編集・ライター。’83年、山形県生まれ。10年間、健康情報誌の編集部で月刊誌・Webメディアの編集に携わったのちフリーランスに。現在はヘルスケア・医療分野などを中心に、医師や専門家の取材、企画、執筆を行う。

釼持 陽子

<h3>スマホの“ながら見”、イヤホン装着で歩行者と衝突 </h3>
「ここ数年の交通事故件数は減少傾向にありますが、そのうち全体に占める自転車事故の割合が非常に増えています。特に自転車と歩行者の事故が多く、そのため警察庁は、車の交通違反と同じように反則金を納める“青色切符”制度の導入を検討しはじめています」
と話すのは、自転車活用推進研究会理事長の小林成基さん。
右側の歩道や車道を猛スピードで逆走する、車や歩行者を避けるように歩道と車道を行ったり来たりする、ベルを鳴らしながら歩道を走行する、堂々と信号無視をする…。こうした“自分勝手”なルールで走行する人が後を絶たず、事故が発生するケースが多発している。
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<figure id="attachment_345315" aria-describedby="caption-attachment-345315" style="width: 2808px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="229614f4"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/0ea6f9f277db97f784bc8996e144dd06.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345315" class="wp-caption-text">自転車事故の中でも大都会における事故割合が大きい。「交通事故全体に占める自転車事故の割合が『全国平均23%』に対して、『東京都は46％』です」と小林さん</figcaption></figure>
近年の自転車事故には、昔はなかった“令和ならでは”の特徴があると話す。
「令和の自転車事故の原因として、スマホの“ながら見”運転があげられます。自転車に乗りながらスマホを触り、気を取られている間に歩行者にぶつかる。イヤホンをしている人も多く、視覚と聴覚の両方を奪われた危険な状態で運転しています。 
これは自転車に限ったことではなく、歩行者や車の運転手も同じです。スマホによって我々のライフスタイルそのものが変化した弊害のひとつといえます。
また、社会全体の個人主義が進み、他人の様子を伺い気に掛けること自体が減ってしまった。『自分が良ければいい』という感覚が、悪質な交通ルール違反を生み出していると考えられます」
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<h3>左側通行に違反した場合、３ヵ月以下の懲役又は５万円以下の罰金</h3>
本来自転車は、車やバイクと同じ「車両」だ。そのため歩行者が歩く「歩道」ではなく、「車道」を走行するのが原則となる。
自転車が歩道を通行することができるのは、歩道に「普通自転車歩道通行可」の標識があるとき、13歳未満の子どもや70歳以上の高齢者や身体の不自由な人が普通自転車を運転しているときなど、条件が決まっている。ただし、いずれの場合も徐行すること（自転車の場合は速足の歩行程度の速度）が条件となっている。
誰でも気軽に乗ることができる自転車だが、道路交通法によって「自転車安全利用五則」という交通ルールが定められ、利用者はこのルールを守って乗車しないといけない。
<div data-friday-nextpage-lead="「自転車安全利用五則」とは"></div>
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<ul>
<li>自転車安全利用五則（2022年11月１日制定）</li>
<li>（１）車道が原則、左側を通行　歩道は例外、歩行者を優先</li>
<li>（２）交差点では信号と一時停止を守って、安全確認</li>
<li>（３）夜間はライトを点灯</li>
<li>（４）飲酒運転は禁止</li>
<li>（５）ヘルメットを着用</li>
</ul>
意外と知られていないが、「自転車安全利用五則」に違反すれば罰則がある。
<ul>
<li>・左側を通行</li>
<li>違反した場合…罰則：３ヵ月以下の懲役又は５万円以下の罰金</li>
<li>・歩道は例外、歩行者を優先</li>
<li>違反した場合…罰則：２万円以下の罰金又は科料</li>
<li>・一時停止</li>
<li>違反した場合…罰則：３ヵ月以下の懲役又は５万円以下の罰金</li>
</ul>
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上記は罰則の一例だが、信号無視や無灯火なども当然罰則の対象だ。また、自転車運転時の携帯電話やイヤホンの使用も「禁止事項」とされ、罰則が決められている。
<ul>
<li>・携帯電話使用運転</li>
<li>違反した場合…罰則：５万円以下の罰金</li>
<li>・イヤホン等使用運転</li>
<li>違反した場合…罰則：５万円以下の罰金</li>
<li>・傘差し運転</li>
<li>違反した場合…罰則：５万円以下の罰金</li>
</ul>
<figure id="attachment_345316" aria-describedby="caption-attachment-345316" style="width: 2808px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="a3345237"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/3ffdf4d617a6d8312cd95ff929cdf6ed.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345316" class="wp-caption-text">携帯電話を使用しながらの自転車運転は禁止事項として決められている。携帯画面に注視していると周囲の様子に気がつかず、重大事故につながる場合があることを忘れてはいけない</figcaption></figure>
日本では大人になってから自転車の交通ルールを学ぶ機会は少なく、いまだに「自転車は歩道を走る」と勘違いしている人が多い。
「自転車は、昔から車道走行と決まっていたのですが、’70年代に車の利用が一般化して、『車道を走らせるのは危ないから自転車の歩道通行を認めよう』となったんです。そのため日本では“自転車は歩行者の仲間”という認識になってしまった。 
その後、歩道通行が歩行者にはもちろん、実は自転車利用者にとっても危険な行為であることが統計で明らかになり、政府は『自転車＝車両』、『車道が原則』を徹底することとしました。しかし、50年以上も歩道通行が当たり前に行われてきたために、歩行者感覚がなかなか抜けないのです」
車やバイクを運転するときは標識や信号を守るのに、自転車は車両という感覚がないために交通ルールを軽視されているのが現状だ。ルール違反の自覚がない人も多い。ここまで違反者が増え続けた背景には、長年にわたり警察の取り締まりがされてこなかったという事実がある。
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「自転車の違反は、法律はあるものの厳密に適用すると世の中が犯罪者だらけになってしまう懸念があります。また、些細な違反でも処分を決定する手続きに時間がかかる制度になっていて、積極的に取り締まりがされてきませんでした。 
例えば無灯火は『５万円以下の罰金』という罰則がありますが、５万円なのか３万円なのか、いくらになるかは裁判で決めないといけない。 
日本は先進国の中で国民１人あたりの警察官の数が500人に１人と極端に少なく、自転車の違反を１件１件取り締まり裁判にかけるというのは現実的に無理があったため、やむなく見過ごしてきたことも現在の違反者の増加につながっています」 
<div data-friday-nextpage-lead="いよいよ警察庁が動き出した…"></div>
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<h3>“青色切符”による反則金制度で取り締まりが厳しくなる</h3>
自転車利用者の交通ルール違反により、事故につながるケースが相次いでいることを受け、いよいよ警察庁が動き出し、反則金制度の導入を検討している。
「検討されているのは、車やバイクと同じいわゆる“青色切符”による反則金制度です。これまでは違反していても見過ごされてきましたが、今後はそうではなくなると思ったほうがいいでしょう。ただし反則金を払えば終わりではなく、自転車を利用する人が守ることができる、分かりやすいルールに改正することも同時に必要だと思っています」 
<figure id="attachment_345317" aria-describedby="caption-attachment-345317" style="width: 2808px" class="wp-caption alignnone"><a href="#" data-ident_hash="989cc61c"><img src="https://res.cloudinary.com/fridaydigital/image/private/t_article_image/wpmedia/2023/11/f9ca4d949a687a2eced64504bd70d9c7.jpg" alt=""></a><figcaption id="caption-attachment-345317" class="wp-caption-text">自転車は歩行者の仲間ではない。クロスバイクでもママチャリでも、自転車を利用する人は「車両を運転している」という感覚を持つべきだ</figcaption></figure>
取り締まりが強化されることで自転車に乗りづらくなるのではなく、みんなが快適かつ安全に乗りやすくなると考えてほしい、と小林さんは話す。
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「歩道を走行するなどの違反の背景には『車道を走るのが怖い』という自転車利用者側の心理があります。また、車を運転するドライバーからは『車道を走る自転車が邪魔』という声も。 
海外では自転車専用レーンや、自転車専用信号機などが整備されていますが、日本は遅れているのが現状です。こうした環境整備が整っていないこともあり、一概に自転車利用者だけが悪者とは言い難いのです。 
自転車利用者が納得して従えるルールにすること、そのルールが歩行者や自転車利用者自身の安全に役立つものであることを啓発していかなければなりません。知らず知らずのうちに危険な走り方をしていることもあります。 
交通ルールは自分を守るためのものであることをまずは再認識してほしいと思います。一人ひとりが気をつけることで、自転車も車も歩行者も快適に通行できる世の中になるでしょう」
自転車を活用することは、省エネや交通渋滞の緩和など、多くの利点がある。それだけでなく、筋力アップ、メタボ予防、血流改善、アンチエイジングなど、健康効果が期待でき、医療費削減にもつながる。ルールを守りながら自転車を暮らしに取り入れていくことが、社会にとっても個人にとっても大きなメリットとなるだろう。
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<a href="https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/bicycle/menu/leaflet.files/ref.pdf" target="_blank" rel="noopener noreferrer">※参考：警視庁「自転車の正しい乗り方」</a>
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小林 成基（こばやし・しげき）　NPO法人「自転車活用推進研究会」理事長。自転車を有効かつ安全な交通手段として機能させるために、各省庁や自治体などと協力し自転車政策確立のための取り組みを行っている。「自転車活用推進議員連盟」と連携し、自転車関連諸法の改正などにも貢献。自転車が通行すべき部分を示した「自転車ナビマーク」の導入など、自転車が安全かつ快適に活用できるよう活動している。

編集・ライター。1983年、山形県生まれ。10年間、健康情報誌の編集部で月刊誌・Webメディアの編集に携わったのちフリーランスに。現在はヘルスケア・医療分野などを中心に、医師や専門家の取材、企画、執筆を行う。

釼持陽子

アフロ

“自分勝手”なルールで走行する人が後を絶たない自転車の運転。利用者の交通ルール違反により、事故につながるケースが相次いでいることを受け、いよいよ警察庁が動き出し、反則金制度の導入を検討している。

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