バラエティ、報道、スポーツ番組など幅広いジャンルで番組制作に携わる。女子アナ、アイドル、テレビ業界系の書籍も企画出版、多数。ドキュメンタリー番組に携わるうちに歴史に興味を抱き、近年『家康は関ケ原で死んでいた』（竹書房新書）を上梓。電子書籍『異聞 徒然草』シリーズも出版

島 右近

<figure id="attachment_337216" aria-describedby="caption-attachment-337216" style="width: 1541px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="35e4b468"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/10/8a8e8ec554cc509a50aa3714dfb8640e.jpeg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-337216" class="wp-caption-text">映画『ミステリと言う勿れ』が大ヒット中の菅田将暉だが……</figcaption></figure>
９月15日に公開された菅田将暉が主演する映画『ミステリと言う勿れ』。公開から４週連続で週末の観客動員ランキング１位を獲得。早くも興行収入34億円を突破して、菅田の主演作では最大のヒットを記録した『花束みたいな恋をした』の興行収入を超える勢いを見せている。
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今作は、田村由美による累計発行部数1800万部の大人気漫画が原作。菅田演じる天然パーマがトレードマークの主人公・久能整が、淡々と自身の見解を述べるだけで事件の謎や人の心を解きほぐしていく新感覚のミステリーである。
昨年１月期にはフジテレビの「月９枠」で放送され、見逃し配信では当時の歴代第１位を記録。今作ではファンの間でも評判の高い「広島編」が映画化されている。
「広島の旧家・狩集家で起きた遺産相続の謎に迫る今作。旧家にまつわる血なまぐさい伝説の数々、そして孫たちが相続した“謎めいた蔵”など、まるで横溝正史の『犬神家の一族』を彷彿とさせるような世界観は、“ミステリー好き”にとってもたまらない展開。
実際に狩集家の舞台となった岡山県倉敷市の“旧野崎家住宅”は、今年放送されたドラマ『犬神家の一族』（NHK-BSプレミア）でも撮影に使われています」（ワイドショー関係者）
しかしこの作品は、単なるミステリーではない。
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菅田演じる久能整は、生活信条やこだわりが多くそのせいなのか、彼女はもちろんのこと、友達もいない。だが並外れた記憶力や分析力を持ち、魔法のような言葉を操り、いつの間にか登場人物たちの抱える悩みを解決してしまう。この浮世離れした“整”役を演じる菅田の演技には、舌を巻くばかりだ。
「菅田は、“整”役を演じるに当たって『整くんがあまりに正論を振りかざす人間になってはいけない。そのさじ加減はすごく気にした』とコメント。さらに“整”役を演じる難しさについても『いつもなら、いくらでもアドリブがペラペラ口から出てくる。でも整くんについては、そのアドリブが無理だった』『整くんの発言は、アドリブなんかでできるものではない』と明かしています」（制作会社プロデューサー）
“憑依型”の俳優・菅田将暉が、
「今回は憑依できなかった」
とまで語る久能整役。まるで“シェイクスピア劇”を演じるようなむずかしい役どころに、菅田将暉はなぜ挑もうとしたのか。
<div data-friday-nextpage-lead="“憑依&quot;できない菅田の心を動かした魔法の言葉が…"></div>
「その理由のひとつは今回演じる“整”役が、菅田自身のキャラクターにちょっと似ているから。そしてもうひとつ、それは『原作漫画に出てくる“整”のあるセリフに魅せられたからだ』と、菅田自身は告白しています」(前出・プロデューサー)
その“魔法の言葉”こそ、「広島編」に登場する
「子供って、乾く前のセメントみたいなんですって。落としたものの形が、そのままあとになって残るんです」
だろう。
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「このセリフ、アメリカの臨床心理学者で子供のセラピストとしても活躍したハイム・G・ギノットの言葉。原作でこのセリフを読んだ菅田は心動かされ、月９ドラマ『ミステリと言う勿れ』の仕事を引き受ける決心をしたと振り返っています」（制作会社ディレクター）
この“魔法の言葉”が、今作では繰り返し、繰り返し描かれている。
遺産相続を巡って、“秘密の蔵”の中に何があったのか教えないゆら（柴咲コウ）に対して、新音（萩原利久）は、ゆらの娘・幸から聞き出そうとする。その場面を目撃した整は、
「子供をスパイにする行為」
「子供は親の足を引っ張ってしまったことを一生悔やむことになる」
といって新音をたしなめ、“乾く前のセメント”に傷がつかないようにくい止めている。それだけではなく
「大抵の親は、言葉が持つ破壊的な力に気がついていない」
と諭す場面にも“魔法の言葉”が甦る。
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やがて物語が進むにつれ、相続争いに整を巻き込んだ汐路（原菜乃華）も祖父から
「（狩集家は）殺しあう一族」 
「お前もそうなる」
と刷り込まれていたことが明らかになり、整は
「どうしてそんなことを子供に……」
と言ってため息をつく。
この一連のシーンを見ることで、乾いたらトラウマになってしまう“セメント”のエピソードが、この映画の“真のテーマ”であることに初めて気づかされるのである。
そしてこのテーマが、謎多き“整”を解く鍵にもなっている。
「物語を俯瞰してみると、整もまた父親へ恨みを持っていることがドラマの中で明かされています。施設で育ち、親も出生地も明らかにされていない整自身も、幼い頃乾く前のセメントに何か落とされ傷ついたひとりではないでしょうか」（前出・ディレクター）
今作では、そこまで深く“整”について掘り下げてはいない。しかし今作が大ヒットしたことから、その謎は映画化第２弾、第３弾と進むうちに明かされていくに違いない。
横溝正史の名作『犬神家の一族』を思わせる今作。だが今作の真の狙いは、まさに『ミステリと言う勿れ』。“整”を巡る謎を解いていくうちに、明らかになっていくに違いない――。

島右近（放送作家・映像プロデューサー）

原一平

映画『ミステリと言う勿れ』が大ヒット中の俳優・菅田将暉。”憑依型”といわれる彼が今回はできなかったと呟くほど”難役”だったのだが……

“憑依型”の俳優・菅田将暉　映画『ミステリと言う勿れ』を大ヒットに導いた「魔法の言葉」

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