1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。

南 充浩

<h3><span class="strongInContent">過去には「太っている人には着てほしくない」という発言が物議に</span></h3>
<p>今月５日、イギリス・BBCが<span class="strongInContent">「米アパレル大手アバクロンビー・アンド・フィッチの元最高経営責任者（CEO）と、そのイギリス人パートナーが、世界各地でセックスイベントを開催し、複数の男性を性的搾取していた疑惑が浮上した」</span>と報じました。</p>
<p>この元CEOは’06年に<span class="strongInContent">「太っている人には（アバクロの服を）着てほしくない」</span>という発言をしていたとのことで、その７年後の’13年にこの発言が蒸し返され、アメリカで散々に批判されました。</p>
<p>この騒動をきっかけに、’13年以降の業績に陰りが見えたアバクロンビー・アンド・フィッチですが、’17年から新CEOを迎えると、北アメリカでの業績が回復傾向に転じ、’24年の業績予想を上方修正しました。この６年間ですっかり贖罪が済んだということでしょうが、元CEOの新たな性的スキャンダルの報道によって、せっかく上方修正した業績予想が実現できるかどうかは雲行きが怪しくなってきたと言わねばなりません。</p>
<figure id="attachment_336835" aria-describedby="caption-attachment-336835" style="width: 2000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="9348c23e"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/64c37b3fc2a2445a445d6f256dc5cdac.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336835" class="wp-caption-text">当時、アバクロの公式写真家だったブルース・ウェバー氏が手掛けた広告写真。BBCの報道によると、セックスイベントに参加すれば、広告モデル起用の可能性があるとにおわせていたという証言も（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
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<h3><span class="strongInContent">大行列が話題になった日本上陸</span></h3>
<p>一方、日本では’09年に東京・銀座に本格上陸したものの、鳴かず飛ばずの状態が続いており、その後開店した福岡店も’20年にはコロナ禍も相まって撤退してしまいました。</p>
<p>’23年現在の日本市場のトレンドを見ていても、今後、短期的にアバクロ人気が復活しそうな気配はちょっと見当たりません。かつて’90年代後半から’00年代半ば過ぎまで日本でも大人気ブランドだった「アバクロ」が本格上陸後、なぜ低迷してしまったのかについて今回は考えてみたいと思います。</p>
<figure id="attachment_336836" aria-describedby="caption-attachment-336836" style="width: 1912px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="fd8013bc"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/b993d5f336f64025e31e2abefd0d9f65.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336836" class="wp-caption-text">アメリカ本国のショップには、上半身裸のスタッフも</figcaption></figure>
<p>かつて、日本で大人気だった当時のファッショントレンドについて振り返ってみましょう。日本で全盛期だった’00年から’00年代半ばにかけて、ファッショントレンドはタイトシルエットでした。平たくいうとピチピチ・ピタピタの洋服が大流行しており、’90年代半ばまでのゆとりのあるシルエットの洋服は完全に駆逐されてしまっていました。</p>
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<p>この当時に支持されたブランドの1つがアバクロだったというわけですが、当時、アバクロが打ち出していたマッチョな体に貼りつくようなシルエットの服はこのトレンドに合致したといえます。また’90年代半ばから続いていたビンテージ調の中古加工人気もこれを洋服にアバクロが施していたことも人気を博した理由でしょう。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="キムタクが愛用しているブランドとしても話題に…"></div>
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<h3><span class="strongInContent">キムタク、浜ちゃんが愛用しているブランドとしても話題に</span></h3>
<p>また、キムタクを始めとする当時の人気芸能人が愛用したということで一層日本での人気を高めました。しかし、’08年のリーマンショックを経た’00年代後半には実はアバクロ人気は廃れ始めていました。そんな中、リーマンショックの余波がまだ残る‘09年に東京・銀座店をオープンしました。</p>
<p>ファッショントレンドでいうと、アバクロが日本上陸した’09年もタイトシルエット全盛は変わりないですが、このころからスキニージーンズが大ブームとなります。このスキニージーンズはこれまでの綿100％デニム生地と異なり、ストレッチ混のデニム生地となるため、表面感が異なります。そのため、スキニージーンズには激しい中古風加工は求められなくなります。そうなると、アバクロの人気の一因が評価されにくくなってしまいます。</p>
<figure id="attachment_336837" aria-describedby="caption-attachment-336837" style="width: 4134px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="d87a2519"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/ef94a71cfaf688aeb248498c6eaa997e.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336837" class="wp-caption-text">アジア圏初の出店にもなった日本上陸は‘09年12月。開店1時間前には500人以上の長蛇の列ができたという。その後、アジア圏では、福岡（’10年）、シンガポール（’11年）、香港（’12年）に出店したが、現在、東京以外は撤退</figcaption></figure>
<p>そして、鳴り物入りでオープンした銀座店はすべてが日本人の嗜好から外れていたため、話題性に反して全く鳴かず飛ばずの状態に陥ってしまいました。日本人客に受け入れられなかった理由は　①店内に充満したきつすぎる香水の匂い　②店内照明が薄暗すぎること　③うるさすぎる店内の音楽　④半裸に近いようなマッチョな販売員　という4点となります。各種報道によると店内のそれら演出は本国店舗よりも25％ほどトーンダウンさせたと言われていますが、日本人の嗜好にはそれでも合わなかったということです。嗜好に合わない店作りをしていたのですから売れないのも当たり前です。</p>
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<p>次に、価格の問題があります。アメリカ本国でもアバクロは決して安い価格のブランドではありません。もちろん日本にも同様の価格帯で上陸しています。しかし、この’09年というのは、リーマンショックによる不景気と、’08年のＨ＆Ｍ上陸によるファストファッションブームのピーク時であり、おまけにジーユーが990円ジーンズを発売しており世間の注目が「安い服」に一点集中していた時期です。そのため、1万円台のジーンズを中心とするアバクロは見向きもされませんでした。本格上陸した時期も不運だったといえます。</p>
<figure id="attachment_336838" aria-describedby="caption-attachment-336838" style="width: 6000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="c223d8f2"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/6292d6dd57eca2a11a0513e2823d5842.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-336838" class="wp-caption-text">1892年ニューヨークでスポーツ用品店として創業したアバクロ。長らく堅実なアッパークラスの店として知られていたが、買収により、‘92年にマイケル・ジェフリーズをCEOに迎え20代前半をターゲットに。写真は1968年撮影</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">GAP、オールドネイビー、アメリカンイーグル…閉店や、撤退が相次ぐアメリカブランド</span></h3>
<p>その後、オールドネイビー、フォーエバー21、ベルシュカなどの外資ファストファッションが売れ行き不振によって日本から撤退していきましたが、アバクロは現在も細々と残っています。</p>
<p>日本ではどれもあまり業績が芳しくないアバクロをはじめとしたGAP、アメリカンイーグル（一度撤退したが再上陸）などのアメリカンカジュアルブランド群ですが、アメリカ本国では堅調を維持してます。日本から撤退したオールドネイビーも、アメリカ本国では好調です。そうなると、日本の消費者と北アメリカの消費者の洋服に対する嗜好が大きく異なるのではないかと考えられます。</p>
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<p>現在、中古加工のジーンズが一時期よりは若者の間で人気が出てきています。ただ、かつてのセクシーさを強調したアバクロのテイストは、今後もあまり日本人のマス消費者には顧みられないのではないかと思います。GAP、オールドネイビー、アメリカンイーグルと並んで今後も“北米限定のローカルブランド”として紆余曲折ありながらも続いていくのではないでしょうか。</p>


南充浩（みなみみつひろ）

アフロ

イギリス・BBCが報じた「アバクロ」の元CEOとそのパートナーによる性的搾取疑惑。かつて日本でも大人気ブランドで、キムタクも愛用していた「アバクロ」が本格上陸後、なぜ低迷してしまったのか…。

こちらも英BBCが報道して火をつけ…元CEOに性加害疑惑！世界的アパレル「アバクロ」の光と影

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