斉藤 健仁

<figure id="attachment_331127" aria-describedby="caption-attachment-331127" style="width: 900px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="99114fbd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/77db589f3f9a7a3ef27c97751034160f.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-331127" class="wp-caption-text">6本すべてプレースキックを決めたSO松田力也</figcaption></figure>
<p>いよいよ開幕した10回目のラグビーワールドカップ（Ｗ杯）フランス大会。前回を超える史上初のベスト4以上を狙うラグビー日本代表（世界ランキング14位）は9月10日に予選プール初戦のチリ代表（同22位）戦を迎え、前半、先制トライをゆるすなど苦しい場面もあったが、最後は42―12と突き放した。</p>
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<p>晴れ舞台で初めて桜のジャージーの「10」番を背負った松田力也はプレースキックで6本すべてきめて快勝に貢献した。</p>
<p>「今日は相手ゾーンに入ってトライをとりにいく、というプランでした。ジャパンはスコアできる、ということを証明できたし、まだまだ積み上げないといけない。（パーフェクトだったゴールキックについて）これまで外してきたりしましたし、緊張もメッチャありましたけど、この舞台で決めるために準備してきた。これからもいい一貫性をもって決め続けていきたいです」</p>
<p>ピッチには特別な思いで立っていた。</p>
<p>「最高の舞台でラグビーができることに感謝したい。大ケガをして戻ってこられたのは、いろんな人の助けがありましたから。メンタルもフィジカルも、もちろん経験値のところも含めて、4年前とは全く違う自分がいる。そういう部分でも自分的にも自信あるし、やり切るだけ」と話していた通り、2度目のＷ杯ではその悔しさを十二分に晴らすパフォーマンスを見せた。</p>
<p>京都出身の松田のラグビーキャリアは途中までは順風満帆だった。父の大輔さんがユニチカでプレーしていたラグビー選手で、小学校1年から競技を始めた。陶化中、伏見工業という経歴を持ち、中高の経歴が重なるため「平尾誠二2世」の呼び声も高かった。</p>
<p>常勝軍団の帝京大学でも1年から試合に出場。主にSOとしてプレーし、大学4年で初キャップを得て、ワイルドナイツに入るとルーキーイヤーから躍動。インサイドCTB「12」番として「ベスト15」にも選ばれた。そして社会人2年目から「センターとしては少し小さい」という思いもあり10番に専念した。</p>
<p>所属のワイルドナイツで10番としてプレーすることができても、日本代表ではなかなか10番としての時間をもらえることは多くなく、2019年Ｗ杯を迎えても状況は変わらなかった。田村優（横浜キヤノンイーグルス）という高い壁の前にベンチメンバーからのスタートが続いた。</p>
<p>前回大会は日本ラグビー史上初の「ベスト8」を達成し、チームとして勝った達成感はあったが個人のプレーには納得することができなかった。</p>
<p>司令塔としてはゲームコントロール、スキルの部分でコーチ陣からの信頼を得ることができず、一度も先発で起用されず「悔しかった。2019年のような思いをしたくない。次の大会では10番を背負いたい」という強い気持ちを持っていたという。</p>
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<p>コロナ禍を経て、2021年にはトップリーグで10番としてワイルドナイツの優勝に寄与した。そして桜のジャージーを着ても正SOとしての試合が増えていった矢先。好事魔多し、だった……。2022年もワイルドナイツで10番としてプレーを続けていたが、5月のリーグ戦の最終戦で左ひざの前十字じん帯を断裂する大ケガをしてしまい、この年の代表活動には一切参加することができなかった。</p>
<p>すぐに手術を敢行し、日本代表HO堀江翔太も師事する、佐藤義人トレーナーの下に通い「ケガする前より強くなって戻ってくる」の一心でリハビリを続けて、全治8～10ヵ月とされている中、見事に7ヵ月で試合復帰を果たした。</p>
<p>そしてワイルドナイツの10番として18試合中17試合（13試合で先発）出場し、プレーオフの決勝で負けたものの、85.5％のキック成功率を達成。「ベストキッカー賞」を受賞し、完全復活を印象づけた。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="W杯の悔しさはW杯でしか返せない"></div>
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<figure id="attachment_331129" aria-describedby="caption-attachment-331129" style="width: 900px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="b2191e43"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/ecbe6d48c6d6662ec4e59ae782cd958b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-331129" class="wp-caption-text">左ひざ前十字じん帯断裂で全治8～10ヵ月といわれる大ケガを同7ヵ月まで縮めてピッチに立った松田</figcaption></figure>
<p>そして7月、2021年11月以来595日ぶりに日本代表に復帰。Ｗ杯直前の試合では松田のスタメン機会は限られ、チームも1勝5敗と結果が出ない中、でも「ゲームの中でどれだけいい判断ができるか。自分の経験を信じて仲間とコミュニケーションとって、判断してやっていくことが一番重要になるし、それができれば、しっかり最後、勝てるようになる」と調整を重ねてきた。</p>
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<p>8月、渡欧前のオフ、松田は京都の実家に帰省した。小学校5年のとき、病気で急逝した父の墓参りに行き、「フランスの地ですが、一緒に（父が）戦ってくれると思うし見守ってくれると思います。2019年Ｗ杯と違う自分がいると思っているし、（2023年大会では）本当に強くなっていると証明できる」と覚悟を決めた。</p>
<p>悔しい思いをしてはや4年。「Ｗ杯の悔しさはＷ杯でしか返せない」と日々、研鑽を積んだ。10番としてワイルドナイツをトップリーグの優勝に導き成長を実感したが、大きなケガにも見舞われた。それでも心身ともに成長している実感がある。</p>
<p>予選プール2戦目は、9月17日、優勝経験のある「ラグビーの母国」イングランド代表（同8位）と対戦する。松田は「全員が同じ画を見られるように準備したい。自分たちができることをやれば、2015年Ｗ杯で南アフリカ代表を倒したようなことができると思う。80分終わったときに笑って勝利できることを想像して描きながら1分、1分やりたい」と語気を強める。桜の10番はチームを勝たせるプレーに徹する。</p>
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1975年生まれ。ラグビー、サッカーを中心に、雑誌やWEBで取材、執筆するスポーツライター。「DAZN」のラグビー中継の解説も務める。W杯は2019年大会まで5大会連続現地で取材。エディ・ジョーンズ監督率いた前回の日本代表戦は全57試合を取材した。近著に『ラグビー語辞典』（誠文堂新光社）、『ラグビー観戦入門』（海竜社）がある。自身も高校時代、タックルが得意なFBとしてプレー

斉藤健仁

長尾亜紀

史上初のベスト４進出が期待されるラグビー日本代表がチリ代表を下し、順調なスタートを切った。前回’19年に一度も背番号10をつけられなかった”平尾誠二２世”はどんな決意でこの大会に臨んでいるのか。

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