<h3>情報が反映されるのは１ヵ月以上先…今すべきことは「保険証」自体の見直し</h3>
厚生労働省が８月に公表した「マイナンバーカードと健康保険証の一体化」に関する報告によると、マイナカードの交付枚数に対する健康保険証の利用登録の割合は69.9%。マイナ保険証の全国の利用率は、医療機関と薬局でオンライン資格確認が義務化された４月は6.3％だったが、７月は５%にまで落ちている。
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また８月には全国健康保険協会（協会けんぽ）が、マイナンバーと公的医療保険情報のひもづけができず、マイナ保険証を医療機関の窓口で使えないケースが少なくとも40万件以上あることを明らかにしている。
<figure id="attachment_332149" aria-describedby="caption-attachment-332149" style="width: 4367px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="efd132bd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/829e75e1050ee58f87abc5aec8ff3081.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-332149" class="wp-caption-text">政府はマイナ保険証のメリットに「正確なデータに基づく診療・薬の処方が受けられ、質の高い医療の実現につながる」ことを挙げる。だが、データが反映されるまでに１ヵ月半かかる（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
「マイナ保険証は無駄な公共事業。まったくもって無用の長物です」 
在宅医療の先駆者として知られる長尾和宏医師は、マイナ保険証への移行をめぐる政府の方針を一刀両断する。 
「患者や医療機関にとって、マイナ保険証のメリットは何もありません。マイナ保険証であれば、使い回しやなりすましなどの不正利用を防げるという意見も中にはありますが」
河野太郎デジタル大臣は、「なりすましや使い回しが現に起きていて、それなりの被害になっている」とし、不正利用の防止効果をマイナ保険証のメリットの一つに挙げている。だが、厚労省によると、国保でなりすまし受診などの不正利用が確認された件数は、’17年から’22年までの５年間で50件。河野氏からすると「それなりの被害」なのだろうか。
「薬の一元管理ができていいと言う人もいます。なぜこうした意見が出るかといえば、お薬手帳が本来の役割を果たしていないからです。 
患者の過去の薬剤情報を一元化して把握できるようにするために、お薬手帳は導入されました。だから一人一冊が原則なんですが、医療機関や薬局別に何冊も持っている人がいて、なおかつ薬局に持参しない患者もいます。これでは、薬局は患者の重複投薬や多剤投与、飲み合わせの管理ができません」
政府は、患者がマイナ保険証で受診した際に「医療機関と薬局は患者の過去の薬剤情報、特定健診情報等を確認でき、より正確な情報に基づく適切な医療の提供が可能となる」ことをメリットとして強調する。ただし、「本人の同意に基づき、過去の薬剤情報や特定健診情報等をその医療機関・薬局に提供することができる」となっており、患者はマイナ保険証での受診時に、情報提供に同意するか否かを問われる。
もし同意しなければ、従来の健康保険証と同じ扱いになり、窓口負担は高くなる。もっとも、患者が同意しても、マイナ保険証で医療機関や薬局医師が閲覧できる患者の診療・薬剤情報は過去３年分。しかも、受診してから情報が反映されて閲覧が可能となるまでに、１ヵ月半ほどかかるようだ。
「そもそも、マイナンバーカードと健康保険証をひもづける必要性はまったくありません。やるべきは保険証とお薬手帳の一体化です。 
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10年ほど前に台湾の開業医を視察したんですが、すでにICチップ付きカードの健康保険証が導入されていました。健康保険証番号には個人の基本的な情報と薬歴などの医療情報がひもづけられ、デジタルで一括管理されるようになっていた。保険証カード１枚が、全ての病院の診察券とお薬手帳の役割を果たしているんです。 
日本もこういう保険証にすればいい。診療と薬剤などの医療情報、さらにリビングウィルや臓器提供などの本人意思を一体化させた保険証が望ましいと思います」 
<div data-friday-nextpage-lead="医療現場からも、反対の声が上がっているが…"></div>
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<h3>廃止が撤回されなければ、「医療機関はマイナ保険証診療総辞退を」</h3>
国民皆保険制度のもと、日本では全国民が保険証を持っている。その誰もが持つ保険証そのものの機能を高めればいいだけ。長尾医師はそう主張する。
「しかし日本医師会には、そのような発想は残念ながらありません」 
<figure id="attachment_332127" aria-describedby="caption-attachment-332127" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="848c072c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/487d7eecd82c046fcf1e970f94eda05d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-332127" class="wp-caption-text">医療機関と薬局でのオンライン資格確認が４月に義務化されたが、マイナ保険証の全国利用率は７月の時点でわずか５%。それでもマイナ保険証への移行を強行するつもりなのか</figcaption></figure>
８月９日の日本医師会定例記者会見で松本吉郎会長は、健康保険証廃止時期の延長を要請する可能性について記者から問われ、「現時点でその必要はないと考えている」と答えた。さらに、「日本医師会として、今後も会員や地域の医師会に丁寧に説明し、理解と協力を得ていきたい」と述べている。
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「医師会は自民党の支持組織です。政治献金もたくさんしています。自民党に診療報酬の加減を握られているから、たてつけません。医師会もこれを機に与党べったりを止めて、異議を唱えてほしいです。 
とにかく医療現場からは、マイナ保険証への一本化に反対の声が上がっています。政府が保険証廃止の方針を撤回しなければ、現場の医師はマイナ保険証診療総辞退の意思表示をしてはどうか。それくらいの抵抗を示したほうがいいと思うんです。 
政府は現場の意見を聞こうとしませんが、もはやメンツにこだわっている段階ではない。医療機関や国民から理解を得られていないことがわかっているなら、健康保険証廃止方針の撤回は早いに越したことはない。長引けば長引くほど、傷は深くなるだけですから」
マイナ保険証を持たない人に「資格確認書」を交付するだの、認知症の人や高齢者のマイナカードは暗証番号の設定を不要にするだの、国民や医療・介護現場の不安を払拭するために軌道修正を重ねるごとに、現行の保険証を廃止する目的は曖昧になっていく。「いったい何をやろうとしているのか意味不明」と、政府の迷走にSNSで批判の声が上がるのも当然だ。
岸田首相が本当に「聞く力」を持っているのであれば、医療現場や国民の声に耳を傾けて然るべきはずだが……。
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長尾和宏（ながお・かずひろ）医師、医学博士。公益財団法人日本尊厳死協会副理事長、関西国際大学客員教授。’84年、東京医科大学卒業。大阪大学病院、市立芦屋病院などを経て、’95年、尼崎市に長尾クリニックを開業。今年、同クリニックを定年退職。『ここまでわかった！「コロナワクチン後遺症」 』（宝島社）、『病気の９割は歩くだけで治る！』シリーズ（山と渓谷社）など著書多数。

斉藤さゆり

アフロ

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