<figure id="attachment_331323" aria-describedby="caption-attachment-331323" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7b9ae4b2"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/0979909c7dc6d64539f17e79b68de026.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-331323" class="wp-caption-text">7月25日、阪神対巨人戦で行われた横田慎太郎さん追悼セレモニー（写真：産経新聞社）</figcaption></figure>
「やればできるということを“あいつ”が教えてくれました」
史上2人目となるプロ野球選手からボートレーサーへの転身を果たし、今年7月にデビュー101戦目で待望の初勝利を飾った元西武の野田昇吾がそう話したのは、同じ7月に脳腫瘍で亡くなった元阪神の横田慎太郎さんのことだ。
「あまり外に言うものではないかなと思っていたんですけど……」
そう前置きをした野田だが、セカンドキャリアも勝負の世界で戦い続けることを選んだ裏には、特別な後輩への想いがあったと明かす。
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野田にとって横田さんは鹿児島実業高校野球部時代に2学年下で、同部屋で一緒に暮らした後輩だった。
高校1年秋からチームの4番を任された横田さんは、約半年前、鳴り物入りで鹿実に入学してきた。
「すごいスーパースターみたいな感じで入ってきました。同じ左投げだったし、（野田と横田さんを同部屋にした）監督や部長にしたら『いろいろ学べ』という狙いもあったんでしょうね」
高2の夏、高3の春に甲子園のマウンドに立った野田は、名門校を背負うエースだった。身長167cmと小柄だが、誰にも負けない練習量を重ねて左腕投手として成り上がった。
当時、鹿実の練習は夜10時か11時頃まで続き、寮に帰って夕飯を食べるのはその後だ。休むことなくストレッチなど体のケアを2、3時間行うと、床に就くのは深夜2時すぎ。翌朝は5時半に起床し、朝のメニューをこなした。
「3年間、睡眠は毎日3時間くらいでした。体のケアにそれだけ時間を割いたのは、練習量と比例していないと指導者に怒られるので。睡眠よりストレッチ系を重視していました。身長は低かったけど、それで戦えるという意識があったので。どうせ睡眠時間が短いんだから、ケガをしないようにケアしようと」
野田はほぼすべてのメニューを横田さんにも付き合わせた。毎晩就寝が遅くなって申し訳ない気持ちはあったが、同部屋の先輩・後輩の結びつきはそれくらい強かった。
「横田はたぶん、僕のことが相当好きでした。僕が履いていたパンツを勝手に取って、枕の下に入れて寝ているくらいでしたからね（笑）。憧れ的なものだったと思います」
野田は高3の夏、鹿児島大会準決勝で敗れて甲子園出場を果たせなかったものの、高校日本代表としてAAAアジア選手権で活躍し、大会のオールスターメンバーに選出された。そして卒業後、社会人野球の名門・西濃運輸に進むことが決まる。
「僕も絶対に西濃に行きます。ずっとついていきます！」
高校1年生だった横田さんは、野田の背中を追いかけると誓った。だが2年後、はるかに先へ行った。投げては球速140km/h以上を記録、打者としては高校通算29本塁打を記録するほどの注目選手になり、2013年ドラフト2位で阪神から指名されたのだ。
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当時、社会人野球で腕を磨いていた野田は後輩から大きな刺激をもらったと振り返る。
「西濃に来るものだと思っていたら、とんでもない選手になっちゃって（笑）。横田に先にプロ入りされて、ちょっとやばいなと思いましたね。逆に自分にとって、プロ入りへの思いを加速させる出来事でした」
<div data-friday-nextpage-lead="「あいつとの思い出は一生残ります」"></div>
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<figure id="attachment_331322" aria-describedby="caption-attachment-331322" style="width: 5088px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="acd61929"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/7d1de65fa697d5e6e3bb07b5d4545778.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-331322" class="wp-caption-text">横田さんとの思い出話を語るボートレーサーの野田昇吾</figcaption></figure>
社会人野球で4年間かけて腕を磨いた野田は、後輩から2年遅れて2015年ドラフト3位で西武から指名を受けた。入団1年目から22試合に登板すると、2年目のオフにはアジアプロ野球チャンピオンシップで侍ジャパンのメンバーに選出された。
翌2018年にはチーム2位の58試合に登板。“左キラー”として1勝1敗1セーブ、19ホールドを記録し、チームの10年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した。
だが、2019年は23試合と登板機会を減らし、翌2020年は3試合登板とマウンドから遠ざかる。中継ぎ投手として毎日のように準備を続けた勤続疲労も重なり、左肩に痛みを抱えていた。
そしてシーズン終了後、待っていたのが戦力外通告――。
「毎年戦力外になる人を見てきたので、後悔しないようにという思いで常に取り組んできました。だから、やり切ったという思いが強かったです」
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戦力外を告げられた翌日、野田はボートレーサーへの転身を考え出した。西武に入って1年目、先輩の浅村栄斗（現楽天）に誘われて見て、水上で戦う男たちに魅了された。野球選手として完全燃焼した一方、まだまだ勝負の世界で戦い続けたい思いが強かった。
「慎太郎がああいう病気になって、もちろんあいつのためにプロ野球選手として長く続けないといけないってずっと思いながらやってきました。でも、それもなかなか思うようにうまくいかず……となったときに、自分がまた第一線に立って、プロスポーツ選手としてやり続けたいっていう思いもありましたね、もちろん」
野田はボートレーサーへの転身を決め、養成所の試験の応募条件を満たすために75kgだった体重を52kgまで落とした。養成所での生活は過酷だったが、支えになった家族や、後輩・横田さんの思いも背負ってやり抜いた。
昨年11月にボートレーサーとしてデビューすると、今年7月9日、念願の初勝利。その9日後、特別な絆で結ばれた後輩が旅立った。
「あいつとの思い出は一生残りますね」
やればできる――。
横田さんに教わったことを胸に、野田はセカンドキャリアで勝負を続けている。
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<figure id="attachment_331324" aria-describedby="caption-attachment-331324" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="6a53bec6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/4449acc2841466b8f06f8ce0341db4d8.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-331324" class="wp-caption-text">2019年9月26日、6年間の現役生活に終止符を打った横田慎太郎は家族から花束を受け取り、感極まった。左端はロッテ、中日、西武などで活躍した元プロ野球選手で実父の横田真之氏（PHOTO：産経新聞社）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_331341" aria-describedby="caption-attachment-331341" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="269d11bf"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/9e4798c34c6f6e6193907a86abbc91b5.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-331341" class="wp-caption-text">自らが乗るボートとモーター、ハンドルの動きを調整する野田（撮影：小松寛之）</figcaption></figure>
<figure id="attachment_331342" aria-describedby="caption-attachment-331342" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4d3c9789"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/6992b6c7b2e2126ad7d889a5c8a3f0f9.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-331342" class="wp-caption-text">西武を戦力外になったが、第2の人生として選んだボートレースで奮闘する野田（撮影：小松寛之）</figcaption></figure>

1979年、埼玉県生まれ。スポーツノンフィクション作家。プロからアマチュアまで野球界全般を取材している。著書『中南米野球はなぜ強いのか』（亜紀書房）でミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。他に『野球消滅』（新潮新書）、『プロ野球　FA宣言の闇』（亜紀書房）、『山本由伸　常識を変える投球術』（新潮新書）など。

中島大輔

’20年に埼玉西武ライオンズから戦力外通告を受け、ボートレーサーに転身した野田昇吾は鹿児島実業出身。7月に急死した横田慎太郎さんとは高校の寮で同部屋で濃密な時間を過ごしていた。

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