<figure id="attachment_333827" aria-describedby="caption-attachment-333827" style="width: 1642px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7f76cb5f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/41980de6f0ba316eadfa9124ca8c9110.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333827" class="wp-caption-text">KO勝利直後、亜希夫人と。勝利後の挨拶で日頃のサポートへの感謝の言葉を述べた</figcaption></figure>
第３ラウンド終了直前、ボディーを見舞う体勢から突き上げた左アッパーが、ジャーベン・ママの顎を捉える。26歳のフィリピン・フライ級１位は、しゃがみ込むようにダウン。辛うじて起き上がったものの、ダメージを重く見たレフェリーが腕を交差させ、試合終了を宣言した。
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公式ノックアウト・タイムは、同ラウンド３分９秒。京口紘人（29）の圧勝だった。試合の翌日、京口は自らのKOシーンを振り返った。
「流れの中でダッキングして、少しタメを作ってから自然と出た感じですね。相手はボディーを嫌がり、足が止まっていました。一瞬、気を抜いたところで、僕が沈んで放ったアッパーです。腹も狙っていましたが、向こうが警戒していましたから、直感で顎に当たるな、と」
IBFミニマム級、WBAライトフライ級と２階級を制した京口は、昨年11月１日にWBC王者、寺地拳四朗との統一戦に敗れ、プロ生活初黒星を喫した。今年の５月20日にフライ級で再起を飾ったが、試合中に拳を痛め、判定での勝利だった。そして、９月22日、フライ級第２戦としてママと拳を交えたのだ。
試合前、京口は語っていた。
「ライトフライに留まって、もう一度世界タイトルを目指す、という選択肢もありました。ただ、ライトフライは自分の中で“既に達成している”ステージなんですよ。それではモチベーションが上がらなかった。ライトフライで世界タイトルを狙う方が、フライよりは成功する確率が高かったでしょう。でも、敢えて茨の道を進む、大きな目標に挑む方が人生においてプラスだと感じました」
<figure id="attachment_333828" aria-describedby="caption-attachment-333828" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="44fac7e9"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/0276539278e265e318af92dd09d8730a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333828" class="wp-caption-text">序盤からクリーンヒット連発</figcaption></figure>
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とはいえ、同じ年の井上尚弥が達成した複数階級制覇と自分では、「意味合いが違う」とも付け加えた。
「僕は『世界チャンピオンになる！』という、幼い頃からの夢を追いかけてきました。世界のベルトを巻いて、その上のクラスでもタイトルを獲得し、４度防衛して統一戦もやれました。自分としては、２階級制覇でさえ出来過ぎなんです。井上尚弥は当然のように３階級、４階級と制覇しましたが、僕が目指す３階級制覇は、決して彼と同レベルのものではない。本当に難しいチャレンジです。でも、目指す資格はあるのかな、と思うんですよ」
<div data-friday-nextpage-lead="後楽園ホールでの試合を「残念」と言われて"></div>
’18年夏、ミニマム級に体重を落とすことが難しくなった京口はIBFタイトルを返上し、階級を上げた。ノンタイトル戦をはさみ、ライトフライ級転向第２戦で２本目のベルトを獲得した。今回のファイトは、’18年９月に世界前哨戦を戦って以来の後楽園ホールだった。
<figure id="attachment_333830" aria-describedby="caption-attachment-333830" style="width: 2500px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4dad8fd3"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/2de4ac9352c0fd0dec388fe2346fd8ee.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333830" class="wp-caption-text">ものの見事にアッパーが炸裂！</figcaption></figure>
「観客との距離も近いですし、“聖地”と言われるだけあって、独特の空気が良かったですね。このところ、世界を舞台に大きな会場で戦っていましたが、初心に戻ったような気持ちになりました。とても新鮮でしたよ。ファンの方からは『広いアリーナじゃなくて残念』なんて声も聞こえてきましたが、僕は自分の立ち位置を理解していますし、この雰囲気を味わいながら、しっかりした内容で勝とう！ という気持ちになりました」
京口といえば、左ボディーアッパーが代名詞である。中学生時代に辰吉丈一郎から直接指導を受け、磨き抜いたものだ。そのパンチを随所に決め、リズムに乗っていった。
「そうですね。有効に出せたかなと思います」
対戦相手に選ばれたママの戦績は、13勝（７KO）３敗１分け。フィリピン王座を狙える場所にいるものの、京口戦ではフライ級の身体を作れなかった。前日計量で800gの超過。２時間の猶予が与えられた再計量でも400gオーバーと、プロらしからぬ失態を見せた。
「決められたリミットをしっかり守るのは当然ですから、残念だなとは思いました。でも、何kgではなく400gでしたから、まぁ仕方ないかなと。プロじゃないとは感じましたが、憤りとかは無かったです」
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一方で、京口のチーフセコンドを務めた小林尚睦トレーナー（49）は、怒りを隠さなかった。
「前日計量でオーバーした時の身体つきを見て、まだ落とせるだろうと、正直、頭にきました。こっちは、しっかりとウエイト作りましたから」
48.97kgがリミットのライトフライ級から、50.80kg以下で計量をクリアしなければならないフライ級に上げた京口だが、減量の苦しみが楽になった訳ではない。フライ級に適応すべく、パワーアップを課してトレーニングを重ねれば、それだけ筋肉が付き、体は大きくなる。同時に、相手のパンチに対する耐久力も求められる。パワーを付けることと並行して、京口は丁寧に戦うことをテーマとした。
「ガードを高く、頭をきちんと振りながらプレスを掛けていく。ポジショニングも物凄く意識しました」
<figure id="attachment_333831" aria-describedby="caption-attachment-333831" style="width: 1821px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e5877246"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/2b3374e9c2e8a1f9edcf2f410f15fe57.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333831" class="wp-caption-text">ガードを高く、頭を振りながらプレスをかける場面が何度も見られた</figcaption></figure>
確かに固いガードが光っていた。ファーストラウンドから、相手を追い込んでいくプレッシャーにも、年輪のようなものを感じさせた。
「最後のアッパーは良かったんですが、その前にボディーでダメージを与えたのに、ママのクリンチを解けなかったんですよね。半歩下がって、コンビネーションを打つべきでしたし、もっと色々やれたな、と。点数にすれば、65点くらいですかね」
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しかし、小林はもっと高い点数を付けた。
「僕は80点としますよ。ディフェンスが良かったですし、勝って当たり前のプレッシャーのなかで、様々なパターンの攻撃を出せましたから。それ以上に、本人が自身に辛めの採点をしているところを評価したいです。
京口は、フライ級で十分やっていけます。スピードとパワー、そして、何よりもメンタルの部分で、手応えを感じたでしょう。 左ボディーはもちろんですが、右ボディー、左右のアッパー、あとは、合わせる右のパンチ、また、下から上、中外の打ち分けを練習してきました。スパーリングの終盤には、スピードのあるワンツーが良かったです。倒した一発は、作戦通りというか……相手のパンチを外してのアッパーです。練習で本当に何度も繰り返していました。ボディーを打つと見せかけての顎でしたね。自分も嬉しかったです」
京口自身は反省しきりだ。
「KO勝ちすることを目標としていましたが、いい時の自分はもっと高いパフォーマンスを出せていたと思うんです。試合後に映像を目にすると『動けていたな』とは感じましたが、リングの上では『もっと自分を出せたのに』という感覚でした。スピードとか躍動感とか、エンジンが掛かり切る前に終わってしまった……。
第３ラウンドくらいから、速い頭の動きができてきたな、という実感があったんです。ギアを上げる前に終わった点が次への命題ですね。フィニッシュとなった左アッパーを、あの瞬間に出せたことについては、今後も継続したいです」
ライトフライ級との1.83kgの差を、京口はどう体感したか。
「５月の試合よりも、パワーが付いた感じがあります。相手のパンチをブロックした時、衝撃を吸収できたので、脅威は感じなかったですね。少しずつですが、フライ級にアジャストしていけているのかなと、試合中に思っていました。相手のパンチに対する怖さも無かったです。自分が出した全てのパンチでパワーアップを感じた部分はあります。でも、世界で戦うのであれば、もっともっとレベルを上げなければいけないと認識しています」
<div data-friday-nextpage-lead="ボクシング人生の最終章"></div>
<figure id="attachment_333832" aria-describedby="caption-attachment-333832" style="width: 1718px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="2a0021cd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/999f4f6c7469ceadcfcdcea24b263d44.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333832" class="wp-caption-text">フライ級の体になってきた</figcaption></figure>
気になるモチベーションについても触れた。
「生き残れたし、３階級目を狙える位置にいるな、と。少しは前進したかなと感じます。でも焦りは無いので、一歩一歩でいいんです。ファンの方の中には、『すぐに世界ランカーとやって、タイトルに挑戦してほしい』なんて仰る方もいますが、そんな簡単な世界じゃないですから。
井上尚弥を基準にすれば、そうなるのかもしれませんが、自分はそんなスペシャルな選手じゃなく、努力でここまで来た人間なので、しっかり地に足を着けて、歩んでいきます」
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今年１月に結婚した京口は、アスリートフードマイスターの資格を持つ夫人に、食事面でのサポートを受けている。まさしく内助の功だ。
「体作りにおいて必要な栄養素を理解したうえで、食事のメニューを考えてくれます。減量がキツいのは当然ですが、今回は食べながら落とすことができたので、本当に感謝しかありません」
試合後、満面の笑みで京口を祝福する亜希夫人、そして照れたようにカメラマンの要求に応じる夫の姿が微笑ましかった。
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「自分のボクシング生活は最終章に入りました」と話す京口の挑戦は続く。己の道を進む彼は、今後の戦いから、周囲に何を見せていくか。
<figure id="attachment_333833" aria-describedby="caption-attachment-333833" style="width: 1667px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="4276205b"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/09/713ec7145e0e3f82b361ea04b1d241f1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-333833" class="wp-caption-text">リング上での挨拶では、ハネムーンに発つことも発表。「ノーダメージで行けてよかった！」</figcaption></figure>

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』（全て光文社電子書籍）『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』（全て講談社）などがある。

林 壮一

鬼怒川 毅

デビューからわずか1年と少しで世界王者となった京口。それから無傷の16連勝で2階級制覇を達成。寺地拳四朗に敗れ、プロ初の黒星を喫したのを機に階級を上げ、ボクシング人生最後となる挑戦に挑むことになった

京口紘人の独占告白…芸術的アッパーでKO激勝！新妻と挑む「ボクシング人生最終章」

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