<h3><span class="strongInContent">かつて気軽に処方されていた「ベンゾジアゼピン系薬剤」</span></h3>
<p><span class="strongInContent">睡眠薬や抗不安薬として広く用いられているベンゾジアゼピン系薬剤（以下、ベンゾ系薬剤）。 近年、厚生労働省が向精神薬の多剤大量処方の規制を強めていることを背景に、患者の間で「減薬ブーム」が起きている。しかし急な減薬はリスクを伴う。</span></p>
<p><span class="strongInContent">ベンゾ系睡眠薬を長期服用してきたライターが、自らの減・断薬経験を通して、離脱症状の怖さと、離脱症状を抑える減・断薬方法を考察。前編、後編に分けてお届けする。</span></p>
<figure id="attachment_336537" aria-describedby="caption-attachment-336537" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="695c3bcf"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/0d6edb4c5e11c8d3b2b15f9367ca3c9d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336537" class="wp-caption-text">ベンゾジアゼピン系薬剤は精神科や心療内科に限らず、多くの診療科で、睡眠薬や抗不安薬として処方されてきた</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">突然始まった不眠…医師に「安全でよく効く薬」として処方される</span></h3>
<p>&#8220;ベンゾ系薬剤″は知らなくても、&#8221;デパス″&#8221;ハルシオン″&#8221;レンドルミン″と聞けばわかる人は多いかもしれない。精神科や心療内科はもとより、一般内科、外科、皮膚科や整形外科といった多くの診療科で、不眠や不安症状のある患者に処方されてきた薬剤だ。</p>
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<p>’07年、突然始まった不眠に悩んでいた筆者は、基礎疾患の治療に通っている内科の医師に相談すると、「安全でよく効く薬」としてデパスを処方された。布団に入ってもリラックスできない筆者に、筋弛緩作用のあるデパスはよく効いた。</p>
<p>入眠までに何時間も要していたのが、怖いほどストンと眠りにつけた。‶眠れること″の快感を覚えると、‶眠れないこと″がより怖くなる。飲めば眠れるという安心感から、デパスはなくてはならない薬になった。</p>
<p>デパスをはじめとするベンゾ系の薬は、脳内のベンゾジアゼピン（BZD）受容体に作用することで脳の興奮などを抑え、不安、緊張、不眠などを改善すると言われている。即効性はあるものの、耐性や依存性、筋弛緩作用からくるふらつき、健忘といった副作用が問題視されている。</p>
<h3><span class="strongInContent">１錠が２錠に…「薬の力を借りてでも寝たほうがいい」と言い訳しながら10年間</span></h3>
<p>服用開始から２年が経つと、以前のようには眠れなくなった。1錠（0.5mg）から2錠（１mg）へと増量したが、次第にそれでも眠れない日が増えていった。さすがに薬の耐性が怖くなり、それ以上の増量は躊躇したが、「薬の力を借りてでも寝たほうがいい」と言い訳をしながら、10年もの間、毎晩２錠を常用していた。</p>
<p>ところが’16年末ごろ、医師から処方のルールが変わり、デパスは30日分しか処方できなくなったと告げられた。それまで通院頻度に合わせ、約60日分（２ヵ月）ずつ処方されていたものが、突如として投与期間が30日に制限されてしまったのだ。これまで通り、毎晩、２錠を服用していたら、途中で足りなくなる。デパスを減らすか、いっそやめるか――。</p>
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<p>迷っていると、海外ではベンゾ系薬剤を長期にわたって服用すると認知症のリスクを高めるといった指摘があることを知った。当時、インターネットでもその類いの記事が増えており、否が応でも目に入ってきたのである。</p>
<p>筆者はデパス断薬を本気で考えるようになった。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「普通薬」が突如、「麻薬」同様の扱いに"></div>
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<h3><span class="strongInContent">「普通薬」が突如、「麻薬」同様の扱いに</span></h3>
<p>なぜデパスの投与期間が突然、30日に制限されたのか。国はどんなルール改正を行ったのか。</p>
<p>実は‘16年の「麻薬及び向精神薬取締法」改正で、デパスやアモバンといった「普通薬」として処方されてきたベンゾ系薬剤が、「向精神薬」の指定を受けた。突如「麻薬」同様の扱いとなり、投与期間が30日に制限されたのだ。</p>
<p>さらに同時期、厚生労働省は、ベンゾ系薬剤など向精神薬の多剤大量処方抑制に向けて診療報酬の改定を行った。向精神薬について取材を続け、安全に減薬するノウハウをまとめた著書『ゆっくり減薬のトリセツ』がある医療ジャーナリストの月崎時央さんはこう説明する。</p>
<p><span class="strongInContent">「日本は諸外国のなかでも向精神薬の多剤大量処方の頻度がはるかに多く、以前から問題視されてきました。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<p><span class="strongInContent">心理療法より診療時間がかからない薬物療法を優先してきた日本の医療保険システムが多剤大量処方を常態化させていたこともあり、厚生労働省は’10年代半ばごろから向精神薬を多剤処方すると病院の診療報酬が減算になるしくみを導入しました。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">医療機関としては、向精神薬の種類が多かったり長期にわたって投与したりすると診療報酬を減らされることから、減薬の方向に進んだと言えます」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_336538" aria-describedby="caption-attachment-336538" style="width: 3504px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c56dc612"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/0cd9e8327a71b56a2036f5adb0de914a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336538" class="wp-caption-text">厚生労働省は、’10年代半ばから向精神薬の多剤大量処方抑制に向けて、診療報酬による規制をかけ始めた（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">不眠、頭痛、耳鳴り、目のまぶしさ、自殺願望…リスクを伴う急な減・断薬</span></h3>
<p>医師が患者に適切な減・断薬指導をしてくれるのであれば、多剤大量処方を抑制するしくみができたことは喜ばしいことなのかもしれない。だが、当時、月崎さんのもとへは「医師から突然、『この薬はもう処方できなくなった』と言われた」という声が相次いで寄せられたという。</p>
<p><span class="strongInContent">「なかには患者さんの病状を考慮せずに、急な減・断薬を促すケースもあったと聞きます。ですが、薬はやみくもに減らせばいい、というものではありません。特に薬の種類や量の急な変更には大きなリスクが伴うのです」</span></p>
<p>ベンゾ系薬剤など向精神薬は、長期服用していた人が急に減・断薬すると、‶離脱症状″を起こす可能性が指摘されている。</p>
<p>月崎さんによれば、離脱症状は「百人百様」。不眠、頭痛、耳鳴り、目のまぶしさ、筋肉のこわばり。なかには、悪夢を見たり、激しい自殺願望や手足や口、舌など体のさまざまな部位が勝手に動く‶ジストニア″に苦しんだりというケースもある。服用している薬の種類や量によっても、症状、強さ、離脱症状が始まるまでにかかる時間や、続く時間は異なるという。</p>
<p><span class="strongInContent">「離脱症状の長さは、薬の半減期（薬が体内に入ってその血中薬物濃度が半減するまでの時間）の影響が強いようです。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
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<p><span class="strongInContent">例えば半減期が６時間と短いデパスは、減・断薬後、すぐに症状が表れ、さほど長引かないようですが、半減期が122時間と長いメイラックスは薬をやめて3ヵ月以上経ってから離脱症状が表れる人もいます。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">離脱症状を認めていなかったり、あっても‶２週間程度″と軽く捉えていたりする医師も多いため、メイラックスの離脱症状に苦しんでいる患者さんを診て、病気の再発と診断するケースも。医師には離脱症状の大変さを理解してもらえていない現状があります」</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<div data-friday-nextpage-lead="「眠いのに眠れない」地獄の３ヵ月"></div>
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<h3><span class="strongInContent">「</span><span class="strongInContent">眠いのに眠れない」地獄の</span><span class="strongInContent">３</span><span class="strongInContent">ヵ月</span></h3>
<p>筆者の担当医も、離脱症状が起こるとは想定していなかったように思う。</p>
<p>というのも、医師に「デパスをやめたい」と伝えた際、デパス２錠をやめて飲むようにと、新たな睡眠薬を処方されたからである。</p>
<p>デパスの代替薬として処方された睡眠薬‶ベルソムラ″はベンゾ系とは異なり、脳の覚醒状態を維持するオレキシンを阻害することで脳を催眠状態へと移行させる‶オレキシン受容体拮抗薬″で、依存性は認められていない。医師からは「自然な眠気を強くする薬」だと説明された。</p>
<figure id="attachment_336539" aria-describedby="caption-attachment-336539" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="785a1ad0"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/eca09d73e06c960936878524d882424c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336539" class="wp-caption-text">１錠の減薬後、布団に入っても脳内が覚醒し、思考が止められない状態が続いた</figcaption></figure>
<p>ベルソムラを処方されたその晩、指示通りデパスは飲まずにベルソムラ２錠を飲んで布団に入ったが、ほぼ一睡もできないまま朝を迎えた。２日目も妙に頭が冴えて眠れない。断薬は諦め、３日目は、医師から眠れない場合にと提案されていた「デパス1錠とベルソムラ1錠の併用」に切り替えた。</p>
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<p>しかし、どうやっても眠れず、反跳性不眠（睡眠薬をやめたり減らしたりすることで生じる服用前より強い不眠）に悩まされた。そのうち入眠時ミオクローヌス（入眠の際に起こる手足のぴくつき）の出現や、‶眠ってはいけない″といった強迫観念にかられ、死ぬほど眠たいのに‶寝させてくれない″状態が続いた。脳内が常に覚醒している感覚で、まったく休まらない。</p>
<p>当時、‶離脱症状″の知識がまったくなかったことから、こうした苦痛は減薬によって不眠が再発したせいだと思い込んでいた。だから余計に「もう限界」と思いながらも、１錠の減薬が諦めきれず、ひたすら時が経つのを待った。</p>
<p>そうして3ヵ月ほど経ったころだろうか。少しずつ入眠が楽になり、ある程度の睡眠がとれるようになっていた。</p>
<p>「ひどい離脱症状が起きたときは、1週間以内くらいのうちに服用していた用量に戻せば、症状が治まる方は多いようです」と月崎さんは言う。筆者もすぐにデパス2錠に戻し、減薬を仕切り直せば、あれほどの地獄を見ずに済んだのかもしれない。</p>
<p><span class="strongInContent">筆者はこのあと、どうやって断薬までこぎつけたのか――。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p><span class="strongInContent">月崎さんが多くの患者を取材して見えてきた、離脱症状をできるだけ抑える減・断薬の方法とともに後編でお届けする。</span></p>
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<p><a href="https://friday.kodansha.co.jp/article/336547" target="_blank" rel="noopener noreferrer"><span class="strongInContent">【後編】『やっとの思いで…「二度と服用したくない！」体験者が語る睡眠薬・抗不安薬の離脱症状地獄からの脱出法』</span>はコチラ</a></p>
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<p><span class="strongInContent">月崎時央（つきざきときお）</span>医療ジャーナリスト＆ファシリテーター。出版社勤務を経て、作家・猪瀬直樹氏に師事したのち『日経トレンディ』『日刊スポーツ』『週刊朝日』などに医療記事を寄稿。’93年、家族の精神病発症を機に精神保健福祉の取材を開始し現在に至る。著書に『正しい精神科のかかり方』（小学館刊）。近著に、向精神薬の減薬・断薬について患者の取材からまとめたハウツー本『新版 ゆっくり減薬のトリセツ』（読書日和刊）がある。向精神薬について考えるワークショップも主催する。</p>


女性誌の編集を経てライターに。持病歴40年。今回は長年、医療を受けてきた患者の視点で取材・執筆。

つまいけ戀子

睡眠薬や抗不安薬として広く用いられている「ベンゾジアゼピン系」薬剤。長期服用してきたライターが、自らの減・断薬経験を通して、離脱症状の怖さと、離脱症状を抑える減・断薬方法を考察しました。

普通薬の「睡眠薬」が突如”向精神薬″に…「やめたいけどやめられない」体験者が語る離脱症状の恐怖

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