ビジネス専門誌や週刊誌の編集者を経て、フリーライターとしての活動をスタート。現在は著名人のインタビューを中心に、企業・教育関連の取材まで幅広く執筆。

音部 美穂

<figure id="attachment_333559" aria-describedby="caption-attachment-333559" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4925a271"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/0b062225e0476543e7639f50a6cff5b4.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333559" class="wp-caption-text">トム・クルーズから誕生日プレゼントでもらったバーバリーのスカーフを身に着けてインタビューに応じる</figcaption></figure>
<p><span class="strongInContent">「仕事は私の生きがい。じゃなきゃ、87歳まで働く人なんて少ないでしょう」</span></p>
<p>興行収入50億円を突破し、大ヒットを記録中の映画『ミッション：インポッシブル／デッドレコニング PART ONE』。’96年の同シリーズ第１作目から字幕翻訳を手掛けてきたのが字幕翻訳家・戸田奈津子さん（87）だ。</p>
<p><span class="strongInContent">「『ミッション：インポッシブル』（以下、ＭＩ）のような映画は、アクションが見せ場なので、セリフは事実を述べるだけ。事実関係がすんなりと頭に入るように翻訳する必要があるんです」</span></p>
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<p>たとえば、最新作には「Ｅｎｔｉｔｙ」という単語が頻出する。作品中ではデジタルシステムを破壊し暴走する「正体不明の何か」を示すのだが、戸田さんは「Ｅｎｔｉｔｙ」を「それ」と訳した。</p>
<p><span class="strongInContent">「Ｅｎｔｉｔｙの意味を理解できる日本人は多くない。吹き替えではそのまま″エンティティ″になっているんだけど、字幕にすると６文字も使ってしまい、字数オーバー！　正体不明の謎の存在という意味を短く端的に表すために、″それ″と訳したんです」</span></p>
<p>40年以上にわたり、戸田さんは字幕翻訳家と並行して、ハリウッド俳優らのインタビューなどの通訳を務めてきた。しかし昨年、通訳業の引退を発表。苦渋の決断に至った背景を明かしてくれた。</p>
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<p><span class="strongInContent">「家で自分のペースでできる字幕翻訳と違って、通訳はその場で瞬時に対応しないといけない。でも、この齢（とし）になるとパッと言葉が出なかったりする。トム・クルーズ（61）なんて舞台挨拶にも常に全力で臨んでいるのに、通訳が言葉に詰まって、彼の思いをきちんと伝えられなかったら申しわけないでしょう？　だから潮時だと思ったんです」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="ハリウッドスターとの交流"></div>
<h2>ハリウッドスターとの交流</h2>
<p>通訳の仕事を通じて、多くのスターと交友がある戸田さん。実はトムと同じ誕生日で、毎年、誕生日当日には彼からお祝いの花とメッセージが届く。</p>
<p><span class="strongInContent">「今日着けているこのスカーフも、トムからのプレゼントなんです。彼は私だけでなく、誰に対しても優しくてサービス精神旺盛。アクションをこなすために撮影がない期間も常に鍛えているし、お酒も飲まない。『ＭＩ』をはじめ出演映画には、企画から予告の編集にまで関わることもある。プロ意識の高さという点では、メジャーリーガーの大谷翔平選手に通じるものがあると思うんですよ」</span></p>
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<p>他にも、リチャード・ギア（74）は’90年代に都内にある戸田さんの自宅に遊びに来たことも。</p>
<p><span class="strongInContent">「うちのマンションはバブルの時期に金額が膨れ上がって、20億円にもなったことがあって。それをリチャードに話したら、『とんでもない豪邸に住んでいる』と思ったみたい。『行ってみたい』というので招いたら、彼の家の玄関より狭くて驚いていた。その後、彼が出演した映画で北京の裏路地の小汚い家を訪ねるシーンがあったのですが、『このシーンで君の家を思い出したんだよ』なんて言うんです。ひどいでしょう？ （笑）」</span></p>
<p>ハリソン・フォード（81）は、『スター・ウォーズ』（’78年）のプロモーションで来日した時に通訳を務めたのが最初の出会い。当時はほぼ無名で、スターのオーラもなく、一緒に銀座の通りを歩いていても気づく人はいなかったそうだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「’91年にはロスにあったハリソンの自宅にも遊びに行きました。大きいけれど、派手ではなく落ち着いた雰囲気の木造の家で、自作の家具があってね。手先が器用な彼は、俳優の仕事で食べられない時、アルバイトで大工をしていたそうです。ポルノ映画へのオファーもあったが、俳優という職業に対するプライドから生活が苦しくても出演を断ってきたのだとか。その話を聞いて、いかにも真面目なハリソンらしいと感じました」</span></p>
<p>″ボブ″と愛称で呼ぶ仲のロバート・デ・ニーロ（80）とは、’07年に箱根と京都を一緒に旅したことがある。</p>
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<p><span class="strongInContent">「家族で日本に行くから、案内してほしいと頼まれたの。とはいっても、私は旅行コーディネーターなどやったことがないから、新幹線やホテルの手配に駆けずりまわってもう大変。ボブ夫妻と息子３人はプライベートジェットでやってきたんですが、荷物がなんと30個以上あり、急遽（きゅうきょ）、荷物専用のバスを手配したほどです。箱根の旅館では、ボブは他のお客さんと同じ露天風呂に入り、京都では『子供たちにうぐいす張りの廊下を見せたい』という希望で二条城も訪れた。振り返るといい思い出ですが、旅行中はてんてこ舞いでしたよ（笑）」</span></p>
<p>長年にわたり、ハリウッドスターを間近で見てきた中で、スターの成長を感じることもあったそうだ。</p>
<p><span class="strongInContent">「ブラッド・ピット（59）は、初来日の際『一人ではインタビューに答えられない』と、監督と一緒という条件で来日。新人とはいえ30歳を超えていたんですけどね。それに、『ファンの子たちに囲まれるのが怖い』といってホテルに籠（こ）もり、みそ汁とサンドイッチという不思議な組み合わせのルームサービスを注文していました（笑）。その翌年、『ジョー・ブラックをよろしく』で来日した時は、一人でインタビューに応じましたが、言葉が続かず、通訳の私に『どうしよう……』という眼差しを向けるんです」</span></p>
<p>しかし、数年後には別人のようにインタビューも堂々と対応。今では、俳優だけでなく、プロデューサーとしての才能も開花させ、ヒット作を多数送り出し、慈善活動にも取り組んでいる。</p>
<p><span class="strongInContent">「彼の成長は、この頃交際していたアンジェリーナ・ジョリー（48）の影響が大きかったと思います。彼自身、不甲斐なかった時代の自分を忘れていないようで、今でも『あの時、君には本当に助けられた』とお礼を言ってくれるんですよ」</span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="戸田流ワークライフの秘訣"></div>
<h2>戸田流ワークライフの秘訣</h2>
<p>かつては年間50本、つまり週１本ペースで映画字幕の翻訳をしていたほど多忙を極めていた戸田さんだが、現在はやや緩やかなペースで仕事に取り組んでいる。</p>
<p><span class="strongInContent">「私、仕事しかしてこなかったから、世間のことを何も知らなくて。石原裕次郎さんや美空ひばりさんの映画も見ておらず、流行りの歌も全然知らない。最近、ようやく時間ができたので、『男はつらいよ』を見始めたの。健康の秘訣ですか？　嫌なことはやらない、ストレスを溜（た）めない、おいしいものを食べる！　コロナ禍で我慢していた大好きな海外旅行にもそろそろ出かけたいですね」</span></p>
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<p>まだまだ第一線で活躍中の戸田さん。字幕翻訳家の人生とハリウッドスターとの交流は、この先も続いていく――。</p>
<figure id="attachment_333563" aria-describedby="caption-attachment-333563" style="width: 2482px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="dd6107c8"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/0c0ade4b4480cc92eeb53d28cdcf017e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333563" class="wp-caption-text">トム・クルーズ　30年以上の親交があり、戸田さんを″日本の母″と慕う。来日時の通訳は決まって指名するほど信頼していた</figcaption></figure>
<figure id="attachment_333562" aria-describedby="caption-attachment-333562" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="03987b5d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/57618268e264de775ab44ea48b7b8931.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333562" class="wp-caption-text">レオナルド・ディカプリオ　レオとの出会いは、’97年『タイタニック』が世界初公開された東京国際映画祭の場だったと振り返った</figcaption></figure>
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<div data-friday-nextpage-lead="あのイケメン俳優とも…"></div>
<figure id="attachment_333565" aria-describedby="caption-attachment-333565" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e06aa229"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/9a2df47c84a1a5c388e429c776181473.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333565" class="wp-caption-text">ブラッド・ピット　インタビューが苦手で、いつも救いを求める目で見てきたというブラッド</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_333561" aria-describedby="caption-attachment-333561" style="width: 1338px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="60e56a8d"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/ccb9cd4d9c976984c3fe129b68b653ec.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333561" class="wp-caption-text">クリント・イーストウッド監督　クリントをはじめ、ジョージ・ルーカスやスティーヴン・スピルバーグなど監督たちからの信頼も厚かった</figcaption></figure>
<figure id="attachment_333564" aria-describedby="caption-attachment-333564" style="width: 2329px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d2cf0c19"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/3a5bd3034328ce855dd7210b8c0f7962.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333564" class="wp-caption-text">ロバート・デ・ニーロ　″圧倒的存在感を放つ名優″という先入観があったが、会ってみたら気さくなロバート。その後、一家と旅行するほど仲良しに</figcaption></figure>
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<figure id="attachment_333567" aria-describedby="caption-attachment-333567" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c24d96c0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/e43a7b9ed2f2b273abfb0c018f4e1504.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333567" class="wp-caption-text">ハリソン・フォード　&#8217;78年『スター・ウォーズ』の来日が出会い。戸田さんはハリソンを″底辺からてっぺんまで昇りつめた、最初で最後の人″と表現</figcaption></figure>
<figure id="attachment_333566" aria-describedby="caption-attachment-333566" style="width: 1708px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="404000d6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/0df1edc9b108d4c772b6dcf6017a6c7e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333566" class="wp-caption-text">シャーリーズ・セロン　カラオケでＡＢＢＡの『ダンシング・クイーン』を歌って踊って大ハシャギ！　マイク握りっぱなしで、美声を披露していた</figcaption></figure>
<figure id="attachment_333557" aria-describedby="caption-attachment-333557" style="width: 1667px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c56816ba"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/9e2975636814c85a5daa367961366cfc.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333557" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　戸田奈津子 「字幕翻訳家」として40年 「私だけが知るハリウッドスターたちの愛すべき素顔」</figcaption></figure>
<figure id="attachment_333558" aria-describedby="caption-attachment-333558" style="width: 1667px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a5c3df08"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/4b57d35a9bbe059f11bfd4dd0f8c255e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333558" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　戸田奈津子 「字幕翻訳家」として40年 「私だけが知るハリウッドスターたちの愛すべき素顔」</figcaption></figure>
<figure id="attachment_333560" aria-describedby="caption-attachment-333560" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="41e2f1d0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/41e125127228ed460427db8faf5731c6.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333560" class="wp-caption-text">本誌未掲載カット　戸田奈津子 「字幕翻訳家」として40年 「私だけが知るハリウッドスターたちの愛すべき素顔」</figcaption></figure>
<p>『FRIDAY』2023年10月6日号より</p>


音部美穂

小檜山毅彦（1枚目）　スター写真（本人提供）

数々の大ヒット映画の字幕翻訳、並行してハリウッド俳優らのインタビューなどの通訳を務めてきた戸田奈津子さん。仕事は生きがいと、87歳の今でも第一線で活躍する。交友の深いスターの素顔を語りつくす。

「字幕翻訳家」として40年 …戸田奈津子が語る「私だけが知るハリウッドスターたちの愛すべき素顔」

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