<h3><span class="strongInContent">シミュレーションは、「絵に描いた餅」</span><span class="strongInContent"> </span></h3>
<p>’24年１月からスタートする「新NISA」。ネット上では、連日、NISA関連のニュースや記事が配信されている。だが、中には、NISAのメリットを強調しようとするあまり、個人を欺くようなものもある。しかも、当の金融庁のガイドブックにも、堂々と記載されているのだ。何が問題なのか？　その実態を明らかにしよう。</p>
<figure id="attachment_344649" aria-describedby="caption-attachment-344649" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="fce81e73"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/dcad080199c3d49f271194a135a23e6a.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-344649" class="wp-caption-text">新NISAは、個人の資産運用に革命をもたらすような、画期的な制度であることは疑いようがないが…</figcaption></figure>
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<h3><span class="strongInContent">行き過ぎたNISAのアピールが目に余る状況</span><span class="strongInContent"> </span></h3>
<p>NISAを巡る報道が過熱している。NISA（少額投資非課税制度）は、名称どおり、投資で得られる利益にかかる税金（税率約20％）がゼロになるという国の制度。これだけで十分なメリットであり、さらに、新NISAでは、非課税投資枠が大幅に拡大、非課税投資期間は無期限化される。個人の資産運用に革命をもたらすような、画期的な制度であることは疑いようがない。</p>
<p><span class="strongInContent">しかし、そうしたメリットをアピールしたいがために、誤解を招くというよりも、はっきり言えば〝ウソ〟と言ってもいい解説が横行している。それを鵜呑みにしてしまうと、後々、NISAで投資を始めた人を中心に、「こんなはずじゃなかった！」と思うケースが大量に出てくる可能性がある。</span></p>
<h3><span class="strongInContent">「資産運用シミュレーション」に騙されてはいけない</span></h3>
<p><span class="strongInContent">問題は、NISAで資産運用をしたときのシミュレーションだ。よくあるのは、「毎月○万円ずつ積み立て投資をして、年利○％で運用した場合」といったパターンで、20年後、30年後の利益が試算されている。例えば、金融庁の『はじめてみよう！NISA早わかりガイドブック』（最新版）では、「長期投資の効果」として、毎月１万円積み立てて年利３％で運用した場合、20年間で240万円が約330万円に、40年間で480万円が約930万円になる、というシミュレーションが記載されている。</span></p>
<p>金融庁は、年利は３％と控えめな数字を使っているが、他の記事では、年利５％という設定が多く、それで、20年とか30年間運用すれば「老後は安心」、といった内容が散見される。たしかに、毎月３万円積立てをして、年利５％で30年間運用すれば、1080万円が約2500万円になる計算だ。</p>
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<p><span class="strongInContent">こうしたシミュレーションのどこが問題なのか？　この手のシミュレーションは、必ずと言っていいほど「複利」で試算されている。「投資で得た収益を元本に加えて運用する」という意味で使っており、投資の利益が再び投資に回された結果、利益が新たな利益を生み、どんどん利益が膨らんでいくとされている。</span></p>
<p>こうしたシミュレーションと解説に疑問を覚えない人はマズい。複利という言葉が、誤って使われているのに気づいていないことになる。</p>
<figure id="attachment_344651" aria-describedby="caption-attachment-344651" style="width: 2481px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="63e45d4a"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/3a54a16b99b90dc17298923cd59d4667.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-344651" class="wp-caption-text">毎月１万円積み立てて年利３％で運用した場合、20年間で240万円が約330万円に、40年間で480万円が約930万円に（金融庁『はじめてみよう！NISA早わかりガイドブック』（最新版）より）</figcaption></figure>
<div data-friday-nextpage-lead="投資に「複利」は無関係"></div>
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<h3><span class="strongInContent">投資に「複利」は無関係</span></h3>
<p><span class="strongInContent">そもそも複利とは、金利や利息の計算方法のこと。お金を預けたり借りたりすると、元本に利息が付くが、複利では、利息を元本に組み入れ、その利息を組み入れた元本に次の利息が付く。簡単に言うと、「利息に利息が付く」のが複利である。なお、利息を元金に組み入れない場合は「単利」という。単利では、利息に利息は付かない。</span></p>
<p>基本的には、複利も単利も、預貯金やローンについて使う用語である。銀行の定期預金には複利型と単利型があり、一般的な住宅ローンは複利で計算される。住宅ローンの残高がなかなか減らないのは、利息に利息が付くからだ。</p>
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<p>複利や単利で金融商品の利息を計算する場合、前提となっている条件がある。まず、元本保証がされていること。そして、あらかじめ決まっている利息が、一定期間、確実に付くことだ。この条件がないと、複利計算も単利計算も意味がない。こうした条件に該当するのが定期預金や住宅ローンというわけである。</p>
<p><span class="strongInContent">したがって、NISAの投資対象となっている株式や投資信託に関して、複利は全然関係ない。元本保証はないし、あらかじめ確定している利息も付かないからだ。つまり、前述したようなシミュレーションは、まったくの無意味ということになる。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<figure id="attachment_344652" aria-describedby="caption-attachment-344652" style="width: 640px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e1f76ced"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/8d29ad9afff6350f63e4d4b3f5f7bf6d.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-344652" class="wp-caption-text">複利や単利で金融商品の利息を計算する場合、前提となっている条件は、「元本保証」がされていること</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">「複利効果」という表現のあざとさ</span></h3>
<p>「あくまでシミュレーションなんだから、そんなに目くじらを立てなくても」という人もいるかもしれない。だが、一連のシミュレーションは、〝机上の空論〟で見過ごすことはできない。個人をミスリードさせようという〝意図〟を感じる。</p>
<p><span class="strongInContent">わざわざ、定期預金などの利息計算で使われる複利というワードを使って、「NISAで投資をすればとにかく儲かる」というイメージを、実態以上に植え付けようとしているようにしか見えないのだ。</span></p>
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<p>そのように邪推するのには理由がある。資産運用シミュレーションの説明をする際、「投資で得た利益を再投資してさらに利益を得る」ことを、「複利」とは言わずに「複利効果」という表現を使っているケースが多い。おそらく、複利と言い切ってしまうと明らかな誤りなので、後々、言い訳ができるように、「複利効果」＝「複利っぽい効果」と解釈できるように、意味を曖昧にしているのだろう。</p>
<p>本来の意味を分かっていると思われる分、個人を誤解させるような表現を使うのは、何も知らないケースよりも〝悪質〟だとは言えまいか。</p>
<div data-friday-nextpage-lead="金融庁の「複利」の解釈は完全にアウト"></div>
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<h3><span class="strongInContent">金融庁の「複利」の解釈は完全にアウト</span></h3>
<p><span class="strongInContent">話が抽象的になってきたので現実に戻そう。前述した金融庁のガイドブックには、「長い期間投資を続けると複利効果が大きくなります」という小見出しがある。そして、「複利効果」の注釈として、「※投資や預金等で得た収益を、当初の元本にプラスして運用することで得られる利益を『複利』と呼びます」と補足している。これは、完全なアウトだ。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>実は、このガイドブックの前に、金融庁は『つみたてNISA　早わかりガイドブック』という、旧バージョンを出していた。そこでは、投信信託の分配金について、「分配金を受け取らずに運用を継続すると、運用で得られた利益が更に運用されることで、利益が増幅していく効果（複利効果）が期待できます。複利効果は投資期間が長いほど大きくなります」と、控えめな説明をしていた。これは、言い訳の余地を残している表現といえる。</p>
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<p><span class="strongInContent">つまり、金融庁は、新NISAを控えて、「投資で得た利益を再投資してさらに利益を得る」ことが、「複利」および「複利効果」であるという解釈に〝お墨付き〟を与えたことになる。複利に関する誤解は昔からあったが、いまが最もヒドい状況といえるだろう（いつの間にか、複利の「利」が、本来の利息や金利の「利」から、投資の利益の「利」と混同されるようになった、ともいえる）。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<h3><span class="strongInContent">アインシュタインも草葉の蔭で泣いている!?</span></h3>
<p><span class="strongInContent">すでに〝実害〟は発生している。ネット上のSNSなどの個人のコメントを読むと、「新NISAの投資枠はなるべく早く埋めた方が複利効果は大きくなる」とか、「長期投資をすると複利効果は高まる」など、数々の誤解が蔓延している。いずれも、「利益の再投資をして投資金額を大きくすれば、将来のリターンが大きくなる可能性が高まる」という当たり前のことにすぎない。複利という言葉を使わず、「利益の再投資」とシンプルに言っておけば、こうした誤解は広がらなかっただろう。</span><span class="strongInContent"> </span></p>
<p>投資のシミュレーションで、複利のスゴさを強調するために、しばしば登場するのがアインシュタインだ。「複利は人類による最大の発明だ」と語ったとされているからだが、真偽は不明。おそらく、発言していないか、軽口の類だろう（アインシュタイン先生も見損なわれたものだ）。少なくともアインシュタインの存命中、インデックファンドはなかった。その事実だけでも、投資信託や株式に複利効果を求めることは、間違いだと分かる。</p>
<figure id="attachment_344653" aria-describedby="caption-attachment-344653" style="width: 2149px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="e6545d0f"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/7a7b80f629ab20d8e26d21568d699ddd.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-344653" class="wp-caption-text">新NISAでは、非課税投資枠が「大幅に拡大」され、非課税投資期間は「無期限化」される（金融庁『はじめてみよう！NISA早わかりガイドブック』（最新版）より）</figcaption></figure>
<h3><span class="strongInContent">長期投資を続けるために必要なのはリスクへの心構え</span></h3>
<p><span class="strongInContent">たんなる願望にすぎないシミュレーションをするよりも、「１年目に５％損失が発生した場合、２年目に５％上昇しても元本には戻らない」といった現実的な想定をしておく方が有意義だろう。リスクに対する心構えは、実際に損失が発生したときの〝耐性〟になるからだ。</span></p>
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<p>ネット証券の関係者から、セミナーに参加する人の中には、「NISAをしておけば安心」と考えている人も少なくないと聞く。「これだけ儲かります！」というシミュレーションばかりでは、投資未経験者がそう思い込んでしまっても致し方ない。せっかく投資を始めたのに、「こんなはずじゃなかった」と、投資を止めてしまう可能性も出てくる。</p>
<p>NISA自体は、冒頭でも述べたように、国が作った制度としては手放しで評価できるものだ。せっかく、金融庁はいい仕事をしたのだから、下手な小細工は不要だろう。</p>


マネーライター、ファイナンシャルプランナー／証券会社のマーケットアナリストを経て、1996年に独立。ビジネス誌や経済誌を中心に金融、資産運用の記事を執筆。著書に『ロボアドバイザー投資1年目の教科書』『豊富な図解でよくわかる！ キャッシュレス決済で絶対得する本 』。

松岡賢治

1月からスタートする「新NISA」。ネット上では、連日、NISA関連のニュースや記事が配信されている。中には、NISAのメリットを強調しようとするあまり、個人を欺くようなものもある。何が問題なのか？

新NISA「こんなはずじゃなかった!」…加熱するNISA報道でまかり通る「投資の非常識」の罠

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