<h3>障がい者や高齢者の「公共交通機関」が失われる！？</h3>
10月１日より開始されたインボイス（適格請求書）制度。
導入直前の９月29日に緊急記者会見を開き、不利益な取り扱いが起こっている事実を告発、インボイス導入の中止を訴えたのが、自交総連・東京地方連合会で「東京個人タクシー労働組合（東個労）」の執行委員長・秋山芳晴氏だ。
年収1000万円以下の免税事業者が多数を占める個人タクシー業界では、今まさに廃業に追い込まれようとしている事業者が続出しているという。
個人タクシー業界の悲痛な叫びを聞いた。
<figure id="attachment_334983" aria-describedby="caption-attachment-334983" style="width: 3263px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="65345b05"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/745af904e12ae70971868143951a8268.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-334983" class="wp-caption-text">インボイスに登録しない個人タクシー事業者に義務付けられたというステッカー</figcaption></figure>
「今年３月に参議院財政金融委員会委員で日本共産党の小池晃先生が、インボイス導入によって個人タクシー業界で起こる問題を取り上げ、理不尽なことが起こっている状況を鈴木財務大臣はご存知なのかと質問されたんですね。 
その際、鈴木大臣はわかっておらず、公正取引委員会の品川武取引部長が出て、『独占禁止法上問題になる恐れがある』と答弁しています」（秋山芳晴執行氏・以下同）
実際に現場ではどんなことが起こっているのか。
「例えば、『ちょうちん』の〝あんどん〟で知られる日個連東京都営業協同組合（3500人前後加盟）では、インボイスに入らないと『ちょうちん』を外さなければならず、外す費用も自費だそうです。 
また、『でんでん虫』のあんどんを屋根に付けた車の〝でんでん〟（都個人タクシー協同組合／約6000人）さんでも、インボイスに登録しない事業者はあんどんを返せと言っていて、ブルーラインも取れと言うそうです。ブルーラインは外すのに５万円もかかるそうですが、それも自腹です。 
つまり、同じ組合費を払いながら、そういう差別が行われるということ。 
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また、通常、カード決済の支払いは本部にお金が行き、各事業者は本部にレシートを持って行って換金するんですが、インボイスに登録しないとキャッシュレス端末機も使えなくなるため、カード決済もできなくなる。事業者が自分で端末を購入し、自分の口座でやろうとしても、組合によっては個人的な機械の使用を禁止しているんです」
<h3>インボイス登録は本来「強制」ではないはずなのに…</h3>
個人タクシー業界でも90％以上がインボイスに登録し、課税事業者になると報道されている。しかし、内情をよく知る秋山氏は、こうした報道に懐疑的だ。
「でんでんさんの京都支部の方から聞いた話では、表向きは90％以上が登録としていますが、実数は750人も登録していない人がいるそうです。 
ちょうちんも3500人前後の中で未登録者が160人。50人いる東個労の中でも、未登録が７人いるんですよね。インボイス登録者として国に届ける数と実数は違うんです。 
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しかも、京都では750人が未登録というだけでなく、『必ずインボイスをやっていますと答えてください』という内容を組合員にLINEで流している。 
組合員同士が集まる機会の少ない個人タクシー業界では、『あいつはインボイスやっていない』などという噂だけ広まり、仲間外れにされる恐れもある。インボイス登録は本来強制ではないはずなのに、おかしいでしょう？」 
<div data-friday-nextpage-lead="障がい者やお年寄り、母子家庭の方の「福祉券」は…"></div>
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インボイスの話になると、判で押したように「自己責任論」を持ち出し、「稼げない奴が悪い」「稼げないなら、廃業すればいい」と言い出す者がいる。そうした者に欠けているのは「公共の福祉」という視点だ。
「鈴木財務大臣はタクシーが公共交通機関だということを認めていますが、インボイスを登録していないと、チケットや、障がい者やお年寄り、母子家庭の方などの福祉券が使えなくなります。 
すると、これまでと同じように福祉券を出されても、『使えないから』と、断わらざるを得なくなるんですよ。 
『だったらインボイスをやればいい』と言うかもしれません。 
でも、そもそも個人タクシー事業者は年収1000万円以下の方がほとんどで、その中でも70歳以上の個人タクシーの方はほとんど地域密着型なんですよ。 
高齢者はまずアプリが使えませんから、電話をしますが、行き先を聞かれて病院名を伝えると、配車担当から『手配していますが、お応えできるかわかりません』と言われてしまうんです。これは乗車拒否ではありません。 
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アプリのお客さんなど、商売的に〝良いお客さん〟はすぐ配車してもらえますが、近場の病院など、500円の距離の人だと、配車受付が応じても、運転手から『そんな近場、俺はダメだよ』と断られてしまうのです。 
地元密着型の個人タクシーは、お年寄りや高齢者に『来週病院だからよろしく』という予約をもらって福祉券で運用している現状があるわけですが、それをお断りしなきゃいけなくなると、誰がその役割を果たすのでしょうか」 
<figure id="attachment_334984" aria-describedby="caption-attachment-334984" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="bad5175f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/25bee7d29e674e2fdf7bc8c70be4c09b.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-334984" class="wp-caption-text">「会社が倒産したり、仕事を転々としたりと、様々な事情でこれまでの人生が上手くいかなかった人でも、タクシー運転手なら50歳から人生のやり直しができます」と秋山氏（写真はイメージ）</figcaption></figure>
<h3>タクシー業界は本来、高齢社会で夢のある業種 </h3>
タクシー事業者の年収は、東京では平均400万～500万円程度。空港やショッピングモールなど遠距離の往復を中心にする事業者には年収1300万円を超える者もいると言う。「タクシー業界は本来、高齢社会で夢のある業種」と秋山氏は言う。
「会社が倒産したり、仕事を転々としたりと、様々な事情でこれまでの人生が上手くいかなかった人でも、タクシー運転手なら50歳から人生のやり直しができます。 
実際、50歳で法人タクシーの運転手になり、10年間頑張って働いて、60歳くらいで独立して個人タクシーになる人が多いんですが、退職金も100万円くらいもらって、そこから75歳の卒業まで15年くらい仕事ができるんです。 
50代からしっかり稼いでおいて、ＩターンやＵターンをする人もいます。 
しかし、そうした先の夢をインボイスが潰してしまう。親の面倒を見ながら細々と続ける人や、最後ぐらい社会貢献しようという思いの方などが、70代くらいで地域密着型の個人タクシーをすることで、障がい者やお年寄りの病院通いなどの公共交通機関としての役割を支えているわけです。 
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しかし、インボイスへの対応が困難ということから、72～73歳の事業者たちは『もうやめようかな』と言っています。インボイスに登録した方も、来年の納税時にはおそらくかなり辞めると思います。消費税は一括分で、割引ができませんからね」 
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<div data-friday-nextpage-lead="個人タクシーは地元密着型の「公共交通機関」"></div>
 
<h3>高齢者や障がい者に寄り添って…個人タクシーは地元密着型の「公共交通機関」 </h3>
こうしたの個人タクシーが、インボイス制度導入で廃業したり、利潤追求を優先させたりしたら、高齢者や障がい者などが公共交通機関を失い、往生してしまうわけだ。
「インボイスを使うとなると、消費税負担が大きくなるため、個人タクシー事業者も都心部に行くことになります。そうすると、下町などで日中流しているタクシーがなくなり、家族を急患で運ばなきゃいけないときなどにタクシーを使おうとしても手配できない事態が起こってしまいます。 
また、福祉券が使えなくなると、例えば母子家庭の方が子供の病気でタクシーを使いたいとき、『今、現金がなくて福祉券で』と言われても、断らざるを得なくなります。 
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それに、高齢者や障がい者の車椅子の乗降には10分～15分の時間がかかりますが、地域密着型の個人タクシーはお得意さんのそうした事情を知ったうえで、近距離でも受けているわけです。 
地域密着型の個人タクシー事業者は『社会貢献という生きがいのもとに、売り上げが少なくても、病院に行けない予約のご近所さんたちを運んで、ありがとうと言われることが嬉しくてやっているんだよ』と言います。でも、法人タクシーはやりませんよ、儲からないから」 
<figure id="attachment_334985" aria-describedby="caption-attachment-334985" style="width: 4032px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9d371061"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/b4f51b1254e871f424ce8e9bc4668190.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-334985" class="wp-caption-text">「『今、現金がなくて福祉券で』と言われても、断らざるを得なくなります」と秋山氏（写真左）。「想定以上の不都合や不具合が今後どんどん見えてくると思います」と林氏（同右）も言う</figcaption></figure>
加えて、今、政府などが進めようとしているのが、自家用車を使って有料で人を運ぶ「ライドシェア」だが、その問題点について、自交総連・東京地方連合会書記長の林悦夫氏は言う。
「ライドシェア推進派の人たちは、政府も含めて、ライドシェアを進める方針を決めています。神奈川県の黒岩（祐治）知事は神奈川版のライドシェアをやるとして推進会議の部署まで作り、秒読み段階です。 
そこには、インボイスによる個人タクシー事業者の廃業を加速したいというと狙いがあると見ています」
「ライドシェアはUber Eatsの配達員みたいなものなんです。 
タクシー業界は今では、様々な取り締まりができ、大学卒業者も入って来て、接客もレベルアップしていますが、今後、一種免許でできるようなライドシェアが進むと、登録しました、電話来ました、受けましたと言っても、その車が保険に入っているのか車検を受けているのかもわからない。 
今のタクシーは雨が降っても傘をさしてくれるけど、そんなサービスがあるかもわからない。 
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ライドシェアと一まとめにされることで、タクシー業界の評判も悪くなるのではないかと不安です。外国ではライドシェアの問題が可視化され、タクシーに戻ってきているのに、日本はそれを進めようとしているのです」（秋山氏）
観光客増加でタクシーが不足していると訴える一方、個人タクシー事業者の廃業を加速し、採算度外視で社会的弱者の「公共交通機関」としての役割を担う個人タクシーも廃業に追いこむ可能性の高い「インボイス制度」。林氏は言う。
「これまではインボイス導入で起こりうる懸念事項などが語られてきましたが、実際には想定以上の不都合や不具合が今後どんどん見えてくると思います。 
公共交通機関としての役割を担っていくためにも、インボイスの見直しは必要です。登録した方にも取り消し可能であることを改めてお伝えしたいです」
<figure id="attachment_334986" aria-describedby="caption-attachment-334986" style="width: 1714px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="12a6dfd4"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/a25c0e23907d7b4fdabcb14a0e04892c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-334986" class="wp-caption-text">組合員に送られてきた『必ずインボイスをやっていますと答えてください』という内容のLINE</figcaption></figure>

田幸和歌子

導入直前の9月29日に緊急記者会見を開き、不利益な取り扱いが起こっている事実を告発、インボイス導入の中止を訴えた「東京個人タクシー労働組合」。廃業に追い込まれようとしている事業者が続出していると言う。

「登録しない事業者は〝あんどん〟を返せ」…インボイスで「個人タクシー」業者が絶滅危機に陥る理由

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