元川 悦子

<p>11月から、いよいよ&#8217;26年北中米ワールドカップ（W杯）のアジア２次予選が始まる。悲願のベスト８を達成するために”絶対に負けられない戦い”が続くが、森保ジャパンとしてはまず、来年１～２月に控えているアジアカップ（カタール）を制して、アジア王者の地位を獲得しておきたいところ。そのための貴重なテストの場となるのが、目前に迫った10月のカナダ（13日・新潟）、チュニジア（17日・神戸）との国際親善試合２連戦だ。</p>
<p>&#8217;22年カタールW杯メンバーの前田大然（25・セルティック）と三笘薫（26・ブライトン）が不参加となる中、今回は南野拓実（28・モナコ）や新顔の奥抜侃志（24・ニュルンベルク）らが招集されたが、最も気になるのがFW争いだ。</p>
<p>10月シリーズには浅野拓磨（28・ボーフム）、古橋亨梧（28・セルティック）、上田綺世（25・フェイエノールト）が参戦。実績は浅野が上だが、9月のドイツ戦（ヴォルフスブルク）でスタメンの座を射止め、値千金の決勝ゴールを挙げた上田の存在感が増している。</p>
<figure id="attachment_336203" aria-describedby="caption-attachment-336203" style="width: 1269px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c9f05270"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/9fc075bee1a5ca8499e72bb6fb31d15c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336203" class="wp-caption-text">欧州CL初戦のアトレティコ・マドリード戦に出場した上田</figcaption></figure>
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<p>法政大学在学中の&#8217;19年にコパアメリカ（ブラジル）で代表デビューを飾り、早い段階から森保監督に育てられてきた上田。彼が’19年夏～’22年夏まで在籍した鹿島アントラーズの岩政大樹監督（41）も<span class="strongInContent">「あんなにシュートのうまいFWは滅多にいない。綺世がどこまで上り詰めるか凄く楽しみ」</span>と目を細めた逸材である。</p>
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<p>同じく、鹿島から&#8217;02年日韓と&#8217;06年ドイツW杯に参戦したFWの柳沢敦（46・現鹿島ユース監督）も<span class="strongInContent">「スピード感やパワフルさズバ抜けており、ボールの受け方が抜群にいい。（小笠原）満男（44・アカデミー・テクニカル・アドバイザー）も『自分が見てきた中で一番、ヘディングがうまいFW』と絶賛していました」</span>と語っている。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="意外にも苦難の道のりを歩む"></div>
<p>しかしながら、ここまでの代表キャリアは順風満帆とは言えなかった。21年夏の東京五輪はエースFWとして活躍を期待されながら、ケガの影響でまともにプレーできず、伏兵・林大地（26・ニュルンベルク）にポジションを奪われる形になった。22年になって再びA代表にコンスタントに招集されるようになったが、なかなかゴールを奪えずにいた。</p>
<figure id="attachment_336204" aria-describedby="caption-attachment-336204" style="width: 5184px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="67f2257a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/f9dc83de60d678ae39a6cb081ac165e2.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336204" class="wp-caption-text">筆者の取材に笑顔で応じる上田</figcaption></figure>
<p>さらなる成長の必要性を痛感した上田は昨夏、代表から落選するリスクを承知の上ででベルギー1部リーグ・セルクル・ブルージュへ移籍。その時点でJ1で14ゴールをマークしており、移籍しなければ得点王を獲得できる可能性もあった。ところが上田は<span class="strongInContent">「（Jリーグで）20点取って得点王になったとしてもW杯に出られるわけではない。海外でも活躍できるクオリティがないとW杯では活躍できない」</span>とキッパリ言い切り、海外挑戦の道を選んだのである。</p>
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<p>新天地では当初、なかなか試合に出られず苦労したが、徐々にフィットし、W杯前までに7ゴールをゲット。カタールＷ杯本大会の代表メンバーにも滑り込みで選出された。だが、大会本番で1トップとして重用されたのは、最前線からの鬼プレスでボールを奪える前田大然。上田は2戦目のコスタリカ戦でスタメン出場をはたすも、まともに仕事ができず、前半45分のみで交代。初の世界舞台で屈辱を味わった。</p>
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<p>今年2月、筆者がベルギーで取材した際に、上田はこう語っている。</p>
<p><span class="strongInContent">「カタールW杯で世界基準がわかったというより、（三笘）薫君や（堂安）律（25・フライブルク）のように欧州5大リーグのトップトップでやっている選手は、あの大舞台でも力を発揮できるということを痛感した。</span></p>
<p><span class="strongInContent">コスタリカ戦で何もできなかった僕が、ドイツやスペイン戦に出られたとして、何ができただろうかという疑問もある。（三笘らとの）差を埋めるためにも、自分のアップデートに日々向き合っていくしかないと思います」</span></p>
<p>強い危機感と飽くなき努力が結実し、上田はベルギーリーグで22ゴールを決めた。シーズン終盤は本人が熱望していた1トップを任され、大柄な体躯の外国人DFと堂々と渡り合った。短期間で劇的な進化を遂げた男が今夏、ビッグクラブに引き抜かれるのは当然の流れと見られたが、その予想通り、昨季のオランダ王者・フェイエノールトへ。鹿島を離れてわずか1年でUEFAチャンピオンズリーグ（欧州CL）本戦出場の権利を手にしたのである。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="待望の「万能型」ワントップに"></div>
<p><span class="strongInContent">「カタールW杯が終わってからの半年間で積み重ねてきたもの、成長した部分はたくさんあると思う。点を取る感覚もそうだし、所属チームが変わってプレースタイルや強度も進化したので、（カタールＷ杯の）当時とは違う感覚、違う心境でプレーできるのかなと思います」</span></p>
<p>9月10日に敵地・ヴォルフスブルグで行われたドイツとの国際親善試合前にこう言っていた通り、上田は余裕をもって強豪との戦い臨み、それがドイツを粉砕するゴールにつながった。伊東純也（30／スタッド・ランス）のクロス気味のボールにすぐさま反応できたのは、紛れもない成長の証だ。</p>
<figure id="attachment_336205" aria-describedby="caption-attachment-336205" style="width: 5472px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="bbc7c7b1"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/51aaf509a272ae78e48658acfa757d55.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336205" class="wp-caption-text">9月の代表戦では、強豪ドイツ相手に得点</figcaption></figure>
<p>欧州CLデビューとなった10月3日のアトレティコ・マドリード戦でも、フェイエノールトの1トップに起用された上田は開始早々、鋭い動き出しを見せて、先制点のオウンゴールを手繰り寄せた。元ベルギー代表のアクセル・ヴィツェル（34）や元スペイン代表のセサル・アスピリクエタ（34）ら百戦錬磨の守備陣にガチガチと当たられて、トップとして起点を作るのに苦労していたが、こういった経験値が大きな糧になるのは間違いない。</p>
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<p>ライバルの古橋も欧州CLに参戦しているものの、大柄なDFを背負ってタメを作るような仕事はあまり求められていない。むしろ、DFの背後に抜け出す仕事に特化した点取り屋と言える。そうなると使える局面が限られる。浅野にしてもスピードでグイグイ押していく選手で、ターゲットマンタイプではない。となれば、やはり万能型の上田を軸に据えて戦うことが今後の日本代表にとってプラスになるのではないか。</p>
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<p>過去を振り返ってみても、「点を取れて、起点を作れて、守備のハードワークもできる」という絶対的なFWはそうそう日本代表にいなかった。</p>
<p>98年フランスの中山雅史（56・沼津監督）、02年日韓の鈴木隆行（47・解説者）と柳沢、06年ドイツの高原直泰（44・沖縄SV）、18年ロシアの大迫勇也（33・神戸）が過去のW杯で１トップとして起用されていたが、同時に人材難が叫ばれていたのも確かだ。</p>
<p>10年南アフリカW杯では、岡田武史監督（67・現JFA副会長）が岡崎慎司（37・シントトロイデン）を外して、本田圭佑（37）を1トップに抜擢した。「見える景色が違う」と本田は戸惑いながらもいい仕事を見せ、日本は16強入りを果たしたが、これは苦肉の策以外の何物でもない。スケールの大きな万能型FWは、日本サッカー界が長年、待ちわびてきた存在なのである。</p>
<p>今の上田綺世はその領域に到達できる可能性を感じさせる。今年6月・9月と代表に来るたびにケガで途中離脱したのは気にならなくもないが、欧州CLデビューでさらに一段階ステージを引き上げた25歳の男がブレイクするのはここからだろう。まずは10月のカナダ・チュニジア戦で確実に結果を残し、今後への布石を打つことが肝要である。</p>


元川悦子

アフロ（1・3枚目）　元川悦子（2枚目）

11月から2026年北中米ワールドカップ（W杯）アジア2次予選がスタートする日本代表。注目されるのはFWのスタメン争いだ。その中で、上田綺世（25・フェイエノールト）が定着に向けて評価を上げている。

【日本代表の急所克服へ】上田綺世が歩みだす代表ワントップ「絶対的エース」への道

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