マネーライター、ファイナンシャルプランナー／証券会社のマーケットアナリストを経て、1996年に独立。ビジネス誌や経済誌を中心に金融、資産運用の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資１年目の教科書』『豊富な図解でよくわかる！ キャッシュレス決済で絶対得する本 』。

松岡 賢治

<h3><span class="strongInContent">〝ドコモ経済圏〟を成長させるためには、マネックス証券の「新NISA」口座は必要不可欠だった</span></h3>
<p><span class="strongInContent">10月４日に発表された、NTTドコモとマネックスグループの資本業務提携は、「新NISA」をにらんだギリギリの選択だった。新NISAは、金融業界のみならず、大手キャリアを中心とする「経済圏」競争の決め手となるからだ。その理由を解説するとともに、今後発表予定のドコモ－マネックス連合のサービスを予想していこう。</span></p>
<figure id="attachment_337155" aria-describedby="caption-attachment-337155" style="width: 4589px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f536212f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/7fb9e47c267e37de38e2a70c6ca86c9c.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-337155" class="wp-caption-text">金融事業が遅れていたNTTドコモ。注目したいのは、会員数9600万人の『dカード』会員の動向だ（PHOTO：アフロ）</figcaption></figure>
<p>NTTドコモがマネックス証券を傘下に収めた背景は、巷間いわれているとおり、ドコモの金融事業の遅れがあった。しかし、本来の企業価値よりも高値で買収したドコモの背中を最後に押したのは、’24年１月から始まる「新NISA」だろう。<span class="strongInContent">〝ドコモ経済圏〟を成長させるためには、新NISA口座は不可欠</span>といえるからだ。</p>
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<p>NISA（少額投資非課税制度）は、名称どおり、投資で得られる利益にかかる税金（税率は約20％）がゼロになるという国の制度。’24年１月からスタートする新NISAは、現行NISAよりも税制優遇がいちだんと厚くなる。新NISAには、株式や投資信託などに投資する「成長投資枠」と、投資信託に積立投資する「つみたて投資枠」という２つの枠があり、併用すると年間360万円まで投資ができる。現行NISAの年間限度額は、「一般NISA」で120万円、「つみたてNISA」で40万円だった（併用不可）。</p>
<p>この投資枠の上限は1800万円に設定されており、一部を売却すると、その枠は再利用できる。例えば、1800万円に到達した後、投資金額100万円分の株式を売却したとすると、投資枠は1700万円に減り、新たに100万円の投資ができる。おそらく、一部の富裕層を除いて、<span class="strongInContent">ほとんどの一般世帯は、新NISAだけで資産運用は事足りてしまうはずだ。すると、今後、個人が運用するお金は新NISA以外の口座には、ほぼ〝流れない〟ことになる。</span></p>
<h3><span class="strongInContent">「新NISA」で加速する「貯蓄から投資へ」…個人の資産運用は「新NISA」だけで完結する</span><span class="strongInContent"> </span></h3>
<p>政府が’22年11月に策定した『資産所得倍増プラン』は、５年間でNISA総口座数を1700万口座から3400万口座へ、NISA買付額を28兆円から56兆円に、それぞれ倍増させる、というもの。これは、よくある国の机上の試算ではなく、発表後すでに<span class="strongInContent">約半年間で総口座数1940万口座、買付額32兆8000億円</span>に達している。新NISAがこれから始まることを考慮すると、目標達成は前倒しとなる可能性すらある。</p>
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<p>しかも、<span class="strongInContent">個人金融資産は’23年６月末時点で2115兆円あり、依然として現預金は５割以上。伸びしろはまだまだある。今後、新NISA口座は、長期にわたって個人マネーの強力な吸引装置になる</span>だろう。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="「新NISA」口座が経済圏の成長エンジンに"></div>
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<h3><span class="strongInContent">「新NISA」口座が経済圏の成長エンジンになる</span></h3>
<p>だが、口座を獲得し、資金を滞留させておくだけでは、実質的なメリットはない。<span class="strongInContent">各ネット証券会社は、クレジットカード決済で投資信託の積立ができる「クレカ積立」など、短期的にはほぼ赤字のサービスを提供</span>している。また、<span class="strongInContent">投資信託の購入時手数料は無料、SBI証券や楽天証券だけでなく、NISAでは国内株式の売買手数料も無料</span>にしている。<span class="strongInContent">〝稼ぎどころ〟がないのだ。</span></p>
<p>しかし、<span class="strongInContent">目先の手数料収入は重要ではない</span>。新NISAは制度が恒久化され、非課税期間も無期限になる。その結果、老後資金だけではなく、教育資金やマイホーム資金をはじめとする、さまざまなライフイベントの出費にも対応が可能になる。具体的には、つみたて投資枠で老後資金、成長投資枠でライフイベント用資金、といった使い分けが想定される。</p>
<p>例えば、個人が、成長投資枠で買った株式や投資信託を売却したとする。その売却代金を経済圏で使わせるように誘導すれば、経済圏の成長に大きく寄与するだろう。投資枠は再利用できるため、何度でも売買を繰り返すことが可能。上手くいけば、そのたびに個人マネーが経済圏に供給されることになる。</p>
<p>つまり、<span class="strongInContent">新NISA口座は、個人マネーの流入と流出を預かるターミナルとして機能することになる。これが、経済圏競争で覇権を握るために欠かせない要素であるという背景だ。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_337156" aria-describedby="caption-attachment-337156" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="67e3cfba"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/5c65df0ccc29cba3378dce750ffe7d42.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-337156" class="wp-caption-text">「新生マネックス証券」のサービスはどうなるか…写真は、「投資の日」の10月４日に行われたNTTドコモ、マネックスGと資本業務提携発表の記者説明会</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">「新生マネックス証券」のサービスはどうなる</span></h3>
<p>資本提携で設立される<span class="strongInContent">ドコモマネックスホールディングス</span>は、’24年１月４日に正式に発足する予定。だが、具体的なサービスの発表は、その前になる可能性は高い。この10月から、すでに新NISAの口座開設の申込みが始まっているからだ。時間をかけすぎると、他社に流れてしまう。</p>
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<h3><span class="strongInContent">マネックス証券の「キャンペーン」は資本提携の兆候だった？</span></h3>
<p>一応、応急措置は済んでいる。資本提携が発表される１週間前、マネックス証券は新NISA向けのキャンペーンを発表しており、その内容は、NISA口座でクレカ積立をした場合のポイント還元率をアップする、というもの。<span class="strongInContent">新規口座開設をした人は積立金額の2.2％、すでにNISA口座がある人は1.5％と、従来の1.1％から大幅に引き上げ</span>たのだ。但し、いずれの還元率も’24年９月末までの時限措置となっている。</p>
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<p>このキャンペーンをみたときは、正直、「なんだか中途半端だな」としか思わなかった。’24年９月末までなら、そこまではマネックス証券で新NISAを使い、10月になったら口座を他社に変更する人も出てくるんじゃないか、と考えたからだ。新NISAで積立投資した分は、他社に移管できる。</p>
<p>しかし、少なくともこの時点では、ドコモとの資本提携は社内的には正式に決まっていたのだろう。完全な〝つなぎ〟のキャンペーンである。もし、もうちょっと頭が回れば、ドコモとの提携に行きついたかもしれない（ひと儲けできるチャンスを逃してしまった……）。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="注目点は『dカードGOLD』の「クレカ積立」"></div>
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<h3><span class="strongInContent">注目点は『dカードGOLD』の「クレカ積立」のポイント還元率</span></h3>
<p>それはさておき、このマネックス証券の〝つなぎキャンペーン〟は、あくまで『マネックスカード』を使ったもの。既存のマネックス証券のNISA口座の解約を防止する効果はあっても、ドコモのユーザー基盤を活用するものではない。<span class="strongInContent">ドコモが有するという9600万人の会員を活用するためには、即効性と分かりやすさの点で、まずは『dカード』でのクレカ積立によるポイント還元しかないだろう</span>。</p>
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<p>そして、肝心の還元率だが、<span class="strongInContent">レギュラーのdカードは還元率１％、ゴールドカードの『dカードGOLD』は1.5％と予想</span>する。これが実現すれば、かなりのインパクトはある。</p>
<p>レギュラーカードは、他社並みの0.5％としてしまうと、マネックスカードの平時の1.1％より見劣りしてしまう。カギとなるのはdカードGOLDの方で、1.5％にできるかどうか。1.5％となれば、ユーザーがマネックス証券に口座開設する大きなインセンティブになりえる。<span class="strongInContent">ドコモ経済圏の住人なら、マネックス証券が最有力候補になるだろう。</span>なにしろdカードGOLDは発行枚数が1000万枚を超えているので、業界地図を書き換えるかもしれない。</p>
<figure id="attachment_337157" aria-describedby="caption-attachment-337157" style="width: 1280px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="34ca77eb"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/6a8d7913b8122eaf181fc84dbe2b3167.png" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-337157" class="wp-caption-text">口座開設後に初めて取引きする商品は、この10年で日本株から投資信託へと大きく移行した。今では初めて取引きする商品の過半数は投資信託となっている（マネックス証券口座保有者6735人の調査。マネックス証券のプレスリリースより）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">資産運用における「ポイント還元」の重要性</span></h3>
<p><span class="strongInContent">ポイント目当てに資産運用をするのは邪道だ、という意見も少なくない。しかし、筆者はそうは思わない。投資信託の積立投資で成果を出すには、時間がかかる。長期投資が前提であり、それには継続が何よりも大事だ。投資している間、相場が下落して損失が発生することは普通に起こる。そんなときでも、「ポイントがもらえているからまあいいか」と、継続するモチベーションにつながる可能性があるからだ。</span></p>
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<p>クレカ積立以外の注目点としては、<span class="strongInContent">投資信託の保有残高ポイント</span>がある。マネックス証券はこの保有残高ポイントが弱い。実は、<span class="strongInContent">松井証券が、11月から、とんでもないポイントサービスを投入する予定で、投信残高ポイントが注目される可能性が高い</span>（ひと言だけいっておくと、このサービスを続ける限り松井証券は投資信託でずっと赤字が続く、というもの）。</p>
<p>ドコモ－マネックス連合は、この部分でも新機軸を打ち出せるか――。</p>


マネーライター、ファイナンシャルプランナー／証券会社のマーケットアナリストを経て、1996年に独立。ビジネス誌や経済誌を中心に金融、資産運用の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資1年目の教科書』『豊富な図解でよくわかる！ キャッシュレス決済で絶対得する本 』。

松岡賢治

アフロ

10月4日発表された、NTTドコモとマネックスグループの資本業務提携は、「新NISA」をにらんだギリギリの選択だった。その理由を解説するとともに、今後発表予定のドコモ－マネックス連合のサービスを予想。

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