生活がかかっているから』と。これは、どんな不条理な命令であっても会社の言うことを聞くべき、まず自分の家族を守れ、という意味だととりました。だからその後、つらくなるたびに先輩の助言を思い出し、心を無にして業務を遂行しました。

不当解雇された方も相当、大変だったと思いますが、説得する私も上司からは『早く辞めさせろ』『しっかり説明して納得させて自主退職させろ』と追い立てられてつらかった。中間管理職という立場ではどうしようもなくて……。

会社を辞め、冷静になりビッグモーターを外から見てまず思ったのは、『なぜあの時に役員や本部に対して不当解雇について意見を言えなかったのか』ということでした。本当に……悔やまれます」

７月下旬に兼重宏行前社長（71）らが辞任するまで、息子の宏一前副社長（35）や幹部役員が店内や周辺が清潔に保たれているかを点検するため全店舗を訪れる「環境整備点検」という業務があった。

表向きは清掃状況や挨拶の仕方などのチェックが目的とされたが、従業員の間では「クビにする従業員を見つけるイベント」とささやかれていた。Ａさん同様、クビ切りを担当したことがあるＢさんはこう明かす。

「兼重親子はゴルフ好きで知られていて、ゴルフが上手で良いアドバイスができたり、良いゴルフ場を知っていてその後の会食場所の選び方も上手い従業員がいる店舗では、理不尽な理由での降格や解雇は少なかったですね。

数字（売り上げ）がいい従業員も気に入られていました。ある店長は、部下に全治２週間のけがを負わせるなど傷害の疑いで逮捕されたのにもかかわらず、解雇どころか、事件後に昇進していました。ムチャクチャですよ」

Ａさんによれば、「国のルール」より「会社のルール」が重んじられていたというビッグモーターだが、もちろん、不条理に辞めさせられた従業員たち全員が黙っていたわけではない。

上写真は環境整備点検をきっかけに即日解雇に追い込まれた従業員が解雇の不当性を会社に訴えたメールだ。この従業員は「あいさつ不備」「髪の毛の色」を指摘され、挨拶について謝罪したうえで、髪の色は黒に戻すことを上長に伝えたが、言われたその日に解雇されたという。

労働基準法により、例外的な場合を除き従業員を解雇する時は、30日前までに予告することが義務付けられている。また、挨拶の不備や髪の毛の色が茶色いことが解雇の正当な理由に当たるとも思えない。この文面を見る限り、解雇予告はなかったようで、不当解雇と言われても仕方がないだろう。

事実上の解雇であるにもかかわらず、なぜ自主退職という形をとらせたのか。自主退職に追い込む理不尽な業務をなぜ現場にやらせたのか。ビッグモーターは本誌取材に、こう回答した。

「詳細については回答を控えさせていただきますが、実際は解雇であるにもかかわらず自主退職という形にするよう現場責任者に本部が指示をしたという事実は確認されておりません。従業員の退職手続きにつきましては、規定に則り、適切に対応するよう指示をしております」

「事実は確認されていない」のか、確認する気がないのか。従業員の管理データなどによれば、ビッグモーターはここ３年半でなんと推定1万5000人が退職しているという……。

 

『FRIDAY』2023年９月８日号より