日本を手本にした部分は「ゼロ」…話題の「美しすぎる空港」南印ケンペゴウダ国際空港、その驚きの全貌とは

日本の空港で参考にした部分はあるかの問いに、

「ゼロ」

そう答えたのは、インド第３の都市であるベンガルールのケンペゴウダ国際空港のCEOを務めるHari Marar氏だ。この空港では、今年、新たに第２ターミナルが開業。その斬新なデザインと、IT先進国インドと世界の最先端技術が凝縮された新ターミナルが話題だ。

ちなみに、ベンガルールを含むインドの主な地下鉄は日本のODAによって作られたのは有名で、タイ・バンコクのスワンナプーム国際空港や中国の北京首都国際空港など特にアジアで、日本は多くの空港建設や拡張に携わってきた。

人口が中国を抜いて世界１位（約14億人）となったインド。

デリーが北インドの玄関口であるなら、西インドではムンバイ、南インドではベンガルール（旧称バンガロール）になる。特に近年、インド第３の都市であるベンガルールに世界のIT企業が集結し、インド経済を牽引する都市として成長を遂げている。JALの成田－ベンガルール線も運航中で、’23年９月現在、24の外資系航空会社と８つのインドの航空会社が就航し、就航先は国際線25、国内線75となっている。

今回、ケンペゴウダ国際空港を公式取材し、空港会社CEOにインタビュー。アジアの空港でこれまでよく見られた動きと異なる状況などを目の当たりにした。

インド・ベンガルールのケンペゴウダ国際空港、第２ターミナル。’23年９月12日から全国際線とインド国内線の一部が発着する

開港から15年、どんどん増える利用客。コロナ禍も貨物で「最高記録」

ケンペゴウダ国際空港は、’08年５月開港。当初のターミナルは１つで、利用者増加に伴って拡張工事が行われた。コロナ前の’19年度～‘20年度、年間の利用客が3300万人を超え、発着数は23万回超に達した。

空港入り口付近でケンペ・ゴウダ1世の像が車窓から見えた。1537年に城塞都市としてベンガルールを築いた創始者として知られる人物

コロナ禍も、貨物の取扱数で過去最高を記録。ちなみに、ケンペゴウダはベンガルールの都市を創始した人物のケンペ・ゴウダ１世のことで、空港入り口に大きな像がそびえ立つ。

’23年、２年余りの建設期間を経て、第２ターミナルが完成した。敷地面積は25万5661平方メートルで、年間乗客数2550万人を見込む。２月にエアアジア・インディア、３月にビスタラなどインド国内線の一部がまず移転し、当初予定の８月末から若干遅れて９月12日にJALを含む国際線全路線が第２ターミナルの発着となった。

庭園都市のベンガルールらしい「自然あふれる空港デザイン」

第２ターミナルへ足を踏み入れると、空港とは思えないほどの豪華かつ煌びやかなデザインにまず圧倒される。空港側は「乗客体験の向上と、記憶に残る視覚的印象を提供するために設計した」といい、「庭園ターミナル」「環境保全」「IT」「芸術文化」の４つのコンセプトに基づいて作られたという。

国内線の搭乗ゲートエリア。インドらしいアートが展示されている。天井から吊るされた照明のデザインにもこだわりが見られる

ベンガルールはデカン高原にあって穏やかな気候と緑が多い「庭園都市」として知られる。インド全土や日本を含む世界中から調達した60万本もの植物が空港内にあり、いたるところで「自然」が感じられる。

保安検査に向かう通路にある「緑の壁」と、床には18世紀のマイソール王国のマハラジャによって作られたボードゲームに基づくアートがある

特に、保安検査へ向かう通路の1万235平方メートルもの「緑の壁」は圧巻だ。樹齢650年というオリーブの木、またアセロラやサボテンなども植えられている。

天井に吊るされている植木鉢には、天井から植物へホースで給水するシステムを導入。種や苗木などは、空港敷地内にナーサリー（育苗所）が設けられている。

「IT先進国インド」の最先端都市として空港も早速導入する最新機器

ターミナル内には「竹」が多用されている。これらは不燃性の竹で、竹は近年、地球環境にやさしいサステナブル素材としても注目を集めている。

ターミナル内の柱や天井、空調カバーなどに地球環境にやさしい「竹」が多く採用されている。不燃性の竹はベトナム製とのこと（PHOTO：Bangalore International Airport）

また、雨水の貯水池を12面設けるほか、空港での廃棄物は100％リサイクル、飲食店などで使い捨てプラスチックを提供せず、太陽光パネルも設置する。これらの地球環境へ配慮する取り組みは、国際空港評議会（ACI）の二酸化炭素排出量削減に取り組む国際空港に付与される認証制度「Airport Carbon Accreditation」で、上から２番目の「レベル３」を、アジアで初めて獲得し、さらに上の「レベル４」の認定取得を目指している（日本では成田が３、関空、伊丹、神戸、中部が４を取得）。

近年、日本を含む世界の主要空港で増えている自動手荷物預け機。この空港にも最新機器が34台設置され、混雑する行列の緩和に貢献する

IT面も最先端。広々としたチェックインカウンターに加え、自動手荷物預け機が34台、自動チェックイン機を40台、保安検査にスマートセキュリティやボディスキャナーなどを設置する。インド独自の顔認証システム「DigiYatra」を当初から導入し、空港内に入る際から搭乗口まで何度もあるセキュリティチェックが「自動化ゲート」でスムーズに進める。１時間あたり平均4500個の荷物を処理できるインライン手荷物処理システムも装備し、電光掲示の案内などもわかりやすい。

カルナータカ州の考古学省から借りて展示する神像など。中には11世紀のものもあった。数ヵ月ごとに展示替えする

さらに、ベンガルールがあるカルナータカ州とインド全土から選ばれた43人のアーティストによる60点もの作品を、第２ターミナル内に展示。古くからの神像など文化多様性に加え、モダンアートの要素が入った作品もあるのも見ものだ。

空港CEOインタビュー「世界のどこにもない空港を作り上げた」

今回の空港取材に合わせ、空港CEOを務めるHari Marar氏にインタビューした。Marar氏は’06年からベンガルール国際空港に従事する。

ベンガルール国際空港会社のCEO、Hari Marar氏。イギリスの航空格付け会社「SKYTRAX」で’22年にBEST REGIONAL AIRPORT（INDIA／SOUTH ASIA）を獲得した際の盾を手にする

Marar氏は「世界のどこにもないユニークな空港のターミナルを作り上げた」と胸を張る。特に最近、ビジネス利用が戻り、旅行客は国内線を中心に増えているといい、直近では、ルフトハンザドイツ航空のフランクフルト線およびミュンヘン線、カンタス航空のシドニー線、ヴァージン・アトランティック航空のロンドン・ヒースロー線が就航予定とのこと。空港近くにコンベンションセンターを設け、今後は国際会議などを積極的にベンガルールに誘致したい考えを示した。

インドがますます発展を遂げ、空港利用者も増え続けると見越し、２本目の滑走路完成、バスゲートのターミナル整備、ベンガルール中心部への地下鉄延伸など「今後もずっと進化し続ける空港」と、Marar氏は語る。やっと第２ターミナルが本格運用し始めた最中でも、さらに３つ目のターミナルまで視野に入っているという。

一方、参考とした空港があるかとたずねたところ、

「顧客サービスはシンガポール・チャンギ空港、清潔さはスイス・チューリッヒ空港、IT関連はオランダ・スキポール空港」

との答えが返ってきた。

国際線の免税店が並ぶエリア。空港の規模の割にショップの数はとても多い。到着時にもほぼ同様のエリアがあった

夜の第２ターミナル。外から見るとまるでインドの宮殿のごとく黄金に光り輝き、日中とは雰囲気がガラリと変わる（PHOTO：Bangalore International Airport）

空港の「定時出発率」、羽田を抜いて首位となった理由を聞くと

この空港でもう１つ、特筆すべきことがある。イギリスのデータ分析会社Cirium（シリウム）による’22年の空港別定時出発率の空港発着規模が大きい「グローバル」部門で、羽田空港（90.33%）に次いで２位（84.08%）となった。しかも直近の’23年６月、７月、８月は１位だった。一方、羽田空港は８月には21位以下の圏外となっている。羽田空港やその他日本の空港が順位を落としているのは、昨今の天候による遅延多発もおおいに影響している。

国際線出発エリア。デザインに目を奪われる一方で、ゲートなどへの動線はシンプルで、案内もわかりやすい。利用者目線でしっかり考えられている

それでも、ベンガルール国際空港の定時出発率の高さは、誇るべきことだろう。空港ではターミナル以外にも巨額の投資を行っており、滑走路に南インド唯一の「CATⅢ」（※）を導入。悪天候や霧が飛行機に与える影響を最低限に留めている。Marar氏曰く「運航に従事する空港や航空会社その他あらゆるスタッフの連携が、定時出発率トップに大きく寄与している」とのことだ。

※CATⅢ…精密進入着陸を行う場合に各カテゴリーに応じた決心高やRVR（滑走路視距離、Runway Visual Range）が定められている。CATⅢはカテゴリー最上位

空港取材で実感した”中国超え”できる「インドの底力と将来性」

筆者は、今回が人生初めてのインドで、この第２ターミナルから入国し、出発は同じ第２ターミナルの国内線で、インドのビスタラ航空でデリーへ向かった。その到着時からまだ新しいターミナルを歩きながら、工事中の部分も多く見かけたが、すべて完成する前に運用開始するのも「インド」なのだという。国際線の運航便が少ない日中は、特に工事音が響き、新たな店舗などの工事が急ピッチで進められていた。

国内線出発エリアも国内線が充実するインドらしくレストラン・カフェやショップは多い。ラウンジは国内、国際それぞれ１ヵ所ずつ保安検査後にある

それでも新たなターミナルは立派なものだった。インドらしく仏像などが随所に置かれているのに加え、空港内に緑がとても多いのは心地よかった。10年後、20年後には、この木々などまだ発展途上という部分がどう成長するのかも楽しみである。

インドといえば人が多くて雑多なイメージだったが、この空港でまずその考えが一変した。搭乗手続きなどで利用したシステムはどれも最新だった。

’23年９月12日、第２ターミナルに国際線全線が発着開始した際に行われたセレモニーの様子（PHOTO：Bangalore International Airport）

空港CEOであるMarar氏から、日本の空港を参考にした部分が聞かれなかったのは、正直驚いた。しかし、よくよく考えれば、ODAが手掛けたアジアの空港はいずれも機能性は高いものの、デザインがどれも似ていて特徴があるとは言い難い。ちなみに、中国の北京首都、上海浦東、西安咸陽、蘭州中川などは日本のODAが関係する空港だ。

特に、ご当地色を出すのにその土地を描いた看板などを「とりあえず設置した」という程度のものが多く、この空港のように地域にしっかり根差し、長期的な視点で空港づくりをしているかといえば、日本の空港を見るとそう言い切れないのも事実だ。結局、ODAなど日本の力を借りなくても立派な空港を作り上げることができる、そんなインドの力をも見せつけられた気がした。

もう１つの第１ターミナルは、一般エリアに飲食施設などが豊富にある。第２ターミナルの外も現在工事中の部分が多数

人口においても中国を超えたインドは、もともと「マンパワー」も強い。今年（’23年）のパリ航空ショーでは、インドの２大航空会社がエアバス、ボーイングなどから航空機を合計1000機超の大量発注したことが話題となった。人口増加とともに、航空需要が高まるのは間違いなく、今後のインドは空港でも世界をリードする存在となるのか注目したいところだ。

日本自慢の定時出発率１位を羽田から奪取…最新空港からわかる”中国超え”を狙う「インドの本気度」

あなたへのオススメ