史上最凶の悪役レスラー A・ブッチャーが来日 愛される素顔
アントニオ猪木、スタン・ハンセンも会場にかけつけた
「往年のレスラーが一人ひとりリングに上がり、ブッチャーさんに挨拶しました。スタン・ハンセンにマスカラス兄弟……。最後は最大のライバル、ドリー・ファンクJr.です。全日本プロレス全盛期を思わせるほどの盛り上がりでした」
こう語るのは、格闘技ライターの堀江ガンツ氏だ。
2月19日、東京の両国国技館で「ジャイアント馬場没20年追善興行」が行われた。会場にはアントニオ猪木など、懐かしいレスラーが集合。実はこの興行には、馬場追悼の他にメインイベントがあった。史上最凶の悪役レスラー、アブドーラ・ザ・ブッチャー(78)の引退式である。車イスでリングに上がったブッチャーは、こう言ってファンを沸かせた。
「最高だった。残念ながら昔のレジェンドたちの中には、この世にいなくなった人も大勢いる。オレもいずれ行くわけだけど、近い将来はイヤだね」
興行に参加しリングに上がった、プロレスラーの大仁田厚が振り返る。
「ボクは15歳の時から、馬場さんの付け人をしていました。17歳の時に、馬場さん対ブッチャー戦のセコンドについたんです。近くで見たブッチャーは迫力があって、近寄りがたいほど怖い存在でしたね。リングサイドにいると馬場さんがよけたブッチャーの強烈なエルボーが、ボクの顔面を直撃した。おかげで前歯が1本折れてしまいました。このことを聞きつけたブッチャーは、試合後に控え室まで駆けつけ、ボクに向かってこう謝ったんです。『ホントに折れたの? ゴメンね』と。意外に優しい一面があるんだなと、妙に感心しました」
このことをキッカケに、大仁田はブッチャーと親交を持つようになる。
「当時、東京の港区にあった『赤坂ムゲン』というディスコに連れていってもらったことがあります。ブッチャーは店内にいた学生たちと、楽しそうに太った身体をクネらせて踊るんです。リング上の強面の印象とのギャップに、ますますブッチャーが好きになってしまいました」
股関節を痛めて車イス生活になったブッチャー。リング上で、最後の勇姿を日本のファンに見せるため来日したのだ。


写真:吉場正和(1枚目)、ジャイアント馬場没20年追善興行実行委員会(2,3枚目)