Vチューバ―の分身が大反響 テレ東・相内優香アナのスタジオ密着
それは偶然の産物だった。
昨年8月末の『WBS(ワールドビジネスサテライト)』で放送する特集ネタに困っていた俵口和浩(ひょうぐち)デスクは、IT会社の広報から聞いたVTuber(バーチャルユーチューバー)の話を思い出す。
VTuberが、CGで創ったアバター(分身)を使って動画配信するサービスだということは知っていたが、その仕組みはいまひとつわからない。オンエアまで残された時間はわずか2週間。「業者を訪ね、誰かが体験取材するのが手っ取り早い」と決め、白羽の矢が立ったのが、現場取材を担当するフィールドキャスターの相内優香アナ(33)だった。そして相内アナがアバターを動かすための機材を身にまとった瞬間――スタッフは信じられない光景を目の当たりにする。
「妙にプロっぽいアニメ声の”新・相内”が誕生したんです。しかも毒舌の(笑)。オンエア時に『何かに目覚めた相内キャスター』というディレクターのナレーションが入っていましたけど、お世辞じゃなく、あの場にいたスタッフ全員が『相内凄い! これはもっと面白いことができるぞ』と感動しました」(俵口デスク)
青い髪に青い瞳、ミニスカがセクシーな相内アナの分身――VTuberアナ「相内ユウカ」はネットでも大反響。『Yahoo!』のリアルタイム検索のトレンドワードで「WBS」が1位に輝く。これは番組史上初の快挙だった。
その後、「相内ユウカ」アナはSNSで番組宣伝をしたり、出演者とやり取りしたりと、活躍の場をジワジワと拡大。ついにウェブ上で冠番組『相内ユウカにわからせたい!』(詳細は後述)を持つに至った。相内アナに何が起きているのか。本誌はテレビ東京に飛び、メイクを終えたばかりの彼女を直撃した。
「VTuberを私が体験することになって、最初は『えー?』って思ったんですけど、『ここで私が振り切らないと、この企画は成り立たない。しかも、照れながら中途半端にやるとヤケドするやつだ』と覚悟して――『アニメ声』でやってみようと決めたんです。普段から『セクシー』とか『ラジオDJ』とか、5種類の声色(こわいろ)で日経新聞を読むのを日課にしているんですけど、『アニメ声』はそのひとつでした。いざやってみると、全然違う自分になれるというか、想像していたよりも面白くて。なぜ毒舌キャラなのかは謎なんですけど……かわいい声だと何をやっても許されるんじゃないかって、元来のSっ気が出てしまうのかな(笑)」
ちなみに毒舌はすべてアドリブだ。
「中の人」、相内アナの口の動きは音声から読み取り、身体の動きは身にまとった機材を通してCGに反映される。表情は相内アナが喋りながら手動で操作しているという。かなりの器用さが必要だが、本人は「幼いころからゲームで遊ぶのが好きだったので抵抗はなかったですね。任天堂『Switch』も持っています」。
WBSに携わるようになって10年目。本人は「すごく居心地がいい」と言う。
「会社立ち上げのころに取材したベンチャー企業さんが、先日、WBSでCMを流しているのを見たときは『うぉぉぉ!』って感慨深かったですね。私は群馬の出身で、中学高校と朗読や弁論ばっかりやっていました。思い描いていたアナウンサー像とギャップを感じて『向いていないんじゃないか……』と悩んだ時期もあります。それで、報道に移ったくらいから、仕事で迷いがあるとナレーションブースにこもって、いろいろな声色でニュースを読むことにしたんです。趣味でもあるし、好きなことでもあるアナウンサーの仕事に向き合う時間ですね」
アナウンサーの仕事に向き合った時間がVTuberと出会うことで活(い)き、「自分でも知らなかった自分」が見つかるのだから、人生は面白い。
「ユウカが登場すると、リアルの私が配信するより番組のSNSがハネるんです(笑)。彼女がもっと深くネットの世界に入り込めれば、ネットの人たちをテレビにググッと引き寄せられるかもしれない。これがユウカに課せられた使命なんじゃないかなと思っています。3月から始まる彼女の新番組は、WBSの放送終了後にユウカがスタジオに登場。帰り支度をする解説キャスターの滝田洋一さん(日経新聞編集委員)と山川龍雄さん(日経ビジネス編集委員)を捕まえて質問攻めにするという内容です。すでにユウカは滝田さんを『滝ジイ』呼ばわりしていますし(笑)、WBSでは観られないハードなイジりで、二人をネットの人気者にしてくれるんじゃないかな」
予測不可能なW相内コラボが新たな女性アナ像を生み出しつつある。

本番前の相内アナは真剣そのもの












撮影:村上庄吾