<h3>メキシコが参加を辞退、国民の半数以上が「関心がない」…大阪万博はなんのため？　 </h3>
あと１年半後に迫った大阪・関西万博。しかし、建築費は当初の1.8倍となり、ほとんどのパビリオンは、まだ手つかずだ。国民の半数以上が「関心がない」と言っているデータもあり、メキシコは建築費高騰を理由に参加を辞退した。これからも辞退する国が出るかもしれないと危惧されているが、
「かれこれ30年ほど万博を研究してきた立場から、私は今回の万博が開催されることをやはり楽しみにしています」
と言うのは、京都大学大学院教育学研究科の教授で「万博学研究会」を主宰している佐野真由子さん。
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<figure id="attachment_343609" aria-describedby="caption-attachment-343609" style="width: 4000px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="31e317ee"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/f987b40ca8488f342c2d545b1a718873.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343609" class="wp-caption-text">「ミャクミャクやタレントさんを使って宣伝するよりも、万博の目的、どのような万博にしたいのか説明したほうが、国民の理解を得られると思います」と佐野教授</figcaption></figure>
「万博は、世界中の人間の営みについて情報を一堂に集め、一つ屋根のもとに世界中の人間の活動の成果を展観し、それを学び合って、一歩でも先にみんなで前進しようという思いで始まったもの。そうした万博の意義はいまも変わらず、それを実際に見る価値はあると思います」
世界中からさまざまな情報が集まるというけれど、今やインターネットで必要な情報が入手できる時代。わざわざ見に行かなくてもいいのでは？ 
「これまでいくつかの万博を見てきた経験から、万博はインターネットでとる情報とはまったく違います。それは断言できます。インターネットでなんでも知ることができるという認識を覆されます」
たとえば’15年に開催されたミラノ万博でのこと。このときは「地球に食料を、生命にエネルギーを」がテーマだった。
「各国が『食』というテーマに沿って、さまざまな展示をしていましたが、中東の国々では『水』を前面に出した展示が目立ちました。砂漠の国は『食』と言われてまず何よりも問題なのは『水』なんだということがよくわかりました。 
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また、アルゼンチンのパビリオンでは食料を生み出す苦労が訴えられており、食事を楽しむ、栄養について考えるといった多くの国の展示とは一線を画すもので、とても印象に残りました。同じ『食』をテーマにしているのに、国によって、これだけアプローチが違ってくる。 
100ヵ国以上の国が集まったところを自由に訪ね歩き、それらの国々が発信するこちらの予想を超えた情報に接しながら世界を遊覧できるイベントは、万博しかありません」 
<figure id="attachment_343611" aria-describedby="caption-attachment-343611" style="width: 3800px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="f25f0a7f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/d3c3a7cbdc10a21dcfea72f6159e1862-1.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343611" class="wp-caption-text">「食」をテーマに開催された’15年ミラノ万博。この万博で和食の魅力が世界中に発信された</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="万博は「現実を持ち合う場」"></div>
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<h3>万博は未来を見せる場ではなく、「現実を持ち合う場」</h3>
そもそも「万国博覧会」は、BIE（博覧会国際事務局）に加盟している国々が投票して、開催国が決められる。
日本では’70年の大阪万博、’05年の愛知万博に続いて’25年に開かれるのは３回目の大規模万博となる。
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’70年に開催したときは、『世界の国からこんにちは』というテーマソングが流れ、岡本太郎が太陽の塔を作り、アメリカ館では月の石が、日本館では最先端の家電などが展示され、輝く未来を感じることができた。’25年の大阪・関西万博でも“輝く未来”を展示できるのだろうか。
「万博の目的は、明るい未来を見せることではありません。それぞれの国が現実を持ち合うのが万博。そこに最先端のものが展示されると、数年後には多くの国に広まったり、家庭で使えるようになったりするので、結果として未来を描いてきたと言えるかもしれません。 
けれど、あくまでも『今』が出発点で、単に夢を描いてみせる場所ではないのです」
第二次世界大戦が勃発しそうな雰囲気が漂う1937年に開催されたパリ万博では、敵対するナチスドイツとソ連（当時）のパビリオンが向かい合わせに建てられて、その時代を表現したこともあったという。
初めて万博が開かれたのは、1851年ロンドンで。当時はヨーロッパの国々が船でアジアなどにもやってきた時代。日本に黒船が来航したのと、ほぼ同じ時期だ。
<figure id="attachment_343612" aria-describedby="caption-attachment-343612" style="width: 1992px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="7066eafd"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/73279272682732aafcc0da71cc3dfc91.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343612" class="wp-caption-text">航海術の発達で世界が広がった19世紀半ば。これまで見たことがなかったものを見せたいと、1851年、初の万博、ロンドン国際博覧会が開かれた。ペリーが浦賀に訪れたのは、この２年後</figcaption></figure>
「地球の裏側に行けば、こんな世界が広がっているのか、それを多くの人に知らせたい、見せたい。そこから学んで、さらに成長したいという思いから万博が始まったことは、間違いありません。 
最初は当時の先進諸国によって自発的に開催されていましたが、開催を希望する国が増えてきたため、ルールを決めて行おうと、1928年に国際博覧会条約ができました。 その現行条約には、万国博覧会は『公衆の教育を主たる目的とする催し』であると書かれています。 
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これは国際博覧会条約の’72年改正で追加された文言ですが、万博について歴史的に共有されていた考え方を言葉にしたもので、当初はむしろ常識だったので書く必要がなかったのです。 
万博は、今、人類がどのような地点に立っているのか、前回の万博から現在までにどの程度前進できたのか、あるいはどのような問題を抱えるようになったのか、それを確認し合う場として引き継がれてきました」 
<div data-friday-nextpage-lead="人と人が語り合う万博"></div>
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<h3>人と人が語り合う万博…それがいちばん新しい</h3>
「大阪・関西万博」のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」。いろいろな切り口がありそうだ。 
「そうなんです。伝染病、戦争、難民キャンプのこと、また日本のように高齢化が問題になっている国もある。どのような社会でも、どのような環境にさらされていても、『いのち』の問題は存在します。 
お金をかけた展示が実現できるかどうかではなく、どのような問題点や論点が持ち込まれるかが大事だと思います」
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万博がスタートしたときは、遠くの国から持ち帰った品々を展示することが主流だった。
「これまで見たことのないものが見られるということ、実物を通じて異なる社会、文化を知ることが、とても新しく、価値あることだったのです」
その後、カメラの発達で、写真が展示されるようになり、見たことのない景色を見ることができるようになった。そして、映像へと進み、デジタル技術が発達して双方向でのやりとりが可能になった。
<figure id="attachment_343613" aria-describedby="caption-attachment-343613" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="1beef7f6"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/24a7025f55877abbab08482489655311.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343613" class="wp-caption-text">「人類の進歩と調和」をテーマに、’70年に開催された大阪万博。約6422万人が訪れた（うち外国人は約170万人）。アポロ12号が持ち帰った「月の石」を展示したアメリカ館には延々と行列が続いた</figcaption></figure>
「ここまでくると、今の時代、多くの人が驚くほど新しいことはできないと、いろいろな方がおっしゃっています。だとしたら、これからは人と人とのコミュニケーションではないかと思います。 
予算がなくてパビリオンが建てられないというのなら、その国の人が一人でも来てくださればいい。そして、その国の『いのち』の問題について語っていただく。 
大阪・関西万博が開催されるころには自動翻訳機も高度に発達するでしょうから、できれば観客と一緒になって討論したり。そういう形こそが最高に新しいのではないかと思っています」 
「ミャクミャクで宣伝するのもいいけれど、主催者は万博の本質的な意義をもっとアピールするほうがよい」と佐野教授は言う。
ウクライナやガザでは戦闘が続き、混乱する国から逃れて難民キャンプに身を寄せる人たちもいる今の時代、「いのち」はどのように表現されるのだろうか。
<figure id="attachment_343614" aria-describedby="caption-attachment-343614" style="width: 3024px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="54d661d4"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/c2f48757d123fafdf531a675fbb8e9f0-rotated.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-343614" class="wp-caption-text">「万博は一つの会場で世界を見渡すイベント。その一覧性はほかにはないレベルのもの。味わうに足るものだと思います」と佐野教授</figcaption></figure>
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佐野真由子　京都大学大学院教育学研究科教授。万博学研究会代表。東京大学教養学部教養学科（国際関係論専攻）卒業。ケンブリッジ大学国際関係論専攻修士（MPhil）課程修了。東京大学博士（学術）。国際交流基金、UNESCO本部勤務ののち、静岡文化芸術大学、国際日本文化研究センター等を経て、’18年より現職。専門分野は、外交史・文化交流史、文化政策。著書に、『オールコックの江戸―初代英国公使が見た幕末日本』（中央公論新社、’03）、『万国博覧会と人間の歴史』（編著、思文閣出版、’15）、『幕末外交儀礼の研究―欧米外交官たちの将軍拝謁』（思文閣出版、’16）、『万博学―万国博覧会という、世界を把握する方法』（編著、思文閣出版、’20）など。

中川いづみ

アフロ

あと１年半後に迫った大阪・関西万博。「かれこれ30年ほど万博を研究してきた立場から、私は今回の万博が開催されることをやはり楽しみにしています」と言うのは、「万博学研究会」を主宰している佐野真由子さん。

大阪万博「主催者は万博の本質的な意義をもっとアピールするほうがよい」研究者が語る開催の意味と価値